Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World!   作:Survivalist

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Reincarnation!(1) 

(これは.「ニホン」じゃない場所からの魂…!? しかも、時間軸が全然違う…一体どういうことなの!?)

 天界の執務室で、アクアは驚きと戸惑いの中にいた。いつもなら、「二ホン」からの新たな転生者の魂を迎え入れるのは日常業務でしかない。だが今回は違った。その魂が執務室に具現化する前から、尋常ではない気配が漂っていたのだ。

「ちょっと待って…これ、本当に大丈夫なの.?」

 慌てて更新されたばかりの「死者の記録」を確認する。これは転生者を迎え入れる前の、彼女にとっては当たり前のルーチンワークのはずだった。

 これまでこの場に迎え、転生者として送り出してきた者たち——「ニホン」という国からやって来る若者たちの経歴は、驚くほど似通っていた。両親のもとに生まれ、平凡な、あるいは少しドロップアウト気味な人生を送り.そして決まってトラックに跳ねられるなどの不慮の死を遂げた後、この執務室にやってくる。

 だが、これから来るという「ジェイデン」という青年はあまりにも異質だった。二ホンと同じ地球、だが「アメリカ」という別の国の人間で、しかも過去の転生者の大多数よりもはるかに時間の進んだ世界の住人.その経歴を読み進めるたびに、アクアの眉間の皺は深くなっていった。

「いつもと違いすぎるじゃない、何なのよこれー!!??」

 

 思わず絶叫して、そして大きく息をついて、ようやく落ち着いたアクアは、目の前で起きつつある何事かを受け入れようとしていた。異質な転生者──気配だけでも伝わってくるほどの──がここに来るのは偶然であるはずがない、と。女神である自分自身、あるいはこれから彼を送り込む異世界との間に、何かしらの縁が働いているとしか思えなかった。

 

(私の管轄のニホンとは「別の世界」と言ってもいいぐらいかけ離れた時間と場所からの転生者候補がここにやってくるなんて、絶対になにか理由があるはず。私か、あるいは転生先との深い何かが…)

 

 突然に執務室の空間がまばゆい光で満たされる。地上からの魂が天界の法則に従い具現化しつつある兆候だ。アクアは息を飲んだ。

 そして、次の瞬間──。

 そこに現れたのは、一目見たらわかるほどの、普通の転生者とはかけ離れた存在だった。

 全身を覆う厚みのある金属製の鎧──その白い装甲は、パラディンが纏う甲冑のようだ。しかし、ただの全身用のプレートアーマーとは明らかに違い、甲冑より二回りほども重厚なサイズはむしろ巨大なゴーレムを思い起こさせた。重厚な装甲にいかめしいデザインの顔を覆うヘルメット、印象を一言でいえば「機械の鎧」だ。そして、その機械の鎧は、今までの転生者と同じく、椅子の上に腰かけている…人間用の椅子の上で、実に窮屈そうに。

(パワードスーツ…? えっとこれ、コスプレとかじゃないわよね? 作り物の感じが全然しない。それに、こんなに汚れてるし…)

 アクアの目は、装甲のあちこちの煤や乾いた血痕、弾痕らしいへこみに釘付けになる。目の前の「機械の鎧」は、本物の戦いのための装備であることが一目で分かった。

(この人……戦いの最中に命を落とした、ってこと……?)

 死者の記録を最後まで確認する余裕はなかったが、この佇まいだけでも、彼の人生がどれほど過酷なものだったかが伝わってくる。彼の魂には、普通の転生者とは違う重みがあった。

 

 "Jayden, welcome to the Great Beyond.I’m sorry to tell you that youv’e passed on. It was a short and…tumultuous life,but it’s over now."(ジェイデンさん、ようこそ死後の世界へ。お気の毒ですがあなたは亡くなられました。短くも…波乱万丈の人生を送ってこられたようですが、あなたの生は終わりを迎えたのです)

 アクアは、天界のマニュアル通りの台詞を口にした。だが、目の前にいる「巨大な機械の鎧」を前にして、その言葉にはどこかぎこちなさが混じっていた。「地上の子」と話すときの言葉はこの空間では自動的に翻訳されるが、それでも使いなれない英語を口したためだけではない。マニュアルから少し逸脱した言葉を付け加えてしまったのは、目の前の「異質さ」に引きずられたからだろう。

 ”…Seems that way.”(そうみたいだな)

 低く静かな声が、鎧のスピーカー越しに響いた。その声には驚きや恐怖といった感情はほとんど感じられない。むしろ、冷静すぎるほど落ち着いた口調だった。

(取り乱したり呆然としてるほかの人たちと全然違う…どうして冷静でいられるのかしら)

 

「高濃度の放射能で汚染されたチェンバーの中に自分から飛び込んで生きて帰れるはずはないとわかっていた。ただ……死後の世界とやらが存在するとは驚いたな。これが、死ぬ寸前に見る幻覚でないならの話だが」

 その言葉に、アクアは思わず目を見開いた。

「自分から飛び込んで…?」

 慌てて手元の「死者の記録」に目を落とす。記録の最後のページには、彼の最期の瞬間が詳細に記されていた。

「『浄化プロジェクト』を完遂させるため、暴発寸前の浄水施設を正常に作動させるために、自ら放射能汚染されたチェンバーに飛び込み、「命の水」と引き換えに命を落とした、ですって…?」

 アクアの声は、読み進めるにつれて震え始めた。彼の最期の行動の重さが、言葉を紡ぐたびに胸に迫ってきたからだ。

「そうだ。あのときはそれしか選択肢がなかった」

 ジェイデンの声は淡々としていたが、その奥には確固たる決意の跡が感じられた。

「それで、ジェファーソン記念館に設置した浄化装置はどうなった? 正常に稼働しているのか? キャピタル・ウェイストランドに放射能汚染されていない水場を作り出すことには、成功したのか?」

 その言葉に、アクアは一瞬言葉を失った。彼が命を懸けて成し遂げようとした「浄化プロジェクト」の意味を、そして彼が生きていた世界の過酷さを初めて理解し始めたからだ。

「放射能」という呪いに覆われた荒れ果てた大地。そこに蠢く無法者やミュータント。危険に満ちた環境におびえ、苦しみながら生き延びようとする人々の姿が、記録を通じてアクアの頭に浮かぶ。

 彼の「死」は、その過酷な世界の中で、誰かの希望を繋ぐための犠牲だったのだ。

 そして、その瞬間、アクアは気づいた。彼が水の女神である、自分の前に現れた理由を。

 

 アクアは目を閉じ、消えかけている「イレギュラー」なつながりを頼りに、キャピタル・ウェイストランドへと意識を向けた。「機縁」が完全に消滅する寸前、ようやくジェイデンの「元の世界」の光景が、薄い霧を通すように浮かび上がってくる。

「あそこがポトマック川でその河口近くの…あの建物がジェファーソン記念館ね」

 荒廃した川辺にそびえる、その大きな施設。彼女の目には、どこか神殿めいた神々しさをも感じさせる。実際に周囲には、白衣の学者たち──見たところ、研究者か医療関係者のような人々──が忙しなく行き来していた。さらに、ジェイデンが着ていたのと同系統の「機械の鎧」を纏った集団が警護に当たっている。彼らはいかにも訓練された騎士団めいた統率ぶりで、施設を守るかのように配置されていた。

「ほかの場所の水は…何か恐ろしい“呪い”──“放射線”で汚されているわ。でも……ここの装置の周りだけは!」

 アクアの声が弾む。見る間に、水が浄化されたかのように澄んだ色を帯びていく──女神として「命の水」の誕生を感じ取る瞬間だった。

「汚染されていない…すごいわ、ジェイデン。あなた、本当に尊いことを成し遂げたのね!」

 荒廃しきった世界を潤すための「命の水」。それが生み出される光景に、水の神性を持つ女神であるアクアの胸には温かな感動が広がった。

 だが、その感動は長く続かなかった。嘆きと悲しみに満ちた波動を感じ取り、アクアはそちらに意識を向ける。

 浮かんできたのは、目の前のジェイデンのものと同じ「白い機械の鎧」が地面に力なく横たわる光景。その傍らに立ち尽くす人々の顔はひどく沈んでいた。さっきまで見ていた浄水設備周辺の活気とは打って変わり、その場には悲痛な空気が漂っている。

 「あなたのお友達…なのね」

 アクアの声が震える。彼女には、その場に集う人々の心が痛いほど伝わった。うなだれる機械の鎧の騎士たちや白衣の研究員らしき者たち──そして、緑色の肌を持つ巨人。彼は一見するとオークやオーガのようにも見えるが、その目には穏やかな光が宿り、同時に深い悲しみの色を浮かべている。

「…みんな、あんなに悲しそうに」

 痛ましさに耐えきれず、アクアは思わず目を伏せる。女神である彼女ですら、まざまざと映し出されるこの喪失の情景には息を呑むしかなかった。この光景だけで、目の前の魂——ジェイデンが地上で何を成し遂げ、そして残された者たちが彼をどれほど深く悼んでいるかが、アクアには痛いほど伝わってきた。

(こんなにも多くの人に、慕われていたのね……)

 アクアは目を閉じ、わずかながら震える息を整えようとする。

 しかし胸の奥には、複雑な感情がせめぎ合っていた。哀しみと敬意──そして“水の女神”としての使命感。どれもが渦巻き、アクアを突き動かす。

「…あなたの地上での善行は、多くの人々を潤す大いなる実りをもたらしました。水の女神として、あなたに心からの感謝と、敬意を表します」

 彼女を知る者からしたら「別女神」と疑われかねないような「女神らしい威厳を持った」態度で、アクアは「機械の鎧」の中の魂に語りかけた。

 

「そうか、上手くいったのか…」

 機械の鎧の中から、ジェイデンは静かに呟いた。その声には、達成感と安堵がにじんでいる。しかし、自らの死を惜しむ未練のようなものは微塵も感じられなかった。目の前の魂の強さ──その揺るがぬ意志に、アクアは改めて胸を打たれる。

 けれど、その一方でどうしても気になることがあった。

「その…ちょっと話しづらいから、その鎧、脱いでもらってもいいかしら?」

 白い機械の鎧──資料によれば「冬用T-51bパワーアーマー」というらしい──越しに話をするのは、アクアとしてはどうにも落ち着かない。重厚なパワードスーツめいたものに語り掛けるのに、どうしても違和感を感じるのだ。

「気が回らなくて悪かった…ちょっと待ってくれよ」

 ジェイデンは少し気まずそうに言うと、ゆっくりと立ち上がった。鎧の重さに耐えかねて壊れかけていた椅子がギシリと悲鳴を上げる。そして、独特の電子音とともに、背面側の装甲が展開された。

(この中に…どんな人が入ってるのかしら?)

 アクアは思わず息を呑んで見つめる。まず視界に飛び込んできたのは、青いジャンプスーツの背に大きく描かれた「101」の黄色いロゴ。

 そして、そこから降り立ったのは──

 二十歳前後の青年だった。小柄というほどではないが、突出して大柄でもない。金髪に穏やかながら奥深い光を湛えた青い瞳は、一見するとごく普通の青年のものにも見える。だが、その佇まいはどこか人を惹きつける不思議な魅力を放っていた。

 もし「ニホン」に住む人が見れば、「典型的なアメリカ人青年」だと評しそうな風貌。でも、アクアにはすぐわかった。彼が単なる“普通の人”ではないことを。

 これが──「Lone Wanderer」あるいは「101のアイツ」と呼ばれる男、ジェイデンだったのだ。

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