Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World! 作:Survivalist
栗拾い(意味深)はもうしばらく先です
(…俺は今、本当に「ここにいる」のだろうか…このおかしな異世界とやらに。今見ているもの、感じているものがいまだに現実とは思えない。本当の俺はジェファーソン記念館で、パワーアーマーですら防ぎきれないG.E.C.K.の放射線に灼かれてくたばろうとしているだけで、こいつは死ぬ前の幻覚か何かじゃないのか…)
藁でできた簡易ベッドの上で、穏やかな朝日が差し込む中で目を開けたジェイデンの目に飛び込んできたのは、澄んだ朝の空気と、馬小屋の外に広がるなだらかな牧場という、この世界にとってはありふれた光景。そして、その光景に、異世界に来て数日が経った後でも、圧倒されていたが、同時に自分の見ているもの、感じているものへの、この世界に来てからの違和感も捨てきれずに心の中で呟いていた。
そして、自分の腕の中の温もりのほうに視線を向けると、そこでは可憐で小柄な少女…のように見える女性が静かに寝息を立てていた。ジェイデンは、こころなしか幸せそうな表情を浮かべる女性に、もしかしたら生まれて初めて感じるかもしれない種類の感情とともに、「俺は、何も知らないこいつを不幸にしているのだろう」という胸の痛みを感じながら、じっと、もえもえの姿を見つめていた。
感傷に浸っている間に、遠くから早足で草を踏みしめる複数の足音が聞こえてきたので、もえもえをかばうようにしながらそちらの方に目を向けると、揃いのフルフェイスの兜と軽鎧に身を固めた集団が走り寄ってくるのが見えてきた。同じ装備の衛兵を街中で何人も見かけたな、と思いながらその集団を待ち受けていると、その中のひとりがジェイデンの正面に立ち、厳しい様子で告げてきた。
「お前はアクセルの街とその民に対して罪を犯した。なにか釈明はあるか?」
「この街では野宿は違法だったのか?冒険者がただで寝泊まりしている馬小屋のすぐ外なんだが」
「とぼけるな!そこで寝ている少女と貴様はどういう関係なんだ!?」
(…むしろ不幸になってるのは俺の方だったか…)
ゲスな冒険者たちだけでなく、衛兵にも事案扱いされてしまうのに頭を抱えたい気分になるジェイデンの横で、もえもえは身を起こして目元を擦ると、ジェイデンの方に向かって笑いかける。
「おはよう、すごく気持ちのいい朝だね…ちょっとせっかくいいムードなんだから邪魔しないでくれる?」
ジェイデンを何かの理由でか取り囲む衛兵たちを目にしたもえもえは、彼らを即座に「邪魔者」認定して笑顔を引っ込めると、《ライトニング》を放とうと、かざした両手の間に太くて眩しい雷光を発生させていく。保護対象と思った女性からの思わぬ威嚇に後ずさる衛兵たちの眼の前で、女性は「不審者」に猫のように首根っこを掴まれて持ち上げられていた。
「落ち着け、衛兵に攻撃したら技術顧問の話もなしになるぞ」
「…あっ、あれ?たしか彼女、錬金術師のもえもえだったか?
「確か検事のセナさんが、あの紅魔族の錬金術師は、いつか取り返しのつかない人身事故を起こすってため息を付いていたな…」
「こいつは少女趣味とかじゃなくて新しい実験台か…気の毒に」
「ねえ、やっぱりこの失礼な人たち黒焦げにしていい?」
「だからやめておけ、それにこいつらは仕事熱心なだけだ」
聞こえるような声でひそひそ話をしている衛兵たちに、真顔になってるもえもえを押し留めるジェイデン、そんな彼の前に隊長らしい重厚な鎧姿の衛兵が困惑気味に声をかけてくる。
「…悪いが冒険者カードを確認させてくれ…ジェイデン、《サバイバリスト》、レベル31。お前のような高レベルの上級職はこの街では珍しいな。見かけない顔だが、よその街から流れてきたのか?」
(初心者殺しのおかげか、いつの間にかレベルが上っていたのか、スキルポイントの割り振りやPerkの選択はまた後だな)
「いや、この街に来たのはほんの数日前だ。事情を話せば長くなるが」
「確かにこの冒険者カード、発行日から一週間も経っていないぞ。それで30以上のレベルの上級職とはな。この街に来るまでに何をして…ん、その数日の間にゴブリン50体以上と、初心者殺しを単独討伐の記録まであるのか…」
冒険者カードを見ながらひそひそ話が止まらない衛兵たちだが、その中のひとりが、もえもえに向かって言いにくそうに声をかけた。
「ところでもえもえさん、つい先日、冒険者ギルドでなにか薬物の人体実験を行ったそうだな。犠牲者が出たとの話は出ていないが、事前の届け出がなかったことをセナ検事が問題視している。実験が成功したというのは本当なのか?」
「もちろん!そして、その実験で完璧な被験者になってくれたのが他でもないジェイデンなのよ!」
見なよ…オレの被験者を…、といった調子で決め顔をしながらジェイデンを親指で指すもえもえ。
「…それは本当なのか?」
「ああ、間違いない、『万能の解毒剤を作る実験』で、試薬の効果を証明するためにしこたま毒を盛られたがな」
フルフェイスの兜の下の衛兵たちのジェイデンを見る目が、一様に得体の知れない化け物を見る目に変わっていったのには、幸いにして見られているほうが気付く様子はなかった。
「正式な報告はギルドを通してちゃんとしとくから、待ってて!」
「…今日にでもセナ検事がもえもえさんの店やギルドに立入検査を行いそうなぐらい、人体実験のことを聞いてキレていたぞ。自首、というわけではないが、早いうちに自分から衛兵砦に報告に行ったほうがいい」
「…だそうだ。話からするとちゃんとした実験の記録も添えてセナという検事に報告する必要がありそうだな、それもできるだけ早く。一回お前の店に戻って記録をまとめておくか?」
「全部覚えてるから大丈夫!と言いたいところだけどちゃんと実験記録を見直してまとめてもすぐにできると思うわ。今日中のほうがいいかな?」
「強制捜査を食らって面倒なことになる前のほうがいいだろう。早速だがお前の店に戻るぞ」
「…なんだか苦労しているようだな、まあ、その、勘違いをして済まなかった」
「気にするな、冒険者ギルドでは散々似たような扱いを受けている」
(それでも見捨てる気がなさそうなあたり、真性かもしれないな)
フルフェイスの兜の下で複雑そうな表情や、憐れむような視線、生暖かく見守る目、様々な反応を示しつつ、衛兵たちは急ぎ足で帰っていく二人を見送っていた。
「人体実験」の報告書を2人で取りまとめてから「深淵の縁」を出たのはそろそろ他の店が開き出す朝の時間帯だった。
「じゃあ、早速衛兵砦にこれ出しに行く?」
「…どうかな、冒険者ギルドの方でも手続きを踏んでるかもしれん、そちらの状況も念の為に聞いておこう」
場合によっては報告の内容を調整する必要があるということでもえもえとジェイデンの意見が一致してギルドの方に歩いていくと、そこは昨晩の宴会の前以上の混雑ぶりだった。というよりも、今冒険者ギルドで一番数が多いのは乱闘でボロボロのギルドスタッフでも、冒険者でも、また酔いつぶれて眠っている遺族の一般人でもなく、普段ギルドに居る面々から事情を聞いている衛兵たちだった。
「あら、どうして冒険者ギルドが衛兵さんの取り締まりを受けているのかしら?」
「あれだけの騒ぎになれば衛兵に踏み込まれても当然だが…厄介なところに来たかもな」
不思議そうにしているもえもえの横で、次にどうするか一瞬迷うが、衛兵砦への出頭の手間が省けたかもしれないと考えるジェイデンが見ていると、衛兵たちの中心に、彼らを指揮している立場らしい、威厳の有りそうなデザインと徽章が目立つ制服に身を包んだ、細めのメガネを掛けた厳格そうな雰囲気の若い女性が立っていた。
「…冒険者ギルドの関係者、冒険者、一般人も含めた酒場エリアのお客双方の言い分を取りまとめるとこういうことですか?一晩だけの飲食の無料サービスをギルド側が約束、お客は提供された飲食物の内容に納得がいかずにギルド側に強硬に抗議して、最終的にギルド側とお客の間で乱闘になった、と。はあ…できるだけ経済的に来客の歓心を買おうとするギルド側、無料といわれて際限なくサービスを要求するお客、どっちもどっちですね…」
呆れきった表情を浮かべながら、その衛兵の指揮官、あるいは検事らしい女性は昨晩の騒動の捜査を行っている様子だった。
「そもそもどうして、無料で飲食を提供する破格のサービスを行ったのですか?ギルドはケチ…失礼、厳格な予算執行の手腕で知られているのですが。発案者はどなたです?」
「それは私です、セナ検事どの」
聞き取り調査を続けるセナと呼ばれた検事の前にまっすぐに背筋を伸ばしてルナが歩み出てくる。一晩で回復したよ、プライベートがあれじゃなけりゃ、という遠慮のない周辺からのつぶやきは、言われている場の中心の女性二人はあえて無視していた。
「ルナさんがこの法外なサービスを…意外ですね、あなたはそのえげつなさ…いえ、資産と人材の優秀な管理ぶりでギルドを切り盛りされている方だと認識していますが、本当に、何があったのですか?」
「いえ、純粋なサービスですよ、普段ご苦労なさっている冒険者の皆さんを労うための」
「…嘘発見の魔道具を通すまでもなく到底信じられませんが…正式に尋問にかけても?」
「すみませんでした、特別な祝宴のためです。初心者殺し討伐という、お祝いをしないといけない出来事がありましたから」
「確かにこの街の冒険者にすれば強大なモンスターですが、それでも法外なサービスをするほどの事ですか?」
「それを成し遂げたのは有望な新人さんです、その方の歓迎会も兼ねてのことですね。人材確保はこのギルドの至上命題ですから」
「…では、その人物に本当にそこまでのことをする価値があるかどうか確かめたいのですが、『有望な新人さん』とは、誰のことを言っているのですか?」
「それは多分、俺のことだ」
もえもえの実験の件も含めて、当座はこのセナという検事の心証を良くしておいたほうがいいと思い、手を挙げるジェイデン。セナは、ジェイデンの前まで歩み寄ると、じっと観察するような視線を眼鏡の奥から向けてから鋭い口調で尋問を始める。
「…あなたが昨日の宴会の主人公という方ですか?。それで、主役のあなたがどうして宴席を途中で退場したのですか?」
「会場にいるやつがどいつもこいつもタダ飯とタダ酒に夢中になってて俺のことはそっちのけだったからな。バカバカしくなって早めに引き上げさせてもらった」
「…本当に宴会のお客はあなたや、同じパーティの方には関心がなかったのですか?…まあ、乱闘が始まるぐらいでしたから嘘ではないのでしょうね。なぜか、冒険者だけでなく冒険者と関係のあった一般の方も珍しく、ギルドの中での宴会に参加していたようですが」
この町の住民のいい加減さはどうしょうもない、と言いたそうに一瞬こめかみを押さえてから、色々と怪しんでいることを匂わせていくセナ。そして背後をちら、と振り返り、ジェイデンに、余計なことを喋るな、と言いたげな険しい視線を向けているルナの方を向いて事務的な口調で告げる。
「失礼ですが部屋をお借りしても?拒否すれば一時的に接収するだけですが」
「かしこまりました。どうぞ、お手柔らかに」
無表情に、セナと見張りの衛兵、そしてジェイデンを酒場エリアの個室に、ルナは案内していった。
「こちらは嘘を看破する魔道具です。あなたの発言に虚偽があれば音が鳴る仕組みですので、真剣な回答をお願いします」
衛兵によって見張られた状態で、酒場エリアの個室で向かい合って座ってからすぐに、一見すると何の変哲もない卓上ベルに見える魔道具を机に置くセナ。嘘発見の機能は簡易的なものであることは黙って、セナはジェイデンに向かって尋問をはじめた。
「ジェイデン、年齢は19歳、職業は冒険者、クラスは上級職の《サバイバリスト》。ではまず、出身地と、冒険者になる前は何をしていたのかを教えて下さい」
冒険者カードを大まかに確認してから、口調は穏やかながら鋭い視線をジェイデンに固定させたま、最初の質問を投げかけるセナ。
「
「ゆーえすえー…でぃーしー…?全く聞いたこともない地名ですが、魔道具が作動しないというとは虚偽ではない…ま、まあ、今はあなたの出身地についてはおいておきましょう。尋ねたいことは色々ありますので…」
不可解だ、と言いたげな表情を浮かべつつも、セナは本題にはいることを選択した。
「それにしても、俺を本格的な尋問にかける理由は何かあるのか? 」これでセナが風紀紊乱の行為云々と口にすれば、そろそろ衛兵砦に起爆状態のミニ・ニュークを放り投げても許されるだろうか、と思いながら尋ねるジェイデン。
「私としては乱闘の原因となる宴会の前に「何があったか」を一番の当事者から確認したいだけです。初心者殺しの討伐とは言え、5人で500万エリスの報酬は、いささか法外な水準です」
「洞窟近くで目撃されたゴブリンの群れの討伐、の依頼をルナから受けたが、その洞窟の奥に『初心者殺し』が潜んでいた。初心者殺しは返り討ちに、ついでにゴブリンも全滅させてきた。500万エリスのクエストだったのは、ルナから確認したのか?」
昨日の出来事については、すでにルナかテイラーから証言を取っている様子だな、と思いつつジェイデンは答えた。
「初心者殺しを倒したのは、リーダーのテイラーさんではなく、あなたで間違いないようですね…冒険者カードを確認すると、たしかに初心者殺しと多数のゴブリンを撃破した記録がありますね。あなたのために宴会が開かれた理由の一端を理解できました。ゴブリンやコボルトの周辺で未熟な冒険者を待ち受けるのが初心者殺しの習性と聞きますが、同じ洞窟で共生した話はおそらく前例がありませんね…そのいわば「初心者殺しのトンネル」は、この街の冒険者にとって、極めて危険な罠として、機能していた、と」
昨日のジェイデンとテイラー一行との、冒険の顛末を取りまとめて調書に書き込んでから、セナは心底呆れた様子で付け加える。
「一人当たり100万エリスの案件だったというのは、貴族街の高級店で、引き連れた冒険者たちと乱痴気騒ぎを繰り広げた挙げ句に、200万エリスの請求にぼったくりだと騒いで、店の用心棒に袋叩きにされて衛兵砦に突き出されたダスト氏とキース氏から確認しました。いつものように牢屋で過ごしたくなければちゃんと正当な支払いをするように、ときつく申し渡したらふたりとも渋々ながら200万エリスを差し出しましたが、『飲み逃げや寸借詐欺の真似事以上の罪を犯したのなら、今のうちに正直に話したほうが身のためだ』と尋ねたところ、極めて詳細な証言を得ることが出来ました。私としては、「初心者殺しのトンネル」の一件は、極めて危険で重大な事象だったと認識していますが」
「ああ、たしかに危険だったな。「初心者殺しのトンネル」でくたばった冒険者は30人以上でその冒険者カードと遺品は、見つかる限り回収しておいてギルドに提出してある。…リーダーであるテイラーが、苦労するわけだな」
「王国検事としても放置できない事態ですし、遺品の遺族や知人への引き渡しについても、出来うる限りギルドと連携して対処する予定です。ですが、犠牲者の残した冒険者カードの記録を確認すると、この事態はおおよそ半年前から起こっていた模様ですね、違いますか?」
ダストの平常運転に呆れてため息を付くジェイデンに向かって、一瞬だけ犠牲者たちに寄り添うような申し出をしてから、ひときわ鋭い眼光を向け始めるセナ。
「ああ、俺も死んだやつらの冒険者カードの記録をざっと見てきたが、それで間違いない」
「…『ゴブリン討伐クエスト』を受ける際に、ギルド側から何らかの補足説明や、注意事項の伝達はありましたか?」
「…恐らくは、あんたが疑っている通りの状況だったな。クエストの案内は、ルナが、壁に掲示さていたのを見せるのではなくて、別にファイルから用紙を取り出していたな。それから、あとから聞いた話になるが、このクエストを受けたのはおよそ半年前だと、ルナははっきりと言っていた」
「ちょっと!そこでどうして私を、じゃなくてギルドをかばってくれないんですか!!」
「ギルドの隠蔽工作と、後始末を黙って押し付けた経緯」をジェイデンが包み隠さず話した直後に、横合いからの女性の叫び声が響き渡る。ジェイデンとセナが驚いて振り向くと、合鍵を使ったのかルナがいつの間にか、取調室になってる個室に乱入し、武装してるはずの衛兵にチョークスリーパーをかけて動けなくさせながら、自分のごまかしをバラしたジェイデンに向かって絶叫している。
「ルナ!…さん、今すぐに手を離さないと公務執行妨害で衛兵砦行きですよ!何よりも、ギルドの冒険者に対する情報の隠蔽と、危機管理体制の不備、その結果として実際に犠牲者が出ている件について、ギルドとしての公式な説明を求めます、いえ、王国検察として徹底的な捜査を行う必要が…」
「セナ!そんな呑気なこと言ってる場合じゃな…コホン、失礼いたしましたセナ検事。ええ、クエスト管理の不手際により、冒険者さんに犠牲者を出してしまったことは事実であり、弁解のしようもありません。ですが…」
眉を吊り上げてルナを糾弾するセナ、それに対して表情筋を全く動かさずに頭を下げてから、扉の外を手で指し示すルナ。そのタイミングで、酒場のエリアで冒険者たちが、衛兵に食って掛かっている怒声が個室の中にまで響いてきた。
「おい衛兵さんよ、早く帰れ!ギルドの窓口が開かないんじゃクエストも受けられないだろうが!」
「俺達は早く報酬がほしいんだよ、窓口開けろ!取り調べなんか邪魔なんだよ!」
ギルドに対して抗議するどころか、衛兵たちを単なる邪魔者扱いして罵声を浴びせたり、押し出そうとしている様子を見て呆然とするセナに向けて、ルナは静かに告げていた。
「…と、このように、冒険者さんの生活を支えられるのは私達、冒険者ギルドだけなんです。これ以上ギルドの業務に、不必要な調査や捜査による妨害をなさるようでしたら、冒険者さんとともに、衛兵砦と王国検察に、冒険者ギルドとして抗議を申し入れないといけなくなりますが…」
「…わかりました。三ヶ月以内にギルドマスターからの正式な、事件の詳細な報告書の提出をお願いします。王国検察としてはその報告に基づいて指導、あるいは処分の内容を決めさせていただきます」
(まあ、ギルドや王国検察と言った冒険者を使い立てする方は、本音じゃ冒険者のことはどうでもいいだろうし、何より使い立てされる方の冒険者本人が、死んだら終わり、という考えで動いていて、遺族もギルドの責任にはほぼ関心がなさそうだしな)
ギルドと検察は、うやむやのうちに手打ち、の方向で話を進めて幕引きを図るつもりだな、と思いながら冷めた視線をセナたちに向けるジェイデン。
「かしこまりました、ギルドしては誠心誠意、対応させていただきます。一連の事件の捜査は、そろそろ終了ですか?」
絞め落とした衛兵の体を壁に立てかけてから、ルナは、営業スマイルでセナを見送ろうとしていた。
「ええ、昨日の酒場での乱闘、および初心者殺しのトンネル事件の調査は一旦終了で、衛兵も引き上げさせますが…ところで、錬金術師のもえもえさん、ギルドにいらしてませんでしたか?」
セナのさりげなさを装った問いかけに、一難去ってまた一難、といった様子で表情を曇らせるルナと、やはり問題にしていたかと諦め半分、納得半分のジェイデン。
「ええと、確かに見かけたような、そうでもないような」
「ジェイデンさん、ギルドにもえもえさんと一緒に来られてませんでしたか?彼女とは私も面識があるのですが」
「ああ、間違いない。と言うかあいつの人体実験の一件のことについて取り調べたいのか?」
なんとか誤魔化そうとするルナを無視して、セナはジェイデンに向かって、なぜあの紅魔族の危険人物と連れ立ってここに来たのか、と内心で思いながら質問し、誤魔化しが効かなくなって愕然とするルナに構わずにジェイデンは答えた。
「よくご存知ですね。私は直接確認してはいませんが、見るからに危険度が高く、被験者が生きていたのが不思議に思えるほどの人体実験が行われていたと、複数の目撃証言が届いています。あいにくと、ギルドの中では先の事件の聞き取りを優先して、人体実験のことを確かめられなかったのですが」
「ああ、自分でもよく死ななかったと思っているぞ、もえもえを呼んできてもいいか?」
「…被験者はあなただったのですか?それならばもえもえさんと知り合いなのは自然ですが…はい、お願いします」
もう色々終わりかもしれない、と沈んだ表情で取調室として使われている個室から出ていくルナ。続けてもえもえを呼びに出ていくジェイデンを見送りながら、この男を衛兵の要監視対象リストに加えることを真剣に検討しよう、とセナは内心で頭を抱えていた。