Fallout3 DLC:Goddess’s Blessing On This Wonderful World!   作:Survivalist

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運命からは逃れられない


Big Trouble from a Not-So-Little Lady(1)

 被験者と言うより、生贄になるように、特徴的な赤い瞳をギラギラさせながらかき口説くもえもえの前で、現実逃避をするように遠い目をしながら、ジェイデンは、「モイラ・ブラウン」と、ウェイストランド・サバイバルガイドの一件を思い起こしていた。

 

 Vault101を追放されて最初にたどり着いた街「メガトン」で、ジェイデンは雑貨店を営む若い女性に出会った。彼女は、見ず知らずのVault居住者であった彼に気さくに話しかけてきて、サバイバルガイド執筆のための協力者を探していると告げてきた。当時のジェイデンは、特に考えもなく、いや、モイラの満面の笑みとテンションの高さに押し切られるような形で、その申し出を受け入れた。

 

 それが、地獄の始まりだった。

 

 食料や医薬品を得るためにスーパーの廃墟を探索してほしいと言われて、そのスーパーを根城にしていたレイダーに取り囲まれて一対多数の戦いを切り抜ける羽目になった。

 

 治験の名目で重度の放射能障害をわざと引き起こすよう求められただけでなく、体のどこかを重傷にすることまで求められ、仕方なく放射能汚染された水を体が発光するかと思えるほどがぶ飲みし、自殺同然に高いところから飛び降りて、折れた足を引きずりながらモイラのところまで戻った。

 

 地雷処理を求められて現地に行ってみると、それを仕掛けたであろう人物から高所から狙撃され、地雷処理に手間取っている間に、近くにあった、動力である原子炉が燃え残っていた廃車が爆発した。

 

 ミレルークという化け物蟹の生態を観察する道具を仕掛けてほしいと言われ、できれば観察対象の蟹を傷つけないで、と付け加えられて、強力な爪を振りかざすミレルークから逃げ惑い、殴られながら、なんとかカメラを仕掛けた。

 

 今思い返しても、その「調査」の間で死にそうになった回数は数え切れないほどだった。だが、知識と実践を伴った「サバイバルガイド」執筆のための調査は、結果として、安全な環境から放り出された直後の、キャピタル・ウェイストランドの危険性について、そして、生き残るとはどういうことかについて、何も知らなかったジェイデンを、短期間で一人前の「冒険者」に育て上げたのだった。

 

 

 

「…それで、今のもえもえは、冒険者ギルドに技術顧問になれるよう、売り込みをかけているのか」

 

 ジェイデンは意識を半分飛ばしながらも、もえもえの話の肝心な部分は聞き逃さなかった。

 

「技術顧問になれたらビジネスチャンスが広がるから!そのためには実験データがたくさん必要なのよ!」

 

もえもえが熱心に説明する。

 

「それで、俺に協力してほしいってわけか?…被験者というよりも”実験台”として」

 

 ジェイデンはため息をついた。

 

「そう!あなたならどんな実験でも大丈夫でしょ?お願い、協力して!」もえもえの赤い瞳がキラキラと輝く。

 

(完全にモイラのときと同じパターンだな…)

 

「実験の内容次第だ。それと、俺はこの街に来たばかりで装備もろくに揃えてないし、持ち合わせも多くない。第一飯と宿のあてもない…そのへんは、何とかしてくれるのか?」

 

「そうなのね。それじゃあ、今日からここで泊まってく?」

 

 屈託のない笑顔で返すもえもえに頭を抱えるジェイデン。この女はどうにも苦手だと、はっきりと思い始めていた。

 

「そういうつもりで言ったんじゃない。いざとなれば狩りと野宿でなんとかするが、治験の間、宿代ぐらいはなんとかしてくれ。報酬はそれほど多くなくていい」

 

「良かった!紅魔の里の知り合いで協力してくれる人はいないし、ギルドを通して募集した被験者さんがみんな入院しちゃったから、今はいくら募集しても一人も来ないの、助かったわ!」

 

(どれだけ無茶な実験を繰り返してきたんだ…だが)

 

自分を被験者にしたいという目的があるとはいえ、もえもえはこの世界にとってはよそ者の転生者である自分に極めて好意的な上に、未知の科学技術にも好奇心と観察力を見せている。彼女の協力を得られるようにしておこうとジェイデンは思い。「まあ、構わないが、死なない程度に頼むぞ」と答えておいた。

 

「本当!ありがとう!とっても嬉しい!!」

 

 ひときわ明るい笑顔を浮かべながら、座ってるジェイデンのもとに駆け寄り肩のところにぎゅっと抱きついてくるもえもえ。見目麗しい女性に密着されてはいるが、小柄な体に似合わない強い力でのハグは「絶対に逃さない」というもえもえの揺るぎない意志を表現しているようで、彼からすれば全く嬉しくない状況だった。

 

 

「それじゃ、実験に協力してくれる記念に防具をひとつあげるわ!」

 どうやら装備が欲しいという最初の話は忘れていないようで、防具を陳列してる一角にジェイデンを案内するもえもえ。駆け出し冒険者向けのものは主にレザーアーマー系が主流で、コンバットアーマーの先祖のような金属鎧も置いてあった。だが、防具を吟味してるジェイデンを、もえもえは何かを言いたそうにじっと見ている。

 

「なにかおすすめでもあるのか?」

 

「この青いスーツ、すごくかっこいい!だからそれのデザインを活かした部分鎧をチョイスしてあげるわ!」

 

「俺の世界の服は、この町じゃ浮いていないか?」

 

「そこがかっこいいんじゃない!任せといて!!」

 

 紅魔族は言動のみならずセンスもどこかズレているのだと、「深淵の淵」の店構えも思い出して遠い目をするジェイデンにはお構いなしに、もえもえはショルダーアーマーやベルトなど、部分鎧をチョイスしてジャンプスーツに貼り合わせていく。時折、魔法のような光を指先に灯しながら、金具を溶接するような動きで微調整を加えていく。その手際の良さに、ジェイデンは思わず感心した。これが、剣と魔法の世界の「スキル」であろうか。

 

 それほど時間もかからず、ジャンプスーツはショルダアーマーとベルト、肘や膝をガードするパーツの加わった、動きやすさと防御力を併せ持った姿に生まれ変わった。

 

(自宅に置いてきてしまった、アーマードジャンプスーツに似た姿になったな…)

 

「ありあわせでよくここまで出来るもんだな。こいつはVault101アーマード・ジャンプスーツと呼んでいいか?」

 

 少しだけ動いたり、ジャンプしてみて防具としてのバランスの良さに感心するジェイデン。期せずして「改良型Vault101アーマード・ジャンプスーツ」を手に入れられる形になった。

 

「気に入ってもらえてよかったわ!早速だけど、前々からやってみたかった実験があるの!手続きが済んだら、明日の朝からギルドでの公開実験の形でしてみたいけど…いいかな?」

 

 急に上目遣いになって、少女が頼み事をするときのような態度で問いかけてくるもえもえ。そういう趣味の男なら抗いようがないだろうな、とため息をつきそうになりながら、ジェイデンは「ああ」と答えた。

 

「ありがとう!それで、実験のときには…各種の毒物を大量に飲んでもらうことになるわ」

 

「…は?」

 

 思わず聞き返すジェイデンに、もえもえは熱心に説明を始めた。

 

「この世界ではね、ポイズンスライムを始め有毒なモンスターが数多く存在するの。でも問題なのは、そういった毒に対する対処って結構難しいの。毒を受けた時の応急処置って、基本的にアークプリーストか、ポーション作成に長けたウイザードしかできない上に、そういう冒険者って圧倒的に少ないから」

 

「解毒剤を持ち歩けばいいんじゃないのか?」

 

「そう単純じゃないのよ。ただがぶ飲みすればいいってものじゃなくて、毒の種類によって使い分けが必要なの。そんな知識やスキルを持つ冒険者も、またまた少ないわけ」

 

 話しながら、もえもえは研究者らしい真剣な表情を見せる。

 

「私が目指しているのは、万能に近い解毒剤の開発なの。でもそのためには、できるだけ多くの種類の毒物を飲み込んだ被験者を前にして、様々な調合を試す必要があるわ。当然、今までは限定的な実験しかできなかったけど…」

 

 そこでもえもえは、期待に満ちた目でジェイデンを見つめた。

 

「あなたの並外れた生命力があれば…!」

 

(なるほど、そういうことか)とジェイデンは納得する。確かに、普通の人間ではまず引き受けられない類の実験だろう。

 

「ここまで来た以上やるしかないな。明日の朝でいいのか?」

 

「決まりね!それじゃ、協力してくれそうなメイジやヒーラーに声をかけながらギルドに行きましょ!」

 

 店を出て扉に「外出中」の看板をかけてから、もえもえはジェイデンと連れ立って街を歩きながら、店を開いているメイジやヒーラーに「明日の朝、実験を行う」と次々に伝えていった。

 

 そのたびに、メイジたちの瞳が輝き、ヒーラーたちが興奮した様子を見せる。ほとんどの術者は、この危険極まりない人体実験に興味津々だった。

 

「これをぜひ実験で使ってくれ!」と、毒々しい色の液体が詰まった瓶や、見るからに危険そうな毒草を次々と手渡してくる者がいれば、「実験に立ち会わせてほしい!」と声を張り上げる者もいた。

 

 その度に、もえもえは「いいわね!」「素敵!」と目を輝かせながら受け取り、立会希望者には実験を手伝ってもらえるように話を進めていく。ジェイデンはそれを横目に見ながら、ため息をつく。

 

(どうなってるんだ、この街の研究者どもは……モラルってものが存在しないのか?)

 

 次に、もえもえと共にジェイデンはギルドを再び訪れた。受付のルナが彼を見ると微笑みかけたが、満面に笑みを浮かべているもえもえと連れ立っているのを見ると、何かを察したのか憐れむような目を向けてくる。

 

(……何か言ってくれよ、せめて……)

 

 ルナの視線を受け流しながらも、内心で助けを求めるような気分になるジェイデン。

 

 だが、もえもえはそんな彼の心境には全く気づかず、ウキウキとした様子でカウンターに駆け寄った。

 

「明日の朝から、人体実験……じゃなかった、新薬の開発のためにギルドの集会室を貸してほしいんです!」

 

 ルナは一瞬だけ口を開きかけたが、後ろに立っていた中年の男性職員が苦々しい顔をして前に出てきた。

 

「かしこまりました。ただし、以下の条件を厳守してください。実験の際にはギルド職員が立ち会います。そして、もし今回も被験者に入院や、それ以上の被害が出るようなことがあれば、これ以上の実験は許可できません。今回の実験に失敗した場合は、技術顧問の話もなかったことになりますので、そのつもりで。」

 

 もえもえが口を開くよりも先に、ジェイデンが中年職員に目を向けた。

 

(なるほど、やっぱり前科があるんだな……)

 

 視線の先にいる男性職員の眉間には深い皺が刻まれていて、もえもえの無軌道ぶりが伺い知れた。

 

 しかし、もえもえはまるで聞いていないかのように、元気いっぱいに応じた。

 

「大丈夫です!今回は絶対に安全ですから!」

 

 その場にいた誰もが、もえもえの言葉を一切信用しなかったが、反論する暇すら与えないかのように、もえもえは話はどんどん進めていく。

 

「大丈夫か?」

「いや、あいつは明日までの命だな」

「なかなかやりそうなやつだったのにな…気の毒に」

「それとも見た目に騙されたロリコンとか」

 

 実験の手順をギルド職員と相談してるもえもえを待ってるジェイデンの耳には、野次馬冒険者のひそひそ話もPerceptionに優れてるおかげではっきり入って来てしまい、これも彼の頭痛の種になった。

 

(モイラで、無邪気に鬼畜な頼み事をしてくる女には懲りているはずなのに、俺は何をやっているんだ、あと断じて少女趣味はないんだが…)

 

 言い返したくなるのをこらえているうちに、手順が決まったらしいもえもえがジェイデンのもとに駆け寄ってくる。

 

「明日の朝に決まったわ!もうお昼もだいぶ過ぎているけど、実験成功の前祝でなにか食べる?私がおごるよ!」

 

 

 

「すっごい勢いで食べてるよね。ジャイアントトードの唐揚げ、そんなに美味しい?」

 

 ギルドの居酒屋エリアで、一心不乱に異世界で初めての食事を口に押し込んでいるジェイデンを、もえもえは頬杖をついて楽しそうに見ていた。

 

(放射能汚染されていないってだけじゃない、この世界のあらゆる食べ物が、生まれて初めてというほどに美味い…)

 

 Vaultの外の世界の食事といえば、放射能汚染された200年ものの食品や、イグアナやモールラットの肉、さらには巨大ゴキブリさえ食材にせざるを得ないほど貧相だった。

 

 もっと文化的なはずのVault内の食事ですら人工的な味わいで、この世界のありふれた料理の“自然かつ濃厚な味”には及ばない、とジェイデンはしみじみ思う。

 

 野菜スティックにされた生人参がコップから飛び出ようとするのを素早く指で掴むと、ジェイデンはびちびち跳ねているそれをもえもえに差し出す。

 

「ああ、こんな美味い飯は生まれて初めてかもしれん。前いた場所は・・・戦乱から立ち直っていなくてろくなものがなかったからな」

 

 核戦争やら、ラッドローチまで食っていたというのは端折ってジェイデンは言った。それでも、なにかただならぬ様子を察したのか、もえもえは受け取ったニンジンスティックを小さな口でポリポリとかじりながら、気遣わしそうにジェイデンの方を見ている。

 

「そっか…大変だったんだね」

 

 好奇心の強いもえもえがこれ以上聞いてこないのは、ジェイデンにとってはありがたかった。

 

「でも、こんなに美味しそうに食べてくれるなら、毎日おごってあげたくなっちゃうかも!」

 

「それはそれで餌付けされているようで嫌だな。いつかはお返しさせてもらうよ」

 

 ルートビアを思い出させる味と色合いのハーブ入りソーダで喉を潤してからジェイデンは言った。すでにもえもえに洗脳されているだの、幼女趣味に違いないだの、かなり無責任な噂が酒場の中に飛び交っているのはもう気にしないことにした。

 

「遠慮しなくていいのに。ところで、明日の実験の時に、あなたの、ピップボーイ、だったかしら、そこのステータス画面を読み取れるようになりたいんだけど」

 

「どうしてだ?」

 

「生命力がリアルタイムで分かるんだったら、ギリギリまで攻められる…じゃなかった、安全に実験ができると思って!」

 

「…STATS画面は、これだ」

 

 Pip-BoyのSTATS画面をもえもえに見せるジェイデン。手足を広げたVault-boyのイラストを中心に、体の各部分のコンディションや生命力などのパラメーターが表示されている。その画面を、研究ノートらしきものに素早く書き写していくもえもえ。

 

「やってることが学者そのものだな」少し感心するジェイデン。錬金術の方法論は科学とあまり変わらないようだ。

 

「これが私の日記帳みたいなものだから!でも、これは古代技術王国ノイズの文字と同じものかしら、解読できたらいいのだけれど…」

 

「この世界の字と、俺たちの世界のアルファベットや数字は完全に対応してると思うぞ、ちょっと研究ノートを借りていいか?」

 

 転生の際に瞬間的にこの世界の言葉を学習させられたジェイデンは、そのことに気づいていた。Pip-Boyの画面を書き写し終えたもえもえは期待に満ちた表情でジェイデンに研究ノートを差し出す。そこにジェイデンは、自分の世界の文字とこの世界の文字の対応表を書き込んでいく。目を輝かせてその対応表とPip-Boyを交互に見ていくもえもえ。

 

「Pip-Boy MODEL3000、機械の銘板に書いてるのはこれで合ってる?HPの後ろの数字が生命力なのね、冒険者カードの数字と一緒だった気がする。この人体図の顔と手足と体のグラフは部分ごとのコンディションかしら?ここまで細かいことが魔力無しでモニタリングできるなんて、すごいね!」

 

「この画面を見ただけで、モニタリングに使おうと思いつくのも大したものだと思うぞ。他に準備で手伝うことはないのか?」

 

「あとは私と実験を手伝ってくれる術者さんで準備するから、ジェイデンは食べすぎたり飲みすぎたりしないで、よく休んでから明日の朝、ここの集会場に来てね!寝る前に、共同浴場でさっぱりしていったらいいよ!」

 

「共同浴場…?」

 

 今日はいらないと固辞するジェイデンの前に、被験者さんに対する誠意だと、食事代と宿代を置いて自分の店に小走りで戻っていくもえもえを見送ってから首を傾げるジェイデン。Vaultの中では毎日シャワーを使えたとはいえ、プールはあっても“浴場”のような施設はなかった。ましてや外の世界では、バスタブやシャワーは単なる廃墟の飾り物で、体をまともに拭くことすら贅沢の極みだったのだ。

 

 そして、いざ浴場に足を踏み入れてみると――

 

(こんなにきれいな水を、こんなにも贅沢に使っていいのか…)

 

 清潔なお湯がふんだんに満たされた湯船を目にして、思わずジェイデンは目を見開いた。洗い場で頭からお湯を浴びると、その気持ちよさに感極まって絶叫し、歓声を上げながら湯船にプールのように飛び込む。水が何よりも貴重だった世界から来た彼にとって、これはあまりに刺激的な体験だったのだ。

 

 湯にどっぷり浸かり、至福の笑みを浮かべながら入浴を心ゆくまで満喫するジェイデンを、周囲のほかの客は遠巻きに見守っていた。彼らは普通に湯に入りに来てるだけなので、ジェイデンのはしゃぎっぷりと緩みきった表情を見て関わり合いになるのを避けていた。そして、「共同浴場で大はしゃぎする変な転生者」の姿は、かなり長い間アクセルの街で語り草になった。

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