完璧で究極の美少女TS転生者の足跡、六割勘違い 作:かろくよん
魔を切り裂くモノ。
エルフであるにもかかわらず、最年少でSランクに到達した冒険者。
世界を五回救ったもの。
――私は、そんなふうに周囲から呼ばれている。
はっきり言って、あまりにも分不相応な肩書だ。
黒金の夜光姫は、まぁいいとしよう。
カッコいいし、私の戦闘スタイルをよく表していると思う。
何より、カッコいいし。
だけど、他は違う。
過大評価というやつだ。
魔を切り裂くのは冒険者なら当然のことだし、最年少Sランクも前に調べたら数百年前に私より一日だけ若くSランクに到達した冒険者がいるから正しくない。
何より問題なのは、最後だ。
世界を五度も救った?
ひどい勘違いだ。
だから、世間の私に対する評価は多くの勘違いが含まれている。
誇張されている、と言ってもいい。
私の名は、リーリフィア・セインフィルア。
セインフィルア出身のハイエルフ。
知り合いからは、リフィアと呼ばれている。
そんな私の歩んできた足跡は、多くの勘違いが含まれている。
少なくとも、世間で語られるウチの六割は、決して正しくなんてないのである。
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――夜闇に、二人の少女と数人の悪徒の姿があった。
周囲は森に囲まれていて、薄暗く先は見通せない。
月も、星も、この暗黒を照らすことはない。
悪徒たちの掲げる松明が唯一の光源だ。
一人は、先程までこいつらから逃げていたためか息を切らして地面に倒れ込んでいる。
青みがかった黒髪の、美しい少女だ。
着ているドレスからして、明らかに高い身分の少女である。
そしてもうひとりは――簡素なマントと胸当てを身にまとった、冒険者という装い。
容姿は美しい……と、思う。
自分で言うのも何だけれど、背丈は小柄だが整った顔立ちをしている。
絹糸のような金の髪と、細い腕。
胸はそこそこある、けど大きすぎるほどじゃない。
それが――私、リフィアである。
「へへ、そいつをかばうのは止めておくことだな、エルフの嬢ちゃん。まぁ、一緒に嬲られたいなら止めないけどよ」
「……遠慮しておくよ。君たちみたいな下品な人と夜を明かす趣味はなくってね」
というわけで、現在私は逃げている貴族のご令嬢をかばって、悪そうな奴らと相対していた。
まぁ、よくある光景だ。
ちなみに言っておくと、そもそも男と一夜を共にしたことはないので安心してほしい。
……何が安心なんだ?
ともかく。
「別にそれはいいけどよ、そいつに肩入れするのはおすすめしないぜ。ここ最近、噂になってるのは聞いてるだろ? 悪徳領主が謀反にあって、娘が逃げ出したってな」
「……ああ、知ってるよ」
その言葉に、後ろのご令嬢の身体がこわばる。
「冤罪を賭けられて父親を殺された娘が、その下手人たちに追い詰められてるってところまで、ね」
「……貴様、何者だ?」
その瞬間、下卑た男たちの雰囲気が一瞬で変わった。
どうやらこいつら、野盗の類を装ってご令嬢を襲う予定だったらしい。
これ、私がこいつらと一夜を共にしても待ってるのは情報を履かせるための拷問兼尋問じゃないかなぁ。
まぁ、いいけど。
「そっちこそ、何者かな? 実を言うとね、私はたまたま通りかかっただけなんだ」
「……嘘を言うな」
「嘘じゃないよ。君たちの情報を耳にできる立場の人間が、たまたま通りかかっただけなのさ。まぁ、信じてくれないだろうけどね」
私が偶然通りかかった、というのは本当のことだ。
ただ、こうなることはなんとなく予想がついていた。
知り合いから「冤罪をかけられた貴族と、その娘の逃走」について聞かされた時から。
その貴族の領地を通り過ぎる予定になった時から。
こうなる気はしていたんだ。
そして世間では私が貴族の娘さんを救い、悪を滅ぼすために行動していたってことになるんだろうなぁ。
合ってるのは「貴族の娘さんを救った」ってところだけだよ全く。
「ふん、まぁいい。真実は貴様を捕らえて吐かせれば解ること」
「誓って嘘じゃないんだけどねぇ。それで、どうするつもり?」
「どうする? 笑わせる。我らを前にたった一人で何ができる」
どうやら、相手はその実力によっぽど自信があるようだ。
とはいえ――
「君たちを倒すくらいなら十分かな」
私も、自信たっぷりにそう返すんだけど。
「ハッ――笑わせる!」
その瞬間、男たちの気配が変化した。
なんというか、下卑た気配が、暗殺者の気配に変化して。
それから、獰猛な獣といった様子に変わる。
変化大好きか? こいつら。
そんな私の感想はさておいて、さらなる変化を遂げた男たちの様子は――確かに、言うほどの事はあるものだった。
「――驚いた。まさかその装い、吸血種? それも眷属じゃなくて真正……え、全部真正!?」
「驚いてくれたようで何よりだ。我々も、その娘を捕らえるためにそれだけ本気ということだよ」
私の眼の前に現れたのは、マントに身を包んだ怪人。
一言で言えば吸血鬼っぽい見た目の連中。
この世界に置いては吸血種と呼ばれる存在、まぁその名の通りの吸血鬼。
真正と眷属、ようするに親とその親が血を吸うことで吸血種になった元人間の二種類がいて。
当然、真正のほうが圧倒的に強い。
ここにいるのは、全員真正だ。
やばいね。
「たしかにコレなら――仮にSランクの冒険者がいても、負けてしまうだろうね」
「だろう? 自慢の部隊だ」
「――ただし、それが私じゃなければね」
何?
と、吸血種達が言葉を発するより先に、私はかばっていた少女を抱えて飛び上がる。
少女の「ひゃ!?」という驚きの声を置き去りに、私は彼らを見下ろした。
「――何だ?」
「確かに、君たちは強そうだ。でも、一つ間違いを犯している」
空中に、私は浮いている。
手には少女を抱えて、しかしその姿には変化がある。
私のマントが、黒く染まり空に広がる。
「まず、私がこの場に介入した時点で気付くべきだった」
「気付く?」
「私の本当の強さと……正体と……それから」
広がったマントが、私を覆い隠す。
「私が強いって解っていながら、下品な真似をする自分達のセンスの無さにね!」
直後、男たちが怒りに顔を歪ませながら私に向かって飛びかかってくる。
各々に、剣を携えたり魔術を使ったり。
どれもが、Aランクの魔物くらいなら一撃で屠れそうな威力だ。
Sランクを相手にするなら足りないけど、それは数で補える。
人っていうのは腕が日本しかないから、どうしたって対応できることは限られるんだ。
特に私の場合、その両手が女の子を抱えるために塞がってしまっている。
とても困る。
でも、そんな”限られること”を増やす手段が、私にはあった。
具体的にはそう――
「――
直後、私の背中から黒い影が二つ飛び出した。
闇夜の漆黒にあってなお、そこに黒があると解る不可思議な影。
私を宙に浮かべる黒いマントと同じ”根源”から出力されたもの。
それら二つの手には、それぞれ影の剣と盾が握られている。
それだけじゃない、同じ黒い影が私の周囲に弾丸として生成される。
近距離を剣と盾が、遠距離を弾丸が対応する布陣だ。
――そこからは、打ち合いだった。
弾丸と魔術が。
武器と影の剣が、それぞれ激しくぶつかり合う。
吸血種は時に私の周囲を飛び交いながら、時に私に吹き飛ばされながらこちらを包囲する。
唯一、私だけがその場から動かない。
ああいや、私の手の中にいる少女も動いてはいないかな。
「この黒い影――夜光に浮かぶ金の髪……貴様まさか!」
「今更気付いたって、残念ながら遅いんだよ。でもそうだね、せっかくだし名乗ってあげよう」
圧倒的な暴力と暴力のぶつかり合いの中で、吸血種は私の正体に気付いたようだ。
しかし、その気付きの遅さが彼らの底を示しているかのように、彼らは一人、また一人と消えていく。
私の影に、撃ち落とされていくのだ。
「――リーリフィア・セインフィルア。黒金の夜光姫とも呼ばれている」
かくして、私のカッコつけまくった名乗りと共に、
この名乗りのせいで、私に対する勘違いが更に加速してるんだよなぁ。
一応、やりたくてやってるわけではないんだからね!
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敵を蹂躙して、色々と事情を聞き出そうとしたら敵がいなくなってるでござる。
逃げられたか……おかしいなぁ影で拘束して身動き取れなくしたはずなのに。
真正の吸血種ってコウモリにでも変身できるんだろうか。
まぁいいや、この子を守ってればそのうちまた襲ってくるでしょ。
「よっと……大丈夫だった?」
「あ、えっと……」
地面に着地して、抱えた女の子に声を掛ける。
可愛らしい女の子だ、年頃は私の見た目――十六歳くらい――より少し下だろうか。
というか今更気付いたけど胸でっか……
「あ、ありがとうございますわ。……リフィア様」
「様はいらないよ。こっちもタメ口で話しかけてるしね」
「いえ、そんな……黒金の夜光姫様に……そんなこと」
私の不埒な考えなんていざ知らず。
女の子は恥ずかしそうに頬を赤く染めている。
この態勢が恥ずかしいのだろう、問題なく立てそうだしゆっくりと下ろしてあげる。
「改めて、リーリフィアだよ。君は?」
「あ、えっと……アオシャと申します。アオシャ・ブルフィールドですわ」
「アオシャちゃん、よろしく」
そう言って手を差し出すと、おずおずとアオシャちゃんはその手を握る。
しばらくそうしていると……やがて手を話したアオシャちゃんがその手を抱えて震えだした。
「……この右手、家宝にいたします!」
「そんなに!?」
「そんなにですわ!」
ずずい、とアオシャちゃんの顔が近くなった。
「黒金の夜光姫様と言えば、世界を五回も救った英雄! 最強のSランク冒険者とも噂されている傑物! わたくしも、その英雄譚は何度も耳にしましたの!」
どうやらアオシャちゃんは冷静さを欠いているようだ。
自分の父親が殺されたり、自分自身も殺されかけたり。
とにかく、色々なことがあって精神が疲弊しているのだろう。
そんな中で突如として差し伸べられた救いの手。
まぁ、混乱させてしまうには十分な情緒のジェットコースターだ。
とはいえ、これだけは否定しなくてはならない。
「ええと……それ、勘違いだから。世界を五回も救ってないから、私」
「そ、そうなんですの? でも実際、今まさにわたくしを救ってくださいましたし……」
「そりゃまぁ、Sランク冒険者なのは事実だし、実力があるのは確かだよ。でも、誇張されてるの。私が世界を救った回数は二回だし」
そう、だからつまり――
「六割、六割は勘違いなんだって!」
勘違いなのだ。
しかし、そんな私の言葉に対し、アオシャちゃんは無垢な視線を私に向ける。
そして――
「つまり
まぁ、それは……
「……はい」
そうですね……
いやでも、正しい評価はお願いしたいと思うんですよ、ええ!
というわけで、TS転生者が勘違いされてるみたいなお話です。
TS要素は薄いですが完璧で究極な男主人公はゲッターしか許されないのでTS要素は必要です。