Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World! 作:Survivalist
「全身用のプレートアーマーというより、“パワードスーツ”みたいね…。しっかり鑑定したわけじゃないけど、進歩したほうの文明の産物だと思うわ。横に置いてあるのは…ミニガン? いえ、レーザー光線が出るガトリングガンっぽいわね。これも、私の知ってる“ニホン”の技術水準からするとかなり進んでいる…まるでエリスの管轄する世界に昔あった、“魔法技術大国ノイズ”みたい…」
アクアは、女神の視点から冬用T-51bパワーアーマーと、ガトリングレーザー…正確にはそのカスタム品である「ベンジェンス」を眺めながら感嘆していた。改めて見ても、この装備の持ち主が「ニホン」とはまるで違う世界から来たことを痛感させる。
「これは、ジェファーソン記念館を取り戻すための最終決戦で引っ張り出してきたんだ。いつもここまでの重装備をしてるわけではないが、日常的に戦いを強いられるような世界だった。人間同士で殺し合うレイダーやエンクレイヴだけではなくて、スーパーミュータントとかラッドスコルピオンみたいな怪物もうろついている。敵や危険に事欠くことなんかなかったさ」
「そんな過酷な世界で、あなたは最後まで戦い抜いたのね…」
「…まあ、最終的には助からなかったがな。それで、死んじまった俺は、この先どうなるんだ?」
いよいよアクアは、本題を告げるべき時だと思い、大きく息を吸い込む。彼女本来の“仕事”、つまり、地上で役目を終えた魂を導くための説明だ。
「私が導ける行き先は、大きく3つあるわ。一つは……完全に“生まれ変わって”、赤子から新しい人生を始めることね」
「へえ…どうでもいいが、俺が生まれた場所も、最後にくたばった場所と同じジェファーソン記念館なんだよな。親父のジェームズから、そう聞かされた。母さんは俺を産んだ直後に亡くなったらしいけど…なぜか親父が、生まれてきた俺をじっと見て『男の子か! じゃあ“ジェイデン”って名付けよう。将来はきっと、こんな顔になるんだろうな』って、えらく楽しそうに話してて、母さんはそれを笑いながら聞いていたけど、急に弱ってきてしまって、それで…そんな光景が、なぜだか目に浮かぶんだ…。そういうところから、またやり直すのか」
彼の口調はどこか淡々としているが、その奥には失われた過去へのかすかな想いが滲んでいるようにも見える。アクアは、その何とも言えない切なさに胸を痛めつつ、次の言葉を探していた。
「二つ目はね、“天国的なところ”で永遠の安らぎを得ることよ」
「…ずいぶんふわっとしてるな。女神の説明がそんなにいい加減でいいのか?」
ジェイデンは眉をひそめながら尋ねた。彼は自分を産み落としてすぐに亡くなった母が、熱心に聖書を読んでいたと父から聞かされていたことを思い出していた。その影響で、神や天界には曖昧ながらいくばくかの理想があったが、今目の前で繰り広げられている説明は、それとはかけ離れたものに思える。
「現実はそうなんだから仕方ないでしょ!」
アクアは肩をすくめて応じる。「天国の実態なんてそんなものよ。一言で言うとね――“安全だけど恐ろしく退屈な場所”。穏やかな魂がまどろむだけの空間だし、それに……」
突然、アクアの表情が変わった。思わせぶりな笑みを浮かべながら、ジェイデンに歩み寄る。その顔が彼の耳元にまで近づき、吐息が肌にかかるほどの距離まで迫った。
「…エッチいことも、できなくなっちゃうわよ…」
その一言。もしこれが経験の浅い少年だったなら、たちまち顔を真っ赤にしてドギマギしていただろう。だが、あいにくジェイデンは、これまでの人生で一癖も二癖もある相手との駆け引きを散々経験してきた男だ。この「誘惑」も彼にはさして効果をもたらさなかった。
「……女神が肉欲を推奨していいのか?」
呆れたような声でそう返すと、ほんのわずかに身を引いたアクアが舌打ちするのを、ジェイデンの優れたPerceptionはしっかり捉えた。彼は内心で苦笑した。この軽薄な態度――これが彼女の“地”なのだろうと、妙に納得する。
さっきまでの真剣な話はどこに行ったのか。落差に戸惑いながらも、彼はその先を促すようにアクアのほうをじっと見る。
すると、アクアはまたも勢いを取り戻し、朗々と声を張り上げた。
「それで、あなたみたいな人に一番のおすすめは…その、前の世界を救ったばかりのあなたに頼むのはちょっと気が引けるけど……」
一呼吸置いて、さらに大げさなジェスチャーを付け加えながら続ける。
「魔王を討伐して、救ってもらいたい世界があるの!!」
「…本気かよ」
ジェイデンは額に手を当てて、突拍子もない申し出に小さく溜息をついた。だがその表情は完全に呆れ切っているわけではない。どこか、この妙に軽い話の流れに興味を引かれている自分がいることを否定できなかった。
「クエストをこなす…いや、頼まれごとを押し付けられることが多い人生だったが、まさか死んだ直後にまた仕事を押し付けられるとはな」
「地上でいっぱい、クエストをこなして人助けをしていたのね!まるで『冒険者』じゃない!!」
アクアは手元の「死者の記録」を再確認しながら、ジェイデンの経歴に感心している様子だ。廃墟や未知の地に果敢に踏み込み、困っている人々を助けてきた彼の行動は、アクアの目には「最適任」の人材そのものに映っていた。
(これなら、これから押し付ける...もとい、授けようとする任務も問題なさそうね!)
アクアは心の中でそう確信すると、大仰な仕草で説明を始めた。
「改めて説明するわね!極悪非道にして強大無比な魔王と、その軍勢によって滅びの道をたどっている、本来ならば平和な世界があるの!その素晴らしい世界は、魔王の手によって危機に瀕しているわ。そして、その世界は救世主、勇者を求めている!非業のうちに倒れた勇敢な魂を、勇者候補生として導く、それが、本来の私の役目なの!」
アクアは胸を張りながら、自信満々に言い切った。しかし、その余韻も束の間、次に説明すべき「これから転生する世界」のイメージをどう伝えるべきかで一瞬言葉に詰まる。
(ニホンから来た人だったら、『あなた、ゲームは好き?』で一発で通じるんだけど…)
アクアは少し悩んだが、ジェイデンの反応は予想外に早かった。
「…『グロッグナック・ザ・バーバリアン』みたいなものか?」
ジェイデンは少し考え込むように呟いた。彼の頭には、自分が一番好きなアメコミの中の「剣と魔法の世界の英雄譚」の風景が浮かんでいた。
「そう、それそれ!!」
アクアの顔が一気に輝いた。「そっちの世界のアメコミっぽいそれ、そんな世界!!」
「…そう聞いたら急に胡散臭く聞こえてきたぞ」
ジェイデンは額に手を当て、呆れたようにため息をついた。彼の中で「魔王討伐」という壮大な話が、急速にチープな冒険譚に変わりつつあるのを感じていた。
「転生の仕組みとか、転生先の詳しいこととかは、このパンフレットに書いてあるから、読んでみて!」
アクアは満面の笑顔で、きちんと印刷されたパンフレットをジェイデンに差し出してきた。その手際の良さに、ジェイデンは一瞬だけ感心する…が、すぐに違和感が胸をよぎる。
(いくらなんでも用意が良すぎないか…)
彼女の無邪気な笑顔を見ながら、どこか胡散臭さを感じずにはいられない。だが、とりあえず渡されたパンフレットを手に取り、パラパラとめくってみる。
「…日本語か?俺には読めないな。」
ジェイデンがパンフレットの、彼にとっては見慣れない文字を見て首を傾げると、アクアは「あっ」と声を上げた。
「ごっめーん!今までにアメリカの人がここに来たことは……えっと、あったような、そうでないような…。とにかく英語版はこっちよ!地球の主な言葉のパンフレットは全部置いてあるから!」
そう言って、別のパンフレットを取り出して差し出してくる。
「それにしても……」
ジェイデンは英語版のパンフレットを受け取りながら、ぼやくように言った。
「俺の天界に対するイメージが、だいぶ俗っぽいものになってきたよ。」
「え? 俗っぽい? そんなことないわよ! 天界はちゃんとしてるんだから!」
アクアは胸を張って否定するが、その言葉がさらにジェイデンの不信感を煽るだけだった。
パンフレットを開き、英語版をざっと読み始めるジェイデン。内容は大方アクアが言っていた通りのことが書かれていたが、やたらと「New world is waiting for you!」(新しい世界が君を待っている!)や「Live your best life in another world!」(異世界で最高の人生を!)といった、Vaultで見かけたプロパガンダに似たキャッチフレーズが多い。
(……なんだこれ、戦前の企業広告みたいだな)
ふと目に留まった小さな文字で印刷された目立たないコーナー。見出しには「Important Notice」と書かれている。
(こっそり重要事項を書くあたり、何か隠したいことがあるな…)
ジェイデンは眉をひそめ、苦労しながらその小さい文字を読み解いていく。そこに書かれていた内容を要約すると、こうだった。
「異世界で言葉に不自由しないために、転移の際に脳に負担を掛ける形で瞬間的な言語学習が行われます。ごくまれに知能の低下等の重大な副作用が生じる可能性があります。転生を希望するすべての者はこのリスクを全面的に容認し、天界への賠償請求権の一切を放棄するものとみなします」
ジェイデンはパンフレットから顔を上げ、目の前でニコニコしているアクアをじっと見つめた。
「ところで、異世界に転生するにあたって重要事項の説明とかはあるのか?」
アクアはその問いに、満面の笑顔で答える。
「全く問題なし! 安全・確実・快適な転生を保証するわよ!」
その自信満々な態度に、ジェイデンは内心でため息をついた。もしも「言語学習」で万が一のことがあったとしても、フルーツとチーズの詰め合わせでごまかしそうな勢いだ。
(…アクアの、というよりも天界のモラルはヌカ・コーラ社みたいなたちの悪い戦前企業と同レベルなのか…知りたくもなかったな)
ジェイデンはパンフレットを閉じ、再びアクアに視線を向ける。彼女はまだ笑顔を浮かべたままだ。
「まあ…俺に選択肢はないようだが。」
そう呟くと、ジェイデンは軽く肩をすくめた。