Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World!   作:Survivalist

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元の世界ではなかった種類のトラブルに巻き込まれる模様


Big Trouble from a Not-So-Little Lady(2)

 翌朝、ジェイデンは宿の一室でぐっすりと眠り、心地よく目を覚ました。冒険に出たわけでもないのに、異世界で迎えた最初の一日は彼にとって十分に刺激的だったと、昨日の出来事を思い返していた。

 ただ、もえもえに聞かされた話では、定期的に宿代を稼げるか、あるいは自宅を手に入れられる冒険者はごく一握り。宿代を出し合って大部屋で雑魚寝はまだマシなほうで、稼ぎの少ない駆け出しなどは馬小屋暮らしも珍しくないという。冒険者の身分はとても不安定だと思い返しながら、「被験者」になるために、ジェイデンは身支度を整えて出発した。

 

 そして、約束の時間より少し早めにギルドの集会場へ足を踏み入れようとすると、その外にはすでに野次馬の人垣ができていた。彼らの半分はハプニングを期待するような目で、あとの半分は憐れむような眼でジェイデンの姿を見ると、彼に道を開ける。

 

 集会所の中に入ると、一番大きな机の前でもえもえが忙しそうに、様々な毒物を並べて準備をしていた。色も量もさまざまな、ポーションあるいは試薬の入ったビン、鉱物の粉、各種の毒草、有毒モンスターの一部…ポイズンスライムの粘液、ジャイアントスコーピオンの尻尾など、考えつく限りの毒物を準備し終えたもえもえが、ジェイデンに気づいて駆け寄ってきた。

 

「ありがとう!本当に来てくれたんだね、じゃあ、あそこの長いソファーに座ってね。気分が悪くなったらすぐ横になれるから」

 

(一回横になったらもう二度と起き上がれない予感しかしないんだが)

 

「本当に来てしまったんですね。いったい何を考えているんですか…」

 

 嫌な予感をひしひしと感じながらソファに腰かけたジェイデンに、受付のルナが、呆れたような調子で声をかける。その横の別のギルド職員たちも、なんて不憫な、と言いたそうな目で彼を見ていた。

 

 周囲には、実験の見学や助手を申し出たメイジやヒーラーたちの姿もあったが、

 

「これは興味深いデータが取れそうですね」

「死なない程度に様子を見させていただきましょう」

 

 などと、彼らの口調はまるで好奇心丸出しの野次馬そのもの。研究者としてのモラルや見識には、あまり期待できそうにない。

 

 そんな中で、エリス教のシスターは、厳しい表情でもえもえにクギを刺していた。

 

「万が一のことがあってはいけません!もし私が危険だと判断した場合は、即座に《キュアポイズン》を唱えますからね!」

 

 アクシズ教のシスターが、ジェイデンのほうに駆け寄ってきた。お祈りか何かと思って彼が顔を向けるなり勧誘を始めるシスター。

 

「水の女神アクア様のご加護を受ければ万に一つのこともありません! さあ、こちらの入信申込書にサインを! 死後の全所持品はアクシズ教に――」

 

 次の瞬間に、アクシズ教のシスターはギルド職員に腕を引っ張られ、つまみ出されていった。唖然として見送るジェイデンだったが、すぐに(あの軽薄な女神の信徒だったら、こんなもんか)と、妙に納得していた。

 

 そんな中で、もえもえは各種の毒物を錬金台で混ぜ合わせていた。乳鉢ですりつぶし、フラスコの中の試薬を手から噴き出る小さな炎であぶり、次に魔法の冷気で急速に冷やしたりして調合している。錬金術師というよりまるで生きた科学実験装置だ、と、手伝いに立ってるはずのほかの術者を置いてけぼりにして、正確かつ素早い手際で調合を続けるもえもえの動きに目を見張るジェイデン。

 

 やがて、成し遂げたような表情で、見たこともないような毒々しい色のポーションを満面の笑みでジェイデンに差し出してくる。

 

「できた!まずはこれを一口ずつゆっくり飲んでね!このひとビンで半数致死量だからいきなり全部はダメだよ」

 

「ホワイトホースネトルにヒ素がベースとは、かなり刺激的なカクテルだな…」

 

 Scienceの知識の豊富なジェイデンは、いくつかの材料を見ただけですでに引いていた。

 

「あら!ジェイデンも錬金術に詳しいの?!大丈夫だって、Pip-boyのステータスを見ながら、無理しないようにするから!」

 

 言うなり、Pip-boyを自分で操作してモニタリングを始めるもえもえ。いつの間にか使い方を学んでいたらしい。

 

「ささ、まずは一口、ぐいっと!」

 

 煽ってくるもえもえに言われて、仕方なく一口だけ飲むが、

 

(RAD汚染されたトイレの水よりもやばい味がするぞ...)

 

 ジェイデンが考え付く限り一番まずい水すら上回る味わいなうえに、体力が削られていくのが実感できる。

 

「HPのゲージがほんの少ししか減ってない!私の計算だと一口でも目に見えて減ると思っていたのに…」

 

 記録をつけるためにペンを走らせているもえもえが文字通り目を輝かせる、毒が行き渡り、ゲージが減らなくなったのでいやいや、次の一口を飲み込むジェイデン、しばらく置いて、また一口。時間をかけてゆっくり飲み下していくが、

 

「全部飲んで残り生命力が80%!私が見込んだ通りの生命力だわ!!おかわりを作ってくるね!半数致死量の倍で!」

 

 すぐに毒物が並ぶ机の上から両手いっぱいの材料を抱えもって、錬金台に走っていくもえもえ。半数致死量の毒物を飲まされて薬のまずさに顔をしかめてる以外、実害がなさそうなジェイデンの姿に、周囲はむしろ引いていた。

 

「実験のクエストって、普通はもえもえさんに限らず、引き受けた人が入院するか、最悪の場合…」

 

 ギルド職員の一人が冷や汗をかきながら呟くと、隣にいたルナが大きく頷いた。

 「そうよね…もえもえさんの場合は、実験の最初の一口で顔どころが全身が緑色になって治すのに1週間かかった人もいて…。だから次は公開実験で、ということになったはずですけれど…」

 

 二人の視線の先では、顔をしかめながらもポーションを飲み干したジェイデンが、ソファーに座ったまま、うんざりした顔でおかわりが来るのを待っていた。

 

 実験に協力という形で立会い、もえもえが一人で突っ走るので、ただの野次馬になっているメイジたちの間ではちょっとした騒ぎになっていて、何人かが驚愕の表情で声を上げていた。  

 

「おい、あれだけの毒物を飲まされてケロッとしてる被験者なんて見たことないぞ…!」

 

「今日はもっと面白いものが見られると思っていたのに…」

 

「もえもえさんの方も実験というより、確殺のための調合をしてるようにしか見えないぞ…」

 

 

「なあ…あいつ、ホントに人間なのか? 魔王軍の幹部とかじゃないよな?」

 

「俺は調合してる毒、すこし匂い嗅いだけで倒れそうだけどな…」

 

 野次馬の冒険者たちは、身の危険を感じてか、一歩引いた場所からひそひそと観察している。

 

 そんな中、エリス教のシスターが険しい表情で祈る姿勢のままで呟いた。

 

「エリス様のご加護かどうかは分かりませんが…少し引くレベルですね、これは…」

 

 その隣では、いつの間にか戻ってきていたアクシズ教のシスターが、舌打ちをしながらジェイデンを睨んでいた。

 

「ちッ、あいつからは剥ぎ取りはできなさそうねっ!」

 

 シスターがそう吐き捨てた瞬間、ギルドスタッフに腕を掴まれ、再びつまみ出されていった。

 

 その間にもえもえは、様々な天然の毒物に加えて、協力者から提供されていた、いかにも毒々しい色合いのポーションを一つ一つ、ほんの一滴なめてみては頷いてから、それらも混ぜ合わせていく。

 

(あれで貰い物の毒物の成分がわかるのか…?)

 

 ジェイデンがもえもえのさらなる能力に驚きながら見ているうちに、先程よりもどす黒い色合いで、少し離れたところから匂いを嗅いだだけで気分が悪くなりそうな化合物が出来上がり、それが入ったフラスコを満面の笑みで差し出すもえもえと、黙って受け取って、一口だけ口にいれるジェイデン。

 

(今度のときたら、ラッドローチの肉がごちそうに思えるほどの出来栄えだな)

 

 「半数致死量の倍」というのは伊達ではないようだ。だが、意外なことに一口飲む事の、生命力が減っていくペースは先程までとあまり変わらなかった。

 

「もしかして、もう毒に対する耐性がついてきてるの?すごい!この一本は自信作だったのに!ジェイデンってホント面白いよね!」

 

「適応力がなくちゃ、生き残れなかったからな…」

 

 無邪気な笑みを浮かべながら、大はしゃぎして完全に殺しに来てる濃度の毒を飲ませるもえもえと、流石に目に見えて顔色を悪くしながらも、それを黙々と、一口ずつゆっくり飲み下していくジェイデン。監視しているはずのルナを始めとするギルドスタッフも、エリス教のシスターも、今や唖然として見守るばかりで、二人を止めようともしなかった。

 

「全部飲んだぞ…まだ生きているが」

 

 半数致死量を遥かに上回る毒物を飲み干したジェイデンの顔は、土気色を通り越してゾンビ色みたいになっているが、目の光は失われていなかった。

 

「今のジェイデンの体の中にはありとあらゆる種類の毒物が入っているはず、それで生命力が6割残っているなんて、信じられない耐久力だわ!治験を行えば今からでも、十分なデーターが取れると思う!」

 

 成り行きを呆然としながら見守っていた他の術者たちが、我に返って、今度は解毒剤らしいポーションを各々で作り始める。ようやく実験は次の段階に進みつつあるようだが、もえもえは、チラチラと、まだ使っていない、生のスライムの一部や、ジャイアントスコルピオンの毒腺らしいものに目をやっている。

 

(今の時点で治験を始めてもいいようだが...もう少し付き合ってやるか)

 

「まだ、試したい毒物が残っているんじゃないのか?」

 

 ジェイデンの言葉に、もえもえの表情がぱっと明るくなる。

 

「体力に余裕がないからここからはギリギリの実験になるけど、生の毒物を取り込んだ状態での治験なら確実に、「万能の解毒剤」が出来上がるわ!まずは、このポイズンスライムからいくわね!」

 

 もえもえに言われてジャンプスーツの布地をめくって、左腕の一部を露出させるジェイデン。もえもえが、シャーレから蛍光色のゼリー状の原生動物のようなものをピンセットで摘みあげて、ジェイデンの肌の上に貼り付ける。口から毒を取り込んだわけでもないのに、ジェイデンはいきなり気分が悪くなり、さらに腕には強い痺れを感じた。STATS画面では左腕に「CRIPPLED(重傷)」の表示が出ている。

 

「気分が悪くなるだけでなく、ひと欠片が触れただけで、いきなり左腕がマヒしたぞ。そういう毒性のモンスターの一部らしいな…」

 

「うん、さすがはポイズンスライムね!最後はここにある毒物の中で総合的に、一番のコレを!」

 

 もえもえが取り上げたのは、サソリのしっぽの先端のような、鋭いトゲが生えた節足動物の体の一部、しかも彼女が両手で抱え持つほどの巨大なそれだった。

 

「…ラッドスコルピオンの毒腺、か?いや、ラッドスコルピオンがこの世界にいるはずがないが…まさか、強力な麻痺毒とかじゃないよな」

 

「ジャイアントスコルピオンの近縁種を知ってるのかな?まさにこれは、一刺しで手足がほとんど動かなくなる最強の麻痺毒よ!今日の締めくくりにはふさわしいわ!!」

 

 今度はジェイデンの右腕の一部を露出させて、容赦なくジャイアントスコルピオンの尻尾のトゲを突き刺すと、注射するように、毒腺の中身を注ぎ込んでいくもえもえ。

 

(ダーツ・ガンで撃たれた相手はこんな気分だったのか…手足どころか全身が痺れる…)

 

 ラッドスコルピオン毒を利用した、組み立て武器の一つを思い出しながら、毒を注入されるたびに加速度的に気分が悪くなり、そして手足が重くなるのを感じるジェイデン。残った手足全てがCRIPPLED(重傷)となり、頭部が重傷になったわけでもないのに、視界が霞んでくる。そして、残りの生命力を確認しようと、もえもえがPip-boyをのぞき込むと、

 

「あらっ、残り40%位から解毒剤の実験に移行しようと思ってたけど、ジェイデンが元気そうだったから間違えて20%近くまで減っちゃってる…てへっ☆」

 

「てへっ☆、じゃないですよ!早く《キュア・ポイズン》を…!」

 

「実験の失敗どころかジェイデンさんが危ないです!早く中止を…!」

 

 慌てて治癒の術を使おうとするエリス教のシスターと、もえもえに飛びかかって羽交い絞めにしようとしているルナを、ジェイデンは痺れる手をどうにか持ち上げて押しとどめ、少々ろれつが回らないながらもはっきりと告げた。

 

「手足は…痺れるが物ははっきり見えてるし意識も…この通り何とか持っているぞ」

 

(ほんとに生きてるのか?ゾンビかグールになりかけてるんじゃねえのかあれ?!)

 

 野次馬冒険者たちのひそひそ話、というよりうめき声のような感想を背にもえもえは宣言した。

 

「さすがにここが限界ね!でも、生の毒を含めてあらゆる種類の毒を取り込んでくれたから治験の条件としては完璧だわ!すぐに楽にしてあげるから、もう少し待っていて!」

 

(その言い方だと毒のほうのおかわりが来そうだ…)

 

 

 

 助手役の術者たちが、フェラル化寸前のグールのような不気味なうめき声をあげ始めたジェイデンに、試作した薬のフラスコを差し出して、順番に飲ませていくが、

 

「効いているのか効いていないのかわからないぞ…」

「余計に吐き気がひどくなったかもしれん…」

「手足のしびれがましになったか?代わりに視界がかなり暗くなった…」

 

 どれもこれも微妙な効果で、それでも飲んだ薬の種類とジェイデンのコメントを記録していくもえもえ。そして、最後にもえもえが即興で調合した「試作品」を飲み下すと、全身に痺れとは違う強い感覚が駆け抜けていった。

 

(やっぱり毒か!?いや、急に痺れが引いてきたし、視界もはっきりしてきたぞ…)

 

 いつの間にか、呼吸も落ち着くようになってきた。顔色が急にいいほうに代わったのに目を見開くエリス教のシスターと、急展開すぎる成り行きに対応しきれないルナをはじめとするギルド職員をよそに、もえもえは衆目も気にせずにジェイデンに駆け寄ると正面から抱き着いた。

 

「実験は大成功だね!顔色を見たらよく効いてるのがわかるよ、あの状態のジェイデンに効くお薬じゃないと万能に近い解毒剤、なんて言えないから!これだけ完成度の高いお薬が出来たのもあなたのおかげよ、ありがとう!!」

 

「役に立てて何よりだが、人前であまりくっつかないでくれ」

 

 すっかり痺れの引いた手で、やんわりともえもえの体を引きはがすジェイデン。心なしか野次馬冒険者の視線が生暖かくなったような気がしてきた。

 

「あんだけ毒盛っておいて、最後は抱きついてお終いって…どういう流れだよ…」

「ああいうドSっぽい女の子に振り回されるのが好みの奴もいるんだな…」

「ちっ、生き残っていやがったか」

 

 ほとんどの冒険者はもえもえの錬金術師としての腕前に感心するよりも、その無軌道ぶりにあきれていたが、ジェイデンのことを割と残念な人とみなす冒険者も増えつつあった。そして、剥ぎ取りをあきらめていなかったアクシズ教のシスターをつまみ出してから、ギルドの中年男性は「今日の実験結果の報告と、解毒剤の試作品を早いうちに提出してください、技術顧問採用を決める資料にさせていただきます」と渋々ながら告げていた。

 

「立って歩けますか?呼吸は…安定してますね、顔色も…本当に大丈夫ですか?」

 

 今まで出番のなかったエリス教のシスターが、生命力をほとんど失ったジェイデンに応急処置のように「ヒール」をかけてから心配そうに体調を確認して、そして回復の速さにむしろあきれたような表情を見せていた。彼を観察していたほかの術者からは、

 

「あなたの生命力は普通の人間の上限を超えてますね。魔物のレベルです。今日の実験は参考にできるかどうか…」

「あそこまで毒を盛られて、よくこんなにすぐに動けますね…。私の知識じゃ説明がつきません」

 

 と、むしろジェイデンをまともな人間と見ていない声も聞かれたが、当の本人の認識もそれに近いので、そう言われても苦笑するほかなかった。

 

 

「俺の知ってる薬よりもよく効く気がするな、これが魔法世界のポーションか、回復したところで今日も共同浴場に行きたいが」

 

 もえもえから体力回復用のポーションを渡され、それを飲み下して、効き目がスティムパック一本よりも多い、と感じたジェイデンは言うが、もえもえはそれを押しとどめた。

 

「ダメだよ!念のために明日の朝までは安静にしていないと。経過観察も兼ねて今日は私の家で泊まって!」

 

「昨日泊ったのと同じ宿屋で寝させてもらうよ。第一、会ったばかりの男を自分の家で泊めるとか不用心だろう」

 

「被験者さんは最後まで面倒見なきゃなの!来て!!」

 

 ジェイデンのジャンプスーツの袖を引っ張っているもえもえの周囲では、ギルド職員やほかの術者の手で、実験の後片付けが始まっていた。ジェイデンはもえもえを、後片付けやらギルドへの報告もあるだろうと押しとどめ、ふくれっ面の彼女にも後片付けを手伝わさせたが、もう少し経過観察をしたほうがいい、というルナの助言に従ってその場でしばらく休むことにした。

 

 ソファに退屈そうに腰かけているジェイデンに、ルナが申し訳なさそうな様子で、声をかけてきた。

 

「昨日、もえもえさんのお店に行ってみようとあなたが言っていたときに、被験者にされるかもしれない、と注意しようと思っていたんです。営業妨害になりそうで言わなかったんですが、今日はこんなことになってしまって…本当に大丈夫でしたか?」

 

「気にしないでくれ。まあ、俺以外の奴にやらせてたら確実に助からない内容だったな」

 

 ジェイデンの皮肉っぽい言葉に、深いため息をつくルナ。

 

「もえもえさんの魔術師としての能力は、錬金術専門の紅魔族の方だけあって大変優れていると思います。ですが、あまりにも危険な実験への自制心が少なくて…技術顧問候補の話も、ギルドの目の届かないところでの実験を食い止めるための方便だったんですが、もえもえさんは成果を出すために実験の回数を増やして逆効果になってしまって…ジェイデンさん、これからも、もえもえさんが暴走しないように見ていてもらえますか?」

 

 そう言って、かなり分厚い金一封を差し出してくるルナを、ジェイデンは真顔で押しとどめた。

 

「人体実験で大変な目に逢うのには懲りてるんだ、他をあたってくれ」

 

「あらー?いつの間にルナさんとそんなに仲良くなってるのかな?ねぇ、後片付けも終わったから、経過観察のために、私のお家で泊まっていって!」

 

 微妙に不機嫌そうなもえもえがジェイデンのそばに戻ってきて袖を引っ張っていく。困惑するジェイデンに向かって、満面の笑みを浮かべながら金一封を置いて、去っていくルナ。やられた、と思いつつも、

 

(この手の女との腐れ縁は、この世界でも一緒なのか…)

 

 納得とあきらめが同居する表情で、熱心に自分の袖を引っ張るもえもえを見つめながら内心で苦笑していた。

 

 

 なおもジェイデンを、自分の家に引っ張っていこうとするもえもえを、歩いていくよりも、ギルド近くの宿屋で早めに休みたいからとどうにか一人で送り返して、部屋に戻ってくつろいでいるジェイデンのところに、果物とチーズ、そしてポーションの入った瓶で山盛りになっているバスケットを抱えて、もえもえがやってきた。

 

「何というか、俺が入院すると思ってフルーツとチーズを買い集めてたように見えるな」

 

「毒で内臓が弱っていてもこれなら食べられると思って…今の気分はどう?」

 

 もえもえが差し出した今朝、川から採れたばかりのバナナを、たちまちのうちに一房食いつくすジェイデン。バスケットから逃げ出そうとするリンゴやミカン、その他の果物も素早く捕まえては口に放り込んでいく。すでに元気いっぱいな様子の彼をもえもえは微笑ましげに見守っている。

 

「もっとたくさん持ってきたらよかった。回復力もすごいし、それと、実験の最中に毒に対する耐性ができてきた感じだったんだけど、変わったことは、ない?」

 

 チーズを切り分けて皿に並べて差し出してから、もえもえは聞いてみる。そういえばステータス画面を詳しく見ていなかったと、Pip-Boyを操作したジェイデンは、「Scorpion Blood」という新しいPerkが追加されたのに気づいた。「サソリ男」のような姿のVault-boyのイラストの下の説明はこうだった。

 

「危険な毒実験の結果、あなたの血液はサソリの毒に適応しました。+50%の毒耐性に加え、毒によるデバフを受けなくなります」

 

「Poison Resistは今までは意識しなかったが、こういう強化方法もあるんだな」

 

「えっ、今日一日だけで、こんなに強い毒耐性が付いたんだ!ね、もっと試したい毒物がいくらでもあるからまた実験しようよ!そうしたらもっと、ジェイデンは強くなれるよ!」

 

「しばらくは勘弁してくれ、調子に乗っていたらすぐにくたばりそうだ…果物もこいつも、うまかった」

 

 もえもえが切ってくれたチーズも、たちまちのうちにすべて胃袋に収めてしまってからジェイデンは言った。

 

「すごい食欲ねえ。もっともっと食べさせてあげたいけど、今日はこのぐらいにしておいたほうがいいかな。追加の報酬は、これが売れた後でもいいかな?」

 

 もえもえは、小さな陶器製の丸フラスコに収まった「ウルトラ・アンチベノム」をいくつかジェイデンに差し出した。今日の成果の「万能に近い解毒剤」だ。

 

「こいつは直接売るだけでなく製法の特許を取ればかなりの稼ぎになるだろうな。とりあえずもらっておこう。あとの報酬は儲けが固まってからでいい」

 

「ありがとう!とりあえずは、私のお店で扱ってるものはずっと、お友達価格でいいから!武器が欲しかったら、今度来てくれたら、あげるね!今からでもいいけど…」

 

「…やたらと俺と一緒に泊まりたがるのは、どういうわけだ?」

 

「あれだけの毒物を飲んだ後だからもっと経過を見ておきたいの! 何かあったらすぐに看病もできるし!」

 

「今見てもらった通りに俺はピンピンしてるぞ。それよりも、女の一人暮らしの家に、この時間に呼ばれても困る」

 

「…私、そんなに魅力ないかな」

 

 小首をかしげて、上目遣いで丸メガネの奥の大きな瞳を潤ませて見つめてくるもえもえ。 

 

(力技の誘いの次は、色仕掛けか何かのつもりか…?)

 

「自分をモルモット扱いした女を男がどう見るか考えてみろ。万が一手を出したらどこまで付き合わされるか、としか思えないぞ」

 

「…最後の一線は、譲ってくれないんだね」

 

 思わせぶりな表情を崩して苦笑いするもえもえ。やはりな、と内心思いながらジェイデンは付け加える。

 

「まあ、かわいらしいとは思うが」

 

「…そろそろ帰ろうかな。ジェイデンのこと、というより、ジェイデンの言っている「科学」についていっぱい、聞きたいことがあるけど」

 

 照れ隠しなのか、珍しくうつむいているもえもえ。

 

「ああ、さすがに俺もそろそろ寝たほうがいいからな、もえもえは、これから、忙しくなるだろ」

 

 部屋の外までもえもえを見送りながら、声をかけるジェイデン。

 

「確かに!ギルドの技術顧問の話も大きく進められると思うし!ありがとうね、ジェイデン!明日、クエストを受ける前にお店に来てくれたら、うれしいな!」

 

(…そうだな、あとの準備はこの世界の武器を一つ手に入れるぐらいにして、そろそろ冒険に出てみるか)

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