Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World!   作:Survivalist

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しばらくぶりです。

一日がなかなか終わらない…


Beginner’s Hunt,or Be Hunted?(5)

 Pip-boyのファスト・トラベルにより、ジェイデンがパーティを最短かつ安全な道筋で案内できたおかげで、一行がアクセルの街にたどり着けたのは予想よりも早く、日が沈みきってすぐの頃だった。宵の口で酒場エリアが盛り上がり始めたギルドの扉を開けたジェイデンは、すぐにもえもえの出迎えを受けることになった。

 

「おかえりなさい!思っていたよりもずっと早かったね!さすがは私の最高の被験者さんだわ!怪我とかはない?」

 

「…ああ、その、ただいま。わざわざギルドで待っていたのか?」

 

「お店は閉めた後だし、簡単なクエストでも、初めての冒険だからちゃんと帰ってきてくれるのか心配だったから…それで、ゴブリン退治はうまくいった?」

 

「そう簡単にはいかなかった…詳しいことは後で話すが、先に色々と、ギルドに報告しなければならないことがある」

 

「…えっ?」

 

 到底、ただのゴブリン退治の後とも思えないジェイデンの深刻な表情に目を見開くもえもえ。続けてギルドに入ってきたテイラーたちが、消耗しきった表情で、やたらと多くの武器や防具を運んでいる様子に、酒場の冒険者たちの喧騒は静まり、代わりに深刻なざわめきが室内を満たした。

 

「おかえりなさいませ。皆様ご生還ですね、特にジェイデンさんは、初冒険からの無事のお帰り、おめでとうございます。それで、ゴブリンの洞窟には無事にたどり着けて、退治もうまくいきましたか?」

 

 ルナがジェイデンと、テイラーたちを出迎えて、いつもの調子で冒険終了を(ねぎら)う言葉をかけるが、不自然なほどの「いつもの調子」が、ざわつくギルド内の冒険者たちの雰囲気からは明らかに浮いていた。そして、ジェイデンは、ルナの前に歩み出て、死者たちが残していった冒険者カードの分厚い束を取り出そうとするが、それに気づいたルナは、ジェイデンを手で押し留めて言った。

 

「…別室で、詳しいお話を聞かせていただけますか?」

 

 

 

「…結論から言うと、洞窟にいたのはゴブリンだけではなかった、テイラーたちは、普通ならありえないと言っていたが「初心者殺し」が共生していた。初心者殺しもゴブリンも全滅させてきたが、やられた連中の記録を持ち帰る必要があると思って、見つかる限りのこれを回収してきた」

 

 ジェイデンを別室に案内して、扉に鍵をかけて正面に座ってきたルナに、テーブルの上に冒険者カードを並べながら説明するジェイデン。

 

「ありがとうございました。冒険の途中で命を落とされた方の記録はなによりも貴重です。回収部隊の活動にも限界がありますし…遺品も含めて、できるだけご遺族やお知り合いの方にお渡しできるよう手配します。記録を持ち帰ってくださる方は少ないので、それについても報酬を支払わせていただきますよ」

 

「…『ゴブリンの洞窟』の目撃情報が上がってきたのは、半年ほど前で合っているか?」

 

「よくご存知ですね」

 

 営業スマイルを崩さないルナに対して、さらに質問を重ねるジェイデン。

 

「ただのゴブリン退治がここまで長引くことはまずないと、テイラーは言っていた。半年の間、戻ってこない冒険者が散発的に出ていたのには気付けなかったのか?」

 

「冒険者ギルドはあくまで、冒険者さんのサポートのための組織です、クエストを案内してはいますが、その行動を管理することは、そもそも冒険者さんの自由を尊重する、ギルドの理念に反しますから」

 

 表面上のにこやかさを変えずに、答えを重ねるルナ。

 

「…そして、流石にまずいと気づいて掲示板から引っ剥がした依頼書を、なぜわざわざ駆け出しの俺に見せたんだ?」

 

「能力値からすれば、アクセルの街の水準では、あなたは一流の冒険者ですよ。それに、能力値にふさわしいパフォーマンスも拝見しましたから」

 

「俺のことを買いかぶりすぎだ。いいようにこき使われるのは、もえもえの一件だけで勘弁してもらいたいんだがな」

 

「もちろん、ギルドとしてはそれなり以上に報いさせてもらいますよ、私個人としても大いに、ね…よろしければ、この後お部屋にお邪魔してもよろしいですか?」

 

「…そういうのも、もえもえ一人で間に合っている」

 

 意味ありげに微笑み、さり気なく豊満な胸元を強調するような姿勢を取るルナに、全く表情を動かさずに返答するジェイデン。

 

「あら、噂通りに『可愛い』女の子(ロリっ娘)のほうがお好みでしたか?」

 

「…初心者殺しのトンネルの危険性を見逃したことと、これから俺に厄介事を押し付ける対価についてこれ以上ごまかすようなら、アクセルの街での仕事はもえもえの件を除いて、降りさせてもらうぞ」

 

「…見えにくいリスクが潜んでいるクエストがほかにないか精査して、このような事故は再度起こさないようにしますね。当面、ギルド直営の宿屋の一室をごく少額の管理費のみで「自宅」のようにお使いいただけるように手配させていただきます」

 

「…冒険者は自分から命を捨てに行ってるような稼業だが、あまりにも雑に扱ってもらっても困るからな」

 

「普通の冒険者さんの安全のために、ジェイデンさんのような「特別な方」のお力添えが必要なんです。これからも期待していますよ、ギルド職員としてよりも、個人的にですけど…」

 

 さりげなくテーブルの上に置かれたジェイデンの右手は、触れようとするルナの手をすり抜けて懐の中の「ブラックホーク」のグリップに伸びる。驚いて顔を上げたルナは、ジェイデンがドアのほうを睨んでいるのに気づいて、視線を同じ方向に向けると、かかっているはずのカギがひとりでに動いて、直後に勢いよく扉が開かれる。直後にもえもえが、怒気を含んだ表情を浮かべながら部屋に走りこんできた。

 

「もえもえさん!?ギルドの中で《アンロック》の魔法は禁止です!どうやって特別製の防御魔法付きの鍵を開けられたんですか?!」

 

「あんなへちょい防御魔法が紅魔族の私に通用するわけないでしょ!それよりも、あなたジェイデンやテイラーさんたちに黙って、よくわからないクエストを押し付けたんじゃないの!?」

 

「脅かすなよ…どうしてわかった?」

 

 ブラックホークのグリップから手を離しながら、そのままルナに飛び掛かりそうな勢いで突っ込んでくるもえもえをさりげなく止める位置に移動するジェイデン。

 

「テイラーさんから聞いたのよ!ゴブリン退治と思ったら初心者殺しが出てきたって!それも、壁に張り出したクエストを案内するんじゃなくてわざわざファイルから依頼書出した、って聞いたからピンときたわよ!」

 

「紅魔族の方にごまかしは効かないみたいですね…でも、それなりの「見返り」は、ジェイデンさんに差し上げるつもりですよ。さっそく、今晩にでも…」

 

「ジェイデンの疲れを癒やしてあげられるのは私だけなの!一緒に、お家に帰るのよ、今すぐ!」

 

 両側からそれぞれに、腕を取ろうとするルナともえもえの動きを、鍛えた素早さ(Agility)と戦いの経験から完全に読んで、無表情でその間をすり抜けて扉の方に歩いていくジェイデン。

 

「報告はこのへんでいいか?くたばった奴らの持ち物はテイラーたちが提出しているはずだ」

 

「…はっ、はい。冒険者カードのデータも読み取って最終的な報酬を決めさせていただきますね。それよりも!亡くなられた方の慰霊と、ジェイデンさんの初冒険での初心者狩り討伐という快挙のお祝いのために、ここはギルドとして宴会を開かないといけない案件ですね!」

 

 軽く避けられて一瞬だけ表情を引きつらせるも、営業スマイルと高い声で、ギルド主催の宴会を提案するルナ。

 

「色々と誤魔化そうとするんじゃないの!ジェイデンのお祝いは、私一人が心を込めてやるんだからね!」

 

 なおもジェイデンの腕を抱え込んで引っ張っていこうとするもえもえの頭に、そっとジェイデンの手が置かれる。不意打ちに頬を染めて固まるもえもえを見やってから、ジェイデンはルナに向き直る。ルナには、もえもえに一瞬だけ向けたジェイデンの視線が、わずかに柔らかくなったように思えた。

 

「今回はお前と、ギルドの思惑に乗ってやろう。それにしても、人が死んだのに宴会、で本当にいいのか?」

 

「…冒険者さんが命を落とすことは珍しくありません、そして、嘆き悲しむよりも、いつものように飲んで、騒いで見送るのが、この駆け出し冒険者の街、アクセルの流儀ですから」

 

 この時は、わずかだが真剣な微笑みで、ルナは静かに告げた。

 

 

 

「…イィィヤッホオオオオオオオオオォイ!」

 

 共同浴場の男湯に響き渡るひたすら陽気な叫び声と大きな飛び込む水音。ギルドでの長い報告と聞き取り、そして回収してきた遺品の提出を終えて、夜が更けた頃に報酬の受け渡しと、犠牲者の慰霊を兼ねた宴会が行われるということで、準備ができるまでの時間にさっぱりしておこうと共同浴場を訪れたテイラー一行の男性陣は、いままでに聞いたことのないような調子っ外れの絶叫を響かせながら。無駄にきれいなフォームで飛び込む先客に呆れ、そして、水面から顔を出して満面の笑みで湯を満喫する男が、つい先程ゴブリンと初心者殺しを素手でぶち壊してきたあいつと同じ顔をしていることに気づいて、テイラーは顎を外しそうになり、ダストはより不可解な怪物を見る目になり、キースは少しだけ、面白そうだ、と言いたそうに笑っていた。

 

「…あそこで陽気に笑いながら湯に浸かっている男は本当にジェイデンなのか?顔や体付きはたしかにそれらしく見えるが…あれは別人だろうな、うん」

 

「いや現実見ようぜ。どう見たって二重人格か、スクゥーマでもキメてんじゃないかってぐらいのはしゃぎようだが…」

 

「…あいつも、人間だったんだな。あの調子だとどちらかと言えば、ただの陽キャにしか見えないな」

 

 洗い場で静かに湯を浴びながらしきりに首を傾げるテイラー、同じく体を洗いながらジトッとした目で、どう見ても陽気を通り越してバカをやってるようにしか見えないジェイデンを見やるダスト、キースは、あれならあいつとも少しは話せそうだ、と付け加えて、様子を見守っている。主に冒険者の他の男性客は、呆れたような目で「変な転生者」を見やるか、遠巻きにして関わり合いにならないようにしていた。

 

 

 

「…なんか男湯からすごく陽気な叫び声が…あ、派手に飛び込んだわね。子供でもあそこまではしゃぐ人いないと思うけど…えっと、あの声…ジェイデン?」

 

「うん、間違いなく彼の声ね。共同浴場のことやたらと気に入ってたけど、ここまではしゃぐ人とは思わなかった…」

 

 男湯に比べると閑散としている女湯では、女湯に押し入ろうとするダストに、アイアンクローをかまして男湯の入口に放り込んだリーンと、「あたしお子様だからこっちでもいいよね!」と言ってジェイデンにくっついて男湯に押し入ろうとして、うんざりした表情の彼に、猫のように後ろから襟首を掴んで持ち上げられながら女湯の前まで連れて行かれて、ふくれっ面で入っていったもえもえが、お湯に浸かりながら目を見開いて、壁越しの騒音の主のことを話し合っていた。

 

「ほんとにジェイデンかしら?今日の冒険の時は、最初から最後まですごく冷静で、あんなふうにはしゃぐような人とは、信じられないんだけど」

 

「そう言えば彼、どうだった?!すごく強くてかっこよかったでしょ?!ジェイデンがどれだけ強いか、あたしも見たかったなぁ」

 

 目を輝かせて、湯から身を乗り出してリーンに尋ねるもえもえ。もえもえの、露わになった体つきを見たリーンは、

 

(…隅から隅まで見た目年齢相応よね、お子様と言い張っても普通に通りそうなのが怖いわね。本当に私より歳上なのかしら…)

 

(悪いけど、ジェイデンが誤解されるのも仕方ないかも、特に胸とか…控えめな私でも勝ってるけど…なんだか虚しい勝利だわ)

 

 などどいう雑念が思い浮かんだが、しょうもない考えを頭から追いやって真面目に答えていた。

 

「…うん、とても強くて頼りになる人よ。でも、頼りがいがあるというより、怖かったかな」

 

「怖い?」

 

「初心者殺しを素手(Unarmed)の一撃で動けなくするような人よ、高レベルでもそんな人はなかなかいないと思うわ」

 

「ええ…」

 

 紅魔族としてそれなり以上の戦闘力を持ち、なおかつ、Pip-boyのステータス画面や冒険者カードの数値から、ジェイデンの実力の程はわかっているつもりだったもえもえにしても、予想外すぎる返答だった。

 

「当然、ジャイアント・トードとかゴブリンくらいのモンスターなら、彼にしたら相手にするのは蚊を叩くのと同じくらいにしか思っていないと思うわ。強さ的にも、気分的にも」

 

「…あたしが知ってるジェイデンじゃない…確かにプロっぽい雰囲気はあるけど、ご飯食べてたりお茶してる時はすごく楽しそうだし、お風呂であれだけはしゃいでいるし…」

 

「…私が見た感じでは、単純にレベルやステータスが高いから怖いというだけじゃなくて、なにか根本的なところが、普通の冒険者とかけ離れちゃってる感じがするわ。敵と戦う時は本当に淡々と「処理」していってるの。ゴブリンがバラバラになっても戦いで高揚するとか、「ヒャッハー!!」と叫ぶとか、サイコっぽく血を見て笑うとかすらなくて、ずっと無表情のまま…今日のあの洞窟で、一番恐ろしかったのは初心者殺しよりも、彼だったわ」

 

「…ホントに?現に今あんなに無邪気にはしゃいでいる彼が、戦う時はそこまで…人間じゃなくなれるなんて」

 

「だから私も混乱しているの。あの声を聞いていたら、本当に、今日、一緒に冒険して命を助けられた人と、同じとは思えないもの」

 

(…そういえば時々、びっくりするほど虚ろな目をする瞬間があるわね、彼)

 

 

 

「流石に今のはどうかと思うぞ」

 

「すまん…」

 

「おっし、このサイコ野郎にこの街の礼儀を、一から叩き込んでやらねえとな!」

 

「今更先輩面しても、しょうがないだろ」

 

 

 

 リーンにとっては一人を除いて、聞き慣れた声での会話が風呂の壁越しに聞こえてくる。アクセルの町ではよくある「おなじみの面々と新入り」の会話だが、微妙に、仲間たちの声が引きつっているように聞こえてしまった。

 

(…違う、ジェイデンは怖がられるような人とは絶対に違う、だって…)

 

 もえもえは、ギルドでジェイデンを待つ間、モヒカン刈りの妙にいかつい外見の男から「お前の待ち人は、からかう奴からお前をかばっていたぞ…大事にされているみたいだな」と重々しく言われたのを思い出していた。そして、興奮する自分を止めた彼の手と、目つきの優しさ、暖かさ。一瞬だがもえもえには、それがはっきりと伝わっていた。

 

(あなたは、前にいた世界で何を見てきたの?…ジェイデン)

 

 風呂場の壁越しに、もえもえは今は姿の見えない「最高の被験者」に向かって、心の中で語りかけていた。

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