転生したのもお前のせいだなイシュメール!!   作:ピークォドタウン在住

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え、まだ2話しか投稿してないのにランキングに載ってる……?これもイシュメールのせい……?


03/演劇開幕、白い海への招待状

 

 

「“……うぅん”」

 

 とある高層ビルの一室にて、シャーレの先生としてキヴォトスに知られる一人の男性が二枚の手紙を手に唸り声を上げていた。

 

「どうしました? 先生、そんな声を上げて」

 

 シャーレの当番として先生と共に書類を片付けていた早瀬ユウカがそう問いかける。

 

「“オデュッセイア海洋高等学校からシャーレに救援要請が届いたんだけど、二通目の様子がおかしくてね”」

 

「オデュッセイア海洋高等学校からですか? 余程の事でもない限り自分達でどうにかしそうな気がしますけど……」

 

「“そう言えばミレニアムはオデュッセイアと交流してるんだっけ。恥ずかしい話だけど私はオデュッセイアについてあまり詳しくないからどういう関係なのか教えて貰ってもいいかな?”」

 

 先生のその言葉にユウカは先生の机に積み上がっている書類を一瞥した後、溜息を小さく吐いて答えた。

 

「交流、というとやや軽い印象になりますね。オデュッセイアとミレニアムは互いに技術を高め合い発展させてきたという、ネルさん風に言うなら親友にしてライバルといった所でしょうか」

 

「“ミレニアムとオデュッセイアが、技術関係でライバルなの?”」

 

「えぇ、あの学校は異常です。ある分野においての話になりますが、オデュッセイアが開発し公開した技術の中にはミレニアムの二、三世代は先を行く技術がゴロゴロ転がってます。例えば先生の今日のお昼ご飯」

 

 技術力において他の追随を許さないミレニアムを一部であっても超えると聞いて驚いた先生に対し、ユウカは別の机の上に置いてあったエンジェル24のビニール袋を指差す。

 

「さっき見ましたけど、ウルトラマリン社が売り出している完全保存容器を使っていましたね。時間が経っても冷めない、賞味期限が一年は伸びいつでも作り立ての物を食べられる、そんな夢の様な容器に使われている技術がオデュッセイア海洋学園の幻想鯨由来技術であり、ミレニアムを凌駕する特異点と言っていいでしょう」

 

「“幻想鯨……ユメから聞いた事あるね、普通では考えられない巨大水棲生物の総称だったっけ”」

 

「あぁ、ユメさんから聞いてはいたんですね。まぁあの人の武器はオデュッセイアの対幻想鯨技術開発部が作った物らしいですし、幻想鯨について詳しいのも納得ですね」

 

 先生とユウカは時々このビルに併設されているエンジェル24でバイトをしている水色の髪の女性を思い浮かべる。

 二人にとって、シャーレが設立されるに至ったあの騒動の中であらゆる障害を巨大な銃と盾でなぎ倒し、あのワカモすら退けた光景は今も尚記憶に新しい。

 ワカモに関しては先生への態度を見る限り自分から撤退していったようなものだが、いずれにせよあの暴動の中一般人である先生をシャーレに送り届けたという実績はいつもふわふわと笑うユメがキヴォトスでも上位の実力を有している事は疑いようがなかった。

 

「救援要請、でしたっけ。まず間違いなく幻想鯨絡みでしょうけど、……私個人としては先生に行ってほしくはありません、余りにも危険すぎる。ともすれば、ゲヘナ以上に」

 

「“本当なら私一人でも行くつもりだったんだけど、こっちの手紙にもユウカが言ったような事が書いてあったんだよね”」

 

 そう言って先生は二通の手紙をユウカへと渡した。

 片方の手紙には格式ばった書き方でオデュッセイア海洋高等学校へ力を貸してほしい、詳細は会って話したいという旨が書かれていた。幾人か信頼のおける生徒を同伴する様にという多少違和感のある内容だったが、送り主がオデュッセイアの生徒会長であったため違和感を呑み込んで二枚目に移る。

 

「――うそ」

 

 もう片方の手紙の送り主はオデュッセイア造船部外部顧問、オルガ。

 手紙の内容を要約すると次のような事が書かれていた。

 

『捕鯨部部長、エイハブがピークォド号ごと特色の鯨に飲み込まれてしまった。どうか呼び出せる生徒の中で最強の者達を連れて生徒会長に会ってあげて欲しい。そしてどうかエイハブが呑まれた事は内密に』

 

 手紙を最後まで読んだユウカは顔を蒼褪めさせながら先生へ手紙を返した。

 

「……こちらに書かれている事が事実であれば事態は一刻を争います。今からでも救援に向かいたい所ですが……」

 

「“うん、助けに行こう。ところでエイハブって誰か分かる?”」

 

「捕鯨部の部長であり、数年前まだ中学1年生の身でありながらかつてのオデュッセイア生徒会を率いてキヴォトス初の鯨狩りを成功させた人物です。幻想鯨の情報、対幻想鯨兵装ハープーンの制作方法、鯨油の精製方法、特殊捕鯨船の設計、防衛設備の発案、全て彼女が主軸となって進めた天才なんですよ。彼女の存在はオデュッセイアは勿論ミレニアムにおいてもなくてはならないものです」

 

 ユウカはつらつらとエイハブの功績を並べ立てた後で、エイハブという名はあだ名で本名は鯨伏シロナであると付け加えた。

 

「“そんな子が吞み込まれる特色の鯨、か。確かに強い生徒を集めてくれっていう要望も分かるね”」

 

「……でもどうしましょうか、ミレニアムも他人事ではないのでC&Cを派遣するのも吝かではありませんが、到底勝てるとは思えませんね……」

 

「“そこまで強いの?”」

 

「えぇ、先生はご存じありませんよね。かつてオデュッセイアが有するメガフロートを襲った災害を」

 

 苦虫を嚙み潰した様な顔のユウカの口から語られるオデュッセイア海洋高等学校の激動の歴史に閉口しながら、先生は特色の鯨に対する危険意識を数段引き上げた。

 

「“そこまでの力があるなんて……、現地の生徒の力を借りようと思っていたけど却って危険かな”」

 

「でしょうね、手紙の通りシャーレの力でキヴォトス有数の実力者を集めなければ……」

 

「――やっほー、先生お仕事順調?」

 

 連れていく生徒について悩んでいるとシャーレの事務室の扉が徐に開かれ、キヴォトスでも珍しいオッドアイを持つ二人の人物が入ってくる。

 

「ありゃ、ユウカちゃんじゃん、どうしたの先生と難しい顔して」

 

「先生~、お疲れかなぁと思ってお茶菓子持って来たんですよ。一緒に休憩しませんか?」

 

 桃色の髪の小柄な少女、小鳥遊ホシノと水色の長髪の女性、梔子ユメであった。

 

「このケーキ、ホシノちゃんが好きな美味しいお店のやつなんですよ? 先生気に入るかなぁって一生懸命選んでて可愛かったなぁ」

 

「うへ、やめてよユメ先輩、そっちだってこのクッキーずぅーっとチョコとシナモンどっちにするか悩んでたじゃないですかぁ。って、どしたの二人とも、そんな顔を見合わせて」

 

 アビドス所属のこの二人はいるだけで無限に空気が緩んでいくコンビだが、その実キヴォトス有数の実力者でもある事を先生とユウカは知っていた。

 二人は頷き合い、ホシノとユメの二人に向き合って言った。

 

「「“力を貸してください!”」」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「――なるほどねぇ、エイハブが特色に食われた、か」

 

 柔らかい視線はそのままに、ホシノは鋭い視線で二通の手紙を見下ろした。

 

「うぅん、シロナちゃん大丈夫かなぁ」

 

「“二人も知ってるんだ”」

 

 二人ともエイハブと面識を持っていそうな様子だったので先生が思わず問いかける。

 言った後でユメが幻想鯨について詳しかったから捕鯨部の部長の名も知っているだろうと納得はしたが、二人から語られた内容はもっと親密な物であった。

 

「昔おじさんとユメ先輩の二人しかいなかった頃に一緒にオデュッセイアのバイトに行った事があるんだよねぇ、幻想鯨関係の開発で儲かってたから羽振りが良かったんだよねぇ」

 

「懐かしいなぁ、向こうの人に食べさせてもらった鯨肉が本当に美味しくてあっちで一杯バイトしたんだっけ。あ! ホシノちゃん、今度アビドスの皆でクラップ蟹獲りに行こうよ!」

 

「うへ、好きだねぇユメ先輩。まぁ最近シロコちゃんも暴れたがってるし行ってもいいかもね、でも今回の件に皆を連れてくのは無しかな。――これは私とユメ先輩の二人しか行けない案件だ」

 

 ホシノがユウカへと目を向ける。

 

「ユウカちゃん、C&Cを動かせるって話だったよね? 4人? それとも5人全員?」

 

「……先生が頼めばトキさんも動いてくれると思いますけど、やっぱりトキさんも必要になりますよね?」

 

「そうだね、先生の指揮があってもアスナちゃんでギリギリだ。先生? ヒナちゃんとかミカちゃんとかは、動かせそう?」

 

 ホシノの言葉に先生は微妙な表情を浮かべる。

 

「“ミカはトリニティの用事が立て込んでるらしいし、ヒナは連れ出すのも厳しいかな。頼めば力を貸してくれるだろうけど、ヒナが空いた穴を埋めるのはかなり厳しいだろうね……”」

 

「いや、そうだよねぇ。その二人がそう簡単に動かせるわけないか、でもあと数人は欲しいなぁ」

 

「あ、そうだ!」

 

 苦い顔のホシノが頭を働かせていると隣のユメが名案を思い付いたという風に先生に笑顔を向けた。

 

「先生! アリウススクワッドの4人なら呼んでも大丈夫じゃないですか?」

 

「“ちょ!?”」

 

「ユメ先輩!?」

 

 確かにその4人であれば来てくれるだろうが、その名を出すのはタイミングが悪すぎた。

 

「――アリウススクワッド? それってエデン条約襲撃で先生を殺そうとしたとかいうチームの名前ですよね? どういうことですか先生、まさかテロリストと連絡を取り合ってるんですか!?」

 

「あ、あぁ~、ユウカちゃんは知らなかったんだっけ。えへへ……」

 

「うかつだったねぇユメ先輩、世間的にはあの子達お尋ね者だよ~?」

 

「ひぃん……」

 

 荒れ狂うユウカを三人がかりで宥め、エデン条約における事の顛末を話してユウカを納得させるのに約一時間を要する事となった。

 

 

 

「――はぁー、事情は把握しました。おいそれと吹聴出来ない理由も。まぁ、もしもがあれば先生に危害を加える前にC&Cとお二人で鎮圧できるでしょうからこの件に関してはもう何も言いません」

 

「取り敢えずこれでメンバーは揃ったかな。アビドスからは私とホシノちゃんの2人、ミレニアムからはC&Cの5人、アリウススクワッドの4人と、手紙でオデュッセイアから船の操縦に明るい子が1人合流するって書いてたから、合計12人。大所帯だねぇホシノちゃん」

 

「戦う羽目になるだろう特色の事を考えるとこれでも足りない気もするけどねぇ」

 

 ホシノの顔から緊張が薄れ、ユメと同じ穏やかな顔つきに戻っていく。

 このタイミングで先生は気になっていた事をホシノに聞いてみる事にした。

 

「“ホシノは、エイハブを呑み込んだ特色の鯨に当てがあるの?”」

 

 そう聞くとホシノは一瞬視線を宙に泳がせ、決心した様に先生に視線を合わせる。

 

「まぁ向こうで改めて聞くだろうけど、十中八九蒼白の鯨、白く蝕むアルゴーだろうね」

 

 蒼白の鯨、白く蝕むアルゴー。

 かつて先生はユメから聞いた事があった。初めて発見された幻想鯨にして最大の特色の鯨であると。写真越しでも恐怖を覚えるそれに、しかし直接相対した者は数えるほどしかいないのだとか。

 

「――ところで先生? 先生のバリアって電気を使って展開してるの? やっぱり充電しないと動かないのかな?」

 

「“アロナ?”」

 

 机に置いていたシッテムの箱に呼びかけると今までの話を聞いていたアロナが答える。

 

『基本的に充電で稼働しますが、緊急時には生徒の皆さんの力をお借りして再展開も可能です。エネルギーの変換に時間が掛かるのであまりオススメはしませんが……』

 

「“成程、生徒の皆から力を借りてエネルギーを補充する事も出来るらしいよ”」

 

「ふぅん? 神秘でも代用可能な感じか、ならまぁ危ない時はおじさんのパワーを注入する感じでいこっか」

 

 胡乱な言い方をするホシノだが、ここまで先生の安全に気を掛ける事は今までなかった。

 ユメもまた同意見なのだろう、ホシノの言葉に何度か頷いている。

 

 もしかすると、今までにない困難に見舞われる事になるかもしれない。

 それでも、根拠は無くとも皆であれば一緒に乗り越えられる気がした。

 

「“それじゃあ、手紙に書いてある通り準備を整えて明日オデュッセイア海洋高等学校に向かおうか”」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 オデュッセイア海洋高等学校の自治区前、鮮やかな蒼い海がほど近い駅前に12人が集まった。

 

「“えぇっと、一応初対面の人もいるし自己紹介でもする?”」

 

 遠慮がちな先生の言葉に他の11人は顔を見合わせ、ホシノとユメの二人が真っ先に声を上げた。

 

「アビドス高等学校卒業生、シャーレ所属の梔子ユメです。普段は色んな所でバイトしてたりするけど最近はシャーレの用務員兼先生の護衛として付いて行ってる事が多いかな、攻めるのはホシノちゃんより苦手だけど守るのは得意だから期待してね!」

 

 そう言って柔らかい笑顔を浮かべたユメはホシノ以上の重厚な大盾と、鋭い銛の様な刃物の付いた巨大なスナイパーライフルを携えた完全装備であった。

 攻撃するのは苦手という彼女だが、先生は初対面の時にゴリアテの中心に銃剣の様な銛を易々と突き刺し至近距離でスナイパーライフルを撃って装甲を貫通し機能停止させた光景を今でも覚えている。

 当たる距離まで近づいて撃てばいいんだよねぇなどと凡そスナイパーライフルを扱う者としては不適格な戦法を好むユメの言葉に、先生は何も言えなかった覚えがある。

 

「うへぇ、おじさんはアビドス高等学校生徒会長、小鳥遊ホシノだよぉ。おじさんも守るのは得意だけど、どっちかというと相手に突っ込んでいく方が得意かなぁ。よろしくねぇ?」

 

 伸び伸びとした喋り方をするホシノもまた、いつものショットガンの他にユメの卒業の際に譲り受けたバリスティックシールドとハンドガンを携帯した臨戦態勢である。

 先生がアビドスの問題を解決しにユメと共に向かい、この状態のホシノと共に度重なる砂嵐の元凶と思われたビナーを討伐しに行った事もまた記憶に新しい。

 全てのしがらみをユメの言葉によって振り払い、ユメの装備と共に砂漠の巨大蛇を破壊したあの時のホシノは誰よりも自由で、そして力強く羽ばたいている様に見えていた。

 

「はいはーい! 私はC&Cの一之瀬アスナだよ! 今日はご主人様に呼ばれて来たんだ!」

 

 よろしくね! と天真爛漫にホシノとユメに握手を求めるメイド服姿の一之瀬アスナ。

 彼女の姿はいつも通りの様に見えたが、先生はアスナが僅かに不安そうにしている様に思えた。

 そして先生がそれを察知できるという事は、同じC&Cのメンバーもまたアスナの不安を把握しているという事でもある。

 

「あー……、アタシは美甘ネル、C&Cのリーダーだ。突っ込んでボコボコにするぐらいしか出来ねぇけど接近戦なら誰にも負けるつもりはねぇ。よろしくな」

 

 アスナと同じメイド服の上からスカジャンという目を引く格好をしている彼女もまた、ホシノと並ぶキヴォトス屈指の戦闘力を有する者だ。ネルの射程圏内である超近距離まで近づけば、二丁のサブマシンガンによるゼロ距離インファイトによって抜け出す事は出来なくなる。

 一対一に特化していながら他のメンバーの指揮も行える空間把握能力は敵になれば酷く恐ろしいが味方となれば必ず勝利を呼び込むだろうという安心感を与えてくれる。

 それを先生はミレニアムでの一件で身に染みて理解していた。あの時もまた付いてきてくれたユメがいなければ危ない場面が何度かあった出来事だった。

 

「同じくC&Cのスナイパー担当、角楯カリンだ。よろしく」

 

「同じくC&Cのボマー担当、室笠アカネです。よろしくお願いいたしますね?」

 

「え、何ですかこの流れ、C&Cの掃除担当、飛鳥馬トキです。船の掃除はお任せください」

 

「大喜利してんじゃねぇよ働けトキ」

 

 連続して自己紹介したカリン、アカネ、トキもまたミレニアム屈指の実力者だ。一人一人の戦闘力はネルに及ばずとも、彼女達の真価はネルをトップに据えた連携での制圧力にある。

 諸事情でトキは今まで単独での制圧を得意としてきたが、彼女もまた周囲に合わせられる協調性の持ち主である。心配はいらないだろう。

 

 ふと、先生は気になった事をトキに聞く事にした。

 

「“トキ、リオの様子はどう?”」

 

「いつも通り、変わりありませんよ。セミナーの下っ端からの再スタートですが、リオ様も精力的に資金調達に勤しみつい先日ミレニアムへの借金を75%返済完了致しました。これも先生とユメさんのおかげです」

 

「“ず、随分ハイペースだね……”」

 

 本当にありがとうございますと腰を90度に曲げて感謝する時に先生とユメは慌てて頭を上げるように言った。

 

 かつて天童アリスの処遇を巡り、先生達は調月リオと敵対する事になった。古き時代に造られた兵器であると定めたリオと、あくまでミレニアムの一生徒であると反論する明星ヒマリの諍いは様々な組織を巻き込んで膨れ上がり徹底抗戦の段階にまでもつれ込んだ。

 アリスの問題を解決する為にユメと共にミレニアムまで来た先生はユメに対してリオの味方をするように頼んだのだ。

 より正確にはリオの意見に同調するのではなく理解を示しながら穏便に説得して欲しいと無茶振りをした。先生としては全ての生徒の味方でありたいが個人的な意見としてはアリスもまた生徒の一人であるとする以上リオの意見と対立するのは必然。先生からの言葉はリオには届かなかっただろう、だからこそ古い時代の兵器の脅威を身をもって知るユメからの言葉が必要だった。

 

 自分ではどうにもできないからと年下の女性に丸投げしたという、何ともまぁ、情けの無い話であった。「覚悟してくださいね?」と言いながらアバンギャルド君と共に全力でこちらを潰しに掛かってきたあの悪夢もまた、そうされて然るべきではあった。本当にしんどかったが。

 ともあれ結果としてユメの言葉でリオは踏み止まり、ケイの接触でアリスが乗っ取られるもヒマリとの即興の連携、ユメとC&Cの面々による制圧、そしてゲーム開発部の呼びかけによってアリスは再び目を覚まし、アリスを巡る事件は幕を下ろした。

 

 その後メンタル的に安定したリオは生徒会長の座をヒマリに押し付け、セミナーの新入りとして仕事に注力し横領した分の予算を取り返す為に日々生き生きとしている様だ。

 反対にヒマリは日を重ねる毎に眉間に皺が寄っていき「早く生徒会長に戻りなさい」等とリオに対して激励を飛ばしていたらしいが、あの一件で仲が少しでも良くなったのなら幸いである。

 

 閑話休題。

 

 先生から言い始めた事とは言え身内の話に巻き込んでしまった残りのメンバーに謝罪しつつ自己紹介をするよう促した。

 

「もう、いいのか? アリ……こほん、便利屋ブルーローズ、リーダーの錠前サオリだ。今回は先生からの依頼で同行する事になった、よろしく頼む」

 

 黒い長髪と白のロングコートを靡かせる少女、錠前サオリはエデン条約を襲撃したアリウス分校の特記戦力、アリウススクワッドのリーダーだった。

 しかしエデン条約の襲撃は巡航ミサイルの衝撃から一早く立て直したユメがアリウススクワッドの4人から先生を守り切り増援を到着させた事でアリウスの戦力は本来の目的を達成できないまま撤退、外患誘致の罪に問われたトリニティの聖園ミカもまた拘留されることになった。

 だがアリウスのトップであったマダム、ベアトリーチェによってアリウススクワッドの秤アツコが拉致されシャーレに助けを求める事態に発展。

 

 すぐにでも助けに行こうとする先生に対しユメはトリニティの、というよりもミカの助けを借りる事を提案した。トリニティにとっての悪を連れてきた者として罪悪感に苛まれ続けるのではなく彼女達の境遇を理解し、今度こそ固い信念で以て彼女達に手を差し伸べられるように、と。

 そうしてシャーレの権限を使い、ナギサとセイアの許可を得てミカを加えたメンバーで即座にアリウス自治区へと急行。

 

 道中でサオリと打ち解けたミカがユメと共に敵勢力の足止めを行い、アリウススクワッドのメンバーと先生でベアトリーチェに挑み、勝利を収めたのだ。

 

 それから多数のアリウス生はトリニティに保護される事となったが、保護を拒んだ者達は自分達の力で生きる事を決めた。アリウススクワッドの面々もまたその中にいた。

 彼女達はブラックマーケットで暫く過ごしていたらしいがある日ワインレッド色の髪のゲヘナ生に便利屋として過ごすのはどうかと勧められたのだという。

 その少女の言葉通りに便利屋となる事を選び、便利屋ブルーローズとして新たな身分を手に入れた。

 

 諸々の手続きを手伝ってくれた少女は「これからはライバルね!」と言い残して去っていったのだという。

 

「便利屋ブルーローズの秤アツコ。先生、ひょっとして女の子にご主人様って呼ばれるのが好きなの?」

 

「えぇ!? そうなんですかぁ!? そんな、先生が日々の疲れを女の子にご主人様呼びさせて発散する趣味をお持ちだったなんて……、先生ですらそうしないと生きていけないなんて、人生はつらく苦しい事だらけですね……。あ、便利屋ブルーローズの槌永ヒヨリです……、ご迷惑をおかけするかもしれませんが、よろしくお願いします……」

 

「便利屋ブルーローズの戒野ミサキ、見ての通りロケットランチャー使い、よろしく。先生? 終わったら話があるんだけど」

 

 順に自己紹介した彼女達もまた元アリウススクワッドのメンバーであり、アツコが命名した便利屋ブルーローズとして活動してからは初めて見た時の様な陰鬱とした雰囲気が徐々に薄れ段々と普通の女の子の様に笑うようになっていった。

 自分達で育てているらしい花をたまにシャーレに飾りに来るのも年頃の子供らしく、先生はユメと二人で微笑ましく見守っていた。

 のだがちょっと待って欲しい。

 

「“違ッ”」

 

「えぇ!? ご主人様はアスナにご主人様って呼ばれるの嫌だった? ……先生って呼んだ方が良い?」

 

「“いや、その……、……アスナはそのままでいいんだよ”」

 

 満面の笑みを浮かべるアスナ、冷たい視線を浴びせかけるミサキ、その他大勢に背を向ける先生。

 

「“よ、よし! 自己紹介も終わった事だし、学校まで行こうか!”」

 

「うへ、逃げたねぇ先生」

 

「えへへ、生徒には優しい先生だもんね~」

 

 先生の背に突き刺さる様々な視線を努めて無視しながら、先生は全員を引き連れてオデュッセイア海洋高等学校へと向かう事にする。

 こうして先生の社会的地位の低下と引き換えに自己紹介は幕を閉じた。

 

 




すまないがメインストーリーは全カットさせてもらう。時間がいくらあっても足りないからな。細かい所は各自で自己補完してください。

アビドス(過去)
・ユメとホシノが度々オデュッセイアにクラップ蟹狩りのバイトに出ており、定期的な高額バイトにより原作より借金減。
・オデュッセイアの対幻想鯨技術開発部にユメのバリスティックシールドが目を付けられ、幻想鯨の素材を使用した大盾がユメに贈られる。
・なんやかんやでユメとホシノが喧嘩しユメ、フル装備で砂漠に向かう。幻想鯨素材の耐久度記録とビナーとホシノの戦闘記録を取りたいが為に黒服がホシノにユメを助けに行くよう誘導。
・ユメがビナーと遭遇するも幻想鯨素材の大盾で何とか耐え凌ぐ。同時刻、ホシノ砂漠へ出立。
・全身火傷、右足重症、左目破裂状態のユメとビナーと見たホシノ、ブチ切れてビナーを撃退。重症のユメに医療用精製鯨油を投与し応急処置を施した後帰還。
・左目の破裂以外は回復したユメ、ホシノと仲直りしオデュッセイアの対幻想鯨技術開発部にお礼を言いに行く事に。
・高純度の神秘に晒され死線を潜った事で膂力とスタミナが爆増したユメに合わせて対幻想鯨兵装ハープーンに銃撃機構を取り付けた銃槍と神秘探知機能の付いた義眼を譲り受ける。
・ノノミやシロコと接する中でホシノの態度が軟化していく。ユメの卒業と同時に元々持っていたバリスティックシールドとハンドガンがホシノに贈られる。
・卒業後ユメはキヴォトスの外に行かず転々とバイトを繰り返しアビドスの借金返済の一助となる。暫くして連邦生徒会長失踪。
・ユメ、シャーレ事務員の地位を獲得し、先生の護衛として各地に赴く事となる。

梔子ユメ
・最初期から先生の仕事をサポートする大人の女性。先生が取りこぼしそうな生徒へのフォローを的確に行っていく為先生からの好感度が恐ろしく高い。
・武器はオデュッセイアの対幻想鯨技術開発部が作ったガンランス。種別としてはスナイパーライフルの筈だが何故か最前線で至近距離からぶっ放す。
・神秘を攻撃力に変換するのは下手だがアホ程継戦能力が高まった為、その気になれば20時間は休みなしで戦える。
・本人はこの力を「すごい!ずっとバイト出来る!」と大体戦闘以外の事に使っている。働き過ぎると先生やホシノからストップがかかる。
・ガチャからは出ず特定のミッションの際にお助けキャラとして使用可能。
・たまにエンジェル24に行くとソラの代わりにレジに立っている。


高評価、感想下さった方々、本当にありがとうございます。流石に明日は無理です。

今回執筆中のBGMに『リンバスカンパニー5章のエイハブ構文をAIにかけてできた曲「スタッブは死んでません!」』を聞いてました。皆も聞いてみてね。
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