Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World! 作:Survivalist
陽の光に照らされて一瞬だけ目がくらんだ。足元に感じるしっかりとした地面の感触。どうやら、異世界とやらに転移したようだ、とジェイデンは思った。
(さて、目の前にどんな光景が広がっているんだろうな)
ジェイデンは、一回目の「新世界」への旅立ち、すなわち、Vault101を追放され、分厚い鋼鉄の扉が閉じられる音を背にしながら初めてキャピタル・ウェイストランドの光景を目の当たりしたときのことを思い出していた。その時彼の前にあったものは核の炎に焼かれた荒れ果てた大地、不吉に曇り続ける空、そして放射能と、砂埃まみれの空気。窮屈だが、文化と秩序のあったVaultの中しか知らなかったジェイデンは、その荒廃した光景を初めて見たときには言葉を失ったものだった。
そして、今、彼の目の前に広がる光景は。
平和だった。
美しかった。
整然と並ぶ石やレンガ造りの建物は、歴史の資料や、「グロッグナック・ザ・バーバリアン」の中でしか見たことがなかった。蹄鉄と木製の車輪が石畳を踏む音を高らかに鳴らしながら、馬車がゆっくりと通り過ぎていく。
「……」
呆然としながら首を巡らせ、現地の人にとっては当たり前の、あるいは日本からの転生者なら、ファンタジーな世界だ、と感想を漏らすような風景を見渡す。周りすべてのものから、目が離せなかった。当たり前の人の営みのほとんどが、最終戦争によって焼き尽くされた世界から来たジェイデンにとっては、何気ないはずの光景すべてが新鮮だった。人間以外の種族も交えた道行く人々、子供たちが無邪気に遊ぶ姿。放射能も、人同士の争いも、絶え間ななく襲い来る外敵もいない、穏やかな日常が当たり前に存在する世界。
ジェイデンは、我に返って大きく息を吸ってみた。町の外の森の香りと、街中の人の生活の匂いがかすかにまじりあった自然かつ温かな空気。彼は思わず「なんて空気がうまいんだ!」と叫びだしそうになった。
「…ここは、シミュレータの中の作り物の世界でもない、エイリアンの宇宙船の中の、清潔だが無機的な空間でもない…」かすれた声で呟いたあとも、ジェイデンは、ただずっと、素晴らしい世界の光景に、圧倒され続けた。
(この素晴らしい世界の風景を一目見られただけでも、転生を選んだ甲斐はあった、そして…俺が「命の水」を求めたのは、こんな世界を取り戻したいという気持ちが、何処かにあったんだろうな)
前の人生では夢に見ることすら叶わなかった穏やかな世界の町並みをゆっくりと歩きだしながらジェイデンは思った。あの荒廃した世界が元通りになることは望めないにしても、その、あるべき理想を目の前にしただけで、彼の胸は満たされた気分になった。
(…そろそろ、次の行動を考えないといけないな。まずは、Pip-Boyが正常に作動しているか、だ)
青いVaultジャンプスーツに重厚なPip-Boyという姿は、どうやらこの町ではかなり浮いているらしい。古風な服装の市民や、中世の頃の技術水準の武器や防具を身に着けた冒険者らしき人々が行き交う街の中で、今更ながらジェイデンは気づいた。早いうちにそれなりの服装を手に入れたほうがいいと思いながら、ちらりと腕のPip-Boyに目をやると、ステータス画面には「発見:アクセル」と表示され、マップ画面でも周囲の建物の配置が正確に反映されているようだ。
(Pip-Boyには異状はなし、と、次は水と食料と寝床か、あとはスキル・アビリティの解放には冒険者登録が必要とエリスが言っていたな。聞いたことのないシステムだが…)
Pip-Boyのクエスト欄に「冒険者登録を済ませる」と打ち込む。ローカルマップ上の面積の広い建物にマップマーカーが記され、そこがギルドのようだ。
(登録がどういう形かはわからないが、まずギルドとやらに行ってみるか)
古風な町並みを物珍しそうに見渡しながら歩いているうちに、市場らしい一角にたどり着いた。野菜や果物の露天の前でジェイデンは目を輝かせた。放射能で汚染されていない食料はVaultの外では貴重品だったが、ここでは当たり前に新鮮な食料が山積みになっている。
ジェイデンは店番をしている中年女性に声を掛けた。
「このリンゴはいくらだ?」
「200エリスだよ」
言葉が通じることにホッとしながら、エリス通貨を何枚か差し出す。店番の女性がリンゴを差し出そうとした瞬間、それはものすごい勢いで店番の女性の手から飛び出して逃れようとする。
「!」
すかさずリンゴをつかみ取るジェイデン。リンゴはなおも、逃げ出そうと動いている。
「やるねぇ、お兄さん。ちゃんとシメといたつもりだったんだけど。食べる前にもう一発入れておいたほうがいいよ」
「…」
ようやく状況を飲み込んでジェイデンはリンゴを潰れない程度の力で握りしめて大人しくさせると、敵を倒したときにどこからともなく響いてくるベルの音が響いてわずかながらExpが上がる。そのリンゴを少々不気味に思いながらもかじっていく。
(この世界は果物からして一筋縄ではいかないのか…だが、味は感動するほどに美味い…)
きちんと育てられた果物はVaultを出て以来で、あっという間に芯まで食べ尽くして通行人に奇異の目で見られながら歩いているうちに、マップマーカーが示すひときわ大きな建物の前に着いた。看板には「冒険者ギルド」と示され、いかにもな感じの武装した、あるいは魔法使いらしい軽装で杖を持った冒険者が頻繁に出入りしている。
扉を開けて足を踏み入れると、半分は酒場のようなにぎやかな空間で、昼間というのに酒を飲んで盛り上がっている冒険者の声が響く。もう半分は窓口や事務所のスペースで、壁には大きな掲示板とクエストや依頼らしき張り紙がある。
(冒険者が集まる場所、か)
ジェイデンが数歩進むと、先に座ってジョッキを傾けていたいかつい外見の男が出し抜けに声をかけてきた。
「…見かけねえ顔だな、ここは、初めてか?」
ジェイデンはその男に目を向けて、モヒカン刈りとごつい外見から、一瞬(レイダーか?)と思ってしまったが、その男の目つきには危険な感じはなかったので話を続けた。
「ああ…そんなところだ」
答えたジェイデンの姿を、「レイダー」は上から下まで見て、面白そうに笑っていた。
「それにしても、妙な格好をしているな、おい」
「遠くから旅を続けてきてね。ここには、冒険者になりたくてやってきた」
「そうかい、それなら、窓口はあっちだぜ…ようこそ、地獄へ!」
ジョッキを上げて宣言するように言った親切な「レイダー」に礼を言ってから、ジェイデンは登録窓口のほうに移動していく。
複数の窓口のうち手近なところの前に立つ。中にいる担当は柔らかそうな金髪と抜群のスタイルが目立つ、受付と言うよりウェイトレスのほうが似合っていそうな容貌の女性で、大きく開かれた胸元の脇にある名札には「ルナ」と記されていた。
「はい、今日はどうされましたか?」
「冒険者になりたくて来たんだが、手続きはここでいいのか?」
「かしこまりました、先に登録料として1000エリスいただきますがよろしいですか?」
「ああ、これだ」
つくづく女神から借金をしておいてよかったと思いながら、紙幣を差し出す。
「ありがとうございます。それでは、冒険者になりたいということですので、ある程度はご存じかもしれませんが、簡単に説明させていただきますね。冒険者とは、基本的にモンスターの討伐を中心に、個人やギルドからの依頼を請け負う“何でも屋”のような存在です。そうした仕事を生業にしている人々の総称が“冒険者”で、冒険者には各種“職業”が設定されています」
「それならば、思っていたとおりだ」
何でも屋、と言われたところで様々な依頼を受けてキャピタル・ウェイストランドを飛び回っていたことを思い出して小さく笑った。
受付の女性は、少し大きめなカードのようなものを差し出す。名前、レベル、ステータス、スキルなどの項目があるが今は空欄になっている。
「こちらが冒険者カードです。レベルという項目がありますね?御存知の通り、この世のあらゆるものは魂を体の内に秘めています。どのような存在も、生き物を食べたり、もしくは殺したり、他の何らかの生命活動にとどめを刺すことで、その存在の魂の記憶の一部を吸収できます。通称、経験値と呼ばれるものですね。それらは普通、目で見ることはできません」
(それを集計するシステムがここにもあるんだが…)
Pip-boyのステータス管理システムと似ている、と思いながら話を聞き続けるジェイデン。
「ですが、このカードを持っていると、冒険者が獲得した経験値が表示されます。それに応じて、レベルというものも同じく表示されます。これが冒険者の能力の目安となり、どれだけの討伐を行ったかもここに記録されます。経験値を溜めていくと、あらゆる生物はある日突然、急激に成長します。俗に、レベルアップあるいは壁を超えるとも言われていますが。要約すると、レベルが上がると新スキルを覚えるためのポイントなど、様々な特典が与えられるので、ぜひ頑張ってレベル上げをなさってください」
「ありがとう、よく分かった」
ほぼ今までやってきたことと一緒だ、と思いながらジェイデンは頷いた。受付の女性の話が本当ならば、剣と魔法の世界にPip-boy並みの個人のステータスを管理するシステムが存在するということになる。これも魔法のうちか、と思いながら見ていると、受付の女性は、カウンターの脇においてある緑色の水晶を組み込んだ機械の下に、冒険者カードを置いた。
「こちらの活力センサーの上に手をかざしてください。あなたのステータスを読み取り、冒険者カードを作成させていただきます」
「これでいいのか?」
言われたとおりにジェイデンが手をかざすと、途端に水晶が輝き出し、驚いている彼が見ている前で作動を始めた機械の下からレーザー光線を思わせる光が放たれ、カードの表面をなぞっていく。光が収まると、受付の女性はカードを手にとって内容を確認していく。
「はい、ありがとうございます、ジェイデン様、ですね。ではステータスを確認させていただきます…あら、他の場所でかなりの冒険をなさっていたのですか?
(マジカが少ない…か、俺達の世界では忘れられた力とエリスが言っていたし、自然も神秘も死に絶えた場所だったからな)
「職業の選択については、上級職の中ですと、最高の防御力を誇る聖騎士《クルセイダー》、最高の攻撃力を誇る剣士《ソードマスター》などが挙げられます。魔術師系や聖職者系は、選べなくもないですが、マジカの低さからおすすめはできないですね。あなたの適性ですと、近接攻撃の能力を兼ね備えた隠密行動の達人《ニンジャ》や、偵察と、弓矢による遠距離攻撃に優れた《レンジャー》をおすすめいたしますが…あら、珍しい上級職が解放されてますね。《冒険者》の上級職《サバイバリスト》も選べますが…」
「冒険者?サバイバリスト?」
「はい、《冒険者》というのは、あらゆる職業スキルを横断的に習得できる“基本職”です。ただし、専門職と比べるとアビリティ取得に必要なスキルポイントが多くなる上に、職業系統による補正もありませんので、大抵は“器用貧乏”になりやすくて選択するメリットはほとんどありません。《冒険者》以外に職業の選択肢のない方には『冒険者稼業はやめるよう』強く勧めているのが実情です」
「スキルを満足に使えないまま冒険に出るのは、死にに行くのと同じということか?」
「その通りです。冒険者というのはとてもリスクの高い稼業ですから。《サバイバリスト》のクラスは、アビリティ習得のための必要ポイント、職業補正はおおむね各系統の基本職と同等で、他の上級職にはない幅広い戦い方が可能です。ですが…漫然とスキルアビリティを取得してしまうと器用貧乏になってしまうという《冒険者》の欠点はほぼそのままで、系統を絞ってアビリティを取得しないと専門の上級職のパフォーマンスには及びません。私の知る限りでは、他の上級職を選択出来る方が《サバイバリスト》になられたことはないですね」
少し考えたのちに、ジェイデンは最初の職業として《サバイバリスト》を選択した。一人で、あるいはコンパニオンを連れて冒険しているときでも、正面切っての白兵戦、遠距離からの銃撃戦、さらには潜入や不意打ちまで、ありとあらゆる戦い方をこなすことが習慣となっている彼にしてみれば、特定の系統の専門職に就く気にはなれなかったのだ。いつの間にか新入りの様子を見にジェイデンの周りに集まっていたほかの冒険者たちは、受付の女性の言葉にざわめき、ジェイデンの選択肢に意外そうな表情を浮かべた。
「レベルと能力値からして只者じゃねえな…本当に新人か?」「変な衣装と剣ね…二ホンからの転生者?なんかちょっと違うような…」「《サバイバリスト》を選ぶ奴は初めて見るぜ」「金髪碧眼…貴族か王族っぽいし強そうだから今のうちにお近づきになっちゃおかな」
「《サバイバリスト》ですか、珍しい選択ですがあなたの基礎能力とレベルでしたらアクセルの町の周辺ではほとんど危険はないと思います、ですが、油断はなさらないでください。冒険者ギルドへようこそジェイデン様、ギルドのスタッフ一同、そしてここにいらっしゃる冒険者の皆様が、あなたの活躍を期待しています」
満面の笑みでジェイデンに冒険者カードを差し出す受付の女性。カードにはレベルや攻撃力、魔力、その他のステータスが数値で示されているが、どうやらPip-Boyで表示されるS.P.E.C.I.A.L.値とは違う形でレベルやスキルで補正が加わり、“実測値”として表示されているらしい。
そして、カード右上の《サバイバリスト》の職業アイコンは…
(どうしてVault-Boyの横顔が描かれているんだ?)
窓口の脇に記された「冒険者カード見本」によれば、この部分には各職業を象徴するアイコンが描かれているはずだった。
一方で、周囲の冒険者たちは有望な新人が現れたとばかりに大騒ぎだ。歓迎と好奇心が入り混じった視線を向けられ、ジェイデンは軽く手を振って応じる。
(まあ、例外中の例外の転生者の俺にはある意味似合っているか)