Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World! 作:Survivalist
エリスは初めて見る「機械の鎧」を慎重に鑑定しながら、静かに言葉を紡いだ。
「この、パワーアーマーと呼ばれる白い“機械の鎧”と、ガトリングレーザー、そしてほかの装備も、ニホンより進んだ文明の産物のようですね。特にパワーアーマーにあなたが寄せる信頼はよくわかりますが…」
彼女がまじまじと観察しているパワーアーマーは、鎧というよりはパワードスーツの類で、言うなればこの世界の“魔導鎧”に近いだろうか。エリスの口調はどこか興味深げだ。
「物理的な防御力は極めて高い水準ですが、魔法や呪術に対しては、防御が施されていないようです。このままでは、意外と脆弱な部分が残るかもしれませんね。」
「はは、やっぱり“グロッグナック・ザ・バーバリアン”みたいな世界ってわけか。何でもありだな。」
ジェイデンは小声で皮肉を呟きつつも、異世界には異世界なりの“攻撃手段”が存在することを納得している様子だった。
「ですが、パワーアーマーとガトリングレーザーというしっかりした“素体”を生かして、これらにアクア先輩と私が永続的な加護を与えて、通常の神器の性能には及ばない“準神器”に改修させるという形でなら、「特典」に代わって私たちに与えられるリソースを有効に活用できると思います。ほかにも多数の銃火器や防具、Aid──薬品などを持ち込まれているようですが、それらを転移させるリソース配分を考慮しても…まだもう少し、追加の特典を付けられそうですね。」
エリスの言葉に、ジェイデンは軽く目を見開いた。異世界の女神が、自分の世界の装備を評価し、しかも“さらに強化可能”だと言っているのだ。
(異世界では魔法や呪いという概念が当たり前に存在する…けど、それに対抗する方法はあるんだな。いまだに実感は湧かないが…)
だが、パワーアーマーを持ち込むにあたっての、一つの問題にエリスは気づいた。少し考えてから、エリスは微笑みながら、ジェイデンに問いかけた。
「ところで、地上世界ではずっとその“パラディン”が使うような鎧を着て過ごすおつもりでしたか?」
「…そこをどうしようかと考えていた。ずっとパワーアーマーを装着して動くつもりはないぞ。動力源のフュージョンコアを無駄遣いしたくないし、何より目立ちすぎる。かといってパワーアーマーのフレームは俺一人で担いで持ち歩ける代物でもない。使わないときはどこかに隠しておくしかないだろうが…異世界に場違いな技術の産物を一時でも放置するのはまずそうだ…」
ジェイデンはようやく、異世界においてパワーアーマーを運用する際にまつわる困難やリスクに思い至った様子だ。しかしエリスは、そんな彼に意外な提案を持ちかける。
「それならば、パワーアーマーのフレームや、当面使わない装備を“いつでも持ち運べる”方法を用意してあげましょう!」
「……言ってる意味がわからない。」
彼が首を傾げると、エリスはイタズラっぽい笑みを浮かべ、軽やかな口調で続けた。
「簡単に言えば、重量や容量の負担がゼロになる“異空間”を持てる特別なPerkを授ける、ということです。いつでも必要なときに取り出せる“物置”みたいな空間ですね。屋敷といえるほどの家屋を、手で抱えられる箱ほどに圧縮して持ち歩く術式は、地上でも希少ながら実用化されています。あなたに授けられるのは、小さな物置ほどのミニチュア版といったところでしょうか」
ジェイデンは思わず目を丸くした。
(…要するに、パワーアーマーや不要な装備を“魔法の倉庫”に仕舞いこんでおける、ってことか?)
しかし、すぐに「それで十分だ」とエリスに返事をする。ウェイストランドを生き抜いた彼にとっては、面倒な装備の重量管理から解放されるだけでもありがたい。それ以上に、異世界の「非常識」を再認識し、思わず苦笑いがこぼれる。
(まったく、ここはなんでもアリなんだな…)
「特典の代わり」の概要がまとまった所で、アクアとエリスが揃って、上層の神に向かって、祈りという形で申請を始めた。
「えーっと、ここにいるジェイデンって人、すっごく頑張ったんですよ!命を懸けて戦って、みんなを助けて…だから主神様、どうかご褒美をあげてください!私もちゃんとお祈りしますから!」
「主神様、生命を守り導く者として、この者が捧げた尊い命とその行いを見守り、どうかさらなるご加護をお授けください。この者の努力と献身が、より多くの人々を救う力となりますように」
ジェイデンはアクアとエリスの横で彼女たちに倣って膝をつき、自分のパワーアーマーを何とかしてくれ、と祈る代わりに、軽薄だが情に厚いアクアの祈りが、天上に届くことだけを願っていた。
すぐに、天上からの声が響いた。
「承りました。通常の転生者特典に相当するマナの使用許可が下りています。有効に配分して奇跡を起こして下さい」
何もないところから、白く輝く光とともに、翼を生やした天使らしい女性が顕現し、上層の神に祈りをささげていたアクアとエリスの前に膝をつき、小さな輝く砂のような粒子を乗せた器を差し出した。すると、輝く粒子がふわりと宙に舞い、アクアとエリスの中へと吸い込まれていく。その瞬間、二人の体から淡い光が放たれ、奇跡を起こす力が与えられたことを示していた。
「主神様の寛大なる思し召しとお恵みに、感謝いたします」
「やったわ!このマナを使ってあの”パワーアーマー”に祝福を与えたら、無敵の神器にしてあげることが出来るわね!」
「それよりも先に、そのパワーアーマーを持ち運ぶための特別なPerkのためにリソースを使わないといけないんですよ。それから…もう一つ、ジェイデンさんが転生するに当たって、彼の…そうですね、アクア先輩の言い方ですと「ステータス画面」を、これからの世界の
そう言って彼女は、ジェイデンが左腕に装着しているデバイスに視線を向けた。日本の基準から見れば、相当レトロで重厚な、液晶より古い形式のモニターが特徴の「Pip-Boy」。ジェイデン本人にとっては生命線とも言える個人用情報端末だ。
「こいつが重要なデバイスだとはひと言も言わなかったが、気づいてたのか?」
ジェイデンが軽く眉を上げ、意外そうにエリスに問いかける。
「何これ?二ホンじゃ絶滅したブラウン管テレビってやつ?」
アクアはこれが、Personal-Information-Processor(個人用情報端末)だということにはまったく気が付いていない様子だった。
「少し気になって、あなたの“死者の記録”を見ました。このデバイスは神経系とリンクしていて、あなたの魂とある意味で一体化しているようですね」
エリスは微笑みながら説明を続ける。「地上のマップデータの更新だけでなく、大きなアップデートが必要です」
「アップデート…?」
ジェイデンは少し戸惑いながらも、エリスに左手を差し出す。彼のPip-Boyに向かって手をかざしたエリスの掌から、わずかに光が放たれる。心なしか、Pip-Boyの画面が一瞬明るくなったように見えた。すると、モニターに「Now updating」の文字が浮かび、その上で待機画面…いや、不思議な寸劇が始まった。
画面の中で、Vault-Boyがローブと三角帽の古典的な魔法使いの格好をして歩み出てきた。その前に、角とコウモリの翼を生やした悪魔をデフォルメ化したような敵キャラクターが現れる。Vault-Boyはヌカランチャーを手にするが、何かに気づいたかのように首を振ってヌカランチャーを放り出すと、代わりに魔法の杖を振りかざす。次の瞬間、大爆発が起こり、悪魔はキノコ雲とともに吹き飛んだ――しかし、Vault-Boyもすぐに力尽きたのか、うつ伏せに倒れ伏してしまう。
「…なんだこりゃ」
ジェイデンがモニターを見つめながら呟いたころ、画面が通常のインターフェースに戻った。表面上は何も変わっていないように見える――いや、視界の端にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)のように常に表示されているステータスに変化があった。
「ヒットポイントとアクションポイント…その間に見慣れないゲージがあるぞ…“Magicka”(マジカ)?」
見慣れない項目に気づいたジェイデンが眉をひそめると、エリスが柔らかい微笑を浮かべた。
「そうです、それこそが『剣と魔法の世界』を象徴する力、いえ、魔法そのものの源です。地上世界では、この“マジカ”は魔法を使うだけでなく、『スキル』を発動させ、人々が奇跡を引き寄せるためにも使われます。」
「奇跡を……?」
ジェイデンはマジカゲージに注意を向けるが、今はグレイアウトしていて機能していないようだった。
「あなたたちの世界では、すでに忘れられた力です。ですが、使い方を忘れただけで、魔法と、「マジカ」は、あなたたちの世界にも確かに存在していたのです。転生先の地上では、このマジカが“魔法やスキル”の源としてなくてはならないものになります。ただし、この力は転生先の世界でのみ有効ですから、今はまだ反応しないのです。」
エリスの説明を聞きながら、ジェイデンは静かに頷いた。荒廃したウェイストランドを生き抜くために磨き上げた戦術や装備の運用とは、全く異なる戦い方が必要となる世界――剣と魔法が支配する地――。
そこでは、この“マジカ”とやらが新たな鍵になるらしい。
「少し気になったんだが、「スキル」とやらを使うのにマジカが必要とは、どういうわけなんだ?俺にとってのスキルは、習熟度が上がれば出来ることの増える、技術や知識の集積なんだが…」
その疑問に、床に大きな魔法陣のようなものを書いていたアクアが、ジェイデンたちの方に顔を向けて口を開いた。
「私達の言うスキルは、職業や個人によって習得できる種類が違う、マジカを使って発動させる特殊技能みたいなものよ」
「…アクアの説明で当たっているのか?」
「マジカを使って発動させる」という部分にずっと引っかかりを感じているジェイデンは、エリスに改めて確認する。
「そうですね、これからの世界で言う「スキル」とは、アクア先輩の言った通り、マジカによってもたらされる力ですが、その内容は職業によって様々です。例えば盗賊スキルには「敵感知」「潜伏」などがありますが、それぞれに習得には、冒険者登録時などにクラス(職業)についた時、あるいはレベルアップによって得られるスキルポイントが、使用にはマジカが必要で、覚えられるスキルの系統はクラスによって大きく左右されます」
「敵を見つけるのはPip-boyのレーダーで、潜伏はSneakスキルで賄ってきたな。どちらも技術の産物でマジカとやらを使ったことは一度も…」
エリスは、ジェイデンのPip-boyのデーターを確認し、目の前の彼の佇まいをじっと観察してから、心なしか興味深そうな視線を彼に向けていた。
「あなたの能力値と、Sneakスキルの習熟度から判断した限りでは、よほどのことがない限り、純粋な体術によるあなたの忍び足が敵に気づかれることはないと思います。ですが、盗賊系の上級職が相手となると、「魔法世界のスキル」なしでは切り抜けるのが厳しくなる局面も、出てくると思いますね」
「”剣と魔法の世界”だ、そういうこともあるだろう」
これまで培ってきたスキルは無駄にはならないが、過信は禁物で、現地に適応した戦い方が必要になりそうだと、ジェイデンは解釈した。同時に、エリスがなぜ盗賊系のスキルやその運用に詳しいのか、という疑問も出てきたが、女神なら何でも知っているのだろうということで、このことはあまり深く考えないようにした。
ジェイデンが念のためにPip-boyのステータス画面を覗くと、スキル欄には「Heavy Armor (重装)」、「Archery (弓術)」、「Party-trick」(宴会芸)「Magic」などの見慣れない名前のスキルが加わり、それぞれの習得度の数字の後ろにいくつものアビリティが並んで、大きくスクロールしないと全体が見渡せないほどに複雑化していた。ざっと見てみると、アビリティの詳細には、必要となる各スキルの習熟度や、前提となる能力値などの取得条件と、「必要スキルポイント」がそれぞれ記載されていた。
「新しい「スキル」はクラスとやらを選ばないと覚えられないのか…どうすればいい?」
「地上で冒険者として生活されるのでしたら、冒険者としての身分登録と、能力の測定が、大きな街に設立されている冒険者ギルドにて行われています。冒険者ギルドで「冒険者カード」を作る際に、Pip-boyで表示されるステータスとは違った基準で能力値が評価され、そして、クラスを能力の範囲内で選択することになります。スキルアビリティの習得は、基本的にはスキルの習熟度を上げつつ好みや必要に応じて、あるいはスキルツリーを埋めていく形で、になりますね。ここから先は、冒険者ギルドで実地に説明を受けられたほうが早いですよ」
真剣に説明を聞くジェイデンの横で、感心したように頷くアクア。
「へー、地上じゃそういうシステムになってたんだ」
(…そんなことも知らないで危険地帯に転生者を送り込んでいたのか…)
あまりの無知無関心にツッコミたい気持ちは山ほどあったが、ジェイデンはアクアには、上級神に特例を認めてもらうために動いてもらった借りがある手前、無言でため息をつくに留めた。