Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World! 作:Survivalist
さあ、どうなるでしょう(棒読み)
(逃げ道はない、ここで本当に終わりかも知れない…)
洞窟の出口側を埋め尽くすゴブリンの群れに対して、表情を引きつらせながら剣を構えているダストの横で、盾を掲げながら背後を確認するテイラー。洞窟の奥の側は、パーティから一定の距離を保ちながら、怯える「獲物」を嘲笑うかのように悠然と歩む初心者殺しの巨体が逃げ道を塞いでいる。完全な挟み撃ちで、そもそもが、テイラーのパーティにとって「初心者殺し」は、逃げるか、隠れるかしか出来ない相手だ。
(初心者殺しはただゴブリンの周りをうろついたり、狩場を変えるために時々、追い散らすだけのものと思っていたがこれほど巧みに連携を取って来るとは…予兆を見逃したのが命取りだった)
すでに犠牲になった冒険者が存在していた証拠を軽く見るべきではなかった。しかも「新人」であるジェイデンをエスコートしている場面での失敗だ。取り返しのつかないことになったと後悔するのを止めて、生き残る道が残っていないか、頭を巡らせるテイラー。
(…結局、こいつを頼りにする他ないのか?)
後衛にいたはずが、初心者殺しに最も襲われやすい場所に立たされ、それでも震える手で弓を構えるキースと、顔色を青ざめさせるばかりで、ほとんど動けなくなったリーン。どちらを狩るべきか、品定めをするように首を動かす初心者殺しの間に、表情を変えずに立ち尽くすジェイデン。武器は右手にはめた「スチールナックル」のままだが、初心者殺しは面倒な獲物が来たと言いたそうに鼻を鳴らした。テイラーは強力な武器も持たずに初心者殺しの前に立つジェイデンに、奇妙な安心感を覚え始める。
(奴の目線はキースとリーンを行き来している。どちらかに飛びかかるつもりだな…銃に持ち替える時間もなさそうだが、スチールナックルだけで、やれるか…?)
ジェイデンの見ている前で、漆黒の巨体が地を蹴って飛ぶ。
V.A.T.S.起動。時間の止まった世界の中で、赤表示の《
「グオアアアアア!」
「リーン!?」
「ひいいいっ…!」
洞窟全体を震わせる咆哮とともに一瞬でリーンに覆いかぶさる黒い影。振り返ったダストの絶叫、リーンの絞り出すような悲鳴、通路を塞ぐゴブリンたちの歓声。だが、黒い巨大な影は、割り込んできた青い影に重く、鈍い音とともに突き飛ばされ、洞窟の壁に叩きつけられると、そのまま地響きを立てて、力なく横倒しになる。
地面に座り込んで震えるリーンの眼の前で、ジェイデンが、拳ではなく掌底を振り抜いた姿勢で立っていた。すぐにジェイデンは、横倒しになってしまった初心者殺しを追い込んで、突きや蹴りを容赦なく叩き込んでいく。鈍く、重い打撃音、そして、初心者殺しの小さな悲鳴が洞窟の中を繰り返し木霊する。その光景に、テイラーたちから距離をおいて、人間たちを煽るように、あるいは初心者殺しを応援するかのように声を上げていたゴブリンたちが一瞬で静かになる。
(Paralyzing Palmはこの世界の連中にも有効か。こいつを手懐けるのは…無理だな、もう人を殺しすぎている)
Perk。戦いも含めたあらゆる経験により身に着いた特別な技術…あるいは、魔法が失われた荒野の世界に最後に残された「奇跡を引き起こす力」。その一つを発動させ、別なPerkは発動させるのを諦めたジェイデンは、滑らかな手つきで懐から奇妙な物を取り出す。テイラーにとっては、それは、「魔道具のようななにか」に見えた
(杖ではない…クロスボウのようなグリップが付いている…何なんだ?)
(俺一人ならともかく他のやつに飛びかかられるわけには行かない。…《パワーショット》《クリティカルショット》…なけなしのマジカも全部持っていきな)
この世界に来て初めて取り出した銃…44マグナムリボルバーのユニーク品「ブラックホーク」の弾丸にこの世界の《スキル》を込めて、ためらいもなくトリガーを絞る。轟音、閃光、大口径の弾丸は《初心者殺し》の頭部に吸い込まれ、反対側から頭部の中身を大量に引き連れて飛び出る。
ジェイデンにしか感じ取れない、聞き慣れたチャイムの音と、そこそこの経験値が飛び込む表示。無事、仕留めきれたようだ。
「魔道具…攻撃魔法…どっちにしても、見たことも聞いたこともない」
リーンは、座り込んだまま、半ば呆然と、ブラックホークをゆっくりと懐にしまい直すジェイデンを見つめていた。
「ははは…初心者殺しを一方的にボコれるやつに殴られてたのかよ...俺」
初心者殺しに立ち向かおうと、何故か転がっていた槍に手を伸ばす寸前だったダストは、味方のはずのジェイデンが、スチールナックルを装備し直しながら彼のすぐ横を通り過ぎて行くのを見ながら、膝を震えさせはじめた。
「あれは、クロスボウみたいだが別ななにかの魔道具なのか?」「後で説明する」
キースは、自然に道を開けた…というより避けてしまった相手に声を掛けるが、ジェイデンは短く答えるのみ。
「残りも、俺が片付ける」「…ああ」
疑問や、反論を口にする気もなく、通り過ぎるジェイデンを見送るテイラー。
「…ギエエエエエエエ!」
「ビイイイイイイイイ!」
初心者殺しが解体されるのを呆然と見守っていたゴブリンたちは、無表情のまま、スチールナックルを装備した拳を構えるジェイデンに眼の前に立たれた時点で、全員がパニックに陥り、我先に、洞窟の壁や仲間にぶつかりながら、一目散に洞窟の出口に向かって逃げ出していった。
ゴブリンたちを追いかけて走っていったジェイデンが、ゴブリンに追いつき、追い抜くついでのようにスチールナックルで軽く撫でる作業を繰り返し、Pip-boyのマップ画面に「初心者殺しのトンネル(クリア)」の表示が出るのには、それから5分もかからなかった。
「終わったぞ」
ゴブリンの残骸から、洞窟の罠に引っかかった冒険者の遺品を探りつつ、ジェイデンが初心者殺しのねぐらだった洞窟最深部の広い空間に戻ると、そこではテイラーたちが、黙々とねぐらの探索、あるいは遺品の回収作業を行っていた。
「すまないな、俺がやろうと思っていたんだが」
「何となくそうしないといけない気がしてな…思っていたよりも犠牲者は多かったようだ」
戻ってきて声をかけてきたジェイデンに、目を伏せて、テイラーは懐から「死亡」の表示の出ている十数枚の冒険者カードを取り出す。ホロタグのようなものと思って、ジェイデンがゴブリンの残骸から見つけて回収した分と合わせると、その数は30を超えていた。
(定期的に向こうから飯がやってくるから、初心者殺しもゴブリンも、狩り場や住処を変える必要がなくなったということらしいな)
「こいつは…俺が飲み代を貸してやってから見かけなくなったやつだ…」
「あんたのほうが飲み代をたかっていた人じゃないの。確かに、最近見かけないと思っていたけど」
初心者殺しとゴブリンの例外的な共存の理由を考えながら、一枚の冒険者カードを見つめながらの、ダストとリーンの会話が引っかかるジェイデン。
「そいつを最後に見かけたのは、いつ頃だ?」
「3か月前ぐらいだったかしら…アクセルの冒険者は、人の出入りが多いからよくわからないけど」
冒険者カードの記録を確認すると、死亡した時期はその前後だった。ほかの回収した冒険者カードを調べると、半年ほど前から死亡者が出ていたようだ。
(半年にわたって、アクセルの街の冒険者の中で散発的に行方不明者が出ていたことになるが、そもそも不安定な身分で人の出入りも激しいのが冒険者だ。ギルドもそれほど冒険者をきっちり管理しているわけでもなさそうだしな)
リーンの回答にジェイデンは、アクセルの街の冒険者が何人か「消えて」も、気づかれないことは不自然ではないかもな、と目を伏せる。
「ゴブリン退治が長引くことはあるのか?俺が倒した感触ではなさそうだが…」
「ゴブリン単体なら一番美味しいモンスターだ。クエストの張り紙が出た次の瞬間には誰かが引き受けているぐらいだぞ。今日もルナに言われてラッキーと思ったんだが」
(そう言えばこのクエストはルナが、張り出されていたクエストを案内するのではなくて、わざわざ依頼書をファイルから引っ張り出していたな…)
ジェイデンの疑問へのテイラーの回答に、どういうつもりでルナが、テイラーのパーティを指名するかのように訳ありのクエストを回すような事をしたのか、考え込んでしまう。
(まさかとは思うが「指名」したのは俺を、か?帰ってからルナに確認する必要があるな…)
「冒険者カードや金、使えそうな装備はまとめてあるから回収するぞ…まずは、全部ギルドに提出して、遺族や知り合いがいたら返してやらないと駄目だが…」
キースは言いながら、珍しく、沈んだ表情で黙々と冒険者たちの遺品を取りまとめている。その中でジェイデンは、頭が弾けたままの初心者殺しの脇に立つと、黙ってトレンチナイフを抜き取って解体を始める。今回ばかりは、ダストは何も言わず、自分の分の持ち帰り品を取りまとめるために手を動かし続けていた。
(ヤオ・グアイの肉にそっくりだな。珍しいドロップ品かも知れない)
手慣れた様子で皮を剥ぎ、そのままでもかなりの体力が回復できる「初心者殺しの肉」の固まりを2つ、ナイフで切り出しながらジェイデンは思った。
(…こいつは、一体何者なんだ?)
日が沈みかける中、アクセルの街に帰還すべく平原を歩く一行。そんな中、「ついてきてくれ、安全に帰れるように案内する」と言って、左腕に装着した「魔道具」を時折覗き込みながら先頭に立って歩いていくジェイデンの背中を見ながら、テイラーは眼の前の男についてじっと考えていた。
(こいつは強い、駆け出し冒険者の街の水準を遥かに超えている。だが、強さの質が異様すぎる。転生者だと言うが、俺が知っている、神から強力な装備や特技を与えられた「ニホンジン」とは全く違う。そいつらは神から与えられたものが強いだけだが…こいつの強さは、おそらくすべて、自前のものだ。その力も、技も、なにより冒険に対する容赦のない態度も)
(いや、こいつのやってきたことは俺達の考える「冒険」とは全くの別物だろう。おそらくは、もっと露骨で容赦のない、生き残りのための戦いだったのだろう)
(それから、あいつの持っている「魔道具」らしきものも得体が知れない。特に、初心者殺しの頭を吹き飛ばしたあれは何だったんだ…火炎魔法のようなものが飛び出していたが、リーンは「全く魔力を感じないわ。あんな物は見たことも聞いたこともないけど、魔道具とは全然別物に見える」と言っていたから、そもそも魔道具かどうかさえ、わからない。今は詳しいことが聞ける空気ではないな。あいつの元いた世界とは、一体、どれだけ過酷で、恐ろしい場所だったのか…)
(考えれば考えるほど、わからなくなるな。第一、こいつのことをこれからも、頼りにしてもいいものかどうか…)
(たった一つだけわかるのは…)
(こいつは、本物の『冒険者』だ)