Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World!   作:Survivalist

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ルナさん、壊れる(ネタバレ)


Beginner’s Hunt,or Be Hunted?(7)

「…なんだこりゃ、あれも、接待のうちなのか?」

 

「やはりあの男は、あらゆる面で俺達の常識では推し量れないようだ」

 

 キースの実況に、ルナたちに敵意の籠もった視線を向けたダストは、あまりにも異様なジェイデンとルナの「酒盛り」の様子に唖然として、テイラーはわかったような、わからないような表情で、ある意味ルナを手玉に取っているジェイデンを不気味そうに見やっていた。

 

「…どうしてまだもえもえさんが大人しくしているのかしら…」

 

 ルナがジェイデンにちょっかいを出せばその瞬間に上級魔法が炸裂する、と思ってずっともえもえの様子をさりげなく観察していたが、この時間までずっと、料理にも飲み物にも手を付けずに静かに座っているだけだった、そして、その表情も、

(…腹を立ててる、と言うより何かに迷っているみたい。というよりも、あの態度はもしかして…)

 

 何かを察したように、リーンはもえもえのいるテーブルに歩いていく。キースは声をかけようとしするが(リーンに任せたほうが面白いもんが見られそうだな)と思い直して、「鷲の目」スキルを使って、視線をもえもえたちに向けて表情を伺うように準備をする。彼の見ている前で、リーンはもえもえの隣りに座って、小声で囁いていた。

 

「ルナさんをぶっ飛ばしにいかないの?」

 

 その声に、ビクッと肩を震わせて慌ててリーンの方を振り向くもえもえ、どうやらずっと考え事をしていたらしい。

 

「えっ、そっ、そうよねっ、あたしの被験者さんに手を出した無駄肉は丸焼きにしないと気がすまない…よね…でも…」

 

 いつもの調子を取り戻そうとするが、その声は途中で消えていってしまう。短い間しかもえもえを見ていないが、これまでの彼女からは想像もつかないような、大人しく、後ろ向きな様子の彼女の態度に、リーンはにんまりと笑ってからはっきりと告げていた。

 

「ジェイデンの隣に行ってあげなさい。きっと、あなたを待っているわよ、彼」

 

 その瞬間の反応はもえもえの眼の前にいるリーン、「鷲の目」で少し離れた場所から覗き込んでいるキースの両方から見ても衝撃的だった。みるみるうちに頬を染めて、手をバタバタさせて隠しきれない照れを全身で表現しているもえもえを見て、リーンは、(ひょっとして、恋についても「見た目年齢相応」かな?)と思い、キースの方は(見た目は完璧な「恋する乙女」だよなあ…実年齢高そうなのと天然鬼畜なのを知らなかったら俺もやばかった)と思いつつも、その愛くるしい様子に視線を固定させていた。

 

「ちっ、違う違う!あたしとジェイデンはそんなんじゃなくて!彼はあたしの最高の被験者でっ、あたしが実験でどんな無茶苦茶なことしても嫌な顔はするけど受け入れてくれてっ、あたしがグイグイ行ってもちゃんと受け答えしてくれてっ、プロっぽくてすごく怖いって言われちゃうかもしれないけど、ホントはとっても優しくてあったかくて、そんな人なんだから!」

 

「…どう聞いても、『だからジェイデンのことが好き』っていう告白だよね、今の」

 

 図星を突かれてしまったもえもえは、言い返したり、照れたりするよりも、うつむいてしまっていた。

 

「…彼の前に立つのが、怖い」

 

「ジェイデンが、どんな人かわからなくなっちゃった?私が見た通りのすごく怖い人なのかもしれないし…」

 

「あたしが、彼の優しさをほかの誰よりも一番わかってる!でも、彼があたしをどう思ってくれるかは、わからないわ…」

 

「一番、ねえ。それならますます、ルナさんには渡せないんじゃないかな?」

 

 その言葉を聞いた瞬間に、何かに気づいたように目を大きく見開くもえもえ。

 

「…そっか、彼のこと、好きになっちゃんたんだ。ひょっとしたら、最初に会ったときから『被験者さん』じゃなくて、もっと仲良くなりたい、って思ってたの、かも」

 

「ようやく気がついたの?それで、どうする?」

 

「決まってるわ!紅魔族の女が惚れた男を横取りされそうなのを、見過ごすわけがないでしょ!」

 

 完全にいつもの調子を取り戻して、目を文字通りに赤く輝かせてルナたちのいる方を睨みつけるが、、無表情に、ギルドの中の馬鹿騒ぎを見やるジェイデンを見た途端に、驚愕と悲しみ、次の瞬間には激情がもえもえの胸を満たしていた。

 

(昔の彼に何があったかはわからないけど、二度とあんな顔はして欲しくない!だったら、あたしが…!)

 

 決意に燃えるもえもえの横を、酒場エリアから出てきたウェイトレスが「初心者殺しのロースト」の大皿を手に通りかかろうとしていた。共同浴場に行く前に、見送りに出た酒場のシェフがジェイデンに「初心者殺しを倒したときには、その肉をローストにしてみんなで食う風習があるんだ。「食って復讐」って意味でな。回収待ちで、今日の宴会ではそれが出来ないのが残念だが」と声をかけてきたのに対して、その肉ならここにあるぞと言いながらジェイデンは「初心者殺しの肉」を差し出したのだ。シェフは驚きとともに、こいつを今日の宴会のメインディッシュにするぞ!と請け負い、それがようやく焼き上がったようだ。そしてそのウェイトレスは、初心者殺しのローストの大皿を最初にジェイデンとルナのところに持っていこうとして、席の異様な雰囲気に足を止めてしまっていた。

 

「ねえ、これ、あたしがジェイデンに持っていっていいかしら?」

 

「ええっ、あ、はい…」

 

 困惑するウェイトレスから両手で抱えるほどの大皿を受け取り、もえもえは奇妙な酒盛りを続けるジェイデンたちのテーブルの方に歩いていった。

 

 

 

(…とんだ茶番だ。世界が変わっても人のいい加減さは全く変わらない、か)

 

「勇者」は会場の中の、自分をそっちのけにして目先の欲望に全神経を集中する冒険者とアクセルの住民、そして「勇者を称え、その疲れを癒やす」役割を放棄してひたすらやけ酒をあおっているルナを冷めた目で見つめていた。

 

(…世界を跨いだ先でも、俺は、一人で旅を続ける運命のようだな)

 

 両親を失い、「故郷(Vault101)」を追放され、実力を認められつつも他者からは距離を置かれ続けたあの荒野の世界にいた頃と何も変わらない。何の感情も持たずにそんな事を考えているところに、声をかけられた。

 

「お疲れ様!」

 

(…次は、どんな厄介事を持ち込んでくれるんだろうな)

 

 だが不思議だ、こいつに振り回されることは悪くない、むしろ面白い。

 

 わずかに口元をほころばせながら、「初心者殺しのロースト」の載った大皿を両手で抱えながら満面の笑みを向ける少女…に見える女性を見ながら、「孤独な放浪者(Lone Wanderer)」は思った。

 

 

 

「初心者殺しのロースト、持ってきたわよ!このお肉を回収したのもジェイデンって、ほんとにあなた何でもできちゃうんだね!!」

 

 最初はあなたが好きなだけ取るのよ!と言って、もえもえは大量の空き瓶を押しのけて大皿をテーブルの上にどんと置いて、当たり前のようにルナとは反対側の、ジェイデンのすぐ隣に腰掛けてくるが、ジェイデンは完全な無意識で、少し体を動かしてもえもえを迎え入れていた。

 

 

 

(えっと…これって、何?あたし、このちんちくりんの美少女もどきBBAに劣っているっていうの…?)

 

 ひたすらに酒を喉に流し込むのを一旦止めて、横目でジェイデンの隣に当たり前のように腰掛けてくるもえもえを、怒りを通り越した無表情で見やるルナ。

 

(どうして笑うんですか!!どうしてあの妖怪をすぐ横に座らせるんですか!私が思いっきり胸を押し付けても眉一つ動かさなかったのにいいいいいいいいいい!!!)

 

 

 

「…あの二人を見ているよりも、ルナさんの百面相を見ている方がよっぽど面白いわね」

 

 なんかいろいろ企んでたみたいだけど、と思いながら傍目から見ていても色々残念な地金がはっきり出てきたルナを見てくすくす笑うリーン。

 

「…早く彼女を探そう」

 

 一方キースは、「鷲の目」で追いかけていたもえもえと、ジェイデンの姿を見て床に撃沈してひたすらに腐っていた。

 

 

 

「別に大したことじゃない。何でも自分でやらなければ生き残れなかった、それだけだ」

 

 豪快な作りだが、噛めば噛むほど力が出るような気がするほどに美味なモンスター肉のローストを味わってから答えるジェイデン。この世界に来て最初の日の食事の時ほどではないが、巨大な肉の塊を貪る姿は相当にワイルドだった。

 

「…なんとなーく、昔が大変だったのはわかるけど、もっとあたしを頼ってくれていいんだよ!被験者さんの仕事も、嫌ならしなくていいの。もう十分にデーターは取れたし…」

 

「今日は随分としおらしいな、何があった?」

 

「昨日の実験につきあわせたの、やっぱだいぶ悪かったかも、って。ジェイデン、すっごく優しいからあたしが無茶言っても、何でもしてくれるっぽいからやりすぎちゃったかな…」

 

「別に俺は気にしていないぞ。人体実験には、慣れている」

 

「…あたしが言うのも何だけど、それってどうなのかしら…」

 

「お前に何から何まで似てる女の『調査依頼』に、最後まで付き合ったことがあるからな…」

 

 遠い目で過去を思い出すジェイデンを見て、くすくす笑うもえもえ。

 

「その時になにかあったか詳しく聞かせて頂戴ね!こんなわざとらしい宴会はほっといて、あたしの家で続き、しよ!」

 

「…まだ諦めていないのか。今度こそ俺を完全な被験者にするつもりだろう」

 

「そんな甘いもんじゃないわ!被験者どころか、完全にあたし無しでは生きていけないぐらいに、心も体も、改造しちゃうんだから!!」

 

「ま、せいぜい頑張るんだな」

 

 会場のどの位置でも見えるジェイデンともえもえの様子を見て、「ああやっぱりあの勇者はロリ…」と生暖かい目になっている冒険者と住民の耳に、

 

「ザッケンナコラー!!!!」

 

 ギルド全体に響き渡るほどの音量の怒声が会場内にこだまする。ルナが音声を増幅する術式を切り忘れたのか!?と驚く客たちが見ている前で、ルナはアルコールと怒りで真っ赤にした顔にオーガーのような表情を浮かべながら「勇者」の襟首を掴んでガクガクとゆすり、「勇者」、はあまりに突然の出来事に全く対処できずに揺すられるまま、隣のもえもえも、ルナの剣幕に目を見開くばかりだった。

 

 

 

「…初心者殺しを素手で殴り殺せる男が何も出来ないとは…」

 

「それよりもルナってあんなんだったんだな…いつもは完璧なお姉さんしてて女は怖ぇ」

 

「あっはっは!今日のルナさんの中で今のが一番面白いわ!!」

 

 ジェイデンたちに目をやって、ルナの細腕にガクガクと揺すられるままのジェイデンに驚くテイラー。赤オーガー化しているルナを見て真顔になって引いてるダスト。こらえきれずに腹を抱えて笑うリーンの足元で、ジェイデンともえもえの温度に当てられていたキースは腐葉土のように出来上がっていた。

 

 

 

「ジェイデンさんあなた本当に何なんですか!?私があれだけ心を込めて場所を整えて、最高の『おもてなし』をしたのに眉一つ動かさないでこんな発育不全の妖怪みたいな女と見せつけるようにイチャイチャして!!変態なんですか!?性癖異常なんですか?!ええそうですよね噂は正しかった!!あなたは間違いなくロリコンです!!そんな異常者を一生懸命接待して袖にされた、私の立場と女としてのプライドを、一体どうしてくれるんですかあああああ!!!」

 

 魔術で増幅され、会場中に響き渡るルナの絶叫は、彼女の尊厳と立場と女のしてのプライドを現在進行形で粉微塵にしていた。呆れて見ている客たちの前で、ジェイデンの頭を豊満な胸の間に包んで抱きしめるルナ。一見すると羨ましい状況だが、ジェイデンが手足をバタバタさせてもがき始め、やがて痙攣してきたところを見ると呼吸が出来なっているらしい。酸素(O2)ゲージが急低下して溺死寸前と同じ状態になってくるジェイデン。

 

「ほらっどうです?!スケベな男どもに注目されてる私の胸をここまで押し付けて何も感じないんですかっ!?…なんなんですか正直ここまでやってあげて全然反応のなかった男の人なんて見たことないですよっ…ロリコンのくせにバカにしてええええ!貴方のアソコは、美少女のフリした妖怪に調教済みで中身も残ってない絞りカスになってるんですかあああっ!この歪んだ性癖、私が体で治してあげますからねええええ!!!!!」

 

 俺でもここまでは言わねぇ、とダストが口をあんぐりと開けてしまう内容のルナの罵声が、音量全開でギルド中に響き渡る、あまりにも生々しい内容のルナの絶叫と、猛毒にも初心者殺しにもビクともしなかったジェイデンを酸欠で瀕死に追い込み、目を回している彼のジャンプスーツを引っ剥がそうとしているルナの姿に、最初は面白がっていたギルドの観衆も気まずそうに目を逸らし始める。

 

《ライト・オブ・セイ…》

 

「待て!」

 

「えっ?」

 

 我に返ったもえもえが、ルナの頭を本気の攻撃魔法で串刺しにしようとしてるのを、生き返ったジェイデンがルナの魔法で増幅された声よりも鋭い一喝で止めている。もえもえが見ると、ルナは真っ赤にしていた顔を今度は真っ青にして口を押さえて下を向いている。限界を超えた飲酒と感情と体の動きが、コンシューマー版では虹色のなにかの形で表現される噴出を促してしまったようだ。

 

 ため息を付いて、ジェイデンはルナの体をお姫様抱っこで抱えあげると、裏口からギルドの外に一瞬で走り去る。慌てて後を追うもえもえ。

 

 気を使って、と言うよりも何かを恐れるように、客もギルドの職員も、誰一人後を追わなかった。

 

 

 

「オロロロロロロロロロロロロ…」

 

 なんのフィルターもない北米版基準な、生々しい音とともにドロドロした色合いのものがルナの口から滝のように吐き出される、路地裏の側溝の前で、ルナの体が崩れ落ちないように支え、吐きやすい姿勢をMedicineスキルを応用しながら取らせて、うんざりした表情で介抱しているジェイデン。とりあえず後を追ってきたもえもえは、呆れたような、あまりにも弱々しい姿に同情するかのような視線をルナに向けていた。

 

《クリエイト・ウォーター》

 

 ジェイデンが吐き終えたルナの口をすすいでやろうと「きれいな水」のボトルを取り出したのを見たもえもえは、錬金術の細かい作業のために覚えた初級魔法を使ってルナの口の周りを洗い、ついでに吐き出したものもきれいにしていた。「ひとりでに水を作り出す」もえもえの姿にジェイデンは大きく目を見開き、すぐにもえもえの手を取って絶叫するように言った。

 

「…魔法で水が生み出せるのか?!|Amazing Power! It's truly a miracle!《素晴らしい力だ、こんな奇跡を見られるとはな!!》」

 

 目を輝かせて、感嘆のあまりこの世界の言葉を忘れて英語で絶叫し、神か何かを見つめるような視線でもえもえを仰ぎ見るジェイデンに対して、言葉はわからなくとも空気を読んで「ふふんっ、それほどでもっ!」と自信満々に答えながら(加工や調合に便利だから、おまけで覚えた初級魔法でできることなのに…お風呂でもはしゃいでいるし、どうやら『水』が、彼を理解するキーワードかもしれないわね)と思い始めていた。

 

「こいつはアルコールの中毒にも、効き目はあるのか?」

 

 未だに口を抑えてうずくまったままのルナを見かねて、手元に「ウルトラ・アンチベノム」があるのを思い出して丸い陶器のフラスコをもえもえに見せてみるが、

 

「お酒の中毒にそれはもったいないわ、えっと…」

 

 マントの下からいくつかの薬草や鉱物をつまみ出して手のひらに乗せて魔法を使って「加工」すると、即席の薬をいささかと言うよりかなり乱暴にルナの口に突っ込むもえもえ。むぐっと苦しそうに呻くが、少しずつ呼吸が整い、真っ青な顔に血の気が戻っていく。

 

「急性アルコール中毒の薬も、その場で作れるのか」

 

「この位あたしなら、当然!というより宴会だから、そのための錬金素材を多めに持ってきてたんだけどね」

 

 そして、薬のおかげで酔いが醒めたルナは、しゃがみ込んで頭を抱えこみながら「もう嫌…もうおしまい…実家に帰るか、エリス教のプリーステスになって一生を清らかに過ごすのよ…」と、うわ言のように呟いていた。

 

「…酒の上でのことだし宴会の中の騒ぎだ、皆すぐに忘れるだろう」

 

「私は忘れるどころじゃないんです!!…あ、すみません。ものすごく恥ずかしいところをお見せして…こんな個人的な気持ちをぶつけちゃうようじゃ、冒険者のお相手をするお仕事失格ですよね、私」

 

 軽く流そうとするジェイデンに食って掛かるが、直ぐに目を伏せて心の底から申し訳無さそうにするルナ。どうやらいつもの調子を取り戻したようだ。

 

「お前はかなりいい女だとは思うぞ。腹に一物がありそうだったし、見境なく女を抱く趣味はないからお前の誘惑を無視した、それだけだ」

 

「お見通しだったみたいですね…でも、経験値やお金を稼ぐのに効率が悪いからと、順調にレベルの上がった人や、最初から強い貴方のような転生してきた人は、すぐにこの、アクセルの街を離れていってしまうんです。常に戦力不足に悩むギルドとしては、あなたはどうしても引き止めなくてはならない、貴重な人材なんです、それに…」

 

 ごく自然にうつむき、切なげな表情を見せるルナ。こんな顔はジェイデンに見せたくはないわ、とむっとするもえもえは、真剣に話を聞いてやってる様子のジェイデンを見て渋々大人しくしていた。

 

「…あなたを見て、女としての自分を試してみたくなったんです。自分で言うのもなんですが、私は男性からの人気はそれなり以上にあるつもりですよ。ですが、それが女の幸せにつながるかと言うと…ですね。日々出会い、声をかけてくる男性といえば、私のスタイルにスケベな目を向けてくるいい加減な冒険者さんばかりですし、仕事が忙しくて真面目な出会いを求めるヒマもなくて、正直、女としての自分を持て余していたんです。そんな私の前に、本当の強さと誠実さを感じさせる男の人が現れた。それが貴方、ジェイデンさんです」

 

 小首を傾げて、潤んだ目で見つめてくるルナの表情は、つい先程無修正のドロドロを吐き出してる姿を見ていなければ、即座に恋に落とされてもおかしくないほど、艶めかしかった。

 

「…今の話は、忘れてください。淋しい女の独り言です。でも、簡単には諦めませんよ」

 

 そういうと、もえもえに視線を向けて意味ありげにジェイデンに告げる。

 

「この可愛い恋人さんでは味わえない幸せを、私ならたっぷりと差し上げられます」

 

「わかったわ、あなたにはここで、永劫の滅びを与えてあげるわ」

 

「…別にこいつは恋人でもなんでもないしお前にも興味が出たわけでもない、二人とも変な期待するな」

 

「「ひっどーい!!」」

 

 あくまで気のない態度を崩さないジェイデンに抗議するもえもえとルナ。それに対して、

 

「そろそろ戻るか?ルナの方は気まずいかもしれないが」

 

「…こっそりと宿直室まで連れて行ってください、気分は良くなりましたけどほかの人の前に出るのは時間を置きたいんです。あと、昨日と今日で、仕事がいっぱい増えちゃってそれも今からなんとかしないと…」

 

 そのまま話を流していくジェイデンに答えてから、死んだ目をしながら歩きだすルナに、彼女が忙しくなった原因を作ったジェイデンともえもえは気まずそうに目を逸らしながら、念の為にこっそりとギルドの裏口から戻っていく彼女を部屋まで見送っていった。

 

 

 

「…ルナは宿直室で休んでいる。応急処置はしておいたがまだだいぶ酔っ払っているから、しばらくはそっとしておいたほうがいい」

 

 ルナを宿直室に運び込んでから酒場エリアに戻って、別な若い女性職員に伝えるジェイデン。その横では、

 

「いつまで酒と飯を待たせるんだよ!最初に出たののあとはほとんど来てないぞ!!」

 

「あとから出してる酒、絶対水増ししてるだろうが!」

 

「飯も酒もこれ以上出し惜しみするなら厨房に突っ込むぞ!!」

 

 ただで食べ放題飲み放題、特別で良心的なサービスの最中のはずが、なぜか厨房の入口付近で酒場エリアのスタッフと酔客のもみ合いが起こっていた。この街ではこれが普通と思ってさして気にもしてないジェイデンともえもえ。その横で、ルナの様子を伝えられた女性職員はひたすら頭を下げ、残りの職員たちは厨房に押し入ろうとする酔客とつかみ合いを演じていた。

 

「本当に申し訳ございませんでした!多大なご迷惑をおかけしたことを心からお詫びいたします!!かくなる上は私が朝まで精一杯のご奉仕を…!」

 

「…そういうのはもういいからそっとしておいてくれ。ルナのことはしっかり休ませてやれよ」

 

 ノータイムで攻撃魔法を放とうとするもえもえの後ろ襟をつまんで子猫か何かのように持ち上げて、頬をふくらませるもえもえをなだめながら答えるジェイデン。ひたすら頭を下げつづける女性職員から離れてテイラーたちのテーブルに歩いていった。

 

「おかえり!ルナさんの最高のショーが見られたわ!ありがと!!」

 

「…まあ、その、災難だったな」

 

「さっきのが今日一番の命の危機だったな…ダストとキースは、どこにいった?」

 

 愉快そうに声をかけてくるリーンと、気まずそうに声を掛けるテイラーにうんざりした調子で答えるジェイデン。姿の見えない二人のことを尋ねると、

 

「さあ?『今日の真の勇者はあんた達だ!こんないけ好かない宴会はほっといて最高の店で飲もうぜ!!』なんておだてられて、ふたりともすごくいい笑顔で、結構な人数の人達とどっか行っちゃったわよ。そういえばみんなダストとキースが、飲み代をたかってた人のようなそうでないような…」

 

 どうでもいい、といった調子で答えるリーン。ジェイデンは二人合わせて200万エリスの金も、使い方は本人次第と思って軽く流すことにした。

 

「ねえ、こんなところにいるよりあたしと二次会しよ!他のお店でもいいし…あたしのお家でも、ね」

 

 床に下ろされてすぐに、すっかり恋人気取りでしがみついてくるもえもえに困惑するジェイデンに対して、テイラーは知らないフリをして目を逸らし、リーンは、やっちゃえ、と言いたそうな視線をもえもえに向けていた。

 

(…俺もそろそろ休みたいが宿屋に戻れば絶対にこいつもついてくるな。だからといって二次会やこいつの家は論外だ、あとは…)

 

「もえもえ、俺についてきてくれるか?」

 

 真っ赤になって、こくり、と頷くもえもえ。更に強くしがみつくもえもえを連れ立って歩くジェイデンたちを見送ったのは、目を見開いてるテイラーとリーンだけで、他の冒険者と一般人、そしてシェフも含めたギルドのスタッフたちは、厨房の前で派手な殴り合いを演じていた。

 

 

 

「…それで、どうして馬小屋なんかにつれてくるわけ?あなたちゃんとお部屋があるのに」

 

 ぶーぶー、という擬音が聞こえてきそうなほど頬を膨らませて不機嫌そうにしているもえもえを無視して、酒場で楽しんでいる冒険者が大半で、ひっそりとしている馬小屋の外に寝藁を敷き詰めて2人分の「簡易ベッド」を(あつら)えているジェイデン。

 

「密室でお前と二人になる勇気は俺にはないからな。この世界での普通の冒険者生活がどんなものか確かめてみたくてな。こういう生活のほうが慣れてはいるが」

 

 寒かったら帰っていいぞ、と言いながら藁でできた簡易ベッドの上に寝転がるジェイデン。瓦礫の山に敷かれた汚れた段ボールの上での仮眠に比べれば、「野宿」とはいえ、変異していない植物の寝床、清浄な空気と森の香り、澄み切った星空のもとで寝転がるのは、夢でも見たことのないほどの贅沢に思えた。

 

 ひたすら不機嫌だったが、リラックスしきったジェイデンの姿を見ると、静かに少し離れたところに寝転がり、遠慮がちに、すぐに、身を寄せてみるもえもえ。ジェイデンがじっとしたままなので、そっと、抱き着こうとすると、

 

「これ以上はダメだぞ」

 

「…もう少し、ムードがあったほうが良かったかな」

 

「贅沢を言うな、そもそもそういう仲でもないだろう」

 

「回りから見えそうだからあたしが恥ずかしがると思った?今すぐそういう仲になってもいいんだよ、ここで」

 

 丸メガネを横においてしっかりとジェイデンの前からしがみつき、本格的に「寝る」体制になってしまうもえもえ。大きな紅い瞳が、普段は見られない深い光をたたえて、ジェイデンの視線をまっすぐに受け止めている。

 

(…ふざけ半分や遊びではないようだな)

 

 穏やかな微笑みを浮かべて、じっとこちらを見てくるもえもえの姿を、知らず知らずのうちに正面から見返してしまったジェイデンは、それでも、静かに言った。

 

「…俺には深入りするな。多分お前は不幸になる」

 

「あなたに嫌われるのが、一番、悲しいかな」

 

「お前が嫌いというわけでないが…俺はこの世界にとってはよそ者で、魔王討伐のために送り込まれた人間だ。お前を守り切れるどころか、いつ、くたばるかもわからないぞ」

 

「あたしが守られるだけの女だと思った?むしろあたしのほうが、あなたを守ってあげるわ」

 

「…無茶苦茶なことを言うな、もえもえ」

 

「これが、紅魔族の女。これが、私。どれだけジェイデンが嫌だと言っても、あたし無しじゃいられないようにしてあげる」

 

「くっつくのは構わないが責任は持てないぞ、あらゆる意味でな」

 

 無言で、正面からジェイデンの懐に顔を埋めるもえもえ、そっとその頭に手を置き、もえもえが静かな寝息を立てるまで、穏やかな目で、ジェイデンはその姿を見守っていた。

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