奴隷の少年が国を興す物語(仮)   作:克原絵馬

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13 レジスタンスの隠れ里 <2>

 ルイは、意を決して、仲間たちの方を向いた。

 

「オーステル老、リエンツ、タマラ、カルーラ。僕の来歴は、これで分かってくれたと思う。僕の父は皆の怨敵といえる異端審問官だった。僕自身も父の薫陶を受けてここに居る。

 僕は皆をかけがえのない仲間だと思ってる。

 でも、付き従えないというのなら、ここで別れても構わない。ここなら、別れても暮らしていけるし……」

 

「その話をする前に、まだ聞いてない話があります」

 

 ルイの言葉を遮ったのは、リエンツだった。

 

「幼い童に聞くのは酷かもしれませんが、私の主となるのであれば、聞かねばなりません。あなたのご父君は、どうなりました?」

 

 タマラは気づいた。ルイが奴隷に落とされたのだ。ルイの父親が幸福に暮らしているということはないだろう。

 リエンツは勘づいていながらも、なお、この少年の口から真実を聞こうとしている。少年の素質を見極めるために。

 

 ルイが口を開いた。

 

「死んだ。いや、殺されたんだ」

 

 一瞬、ルイは歯を食いしばったが、そのまま続けた。

 

「父の密かな活動が露見し、同僚の異端審問官に告発されたんだ。

 彼は父の友人で、僕もセトおじさんと呼んで親しくしていた。そのセトおじさんが父を告発し、…父は僕の目の前で、火あぶりの刑になった。

 ……これでいいか、リエンツ」

 

(ルイが怒ってる…?)

 

 今までルイが怒ったことがないのを、タマラは気づいた。そのルイが初めて怒気を見せている。

 それに気づいているだろうに、リエンツは気にする素振りもない。

 

「ご父君は非命に倒れました。その復讐をしたいと思いますか?」

「思わない。僕の望みは『国を興すこと』だ」

「その意志は立派でしょう。しかし、それが復讐心から来ていないと、断言できますかね?」

 

「リエンツは、どうしても僕を復讐の鬼にしたいみたいだね」

 

 ルイは微笑んだ。一瞬見せた怒りも、今では嘘のように凪いでいる。

 

「怒りは、たしかに始まりの一つだった。

 けれど、それだけでは国を興そうとは思わない。ただ復讐するだけなら、異端審問官のセトを殺すだけで済む。

 でも、本当に父を殺したのは、僕や僕の仲間を(しいた)げたのも、神聖教国が持つ機構(システム)だ。

 神聖教国が大国として存在し、また存在し続けるための不平等、不自由、不公正、欺瞞、差別が、この場にいる全員を生んだ。

 

 僕が望むのは、復讐じゃない。神聖教国の(システム)に頼らず、人々が幸福に暮らし、なお神聖教国より強大な国……神聖教国を超克する国だ」

 

 途中から、ルイの言葉は、皆に語りかけるものになっていた。

 

「リエンツ、僕の望みは、君の望みに適うかい?」

 

「…残念ながら……、私の心は乱れ(うごめ)いて、いまだ一つの形を取りません。ですが」

 

 リエンツは、椅子から立ち上がると、その場に(ひざまづ)いた。

 

「その気高き志に私は膝を折りましょう。その志を持ち続けられるのであれば、あなたは私個人が仕えるに値する方だ。その限りにおいて、私はあなたのために力を尽くしましょう」

 

 リエンツの言葉は、かつてのオーステル老の誓いとは異なり、ひねくれたものがあった。

 しかし、ルイはかつてオーステル老にしたように、リエンツを立たせてその手をとった。

 

「それで構わない。僕は皆のために働くし、皆は僕のために働いてくれる。リエンツも皆のために働いてくれ。そうしたら皆もリエンツのために働くだろう」

 

 ===

 

「さて、次は、カルーラだな」

 

 オーステル老が水を向けると、カルーラは炙り肉を口に頬張ったまま、気抜けた表情を見せた。

 

「おいおい。この中じゃカルーラだけだぞ。ルイに忠誠を誓っとらんのは」

 

 炙り肉を咀嚼し、エールで流して、カルーラは口を開いた。

 

「オーステルには世話になったから、ついてく。ルイにも脱獄で恩があるから、返す」

 

 そこまで言って、また炙り肉を口にしようとしたが、さすがに言葉が足りないと思ったか炙り肉を下に置いた。

 

「恩がなくなったら、離れる。恩がずっとあるなら、ずっと返す」

 

 話は終わりだというように、カルーラは、また炙り肉にかぶりついた。

 

「そっか、ありがとう。カルーラ」

 

 ルイは微笑みながら、感謝の意を示した。カルーラは一つ頷くと、料理の攻略に戻っていく。

 

「ひとつ、皆に言っておくね。僕は忠誠を拒みはしないけど、求めることもしない。カルーラのように、恩を返すという形で付き従ってくれてもいい。

 あるいは給金のために働くという形でもいいんだ。もちろん、友達として助けたいというのでも嬉しい」

 

 ルイがこう言ったのは、カルーラへの気遣いの面ももちろんあったが、そもそも忠誠を他人に強要するという考え方自体に忌避感があったからだ。

 

 忠誠を強要するということは、臣下を世話する甲斐性もなく、一方的な奉仕を求めるものと同じではないか。忠誠を強要するのは、その精神性において、奴隷を求めるものと同等であるとルイは思っている。

 

「私は、そうね。ルイのことは友だちと思っているし、助けたいと思ってるわ」

 

 次に声を上げたのは、タマラだった。ゴブレットを静かに置いて、ルイに向き合う。

 

「前も言ったけど、国とか、王とかは分かんない。だから、友達として助けるし、助けたい。

 それと、ルイのお父さんは異端審問官だっていうけど、私の両親を殺した人とは違うし、そもそも裏で可哀想な人を助けてたのよね。

 素晴らしい人だと思いこそすれ、嫌ったりなんてできないわ」

 

「そう、そこよ。小王(リトルキング)よ、見くびってくれるな。お前さんの父親が何者であろうと、子供には関係ない。

 ましてや、親御さんは立派な人物だった。裏で人助けをし、レジスタンスに手を貸した。そのおかげで、ワシらがここで人がましく出来ている。

 何を(うれ)いることがあるものかよ。胸を張って、我らが王であってくれ」

 

 オーステル老は、胸に手を当て簡易の礼を施した。誓いはすでにしているのだから、再度する必要はないということだろう。

 

 ルイは嬉しかった。仲間から信任を得られたばかりではなく、父を称賛してくれたことに救われた思いがした。

 これまで、死んだ父に向けられたものは罵倒しかなかったのだから。

 

 ルイは涙を見せまいとして、顔をしかめ、そして笑った。それはルイがようやく見せた年相応の表情だったのである。

 

 

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