ほい。短いですが、この作品はこれで幕引きとなります。
完結って言っても後日談はちゃんと書く予定なのでご安心を。
もちろん大人版も書く予定なので気長にお待ちください。
今回のお話は、私が執筆している別作品のキャラが出てきます。ご了承を。
「……へぇ、それで帰って来たというわけか」
「まぁね」
テイワット大陸の南東に浮かぶ島国…「稲妻」。その島群のなかで1番北にある鳴神島のいちばん高い山のてっぺんに建てられた神社の中で寝っ転がった宮司に迎えられた僕は事の経緯を話していた。
宮司…、僕の旧友の八重神子は欠伸をしながら起き上がると傍らに置かれていた娯楽小説をパタンと閉じる。
「…ほぉ〜、あの堅物の幻目が、向こうのおなごにご執心とは。……向こうに移り住むとはいえ、こちらには定期的に顔を出すのじゃろう?」
「もちろん。作家も続けるつもりだから、年に何回は帰るつもりだよ」
「ふむ。…たびたび発注が入るから不思議には思っていたが、ナタに八重堂のファンがいるとはの。……幻目、もしお主が良ければ…」
「ん、八重堂の出張所を出せ。…でしょ?」
僕が言い当ててやると彼女の狐耳がピクリと動いた。どうやら正解のようで笑みを深めた神子がどこからともなく書類を取り出す。
「…話が早い。……別れの酒盛りの前に、1つ打ち合わせといこう」
「んー、こうして見ると稲妻も久しぶり……なのか?」
そういえばまだナタでひと月程しか滞在してないことを思い出した。600年も生きててひと月程度離れてたところが懐かしく感じるとは、ナタの日常が濃いのか、それとも………。
ちょっと
「……はーい。どちら様……あら、幻目さんじゃない。ナタから帰ってきたの?」
「ああ。久し……ぶりでもないか?瑞希」
僕の挨拶に、ここの銭湯で働く獏妖怪、夢見月瑞希はふふっと微笑んだ。
中に通された僕は彼女の妹だという2人の獏に会釈をする。ちょうど今は休憩中らしく、他に客はいなかった。案内された席に座ると、退出していく2人にすれ違うように部屋に入ってきた瑞希はお茶を手渡してきた。
「それにしても、随分戻ってくるのが早かったね。私もまだ帰ってきたばっかりなんだ」
「ああ。ちょっと向こうへ移り住もうと思ってね。そのために荷物を取りに来たのと、ちょっと知り合いに挨拶をと」
「移り住む?」
僕の言葉に瑞希は目を丸くする。
「確かに、幻目さんくらいの大妖怪なら縛りはないと思うけど……そんなに向こうが気に入ったの?」
「……いやぁ、話すのは気恥しいんだけどね。……向こうで恋人が出来たんだ」
「恋人ぉ!?」
そういう反応にもなるよね。素っ頓狂な声を上げた瑞希に何事かと奥から姉妹が顔を出すが、なんでもないと瑞希が下がらせる。
「……ほ、ホントなの?……幻目さんに恋人なんて想像できないんだけど………?」
「はははっ、僕もそう思うよ」
僕は向こうでのシトラリとの馴れ初めを掻い摘んで説明した。瑞希は半月前までナタで心理療法の勉強をしていたそうなので、共通の知り合いに話が弾む。
「な……なるほど…。謎煙の主の大シャーマンさんは私も聞いたことがあるよ。……それにしても、ひと月くらいいたなら向こうで私に会えたかもなのに。また引きこもって小説書いてたね?」
「ご明察。ちょこっと外出したことはあったけど、それ以外は家にいたよ。いやぁ、あそこは居心地が良くてね」
実際、流泉の衆に行った数日間以外はほとんど外出せずに小説を書きながらシトラリと話してたな。目の前の川で水も魚も取れるし、暮らしには困らなかった。
そんな話をしていると、瑞希はそうだと手を叩いた。
「せっかく来てくれたんだし、わたしの治療を受けていかない?」
「治療?……ああ、夢喰いの。……じゃ、おねがい………あ」
「了解〜。じゃあそのままちょっと待っててね」
「ごめん、やっぱやめとこう」
「え、なんでよぅ」
反射的に頷いてから、僕はとんでもないことに気がついた。獏の夢喰い治療というものはその名の通り、患者の夢を食べて体調を管理するというもの。最近悪夢には身に覚えがないから、多分全体的な調整だとは思うけど。
何が言いたいのかと言うと、最近の僕の夢が瑞希に覗かれるというもので。
………そして、僕の最近の夢は、いささか刺激が強いものが多い。未だに忘れられないんだよ……あの時見たシトラリの身体……。
それに国を発つ前にキスをしたのもいけなかった。ナタからここまで5日ほどかかったけど、毎晩のように彼女に会いたい寂しさでその……色々とあれな夢を見てしまっている。600年生きといて、年頃の男子か僕は。
だから、治療はどうにかして阻止せなばならない。冷や汗を流しながら弁解する僕に不満そうな顔をする瑞希。
「なんでよ。ちょっと覗いて調整をするくらいじゃない」
「いや、……だ、大丈夫だよ。ほら、健康健康」
「だーめ。自分ではそう思ってても身体の奥では何が起こってるかわからないんだよ?……いいから、……えいっ」
「ちょ、ほんとに待っ………ぅ、……」
瑞希が扇で何かを仰いだと思ったら、僕の意識がふわふわと浮かび上がってきた。それがなんだか心地よくて、思わず身を任せてしまう。
「……ぇ…?」
これが獏の催眠かぁ。……すごい強力だなぁ……まるで寒い日に暖かい布団の中に潜り込んだような満足感と充足感が身体を包み込んで、瞼が落ちる。
「……な、なにこれ………?……は、はだか……?」
なんだろ。ほわほわして聞こえてくる声の意味がわからないし、満足感が僕の思考をだんだん溶かしていく。
「……ぇ、な、なんで下に何も……ひゃ!?……ち、ちゅーしてる……?……す、すご…」
んー、ほわほわしてどっかに飛んでっちゃいそうだ。ああ、こんなに気持ちいいのを1人で味わってるのはもったいないなぁ。…こんどシトラリも連れて……はっ!?
解っ!!
ここでようやく催眠状態にされていると気がついた僕は妖力を込めて、催眠を打ち払う。身体を包んでいた暖かい感覚が消えていくのと同時に、周りの景色も秋沙銭湯の室内にだんだんと戻っていく。
「……ふぅ、さ、流石獏の催眠…僕でもこんなにかかっちゃうなんて……」
でも、確かに気持ちは良かった。お礼を言わなきゃと周りを見渡して。
顔が真っ赤になってへたり込んでいた瑞希と目が合った。
「………」
「……はぁ……はぁ……げ、幻目さん……い、一体どんな夢を……」
………マジか。
「……み、見ちゃった?」
「見ちゃったもなにも!…幻目さん、いつからこんなにエッチな夢見るようになったのよ…!」
「い、一応止めたんだよ?」
「まさか、幻目さんがこんなに盛ってるなんて……」
「盛るって言わないで!?」
結構ガッツリ見られたっぽい。瑞希が小声で「な、ナタって寝巻きの下に何も着ないの……?」とか言ってたけど全力で無視する。店の奥から姉妹のじとーっとした目付きに耐えられなくなった僕はその場をそそくさと後にした。瑞希には後で謝っておこう。
うーん、あとは誰に会おうか。妖怪の中で親しい2人にはもう会ってしまったし、妖怪の山に帰ろうかな。
僕は稲妻城のお店を見ながら歩く。シトラリに何かお土産を、と思ったのでとりあえず稲妻の酒をいくつか買っていこうか。
そんなことを考えながら歩いていると、目の前を2本の尻尾が生えた猫又が通り過ぎた。僕の妖気を感じたのかこっちを見て「あっ」と口を開ける。
「幻目さんっ!帰ってきたんですか?」
「綺良々か。久し…ぶりでもないか。ひと月ぶり」
この子は妖怪の中では珍しく、人里に溶け込んでいる猫又の綺良々だ。稲妻の運送会社「狛荷屋」の配達員で、今はテイワットの国々を跨いで荷物を届けている。
そして、僕の知り合いでは数少ない、恋人持ちだ。この子は子猫時代の自分を拾ってくれた飼い主に惚れて、彼に再会するために狛荷屋に入ったらしい。
「……そういや、迅坊は元気?」
「あはは、元気ですよ。今はフォンテーヌに行っちゃってて稲妻には居ませんけど」
そりゃ残念だ。フォンテーヌならナタに帰る時にも通れないし、1度会ってみたかったのに。
綺良々はお土産を抱えてる僕を不思議そうに見る。
「稲妻のお土産…?配送でもするんですか?」
「ん?ああいや、稲妻には一時的に帰ってきてるだけなんだ。用事が済んだら直ぐにナタに戻る予定さ。向こうには恋人もいるしね」
「へぇーそうなんで………恋人ぉ!?」
さっきの瑞希よろしく奇声を上げた綺良々が周りの視線を集めて口を抑えた。それでも翡翠色の目がかっぴらいている。
「……こ、恋人って、恋人ですかぁ!?」
「そうそう。……だから、恋人がいる先輩としてなんか助言を聞きたくて」
「じょ、助言ですか…?」
ここじゃなんなので、街から外れて石垣の上に並んで座った。綺良々は顎に手を当てて唸っている。
「助言……わたしが幻目さんに言えることなんてあるかなぁ」
「例えば、普段迅坊と何をしてるのか、とか」
「普段……あー、だいたいくっついてますね…」
「流石猫だね。他には?」
「え、えーっとぉ………今考えると、結構迅くんからも構ってくれるというか…えへへ、好きな人から話しかけられたり、触ってくれたりすると嬉しいですっ」
「なるほど……」
そういえば彼女から来る事はあっても、僕から行った事はほとんどなかったな。今となってはシトラリが家から顔を出して来るのを心持ちにしてることもあるし、僕から色々した方が嬉しいのかも。
「……後は、特別な関係ですけど……みんなもいるので、退屈はしてないですね」
「あー、そっかぁ…他の子もいるんだもんね」
「…って、幻目さんは真似しちゃダメですからねっ!わたし達だって、わたしのわがままでそうなってるだけなので…」
「ははっ、わかってるさ。ますます迅坊に会えないのが残念だなぁ」
「あははっ、迅くんにもそう伝えときますっ」
その後、お礼を言って綺良々と別れた。帰路に着きながら、色々考えるけど何を考えるにしてもシトラリがひょこっと顔を出す。いや可愛いかよ。なんかちょっとむくれてるし、ほっぺを指で突っつきたい。
「……あ〜……」
気付けば自分の家に着いていた。もちろん掃除なんかされてないので埃っぽい家の中に入り、急いで準備をする。
「本当は何日か居ようと思ったけど……ダメだ」
シトラリに会いたい。
そう決めた僕の行動は早かった。速攻準備を終えた僕はその足で定期船に乗り込み、翌日には璃月港を出発した。
本当はキャラバンとかを使うんだけど、一刻も早く帰りたい僕は妖力を使ってガンダッシュ。スメールの森は木や枝を蹴ってショートカットして、夜のうちに砂漠を超える。行きは3日かかった璃月港からナタまでをわずか1日で踏破した僕は、衝動に駆られるまま脚を動かした。
「……はぁ、……はぁ…帰ってきた………」
そしてナタ入国から半日。行きの半分以下の時間でナタの家まで帰還した僕は、荷物を下ろすとその場に尻もちを着いた。
いやはや、いくら大妖怪とはいえ無茶したなぁ。もう脚がガクガクだ。
それでも彼女に会いたい。
その一心で僕は立ち上がった。シトラリの家の前まで来ると、深呼吸をして戸を叩く。
……………。
………。
…。
「─────居ないんかいッ!」
「……幻目?」
まさかの不在に膝から崩れ落ちかけたその時、後ろから僕を呼ぶ声がした。この声、聞き間違うはずもない。振り返ると目を丸くしたシトラリが紙袋を抱えて立っていた。
多分買い物でもしてきたのかな。目をぱちくりとさせたシトラリは僕に近寄って来…うわかわいいっ。
って、何やってんだ僕は。稲妻に戻ってる間にシトラリの耐性がザルになってる。
「……た、ただいま?」
「お、おかえりなさい…。随分早かったわね?何かあったの?」
「……あー、えっと……その…」
「って、汗だくじゃないっ!ほ、ホントに何があったのよ?」
「……や、その、恥ずかしい話なんだけどさ…」
「ナニっ?」
恥ずかしくて頭を搔く僕にシトラリが詰め寄る。身長差のせいで上目遣いになって非常にかわいい。
余程深刻なことがあったと思ってるのか、心配そうなシトラリに。
「……シトラリに、会いたくて……、すぐ帰ってきちゃった」
「…………へぇっ!?」
ボバっと音がしそうな勢いでシトラリの顔が赤く染まる。わたわたと手を振って慌てた様子だ。
「な、ななナニを言って…。え、えと、……ワタシに……?」
「うん………稲妻に帰って色々な人に会ったけどさ……やっぱりずっと、片時も頭からシトラリが離れなかったんだ」
「……えぅ」
「……ほら、お土産も買ってきたからさ、一緒に飲もう?」
ほんとは今すぐに抱きしめたいけど、今僕汗だくだから…!
歯を食いしばりながら、そういった僕にシトラリは……。
「……わ、ワタシも会いたかったわ…!」
勢いよく胸に飛び込んできた。反射的に抱き締め返してしまってから僕は慌てた。
「ちょ、シトラリっ、僕今汗だくだからっ」
「やっ!離れたくないっ!」
幻目がいなくてサビしかったんだからね!と抱きつかれながら言われたらもう抵抗なんてできない。僕はシトラリをしっかりと抱きしめ直しながら彼女の頭を撫で続けた。
1時間後。
「やっぱりこうなるんだね」
「んぅ〜?なによぉ〜?」
買ってきた稲妻の酒で飲み会を始めたんだけど、向こうの酒はシトラリには強すぎたらしい。お猪口2杯でほろ酔いになったシトラリが、僕にしなだれかかってくる。
「……ワタシ、幻目がいなくてサビしかったんだからっ」
「僕もだよ。…だからこうして超急いで帰ってきたんだ」
「えへへ…うれしぃ」
シトラリは満面の笑みで僕の肩に自分の顔を乗せる。
「……ありがと。……早く帰ってきて嬉しい」
はあ、なんて愛おしいんだろうか。思わず肩に手を回そうとしたところで、綺良々との会話を思い出した。
「好きな人に構ってもらえたり、触ってもらえると嬉しいんですよねぇ」
よし、それなら僕から動いてみようか。彼女が喜んでくれるといいけど……。
「…ひゃんっ……げ、幻目?」
「ふふ、僕もシトラリに会えて、すごく嬉しいよ」
肩ではなく腰を抱き寄せて、僕と密着させられたシトラリは可愛らしい声を上げた。こ、こんな感じかな?
続いて僕は、腰の手を彼女の頭に移動させて優しく撫でる。髪をいたわるように触って、途中の耳も触れるか触れないか位の塩梅で触る。
「……ぁ、……ん……幻目ぅ」
「どう、かな?」
「……ぁ……ぅ……き…」
「………き?」
「気持ちぃ…」
「っ!?」
耳元で囁かれた、シトラリの蕩けた声にびっくりする。僕がしてたのは恋人的な接触であってそんな……あ。
僕の脳内の弁解は、目の前の顔を赤くしたシトラリに吹き飛ばされた。
完全にあの時の同じ。「スイッチ」が入ったシトラリは、顔を赤くしながらも、僕の手を自分の体に導いてくる。
「……そ、そんなに…触りたいの?」
「……え」
「……手つき………えっちだったから」
「そ、そうかな?」
僕の手を持ったシトラリは、自分の脚に手を置いた。手のひら全体に張りのある柔らかな感触が感じられて酔いが飛びそうだ。
シトラリはあろう事かその手を前後に動かし始める。
「……ん……」
「ちょ、ちょっと飲みすぎじゃない?いくらなんでもそれは飛ばしすぎ……」
「………2回も、お預けしたくせに」
シトラリの僕を持った手がさらに暴走し始めた。僕の手が彼女によって、黒いインナーの内側に滑り込まされる。すべすべのお腹の感触に思考が硬直していると、なんとそのまま手を上に移動させられた。
僕の手が小山の麓らしきところに当たる。もう一杯一杯の僕は止めるように言おうとするが、シトラリの方が速かった。
「……んんぅ…」
僕の手がシトラリの丘を凹ませながら登山を開始する。インナーに手を突っ込んで直接触ってしまってるせいで、こっちからの見た目はもうすごいことになっている。
手に感じる極上の感触を心なしか楽しんでしまっている自分に気がついた。どさくさに紛れて指が動く。
「……っあっ、……んぅ……」
って、何してるんだ僕は!?
何も考えずにふた揉みほどしてしまった。慌てて手をぬこうとするけど、今度はシトラリに左手も導かれた。自分を抱き寄せるように背中に回された。胸に潜り込む僕の右手から手を離したシトラリはメガネを取った。
『好き』『大好き』
『もっと触って欲しい』
『あの時の続きを……』
「……ね、幻目」
「………な、なに?」
『「もう、いいでしょ?」』
その夜、僕は妖怪になった。
「……神子。こういう感じの話、どうかな?」
「売れるか。この官能小説家が」
うちの彼女が可愛すぎて、まともな小説が書けなくなりそうだ。
おしまい。
幻目が妖怪になった夜の話
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読みたいに決まってるだるぉ!?
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後日談、待ってます。