奴隷の少年が国を興す物語(仮)   作:克原絵馬

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19 オーガ討伐戦 <3>

 

 治療院の奥まった一室にて、ルイたちは治療を受けていた。

 タマラはほぼ無傷で、カルーラもじきに完治したが、ルイ、リエンツ、オーステルは、治癒ポーションではすぐに治らないほどの重傷だったのである。

 

 とくに、ルイは骨折した骨を《治癒》で無理矢理につなげていたため、正しい位置に固定して治すのに一週間はかかるとのことであった。

 

 怪我をした三人は寝台に縛り付けられて気が腐っていたが、中でもオーステル老は、天井を見つめて()っと考え込むことが多くなっていた。

 

 好奇心の強いオーステル老が、自分がいない時の話を聞きたがらないのが、まずもっておかしい。

 

「オーステル老、ちょっといい?」

「ふむ、何かね?」

「これまでの事を誰かに話して頭を整理したいんだ。話し相手になってくれないか?」

 

 オーステル老が了承したので、ルイは今回の事件の顛末を話し始めた。

 

 そもそもの始まりは、レジスタンスの隠れ里にオーガが接近してきたことにある。

 

 通常、哨戒部隊が警戒することで、オーガが隠れ里周辺に現れないようにしているはずだった。

 しかし、あのときは哨戒部隊の一人がオーガに不意打ちされたらしく、警戒網をうまく潜り抜けて、オーガが隠れ里へと現れたのだ。

 

 このようなとき、門番はオーガの足止めをするために立ち向かう。そして足止めをしている間に、非武装の人間(羊飼いや、出入りの闇商人など)を隠れ里の中に入れて門を閉めるのである。

 

 つまり、門番は、門の外に締め出されたまま足止めのために戦うのだ。それだけに門番は屈強で豪胆な者が選ばれた。

 

 当然、門番を外に追い出して終わりというわけではない。

 防壁の上からバリスタでオーガを狙い撃つし、門番も攻撃よりも防御に専念するのでそうそうやられることはない。

 

 常であればバリスタに蜂の巣にされて、オーガが息絶えるか、その前に退散するはずであった。

 

 しかし、このオーガは強かった。バリスタの矢弾を受け、門番の攻撃を受けてもひるまず、一気に門番たちを壊滅状態にさせたのだ。

 

「あまりに強いということで、普通のオーガじゃなく、エルダーオーガではないかって話になってるね」

「なるほどな…。まぁ、いつもより強い個体ってことになりゃあ、門番たちのメンツも立つってことか」

 

 本来、オーガとエルダーオーガに生物的な違いはない。オーガの中で年老いて、強くなったと「思われる」個体をそう呼び習わしているだけである。

 今回、門番が壊滅したわけだが、レジスタンス側としては、予期しない強い個体だったから仕方ないという形にもっていきたいのだ。

 そのことをオーステルは諷示(ふうじ)したのである。

 

 ともかく、エルダーオーガないしオーガは、狩りの得物である門番を打ち倒したのだが、そのなかで最後まで頑強に抵抗したものがいた。

 番兵頭のシモンである。

 その男はオーガを挑発し、自ら囮となって、オーガを誘い出し、レジスタンスの隠れ里から離れさせたのだった。

 

 そして、運悪く遭遇したのが、ゴブリンと戦っているルイの一党というわけだった。接敵したとき、すでに番兵頭のシモンは気を失って、オーガの餌として捕らえられていた。

 

 為す術なくルイたちはオーガになぎ倒され、オーステル老がさらわれたのだが、その部分はルイは軽く流した。オーステル老にとっても、楽しくない話題なのは明白だったから。

 

 ルイはオーガに殴り飛ばされた後、気を失っていたのだが、リエンツに治療され事情を聞くと、すぐに行動に移った。

 

 ルイは書状をしたため、それを持たせてリエンツを隠れ里に派遣したのだ。救難の依頼と、シンラへの書状を渡してもらうためである。

 

 可能ならルイ自身で行きたかったのだが、足を骨折しているため動けなかった。

 このとき、タマラは馬を駆って、番兵頭シモンとオーステル老をさらったオーガを追跡している。

 

 リエンツが門前に行くと、門番たちが半死半生でのたうっていた。

 それなのに隠れ里の鉄扉は閉まったままだった。聞くと、オーガがまたやってくる可能性があるため、門を開けられないと言う。

 

 ルイはこうなることを予期して、書状をしたためておいたのである。

 シンラに渡すように言い伝えて、リエンツは石を書状で包んで、防壁の向こうに投げ渡した。

 

 そのあと、リエンツは治癒ポーションで門番たちの治療を行い、日差しの弱いところへ寝かしてやったのである。

 

 シンラへの書状の中には、オーガを追跡している旨と、仲間を助けたいのなら辿れるように印をつけていくため、早めに部隊を編成し追ってくるようにと書かれていた。

 

 ルイとしては、レジスタンスが合流することを、かなり期待していた。

 だが、いくら待ってもレジスタンスがあらわれず、そうしているうちにタマラが戻ってくるにおよび、一刻の猶予もないと判断する。

 

 そうして、タマラを先導させ、ルイたちだけで救出に向かったのだった。

 

「実際、危なかった。アジャラー先生が言うには、あと少しでも遅れていればオーステル老か、番兵頭シモンのどちらかは確実に死んでいたろうって」

「ふーむ。感謝してもしきれないとはこのことだ。本当に助かった」

「どういたしまして」

 

「だが……、そもそもレジスタンスが遅れたのはどうしてだ? すぐに来てもらえれば、ルイたちが危険を冒すこともなかっただろうに」

「その辺りは、シンラさんに聞いている。要は、準備に時間がかかったことと、人手が少ないことが原因らしい」

 

 隠れ里の防衛戦力は、あまり潤沢とは言えない。

 兵士というのは、基本的に金食い虫なのだ。平時にタダ飯を食わせるのも、訓練するのも、装備を整えるのも、手間暇と資金(カネ)がかかる。

 

 そういった事情もあって、オーガの襲撃があったとき、隠れ里の中で動かせるのは三人の騎馬兵と一人の戦士だけだったという。

 

 オーガと戦うのに馬は必須である。

 馬であればオーガから逃げ切ることができるからだ。しかし、世知辛いことに、やはり馬も維持費がやたらと高い。

 したがって予備は少なく、出せる馬はほとんど哨戒部隊に回していたのだ。

 

 またオーガのみならず、神聖教国からも忍ぶ必要があり、大っぴらには行動できなかったことも遠因であった。

 

 

「なるほどな…。なぁ、ルイ。お前さんだから言うが、誰も言わず、言っても認めないだろうが……」

「──分かるよ。きっと、そういう事なんだろう」

 

 レジスタンスも、本来被害は出したくないはずだ。

 それでもいよいよ危なくなったときには、オーガに門番(えさ)を差し出すことで、隠れ里自体の存続を図ってきたのではないか。

 門番は暗黙裡に、生贄としての役割も負わされている。

 

「だが……それが良いのかもしれん。こんな老いぼれを助けてくれて、感謝するが……そこまでリスクを冒さなくても、良かったんじゃあないかね?」

「確かに、『小の虫を殺して大の虫を助ける』決断を、王はしなければならないこともあると思う。けれど、僕はオーステル老を失いたくなかった」

「……」

「オーステルは、僕の仲間で……もう家族だ。

 王として言うなら、僕に足りない経験を補ってくれる老賢者で、皆をつなぎとめる(かすがい)でもある。私人としても、王としても、救いにいかない選択はなかったよ」

 

「そうか。正直なところ、脱獄してからこっち、ワシはあまり役に立てておらんと思ってな……。今回オーガに捕まってこれはもう、どうにもならぬ、と思ったのよ」

「そんなことはない。オーステル老がいなくなっては困る。よく考えてみてくれ。もし、僕がいなくなったら誰がまとめ役になれる?」

 

 オーステルはふと考えた。

 カルーラは論外、タマラも人を率いることは難しいだろう。リエンツは可能性があるが、最近は毒気がありすぎる。

 

「一番、皆と信頼関係を築けているのは、オーステル老だろう? 僕がいなくなったら、皆を代わりに率いてほしい」

「縁起でもないことを……」

 

 不吉な予測を追い出すようにオーステル老は頭を振ったが、ルイは笑った。

 

「僕が死ななくても、場合によっては隊を分けることもあるさ。まぁ、僕が死んだら、他の皆の暮らしが成り立つように手配してやってくれ」

 

 何でもないように、ルイは言った。

 年端も行かぬ子供がこれほど達観できるのかと、オーステル老は信じられぬ思いである。

 

 もし、そのことを問われれば、ルイは父親が火あぶりで死んでいくさまを見せつけられた経験を話すだろう。その経験に比べれば、何も恐れるものはないという気にルイはなるのだ。

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