隣に住んでる美少女は、ばあちゃんらしい   作:猫好きの餅

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 好評あざます。頑張って年始終わるまではペース早めていこうかなと思います。


シトラリのこっちを見る目が変わった気がする

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女の頭の中は、わかりやすくパニックだった。

 

『えっ、へっ!?…ウッソ……600…年上っ…!?……そ、そそそれに、か、顔が…あ、あああの本の主人公と…!』

「…あ、そうだった忘れてた」

 

 そういえばこの人、僕の黒歴史作品の主人公ガチ恋勢だった。なんだかこのまま彼女の心を見ているのがいたたまれなくなってきた。僕は目を逸らしながら尋ねる。

 

「えっと、とりあえず眼鏡を掛け直しても「ちょっと待って」……え?」

 

 眼鏡を持って掛けようとしたら、目の前にシトラリさんの手のひらが。そして彼女はそのまま「いい?そのままよ!?」と言いながら走って天幕を出ていき、直ぐに戻ってきた。手には僕の黒歴史が握られている。

 

「ちょ!?それはっ」

「お願いっ!あと10秒だけ!」

「…せ、せめて向こう向いても…?」

「いいからワタシの方見るっ!」

「……はい」

 

 シトラリさんは裸眼の僕の顔と、小説の挿絵の僕と激似の主人公を見比べる。なんだか行き来する度にどんどん瞳が輝いているような……?

 

 それに、さっきから彼女の内心もだいぶやかましいことになっていた。

 

『……やっぱりニてる…!…っていうか同じ顔っ!?……ウソでしょ?しかもワタシよりも年上…っ!ろ、ろろろ600歳ってワタシなんて比べ物にならないじゃない!ヘタしたら炎神様よりも上……?そ、、それに、お、推しと……同じ顔……!』

 

 わー、心の中丸見え。推しって言っちゃったし。

 

「も、もういいかな」

「あっ、ゴメンなさい。ちょっと興奮しちゃって……」

「ま、まさか僕が書いた本をそんなに好きでいてくれる人がいたなんて、こっちもびっくりした」

 

 もう、隠してもしょうがないしこれも話してしまおう。眼鏡をかけ直しながらそう言うと、シトラリさんの顔がまたもや色鮮やかに変わる。

 

「……えっ、……なっ……!」

 

 シトラリさんは口がパクパクしたまま硬直した。多分、頭の中で「ほんとにアナタなの!?」と「なんで打ち切り完結にしたのよぉ!」がせめぎ合ってるのは能力を使わなくてもわかる。

 

「……いや、続きを楽しみにしてくれてたんだってね。それなら申し訳ないことをしたよ」

「……ちょ、ちょっとマって。一旦深呼吸させて…」

 

 はぁはぁと胸に手を当てて落ち着かせたシトラリさんはんんっと咳払いをすると、ひとつひとつ確認するように話し始めた。

 

「…まず、アナタが、この作品『覚孝行』の作者なのね?」

「……うん。でも結構酒の勢いで書いたもんだから、後になって恥ずかしくなっちゃってね。それを褒められると身悶えそうになるんだ」

「……ナルホド、………で、主人公のモデルは、アナタ?」

「お恥ずかしながら……」

「…ふーん」

 

 シトラリさんは本を胸に抱きながらもチラチラと僕の顔に視線を送ってくるのがとてもむず痒い。

 

「……それで、アナタのサトリヨーカイってなんなのかしら?ワタシ外国には疎くて…」

「ああ、妖怪は言わば種族かな。ナタで言うこだまの子みたいな。覚妖怪っていうのは平たく言って読心能力を持っている妖怪の事だよ」

「ど、読心………っ!?」

 

 呆然と呟いたシトラリさんが、僕の言わんとしてることを察したようだ。みるみる顔が赤くなっていく。

 

「……なっ、ウソッ、ど、どこまで……?」

「常に見えてる訳じゃないよ。いつもはこの、防護用の眼鏡をかけているんだ。だから、全部が全部筒抜けだったわけじゃないよ」

「……そ、そう、なの」

 

 だからこの眼鏡がなくなると本当に困るんだ。別にこっちだって見たくて見てるわけじゃないからね。それに人混みだと視界に入った全員分の思考が流れてきてとても疲れてしまうから、僕にとって必需品なんだ。

 

「…えっと、ゲンモク…さん?」

「ああ、呼び捨てでいいよ」

「い、いえっ、そんな年上の方に…、先程の口調も、ナマイキですみません……」

 

 落ち着いたのか急にしおらしくなった。けど、誰かに下から来られるのはあんまし好きじゃないんだ。

 

「気にしないで。苦手なんだそういうの。僕、この国に小説を書きに来たんだ。だから当分の間滞在することになるから、読者としての意見でも聞かせてくれる人を探そうともしてたしね」

「そ、そう言うコトなら……あ、それならその、ワタシのことは呼び捨てで呼んでちょうだい。ワタシもゲンモクって呼ぶから」

 

 その提案に僕は頷く。謎に片手でガッツポーズをしているシトラリさんの僕の名前のイントネーションが気になったので修正してみることに。

 

「あーその、シトラリ」

「ナニっ?」

「僕の名前の発音のイントネーションがちょっと気になったから。げ↑ん↓も・く・」

「ゲン…げん……げ、幻目……?コレで合ってるかしら」

「バッチシ」

 

 チューニングを終えたシトラリさんは頷きながら指で輪っかを作った。そのまま反復練習なのか僕の名前を繰り返し呟いている。

 

 って、色々あって忘れてたけど。集落に来たなら長的な人に挨拶した方がいいんじゃないかな?

 

「ここの族長のような人はいるかな?滞在するし一言挨拶したいんだけど」

「…ン?ああ、それならワタシが……」

 

 僕はさっきから布団から身体を起こした状態だった脚を横にずらし、掛け布団を取っ払ったところで。

 

「……あ」

 

 

 

 

 ……下に下着以外履いてないことに気がついた。

 

 

 すすっと、素早く布団で隠す。シトラリさんに見られてしまったが、向こうだって伊達に長生きしてない。普通に無反応に決まって……。

 

 

「……ぇ………ぅ……」

 

「…」

 

 

 そう顔を上げた僕の視界に真っ赤っかになった茹でシトラリさんが映りこんだ。ブルブル震えた彼女は、カチコチな動きで踵を返すと、そのまま天幕を出ていく。

 

 

「……ぞ、ぞ族長になら…き、昨日わわわたしからいってあるからっ……えと、ソノっ、……ま、またねっ」

「し、シトラリっ?」

 

 

 彼女は真っ赤な顔のまま、脱兎のごとく天幕から逃げ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 <シトラリ>

 

 

 

 

「うぅぅぅぅぅぅぅぅ」

 

 幻目の天幕から逃げ帰るやいなや、白い大きなクッションのシトラリンに顔を埋めた謎煙の主、大シャーマンのシトラリは、経験が無いほど熱く熱持った顔を冷ますのに必死だった。

 

 シトラリの視点から見た、一連の流れを一言で説明してしまうと、こうだ。

 

 

 

 ────ある日突然、なんか急に、シトラリのタイプど真ん中の男が隣の家にやってきた。

 

 

 

 正確に言うと、自宅の横の空いていた天幕に帰るついでに放り込んだのはシトラリなのだが。酒の眠気に負けて妥協し、普通に里の方に連れていかなかった事が見事に功を奏していた。

 

 まさか、自分よりも、しかも3倍も年上の男がいたなんて。しかも自分の推してる作品の作者で、推してるキャラクターに激似の。

 

 そんなのファンとして盛り上がらないわけが無い。途中我に返って口調を改めようとはしたが、彼は優しく断ってくれた。

 

 

 そして、今しがた見たシトラリにとっては初めてのもの。

 

「お、おおお男の人ってあんな下着履くんだ……!」

 

 オロルンは幼い頃に面倒を見たっきりで、それ以来は特に世話なんてしていないし、やはり孫とそれ以外の男では印象も天と地の差があった。

 

「〜〜〜!!」

 

 シトラリは声にならない唸り声を上げながらベッドの上をゴロゴロと転がる。全く昨日といい、自分は初対面の男性に何を見せてしまったのだ。この大シャーマン、シトラリが用心の欠けらも無い。

 

 普段黒曜石の老婆を知る物が見たら思わず目を擦りそうな表情をしながらしばらく転がり続け、満足して止まったシトラリの耳に、彼の声が残る。

 

 

「……初めて、男のヒトから呼び捨てされた…」

 

 

 その微かなつぶやきは、彼女以外には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 <幻目>

 

 

 シトラリが出てから少しして、身だしなみを整えた僕は天幕から出た。左を見ると謎煙の主の特徴らしき丸い扉。とペンキで塗られた壁。多分ここが彼女の住居だろう。

 

 すぐ近くには澄んだ水も湧き出ていて、魚も確認できた。静かで空気も美味く、住むにはこれ以上ないというくらい好条件なんだけど、本当にいいのかな?

 

 僕は川の浅瀬の方まで少し降りると後ろを振り返る。

 

 ……多分、あの天幕は昔オロルンが使ってたとかそういうんだと思う。だってシトラリの家とすっごい隣なんだもの。

 

 そうだよなぁ。やっぱ、ここは出てった方がいいよなぁ。シトラリ、この部族でかなり上の地位らしかったし、そんな人が僕みたいな余所者と隣同士で生活してるのも変だよね。

 

 僕が荷物を纏めていると、扉が空いてシトラリが出てきた。荷物を詰めてる僕を見て目を見開く。

 

「ちょっと、どうしたの?…ココ、気に入らなかった?」

「いやいや、凄い良さそうだなって思ったけど、さすがに迷惑かなって。黒曜石の老婆って言われるくらいなんだから、相当大切な地位なんでしょ?それだったら尚更遠慮しないと」

 

 僕がそう言って荷物を背負うと勢いよく駆け寄ってきて荷物を降ろされる。

 

「…えっ、イヤイヤいいのよそんなの気にしなくても!ワタシかいいって言ったんだからっ!……もうっ!覚妖怪なんでしょ?ワタシの心読んでみなさいよ!」

「…いや、普通に考えて女性のお宅の真横は…」

「で、デモっ!ワタシばあちゃんよ!?別に問題ないでしょ!」

「だから僕からしたら普通に女の子だってば」

「……そ、そう?」

 

 なんなのこのやり取り!?

 

「………」

「……………」

 

 僕は荷物を降ろすと、彼女をじっと見つめる。シトラリもなにか期待したような顔で見てきていた。

 

「………もしかして、最速で読む気だな」

「その通りよ」

 

 当たり前じゃないとすまし顔で言うシトラリにため息が出た。

 

 まぁ、当然だよね。聞くと稲妻の小説はナタではハチャメチャに遅れて届くそうなので、僕が隣で書いていれば連日出来たてホヤホヤのエピソードを読めるって訳だ。

 

「まぁ、本人がそんなにいいって言ってるならいいか」

「ええ。これからヨロシクね。幻目」

「こちらこそ、黒曜石の老婆」

「…名前で呼んでちょうだい」

「あ、ごめん何度も」

「別にいいわよ」

 

 

 こうして僕の謎煙の主での生活が始まった。

 

 …やたらと隣人の視線を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…なるほど、ばあちゃんより年上……つまりじいちゃんってことか」

 

続く。

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