Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World!   作:Survivalist

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「女神様そのもの」よりはさすがにリソースは消費しないかと


Reincarnation!(3) 

「それじゃ、最後の手続きに入るわよ」

 

 アクアは手を翳すと、背後の空間が淡く光を放った。

 

「せっかく転生者を送り込んでも、慣れない環境ですぐに死んでしまっては意味がないから、天界からひとつ、特典を授けることになっているの」

 

 彼女の声には、事務的な響きが混ざっていた。

 

「転生者のあなたに、何物にも負けない力を授けてあげましょう。例えばそれは、あなただけの強力な特殊能力。それは、あなたのための伝説級の武器。さあ、どんなものでも一つだけ、異世界へ持っていく権利を差し上げましょう」

 

 光の中から次々と紙片が現れ、ジェイデンの足元に整然と並んでいく。それは「特典」のカタログだった。

 

 「俺の一回目の『転生』のときは、せいぜいバットと10ミリピストルしか手元になかったけどな」

 

 ジェイデンは、19歳まで暮らしたVault101から追放され、キャピタル・ウェイストランドに放り出された日のことを思い出していた。あの頃の装備の心もとなさ。未知の荒廃した世界への不安。

 

 ジェイデンはふと「魔剣グラム」の性能が書かれたパンフレットを拾い上げた。一仕事終えて、転生者が特典を決めるには時間がかかるからと、こっそり「ジャンクフード」の包装を開けてつまみ食いをしようとしていたアクアは、これを見て慌てて駆け寄ってきた。

 

「あ、ごめんなさい!それ、この間マツルギさんだかムツルギさんだかって人に渡したばっかりなの、他のじゃダメ?」

 

 アクアが指をかざすとその用紙には大きく「SOLD OUT」のスタンプが押された。

 

(在庫の管理どころか人員の扱いも雑だな…転生者も送りっぱなしですぐに忘れているようだし、俺も彼女に出まかせを言われていないか不安になってきた)

 

 とはいえ、その仕様を読んで、ジェイデンは目を見開いた。

 

 攻撃力は常識外れ。STR、END、Melee Weaponsスキルへの補正値は彼の知るどんな装備品をも凌駕している。さらには特殊な遠距離攻撃能力まで備えているという。

 

(この剣があれば、Vault101を出たばかりの頃の俺でも、スーパーミュータントの群れを片付けられたかもしれないな)

 

 他の「特典」も、法外な性能のユニークアイテム、あるいは特殊かつ強力なPerkかこれでもかというほどに並んでいて、目移りするほどだった。

 「特典」のPerkのひとつに、「Profound Magic」(超魔術)というものがあった。説明には「魔術師系スキルの即時全習得、および魔力の飛躍的向上」とあったが、具体的な内容はいまいちつかみきれなかった。しかし、これから先は「剣と魔法の世界」での戦いになることだけはつかみ取れた。

 

しかし、ジェイデンは首を傾げた。

 

(だが…冒険は強力なユニークアイテムやPerkひとつあればいいというわけでもない。食料も薬品も、何より水が確保できないと…)

 

 無意識に、背後を振り返る。

 

 そこには、背面側のハッチが開いたままの「冬用T-51bパワーアーマー」が、静かに佇んでいた。その隣には、ガトリングレーザーの中でも特別なカスタム品、「ベンジェンス」が置かれている。

 

これらは、彼にとって紛れもない「神器」だった。

 

 そして、それらは単なる性能の高いユニークアイテムというだけはない。キャピタル・ウェイストランドの過酷な環境の中で、幾度となく彼を助け、共に戦い抜いてきた、まさに戦友とも呼べる存在だ。

 

(確かに、これらの『特典』は強力だ。だが…)

 

 

 

 黙ったままじっとどうするかを考えこむジェイデン、「ねー、まだー?」という言葉が喉まで出かかるが、ジェイデンには一応の敬意を払って黙ってジャンクフードをかじり続けるアクア。ジェイデンはやがて、意を決したように顔を上げると、アクアのほうをまっすぐに見据える。

 

「既存のユニークアイテムやPerkをもらう代わりに…このパワーアーマーや、俺が今装備しているもの一式ごと、俺を転生させてくれないか?」

 

 その一言に、アクアは目を丸くして、食べかけのジャンクフードを口元からポロリと落とす。

 

「ちょうどジェファーソン記念館を取り戻す最終決戦のために選び抜いた装備が手元にそろっている。どれも使い慣れてるし、俺にとっては最適だ。」

 

 ジェイデンの声には、揺るぎない決意が宿っていた。彼にとってこれらの装備は、単なる道具などではなく相棒ともいえるものだった。

 

 アクアは一瞬言葉を失ったが、すぐに慌てたように声を張り上げる。

 

「ちょ、ちょっと! そんな要求、今まで一度も聞いたことないわよ!」

 

 彼女は両手をバタバタさせながら、困惑した様子を隠しきれない。

 

「だって、二ホンから転生してきた人たちはみんな“特典”を授けてあげないと、どうにもならなかったわ。“神器”や“Perk”がなければ現地でやっていけない人たちばかりだったんだから!」

 

 ジェイデンは肩をすくめ、小さく息を吐く。

 

「俺は違う。こうして選び抜いた装備は、過酷なキャピタル・ウェイストランドを生き抜くために必要だった。何度も俺を守ってくれたし、使い勝手も熟知してる。新しい世界でも、こいつらと一緒に戦いたいんだ。」

 

 アクアは頭を抱え込んで唸るように呻いたが、天から清らかな声が降りてくる。

 

「誠に恐れ入りますが、特例は安易には認められません、アクア様のほか、もう一柱の神格者の認証が必要になります」

 

「もう天使を通して上級神からの返事が来た!?しかも即断でダメって!」

 

 アクアは声の降ってきた方向に顔を向け、その先に向かって叫ぶように抗議する。

 

「ちょっと、これぐらい何とかならないの!?この人すごいのよ、それでもダメ?!」

 

「天界の規則にみだりに例外を作るわけにはまいりません、繰り返しになりますが、アクア様以外の神格がお認めになれば、この取り扱いは認められます」

 

「まあ仕方がないな、難しそうなら無理しなくていい」

 

 ジェイデンは天界のお役所仕事ぶりに苦笑しながらも、パワーアーマーはあきらめる他ないと思い始めていたが、アクアのほうは違った。天使を通した上級神の返答に、唇をかんでいたが、やがて、真剣な表情でジェイデンのほうに向きなおった。

 

「命の水のために尊い犠牲を払ったあなたのたってのお願いを聞き届けられない、なんてたとえ主神様が許しても、水の女神のこの私が許せるわけがないわ!この案件、何としても通して見せるわ!もう一柱の神の認証が必要?それなら、あたしの後輩を動かしてみせる!」

 

 そう言うなり、アクアはどこからか奇妙な情報端末を取り出した。見た目はスマートフォンに似ているが、天界の技術で作られているらしく、現世のものとはまるで異質な雰囲気を放っている。すぐにアクアは、誰かに向かって通話を始めた。その口調は、まるで近所の友人と世間話をしてるのを変わりはなかった。

 

「もしもし、エリス? あたしよ、あたし! え? 仕事中に私用電話はやめろ? そんなこと言ってる場合じゃないのよ!」

 

アクアは、どこか焦った様子で端末を握りしめ、声を張り上げた。その姿を見ながら、ジェイデンは苦笑を浮かべる。女神だというのに、この軽薄さは一体なんなのだろう。

 

「これからそっちに行く転生候補者がね、いつもの景品…っと違った、特典の神器とかじゃなくて、自分の装備一式を持ち込んで転生したいって言ってるのよ!パワードスーツみたいなのとか、武器とか、ぜーんぶよ!」

 

電話口の相手――エリスというらしい――がどんな反応をしているのかは聞こえない。だが、アクアの表情と発言から判断する限り、かなり戸惑っているようだ。

 

「え?そんなの通るわけがない?そうなのよ!ついさっき上級神に却下されて、通そうと思ったらもう一柱の神の認証が必要だって!その認証をあんたに…無理言わないでください、ですって?!そこを何とかしてほしいのよ! だって、このジェイデンって人、とってもすごいんだから! 水の女神であるあたしがほっとけるわけないでしょ!」

 

アクアはまくし立てるように話し続けたが、やがて電話口のエリスが何かを言ったのだろう、彼女は一瞬黙り込んだ。そして、しばらくの沈黙の後、渋々といった様子で頷いた。

 

「はぁ…仕方ないわね。じゃあ、こっちまで来て確かめてよ! あたしの執務室に転移してきて!」

 

電話を切ると、アクアは満足げに腕を組んだ。

 

「ふふん、エリスが直接来てくれるって! これで話が早くなるわ!」

 

その言葉の直後、部屋の中央が淡い光に包まれた。光の中心から現れたのは、流れるような白銀の髪を持つ女神だった。彼女の姿は、アクアとは対照的に荘厳で、威厳と柔和さを兼ね備えている。

 

「エリス、来てくれてありがと!」

 

「アクア先輩、また無茶なことを…」

 

 エリスは軽くため息をつきながら、ジェイデンに目を向けた。その視線は優しくも鋭く、彼を見定めるようなものだった。

 

「このように安易に転生者の希望を聞き入れて、特例を認めることは……」

 

「あたしの前でそんな堅苦しいこと言わないでよ、エリス! それに、このジェイデンって人、すっごいんだから! 元の世界で『命の水』のために犠牲になったと聞いたら、水の女神のあたしとしてはほっとけないでしょ!」

 

 アクアは得意げに胸を張りながら言った。その横顔を見て、ジェイデンは思わず苦笑する。軽薄さが目立つ彼女がここまで熱心になるのは、少し意外だった。

 

 エリスは再びため息をつきながら、ジェイデンの方に歩み寄った。そして、手をかざすと、彼の「死者の記録」を読み始めた。

 

 最初はどこか事務的な表情だったエリスだが、読み進めるにつれて、その顔つきは次第に真剣なものへと変わっていった。やがて、全てを読み終えると、彼女は深く息をつき、ジェイデンに向き直った。

 

「ここまで真剣なアクア先輩を見たのは実のところ初めてです。ですが、理由は理解できました。尊い犠牲を払い、元の世界で多くの人々の希望となったあなたに、私としてもお力添えいたしましょう」

 

 その声は柔和かつ厳かで、先輩のアクアよりもよほど女神らしかった。ジェイデンは思わず姿勢を正し、軽く頭を下げた。

 

「ありがとうございます、エリス様」

 

「あたしに感謝しなさいよね!ジェイデン」

 

「まだ特例が認められたわけではありませんよ先輩、まずは、持ち込みたい装備をよく見せていただかないと」

 

 そう言って、エリスは執務室にたたずむt-51bパワーアーマーとガトリングレーザー「ベンジェンス」のほうに歩み寄る。ジェイデンのほうは、他に持ち込みたい装備の一式を、どこからともなく取り出して床に並べていく。何丁もの銃火器はともかくとして、あきらかに二ホンどころか地球の技術体系とは逸脱している光学兵器らしきものが視界の隅に飛び込んできたような気がするのを、アクアはあえて見て見ぬフリをした。

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