奴隷の少年が国を興す物語(仮)   作:克原絵馬

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14 王権の証・レガリア

 

 (困ったことになった)

 

 レジスタンスの頭領、シンラはルイたちのやり取りを見て驚愕しきりであった。

 

 話を聞くに、ルイは王として起ち国を建てるという。

 それだけなら子供らしい戯言とみなしてもいい。だが、ルイを王と仰ぐ仲間が四人いるのだ。

 

 もともと、シンラはルイを養子ないしは弟子にして、保護をするつもりだった。しかし、王と名乗り、付き従う仲間がいるとなると話は変わってくる。

 ルイの一党は、レジスタンスの統治体制に組み込まれることを拒否するだろう。

 

「ルイは王になりたいのですね? ですが、国を興すのに『レガリア』が必要であることを知らないわけではないでしょう?」

 

 ルイの本気度を試すために、シンラは核心に触れた。

 

 レガリアとは、王権を象徴する品のことである。

 

 この大陸にある国々は、ほとんど例外なく、かつて世界を統べていたとされる世界帝国ル・ダイモニオの『特別な遺物(レガリア)』を受け継ぐことで支配の正統性の根拠としている。

 

 特別な遺物──レガリアは、一見して金属製に見える光沢を持った道具であり、魔力を込めることで青白い燐光を放つ。

 同じ形の物は一つとしてなく、複製することも破壊することもできないと言われている。

 

 この大陸で国を名乗るには、世界帝国『ル・ダイモニオ』の威風を受け継いでいることを示さねばならない。

 それはつまり、ルイもまた、レガリアを手に入れなければならないのであった。

 

 しかし当然のことながら、所在の知れているレガリアはすでに誰かの所有物である。

 手に入れるには、奪うか、あらたなレガリアを発見するしかない。

 

 シンラは、その困難さを指摘したのだった。

 

「国を興すのにレガリアが必要であれば、いずれ手に入るでしょう。しかし、国は人があってこそ。レガリアが必須だとは僕は考えていません」

 

 なんてこと無いようにルイは答えた。

 必要になったら、レガリアが転がり込んでくるとでも思っているような話しぶりだ。

 シンラからすると気が揉めてしまう。

 

「少なくとも列強各国は、ル・ダイモニオの後継者として、レガリアを受け継いでいることを支配の正統性の根拠としています。

 逆に言えば、レガリアがなければ、どうあがいても国とは認められないのですよ」

 

「承知してます。…ですが、それを語るのは早すぎると思います。いずれ必要になったときに、また考えましょう」

 

 微笑みさえ浮かべて、ルイは言ってのけたのだった。

 

「さて、あらためてシンラさんに言わせてください。

 僕は、強く幸福な国をこの地上に建てるつもりです。少ないながら、このように付き従ってくれるものもいます。

 どうか、ご協力をいただけないでしょうか?」

 

「……どのような形での協力を望みますか?」

 

 やや身構えて、シンラは尋ねた。

 ルイはゴブレットを置いて、力強い目をした。

 

「言うなれば、僕たちは鳳凰です。いずれ悠然と空に羽ばたくでしょう。しかし、今はまだ卵から孵ったばかりの雛鳥に過ぎません。

 

 そこで、僕たちを食客として遇していただけないでしょうか。

 僕は、父と母から受け継いだ知識があります。

 カルーラは門番に殴られながらも、たった一人で門を開いた剛の者です。

 タマラは馬を持っており、騎馬の民の馬術で偵察に役立つでしょう。

 リエンツは脱獄の際に、素手で門番を倒した戦士です。

 そして、オーステル老がいなければ、脱獄計画の人数は半分以下になったでしょう。それだけの人望と、人を統括する力を持っています。

 皆、食客として十分な働きができると思います」

 

 ルイは一息で言い切ると、シンラの返答を待った。

 

『食客』とはあくまで客人として扱われつつも、生活の保障を主人が行い、その見返りとして客人はいざというときに、主人のために力を振るうといった関係性を指す。

 

 主人としては安価で有能な人物を囲い込めるうえに、不要になれば放り出すことができるという利点がある。

 

 食客側にも利点がある。

 今のルイたちのように、食うや食わずの生活から脱することができるうえに、組織の成員ではないため日常的な業務に従事することなく、自分の得意分野を活かすことができるのだ。

 

「レジスタンスに参加するのではなく、私個人の客として貢献するということですね」

 

 シンラは考え込んだが、長い間ではなかった。

 

「いいでしょう。すでに別の食客もいますしね。ルイとその一党を食客として、迎え入れましょう」

 

 ===

 

 食客として迎え入れられたルイの一党は、歓待を受けた天幕(ゲル)とはまた別の天幕(ゲル)に案内された。

 

 その天幕(ゲル)も五十人程度が寝起きができるほどの広さがあった。

 どうやら難民や客人のための、あるいはレジスタンスの仲間のための宿もしくは寮のように使われているようだ。

 

 その天幕(ゲル)のうち、衝立で仕切られた一画がルイに与えられた居室ということになる。

 男女別の寝床を衝立で区分け、ある程度の荷物を整理したところで、ルイはこれからの方針を説明した。

 

「シンラにも話したけど、僕たちは鳳凰ではあるけれど、いまはただの雛鳥だ。

 まずは力を蓄えなきゃいけない。

 そのために、皆には、三つのことを頑張ってほしい」

 

 ルイは、三本の指を立てた。

 

「最初は、武力。

 自分の身を守るためにも、無法を覆すためにも、戦えなければ話にならない。そこで、レジスタンスと一緒に訓練をする。それぞれ武器を決めて、扱えるように習熟してほしい。

 

 次に、魔法。

 武力ではできないことを、魔法でできるようにする。レジスタンスでは、少なくとも治癒術が学べるはず。もともとシンラさんは治癒術士だからね。誰が倒れても助けられるように、全員が覚えてほしい。

 

 最後に、レジスタンスと仲良くして、役に立つこと。

 レジスタンスに足りなくて、自分たちにできることを積極的に見つけて。ただし、現地の人の仕事を奪わないようにね」

 

 全員が頷くのをみて、ルイは続けた。

 

「というわけで、荷物の整理と皆の装備を整えるために隠れ里を見て回ろうと思うけど、なにかある?」

「私から、ひとつ」

 

 リエンツが声を上げた。

 

「我が主に、話しておくことがあります。……私は賞金首です。それも大金貨七枚以上の」

「大金貨だと!? そいつぁ本当か? リエンツ」

 

 オーステル老はリエンツを驚愕の目で見つめた。大金貨が一枚あるだけで、一人の人間が一年遊んで暮らせるほどだ。

 だが、金額の大きさだけではない。

 その懸賞金は神聖教国内でみても最上位に位置する額なのだ。

 

「はい。オーステル老とは投獄されてからの付き合いなので、知らなかったでしょうね。

 別件で捕まったので神聖教国側は気づいていませんでしたが、私は『黒狼盗』の幹部でした。先に言っておきますが『黒狼盗』は義賊です。強者から奪い、弱者をかばう存在です」

「なるほど…」

 

 極悪人を脱獄させる可能性を、ルイは考えなかったわけではない。

 

 ルイは、極悪人を脱獄計画の中に含めないようにしていた。

 とはいっても、囚人は大抵『無実の罪で捕らえられた』と主張するものである。そのため、明らかに素行の悪い者のみを排除するに留まっていた。

 

 リエンツは、差別されてきたドワーフであり、物腰が丁寧だった。ルイは彼を、悪人だと思ったことはなかったのである。

 ここにきてルイはその判断を試されている。

 

 リエンツの言葉が続く。

 

「とはいえ、黒狼盗は匪賊かと問われたら、そうだと答えるしかないでしょう。それでも、この私の忠誠を受けられますか?」

 

 王として起った以上、このような難しい判断はこれから幾度も求められることになるだろう。

 ルイは静かに口を開いた。

 

「もちろん、忠誠を受ける」

 

 続けて、なかば周囲の仲間に向けて、理由を説明した。

 

「誰に疑われているわけでもないのに、リエンツが秘密を明かしたのは、本人に後ろ暗いところはなく、また僕を信頼したからだ。

 そして、今このときに明かしたのは、僕のために黒狼盗の技を使いたいとおもっているからだ。そうだろう?」

「その通りです、我が主よ」

 

 そういって、リエンツは静かに頭を下げた。

 そこで止めておけば良いものを、リエンツは(おもて)を上げると、余計な一言を付け加えた。

 

「……恐れながらルイ様は、まこと王者の気風がございますね」

 

 ルイは苦笑した。

 

 リエンツの言葉は、ルイを褒めているように見えて、実は品評しているのである。

 愚鈍な主君であれば単に褒め言葉として受け取ったであろう。また明敏な主君であれば、目上の者を評するとは何事かと不快感をそそられたかも知れない。

 要するにリエンツは忠誠を誓いつつも、(ルイ)の器量を測っているのだった。ルイには、それが分かるだけに苦笑してしまう。せざるを得なかった。

 

「リエンツにも良き仲間、良き義賊としての気風があることを望むよ」

 

 苦笑を浮かべたまま、ルイはそう返した。

 臣下が王を品定めするのと同じように、ルイもまたリエンツを品定めしているのだと、軽く釘を差したのである。

 

 リエンツは満足そうな笑みを浮かべ、改めて礼を施したのだった。




う ・ ん ・ ち ・ く

レガリアは英語で書くとregaliaといい、王権の象徴となる品のことを指します。

日本の天皇でいうのなら、三種の神器(八咫鏡、天叢雲剣、八尺瓊勾玉)がそれにあたるでしょう。
あるいは三国志などでは、玉璽(ぎょくじ)が皇帝を象徴するものとされて重要視されますが、これもレガリアと言っていいでしょう。

国や時代によってレガリアの重要性は異なりますが、近代以前の国家においてはレガリアがない国家のほうが珍しいように思えます。

宗教の創始者が偶像崇拝を禁止しても、たいていは後世の信者がそれを破って偶像を求めてしまうように、王権という抽象的なものにも具体的な象徴を求めてしまうのが人間の心理かもしれません。

作品世界においては、レガリアは強力な魔道具であると同時に、古代の世界帝国ル・ダイモニオの遺産という設定になりました。

過去から続く伝統を象徴しつつ、唯一無二の値段がつけられない宝物で、かつ強力な魔道具という実利もある存在です。

王権とは要するに支配の力であり、その力の源泉は伝統性、直接的な暴力、誰もが欲しがる財であるという作者の考えが反映されています。
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