転生したのもお前のせいだなイシュメール!!   作:ピークォドタウン在住

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ヴァルプルギスガチャ引いてやねぇ……。
鏡ダンジョン周回してやねぇ……。
リンバス五章ストーリー読み返してやねぇ……。
鏡ダンジョン周回してやねぇ……。
ブルアカの何人かの絆スト読み返してやねぇ……。
鏡ダンジョン周回してやねぇ……。
◇執筆時間、何処へ――!?


05/集結、十三人目の船員

 

 

「オルガさん! 怪我はありませんか!?」

 

「あぁレイン、私は良いから他の子に使ってやって」

 

 オルガの元へ駆け寄ってきた黒髪の少女はオルガのその言葉に頷き、抱えていた大容量カバンから淡い緑色の液体の入ったビンを取り出し、負傷した生徒達に配っていく。

 少し前にホシノと仲良さげに話していたミカもまた黒髪の少女――レインを手伝う為に合流していた。

 

「いやぁ強いねぇあんた達。シャーレの先生に滅茶苦茶強い奴連れてこいって手紙出したけど真剣に受け取られないんじゃないかと心配してたんだよ。――まぁ、ホシノとユメがいるなら要らない心配だったね」

 

「あん? 知り合いか? ホシノ」

 

 オルガの言葉にネルが尋ねる。

 

「うへ、まぁね。昔クラップ蟹を狩るバイトをユメ先輩としてたんだけど、その時に色々あって」

 

「おいおい、その言い方だとまるで何か因縁でもあるみたいじゃんか。普通にアドバイスとか武器を貸したりしてただけだって、なぁユメ?」

 

「うん、その節はお世話になりました。でもバイト終わりの打ち上げで私達にもお酒を飲ませようとしてたのは忘れてませんよ?」

 

「だぁっ、良いだろその話は……。滅茶苦茶怒られて流石に反省したって……。まぁ何にせよ元気そうで良かったよ、んで、アイツがシャーレの先生ね。噂に聞く指揮の腕を見られなかったのは残念だが、力の一端だけでも見れただけ良しとするか」

 

 オルガは戦闘が終わり駆け寄ってくる先生を横目で見ながらそう言った。

 

「“初めまして、貴方がオルガさんですね。シャーレの先生をしている――”」

 

「あぁ良いよ良いよ、そういう硬いのはさ。私が手紙を送ったのは警告もあるけど、二人で個人的に話したい事があったからなんだよねぇ。詳しい事は生徒会長から聞いてもらうけど、今回の件にはウチの船がいる。後で造船部に来た時に色々お話しようぜ」

 

 先生の肩を叩きながらオルガは朗らかに笑う。

 手に持っていたハープーンを背負い直し、オルガは遠くのミカとレインへ呼びかける。

 

「おぉーい! 私はお客さんの案内してくるから、終わったら部室で待機なぁ!」

 

 遠くから了承の声が届き、オルガは再び先生達へと向き直って

 

「それじゃあ案内するよ。我らがオデュッセイア海洋高等学校生徒会長、遠海ウテナの元へね」

 

 

 

 オデュッセイア海洋高等学校の校舎内。

 先生の前を歩くオルガにC&Cの五人が話を聞き出し、ホシノとユメ、そしてブルーローズの四人は先生の近くに纏まって先生と共に動いていた。

 

「――オルガと言ったか、あの大人。強いな」

 

「それは、私達が全然倒せなかったキングクラップ蟹を倒したんですし強いとは思いますけど……」

 

「ヒヨリには分かりづらいだろうけど、ユメさんとネルちゃんを足したような感じだよあの人。近接特化タイプだ」

 

「……色んな大人がいるんだね」

 

 外部顧問と名乗っていたオルガだが、すれ違うオデュッセイアの生徒達は笑顔でオルガに挨拶している所を見るに部外者どころか同じ学校の仲間として受け入れられているらしい。

 ハープーンの特訓に付き合ってほしいと頼む生徒には笑って付き合うと言い、新しい兵器開発の為に鯨油を融通して欲しいという生徒には造船部の在庫を後で渡すと約束する。

 

 C&Cを交えて和気藹々と交流を続けるオルガには一切の裏が無く、優しい大人といった印象は初対面時から変わる事は無かった。

 

 しかし、先生は彼女がただの大人ではないと漠然とした予感を抱いていた。

 性格は似ても似つかない筈だが、それでも先生の脳裏にはアビドスで出会ったある人物の姿が浮かんでいた。

 

「――着いたぞ、ここが生徒会室だ。この時間なら会長さんもいると思うけど……」

 

 一際豪奢な扉の前で止まったオルガは扉をノックする。

 

「造船部外部顧問オルガ、お客さんを連れてきたよ~」

 

『……暫く、お待ちを』

 

「……うん? ――ッ!」

 

 部屋の中から微かな異音を聞き取り、何らかのを異常事態であると判断したオルガが即座に扉を開け放つ。

 オルガの開けた扉の中へと入っていった。

 

 生徒会室は灰色の奇妙な柄の革が張られたソファや、壁に掛けられた巨大な角や骨、かつて実際に使われていたのだろう舵輪や羅針盤、そして何本ものハープーンが机に立てかけられており学校独自の気質を伺わせていた。

 だが先生達の視線はそれらの調度品ではなく、部屋の最奥にいる剣呑な雰囲気を纏う二人の生徒へと向かっていた。

 

 一人はオデュッセイアの制服であるセーラー服の上から漆黒のロングコートを羽織る、月夜の海の様に美しく腰元まで伸ばされた藍色の髪の少女。

 髪色と同じ藍の眼を細め、全てを貫かんとする殺意が具現化したような捻れた棘が無数に付いた漆黒のハープーンを背負っている。

 

「はぁ、どうして言う事を聞いてくれないのですか、オルガ。――さて、見て分かる通り私は客人をもてなさなくてはなりません。……せめてハープーンは下ろしてもらえますか?」

 

 相対するは、太陽の様なオレンジの髪を縄の様なカチューシャで飾る少女。

 震える手でハープーンを藍色の少女――生徒会長のウテナへと向け、焦燥を顔に浮かべていた。

 

「はっ、客人? この状況で? 一刻も早く討伐船団を編成しなければならないのに、貴女はまだ商談にでも興じるつもりなんですか!?」

 

「救援要請ですよ、この一件は私達だけでは対処できない。外部協力者が必要だと」

 

 ウテナの言葉に少女はギリギリと歯を食いしばり、叫ぶ。

 

「船もまともに駆れない者に何が出来るって言うんですか! あの女の次に強い貴女なら協力者だって要らないでしょう!? 今すぐ私と――」

 

 ずるり、と。

 

 気付けばウテナの手に黒いハープーンが握られ、少女のハープーンを上に弾き飛ばしていた。

 

「盲目に囚われるのは止めなさい、ピークォド号がやられた以上私が参加しても同じ末路を辿る事は貴女も理解していると思っていたのですが。……私は客人と話があります、少し頭を冷やしなさい」

 

「……はい」 

 

 床に落ちた自身のハープーンを拾い上げ、オレンジの髪の少女は先生達の横を通り抜けて生徒会室を後にした。

 顔を俯かせ、拳を握りしめながら消える少女を目で追いかけていたアスナもまた動き出した。

 

「ちょっと見てくる!」

 

「は!? おいアスナ、何――」

 

「あの子を放ってたらダメだと思うの! 何となくだけど!」

 

 少女に続く様に生徒会室を後にしたアスナに慌てた素振りを見せるネル。

 突拍子もない行動は今に始まった事では無いが、今回は何時にも増して奇妙だった。

 

「ちょ、……あぁー、悪い先生。あたしもアスナの所に行ってきても良いか?」

 

「“うん、お願い。アスナがそうした方が良いって思ったのなら尊重してあげたいし。何ならC&C全員で――”」

 

「いや、それは駄目だ。今回C&C全員が先生の傍を離れるのはメンツ的にも良くねェ、……リーダーが離れるのも大概だが」

 

「あー、それじゃあ私も付いていくよ。どうせ私はウテナの話に参加するつもりは無かったからな」

 

 ネルの付き添いにオルガが立候補する。

 彼女が付いていくなら、万が一オデュッセイアの生徒とトラブルになっても問題なく対処してくれるだろう。勿論アスナとネルが問題を起こすような事はあんまりないと分かってはいるが。

 とにかく先生はオルガの言葉に頷いた。

 

「んじゃ、ちゃんと話聞いといてくれよ、カリンにアカネ、後トキ!」

 

「分かった」

 

「お任せください。そちらも気を付けて」

 

「ついでみたいな言い方じゃないですか、会話記録はしっかり取っておきますよ」

 

 残るC&Cのメンバーと言葉を交わし、ネルはオルガと共に生徒会室から飛び出した。

 

「……申し訳ありません、我が校の生徒の対処をミレニアムの方々に請け負わせてしまって」

 

「“いや、どの道放ってはおけなかったから。私の代わりに話を聞きに行ってくれて助かったよ。……さっきの子の話も聞きたいけれど、まずは私達を呼んだ理由を改めて聞かせて貰って良いかな?”」

 

「えぇ、ではお話しましょう。我が校が現在直面している危機、ピークォド号消失及び捕鯨部部長救難作戦について」

 

 

 

 ウテナから着席を勧められた一行の内ブルーローズの四人とC&Cの二人が立って話を聞く事を選んだため、先生とホシノとユメとトキの四人がソファに腰掛けて話を聞く事にした。

 背後のアカネの静かな圧を素知らぬ顔で受け流すトキがウテナへと口を開く。

 

「ここに来る途中でオルガさんからお話を伺いましたが、その捕鯨部部長とやらが消えた事はまだ公になっていないようですね。大々的に捜索隊を編成しない理由は何でしょうか」

 

「この情報を公開する事によるデメリットがメリットを上回るからですね。お恥ずかしい事ですが、ピークォド号はオデュッセイアの精神的支柱なのです。捕鯨部部長、鯨伏シロナの入学から今日に至るまであの船が幻想鯨を狩り続けてきたからこそ、私達は幻想鯨に立ち向かう事が出来た」

 

 ウテナが生徒会室の壁に掛けられた鯨骨やハープーンを眺めて拳を握りしめる。

 その様子に、先生は僅かに違和感を覚えた。嘘を言っている訳では無いし、真実ではあるのだろう。だが、本音を覆い隠している様に感じられた。

 その事に言及するべきかを考えた先生は、結局何も言わないでいる事を選んだ。

 

「……シロナが幻想鯨に食われた事が知れれば、その混乱はこの学校の生徒どころか自治区全体にまで広がり、我々と協力関係にあるウルトラマリン社にまで被害が及ぶ事でしょう。だからこそピークォド号消失の件は生徒会と捕鯨部、造船部にのみ留めています。笑ってくれても構いません、私達は皆、たった一人の生徒に依存しているのですよ」

 

「……笑わないよ、笑える訳がない」

 

 ウテナのその言葉に、ホシノが微妙な表情を浮かべる。

 先生とユメはそんなホシノを気遣わしげに見たが、話を続けて重い雰囲気を払拭する事を優先した。

 

「“事情は分かったよ。それじゃあ具体的に私に何を頼みたいのか、教えてくれるかい?”」

 

 コクリと頷いたウテナは机の上に一枚の写真を置き、口を開く。

 

「オデュッセイア海洋高等学校へ富を齎す災害である幻想鯨、中でも強大な力を持つ五体の幻想鯨を我々は特色の鯨と呼んでいます」

 

 ウテナが片手を広げ、指折り数えていく。

 

「漆黒の鯨、全てを貫くナグルファル。真紅の鯨、大旱魃のプリドゥエン。紫紺の鯨、微睡む歌のフリングホルニ。黄金の鯨、輝ける海嘯ノア」

 

 親指、小指、薬指、中指を順に折り、残った人差し指で机の上の写真を指差した。

 

「そして最初に見つかった蒼白の鯨、白く蝕むアルゴー。この怪物に、我らが捕鯨部の一番船であるピークォド号が呑み込まれました」

 

 遠近感を狂わせる程の白い巨体を映し出したその写真を、ウテナは人差し指で先生の元まで差し出す。

 

「――この特色を私達と共に沈め、ピークォド号の船長である鯨伏シロナの救出を行って頂きたいのです。作戦の内容と、こちらから提供する人員と船について今からお話します」

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 つかつかと足早に校舎の廊下を歩く少女。

 湧き上がる怒りを抑えようと手に持つハープーンを握りしめ、重く息を吐く。

 

「……ハープーンを、研がなくちゃ。あの白い皮を切り裂いて……助けに、……殺しに」

 

「――待って!」

 

 少女の後ろから、アスナが追いかけてきた。

 暗い考えに囚われつつあった少女の目に少しばかり理性が戻る。

 

「貴女は、さっきの。……見苦しい所を見せましたね、確かに客人の前でする話ではありませんでした」

 

「ううん、皆気にしてないから大丈夫。ねぇ、君捕鯨部の子だよね? どうしてあんなに怒ってたのか私に教えてくれない?」

 

「は、はぁ? いきなり何を……」

 

 初対面でいきなり無神経な事を聞かれ、少女は怒りよりも先に困惑の表情を浮かべる。

 笑顔を浮かべてずい、と近づいてくるアスナにどう対応するべきか悩む少女の元へ二人の人影が駆け寄ってきた。

 

 ネルとオルガの二人だ。

 

「おいアスナ、いきなり走り出すなよ……。と、さっきの、……あー、あたしは美甘ネルでこっちは一之瀬アスナ。アスナが変な事言ってたら悪かった」

 

「変な事なんて聞いてないよ? さっき何で怒ってたのかなぁって」

 

「それをいきなり聞くのは変な事だろうが」

 

「おひさ、さっきもウテナから聞かされたと思うけどこの子達は事情を知ってる側だ。そんでもってお前さんが直面したアルゴーに関する情報がこいつらには必要なんだ。……今、イシュ以上にアルゴーに詳しい奴はいない。話してやっちゃくれないか?」

 

 アスナ、ネル、オルガの三人から話をせがまれた少女は深く溜息を吐く。

 怒りに呑まれていた先程と違い、ある程度冷静さを取り戻した少女は、アスナとネルの二人がかなりの実力者である事に気が付いた。

 特にネルと名乗る少女は、少女の知る強者たるオルガやウテナに匹敵する、或いは状況次第では優に上回るのではないかと思う程の力を持っていた。

 

「ねぇ! あなたの名前は?」

 

「……そう言えば名乗っていませんでしたね。貴女が矢継ぎ早に話しかけてくるものだから」

 

 暗い海の様に淀み、荒れ果てた少女の心に僅かな希望が灯される。

 彼女達の様な実力者が揃っているのなら、確かにあの蒼白の鯨にも――。

 

「……夕陽イサナです。私を、イシュメールと呼んでください」

 

 夕焼け色の髪を持つ少女は、復讐心をその目に宿しながらそう言った。

 

 

 

 造船部の部室に行きながら話そう。

 オルガの提案に従い四人はオデュッセイア海洋高等学校の廊下を歩いていた。

 

「――私は一年前、中等部の三年目に他所の学校から編入してきて、そのまま捕鯨部へ入部しました。オルガさんが何処まで話したかは分かりませんが、私のイシュメールを始めとした二つ名は捕鯨部で一定の功績を上げると捕鯨部の部長である……エイハブから与えられるんです」

 

 エイハブ、その名を口にするイシュメールが僅かに目を細める。

 目の奥の暗い感情を少しでも隠そうとするように。

 

「……私達の乗る船は捕鯨部の一番船で、名をピークォド号と言います。そこらの幻想鯨程度なら危なげなく狩れる程の実力がありました。……その理由の何割かはエイハブの指揮が卓越していたからというのもあったけど、それでもスターバックや――クィークェグは私の何倍も強かった」

 

 卓越した指揮、という言葉にネルとアスナが反応したが、何も言わずにイシュメールの話の続きを聞く事にした。

 

「……一週間前、私達ピークォド号は特色の鯨の一体である蒼白の鯨と遭遇しました。船に積んだ兵器の全てを使い果たす覚悟で立ち向かい、どうにか全員が生きて逃げられましたが……そのたった一回の遭遇戦は皆に恐怖を植え付けるのに十分でした、何匹もの幻想鯨を狩ってきた船員達にです」

 

 そして、とイシュメールは続ける。

 張り裂けんばかりに握りしめられた拳を、オルガは気遣わし気に眺める。

 

「エイハブが狂い始めたのも、それからでした」

 

「……狂う、ね」

 

 穏やかではない言葉だったが、大袈裟に言っている様な雰囲気ではなかった。

 

「撤退してすぐにエイハブはピークォド号に詰め込めるだけの兵器や物資を用意しました。遭遇戦で手に入れた蒼白の鯨の体組織から生成した共鳴羅針を手に、蒼白の鯨の討伐を宣言したんです。船の上で笑いながらエイハブは言いました。あの蒼白の鯨が現れてから幻想鯨が増え始めたと。あらゆる幻想鯨の災害は蒼白の鯨に端を発するものであると。……あの鯨を狩る事でオデュッセイアを守り、家族や友は安穏と共に過ごす事が出来るだろうと……!」

 

 イシュメールは吐き捨てる様に続ける。

 

「全ての悪の根源たる蒼白の鯨を狩らんと高らかに声を上げて、恐怖を忘れた船員達と共に銛を掲げて再び蒼白の鯨へと立ち向かい、――私を残して全てが消え去りました。投げ出された海の中で必死に掴んだのは友の手ではなく冷たく結ばれた縄だけだと分かって、私は全てを失った事に気付いたんです。……エイハブは今も生きている筈、私は蒼白の鯨からアイツを引きずり出さなきゃいけないんです」

 

 イシュメールの脳裏には今もエイハブの声がこびりついている。恐れるものなど何もないとばかりに高らかに笑う姿と、暗闇を切り裂く様なガスハープーンの炎。

 そしてエイハブの扇動に従って動く船員達の声を思い出す度に、イシュメールの心の中の憎悪が育っていった。

 

「――助けたい人達がいるんだよね?」

 

 アスナの声に、イシュメールは顔を上げる。

 

「そうだな、復讐はそのピークォド号の船員を一人残らず助けた後改めて考えるべきだろ。仲の良い奴はいたのか?」

 

「……ピップは私よりも幼いのによく気が利く子で、ハープーンの手入れを何度も手伝ってくれた。スターバックはハープーンの扱いを丁寧に教えてくれて、あの教えが無かったらきっと私は海の真ん中で死んでいた。――クィークェグは、人魚になりかけた私を救ってくれた親友で。皆大切な仲間だった」

 

「あぁ、あいつらは皆良い奴だ、それに強い。あんたらなら絶対に救えるさ」

 

 復讐と救助。

 均衡していたイシュメールの天秤はアスナとネルの言葉によって救助へと傾いた。

 

「まぁ、人助けなら得意だから安心しな。なんたって先生がいるからな」

 

「そういえば、先生も指揮が得意なんだよ! ミレニアムで私達と戦った話、聞きたい?」

 

「ほぉ、あの先生の武勇伝かぁ。ぜひ聞かせてくれ! 造船部はまだ先だからな」

 

「……そうですね、聞かせて下さい」

 

 オルガの催促によってアスナの口から一つの物語が語られる。

 時々挟まるネルの補足やオルガの合いの手によってイシュメールの口元に僅かに笑みが浮かぶ。

 

 長い筈の移動時間もまた、あっという間に過ぎ去っていった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 渡り廊下の先の巨大ガレージが造船部の有する部室の一つだった。

 オルガがガレージに繋がる扉を開けると、そこには生徒会室で別れた先生達が待っていた。

 

「――イサナ」

 

 漆黒のハープーンを背負うウテナもまた、四人の事を待っていた。

 

「……生徒会長、先程は申し訳ありませんでした」

 

「構いません、貴女の焦燥も良く分かります。ですから、貴女の望み通りに救出部隊に貴女を組み込みます」

 

 微笑みながらウテナは呆然と佇むイシュメールの横を通り過ぎる。

 

「詳細は既に先生達へと伝達しています。貴女が皆を蒼白の鯨まで導きなさい」

 

 そう言ってウテナはその場を後にした。

 全員と合流したネルとアスナがC&Cのメンバーの元へ向かい、オルガはユメとホシノに話しかけに行く。

 

「よぉトキ、ちゃんと話聞いてたか?」

 

「当然です、ばっちり聞いてましたよ。簡易ではありますが目標の為に武装の調整も既に済ませました。造船部の資材は良質な物ばかりですね、少し驚きました」

 

「幻想鯨や人魚に関する詳細な情報も生徒会長から貰った。後で全員に共有しよう」

 

「ユメ、ウテナはどの船を出すって言ってた?」

 

「いっちばん凄いのにしてって言ってたよ!」

 

「虎の子を使えってさ~」

 

「ははぁ、遂にアイツを出す時が来たか。まぁ相応しいだろうけど」

 

 じわじわと、先程ハープーンを向けたウテナが自分の意見を汲み取ってくれたと理解したイシュメールの元へサオリと先生が歩み寄る。

 

「あの生徒会長から、救出任務に必要な技術を全て有する稀有な者だと紹介されたんだ。私達に同行してくれるのならとてもありがたい」

 

「“夕陽イサナ、だよね。どうか私達と一緒に助けに行ってくれないかい?”」

 

 二人の言葉にイシュメールは頷く。

 

「えぇ。私が貴方達を蒼白の鯨の元まで連れていきます。……さっきはすみませんでした、客人に見せる態度ではありませんでしたよね」

 

「“私達は気にしてないよ、大丈夫”」

 

 ほっと息を吐くイシュメール。

 皆思い思いに話していたが、ガレージの奥から少し前に見た二人の生徒が出てくる。

 ミカとレインだ。

 

「あ、オルガさん! 帰ってきてたんですか!?」

 

「さっき生徒会長がウチの最高傑作を出せって言ってたんで準備してるんですけど、……なんか聞いてます?」

 

「あぁ、お客さんに鯨獲りに行かせたいんだとさ、詳しい事は聞かないでやってくれ。んじゃ私も準備に取り掛かろうかね~」

 

「最高傑作って、もしかしてアレですか?」

 

 イシュメールはガレージに並ぶ複数の船の内、何人もの生徒がこぞって整備を行っている一際立派な船を指差す。

 イシュメールの目から見てもピークォド号と遜色ない技術の粋が集っている様に見える捕鯨船を、オルガは手を広げて全員に向かって誇らしげに言った。

 

「紹介しよう。ウチの虎の子、――オデュッセウス号だ」

 

 その船はオルガの言う通りオデュッセウスの名が刻まれ、朱色に輝いていた。

 

 




イシュメール/夕陽イサナ
・夕焼けの様なウェーブの掛かったオレンジの髪を腰辺りまで伸ばしたオデュッセイアの高等部一年生。
・捕鯨部の一番船、ピークォド号の船員でありイシュメールの名をエイハブから与えられた。
・武器は通常のハープーンとサブマシンガン。縄付きのハープーンを相手に突き刺して引き寄せる技を好んで使う。
・時折縄の様な頭飾りを触っている事がある。

真紅の鯨 大旱魃のプリドゥエン
・特色の鯨の一角。遭遇数、5回。捕鯨船破壊数、2隻。
・ストーリーで出てくる港船の名前の一つにダイオウイカがあるので多分イカ。
・プリドゥエンに破壊された船は所々風化している。

漆黒の鯨 全てを貫くナグルファル
・特色の鯨の一角。遭遇数、9回。捕鯨船破壊数、13隻。
・何回かオデュッセイアのメガフロートに突っ込んでくるが、最初の一回以降はメガフロートの分離によりほぼ被害をゼロに抑えている。
・殺意フルMAXダレンモーランみたいなイメージ。

紫紺の鯨 微睡む歌のフリングホルニ
・特色の鯨の一角。遭遇数、21回。捕鯨船破壊数0隻。
・一切本編に言及がないのでこいつだけ全部オリジナル。
・唯一この特色の鯨のみ温厚な性格であると知られている。

黄金の鯨 輝ける海嘯ノア
・特色の鯨の一角。遭遇数、1回。捕鯨船破壊数、1隻。
・ストーリーで出てくる港船の名前の一つにダイオウエイがあるので多分エイ。
・ある捕鯨船が貴金属や宝石に変質してメガフロート港へと帰還した。船員達もまた、身体の一部が変質してしまった。



蒼白の鯨 白く蝕むアルゴー
・特色の鯨の一角。遭遇数、2回。捕鯨船破壊数、1隻。
・最古の幻想鯨でありながら、最初のクロノススクールの船を除けばピークォド号が初めて相対した。そして二度目の遭遇で、ピークォド号は呑み込まれる事になる。

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