キヴォトスの好敵手   作:さまようニジリゴケ

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オリ主のせいでカルバノグの難易度が跳ね上がっている不具合。なお被害を被るのは先生とRABBIT小隊。

追い詰められたカヤ「へるぷみー!」
オリ主「安い方から片付けよう」
先生「」

Y O U D I E D

RABBIT小隊「わァ…あ…」
FOX小隊「泣いちゃった!!」


5.『防衛室にて』

 

「──快方祝い?」

 

 すっかり日も落ちたある日の晩。いつものように、お高いコーヒーに舌鼓を打っていた彼女は、何気なく放った私の言葉を耳にするなりしかめっ面を向けた。

 

「律儀に見舞いに来てくれたのでな。そのうち飯でも奢ろうかと思っている」

「それはまあ、変わった方も居たものですね」

「個性豊かなのは私も認めているところだ」

 

 貴方がそれを言いますか、とカヤは流し目でカップに口をつけた。飽きずに飲んでいるのは淹れたてのブルーマウンテン。彼女のお気に入りだ。毎度の如く、私にも『ついで』で同じものが振る舞われている。私自身コーヒー豆の種類なんてロクに知りもしないが、カヤが事あるごとに自慢げに『苦味と酸味のバランスがー』とか『程良いコクが絶妙でー』やら『コーヒーの王様ー』だとか流暢に語ってくるので取り敢えず『ブルーマウンテンは高くて美味い』とだけ覚えておくことにしている。何かと高級志向な人間ではあるが、とはいえ実際、カヤの淹れるコーヒーが不味かった試しなどないのは私も密かに認めていた。

 

「『柴関ラーメン』と言ってな。アビドスで見つけた店だ。お前も来るか? いつも近場で済ませてばかりだろう、たまには付き合え」

 

 湯気の立つカップを呷り、お馴染みのブルーマウンテンで喉を潤す。ふぅ、と息をつく。また大して味わわずに飲んでしまった。『舌でよく味わえ』といつも口煩く言われていたのだが。ちらりと彼女の様子を窺い、何食わぬ顔でもう一度カップに口を付けた。今度こそ、味わって飲む。……美味い。

 

「ふむ。ラーメンですか……確かに、ここ最近は決まったお店のメニューばかりでしたね。気分転換に足を伸ばすのも悪くないかも知れません。とはいえ……今回は遠慮しておきます。近日中に片付けなければならない仕事がありますから」

 

 デスクの上に積まれた書類の山を苦々しく一瞥して、カヤはソーサーにカップを置く。

 

「今の連邦生徒会は、ただでさえその機能を十全に発揮できているとは言い難い。役員の皆さんが日夜業務に勤しんでいるというのに、上に立つ立場の人間が仕事を丸投げするわけには行きません」

「……昔のお前にも聞かせてやりたいな」

「あー、まあ当時は視野が狭まっていましたからね。業務に忙殺されたおかげで、良くも悪くも今の私が在ります」

 

 室長席のスプリングを鳴らし、カヤは深く腰掛ける。薄く目を開いた彼女はどこか遠くを見据えていた。

 

 私がカヤと顔を合わせた当初、彼女は典型的過ぎるくらいに無能な上司だった。仕事は部下に任せっきりで、預けた仕事の内容など気にも掛けない。そのくせ失敗すればネチネチといびり倒す。当然ながら役員からの評判も頗る悪かった。

 

 しかし今はどうか。たった数ヶ月で彼女は様変わりした。かつては丸投げしていた仕事もちゃんと自分で片付け、部下には必要な仕事だけを回し、失敗したとしても小言の一つすら飛ばさない。役員含め、他の行政官とも関係性は良好。特に、生徒会長代校を務める首席行政官については何かと気にかけているようだった。一体どんな心境の変化が生じればこうも見違えるのか。

 

「──それはさておき」

 

 やおらそう切り出したカヤが、横長の瞳孔で私を見つめる。

 

「アビドスへ外食しに行くのは構いませんが、その前に一つ仕事を片付けてほしいのです」

「一応、これでも病み上がりなんだがな」

「貴方なら問題ないでしょう。それに、良いウォーミングアップになると思いますよ」

「へえ……?」

 

 カヤの言葉に、私の中で明確にスイッチが切り替わる。

 

「SRT特殊学園が閉鎖したのは、カノンも記憶に新しいでしょう。連邦生徒会による身勝手な解体は、当時のSRT生徒から反発の声が多く挙がりました。それでも、大半の生徒はヴァルキューレへの編入を受け入れるなどして折り合いをつけていきました。しかし中には公園を不法占拠したり、連邦生徒会の役員を襲撃する小隊が出始めたのです」

「襲撃、襲撃ねえ……私はてっきり、手引したのはカヤだと思っていたが」

「以前の私であれば確実に指示していたでしょうね。ですが事実として、襲撃に及んだのは当時のFOX小隊……防衛室総出で隠蔽工作と揉み消しを図っていなければ、FOX小隊は今も矯正局の中でした」

「お前が拾ってやらなかったら、連邦生徒会はこの先も狐の影に怯えるハメになっただろうな。まあ、正義を執行する連中からその名誉ある肩書きと寄る辺を取り上げたんだ。他でもないお上がな。噛みつかれもするさ」

 

 飼い犬に手を噛まれるのは、飼い主の自業自得。連邦生徒会の役員もこの件で身を持って思い知ったことだろう。

 

「私は反対派だったのですがねぇ、あの頃はどうも影響力がイマイチで……っと、話を戻しますが、そういうわけで一部の小隊が抗議活動を起こし始めたのです」

 

 カヤはそこで一度区切り、コーヒーで唇を湿らせてから話を続ける。

 

「その小隊のうちの一つに、OWL(オウル)小隊と呼ばれる部隊があります」

フクロウ(OWL)か。SRTらしいネーミングだな。察するに、狙撃部隊……或いは偵察部隊か?」

「ユキノさん曰く、『優秀な狙撃部隊』だそうですよ。SRT特殊学園でも指折りのスナイパーが揃っているとも」

「ほう? そいつは面白そうだ。それで? その梟がどうした」

「彼女らは閉鎖前の学園から大量の装備を持ち出し、その後の行方が分からなくなっていたのですが、つい最近になって潜伏先が判明しました。OWL小隊は再開発予定の子ウサギタウンに拠点を構えているようなのです。……そしてここからが本題なのですが、恐らくテロを画策している疑いが在ります」

 

 テロと聞けば、キヴォトスじゃそう珍しいことでもない。気に食わない飲食店を爆破する集団や、温泉開発という名目であちこちに穴を開ける連中も居る。レッドウィンターにおいては週一でクーデターが起きるとさえ言う。テロリストくらい、探せば見つかるような存在だ。

 

 しかし、元SRT特殊学園の肩書きがつくとなれば話は変わってくる。連邦生徒会直轄の特殊部隊が牙を剥くのだ。脅威度は高く、ヴァルキューレも手を焼くことだろう。

 

「確かか?」

「ええ、残念ながら。偵察に向かわせたFOX小隊によって、件のOWL小隊がブローカーを介して武器商人と取引している証拠も押さえました。未だに装備を拡充しているようですし、同時並行でチンピラやスケバンにも粉をかけて回っているのだとか」

「熱心なことだ。奴ら戦争でもするつもりか?」

「矛先は十中八九、連邦生徒会でしょうね。コトが起きれば最悪、死人が出ます。それだけはなんとしても避けなければなりません」

 

 語る彼女の表情はいつにも増して真剣だ。防衛室長としての(さが)なのか、不知火カヤという女は人命を重んじる人間である。胸中で燻っているであろう野心はどうあれ、彼女は前提からして善い人に違いなかった。そうでなければ、とっくに私とFOX小隊に命令して連邦生徒会を制圧、新たな連邦生徒会長としてこのキヴォトスに君臨していることだろう。カヤには既にそれが可能なだけの武力を有しているのだから。

 

 しかし彼女はやはり、それでも治安維持のために命令を下す。

 

「カノン、貴方は子ウサギタウンにある敵拠点に突入し、OWL小隊を撃破及び拘束してください。雇われた傭兵も全て片付けるように。テロを未然に防ぐこと、これが今回の仕事です。リハビリとしては丁度良い任務でしょう」

「ああ、私も退屈してたからな。異論はない。……ところで私に任せてよかったのか? FOX小隊の方がスマートにやれるだろう」

 

 ふと生じた疑問を投げかけると、カヤは苦笑混じりにこう答えた。

 

「……既に閉鎖したとは言え、一度は志を同じくしたかつての仲間たちをテロリストの容疑者として鎮圧しろ──なんて命令できるとでも? 私だってそこまで鬼じゃありません」

「お優しい上司だよ、お前は。──了解だ。すぐに終わらせる」

 

 コーヒーを飲み干し、来客用のソファから立ち上がる。脇に立て掛けていた愛銃のスリングを肩に掛け直す。

 

「くれぐれもやりすぎないように。弾薬費はともかく、公的な業務でない以上、建物の修繕費等は私のポケットマネーから賄っているのですから、周囲への被害も考慮して仕事に当たってください。分かりましたか?」

「分かった、分かっている。極力配慮して戦闘するさ」

「よろしい。仕事は終われば、その日は自由にして構いませんので」

「そうか。なら、手早く済ませて帰るとしよう」

 

 言ってオフィスのドアノブに手をかけた所で、今一度背後から思い出したように声がかかる。

 

「ああ、それとアビドスに関して一つ忠告を」

 

 半身振り返る。稀有な横長の瞳孔が、胡乱げにこちらを見つめていた。

 

「ここ最近、カイザーコーポレーションがアビドスで何やら不穏な動きを見せています。下手に藪を突かぬよう留意してください。協力関係とは言え、完全に味方というわけでもありませんから。面倒事は避けるに限ります」

「カイザーか……そうだな、頭の片隅にでも留めておこう」

「そうしてください」

 

 室長室を後にする。その時にはもう、OWLの連中をどう遊んでやろうかと脳内でシミュレーションが捗っていた。

 

 

 

 

 

 

 仕事に向かったカノンの背中を見送り、背もたれに深く身を預ける。心配はしていない。彼女であればそう遅くならないうちに事後処理の旨を連絡で寄越す。

 カノンの非常に好戦的な性格は確かに看過し難い悪癖だが、あれで仕事には忠実だ。作戦成功率も極めて高い。使い勝手は悪いものの、正しく私の切り札たり得る存在である。

 

 ──鱶鮫カノン。先代の防衛室長からマニュアル付きで引き継いだ(押し付けられたとも言う)防衛室(・・・)の戦略兵器。彼女の経歴に初めて目を通した際は、よくもまあこんな危険人物を押し付けてくれたものだと、前任者を恨んだもの。今となってはこれ以上無い贈り物ですが。

 

「カイザーコーポレーション……アビドスで何を企んでいるかは存じませんが、カノンを手放したのは悪手でしたね。ふふっ、防衛室も良い拾い物をしました」

 

 大方、制御しきれずに厄介払いする結果になったのでしょうけれど、些か浅慮だったと言わざるを得ません。彼女は一から十までコントロールするよりも、方向性を誘導して動かすべきなのです。書類仕事をやらせるなんて以ての外。戦闘でこそ、カノンは真価を発揮するのですから。

 

「それにしても……ふむ、アビドスですか。かつては栄華を誇った砂の自治区だったそうですが、大規模な砂嵐により徐々に衰退。そして2年前の事件をきっかけに、生徒会は事実上解散……。後継の組織も多額の借金の返済に追われ、学園の運営どころではない。吹けば飛ぶような弱小校だと言うのに、カイザーは未だに手をこまねいている。何故、あの大人たちはアビドスの地に固執するのでしょうか……?」

 

 天井を仰ぎ、思考を巡らす。

 カイザーの重役は揃いも揃って悪辣である。ルールの範疇で立ち回り、言葉巧みに弱者を食い物にするのが得意な悪党共だ。尻尾を出したと思っても『子会社の独断』『責任者の監督不行き届き』だと並び立て、挙句の果てにはトカゲの尻尾切りであっさりと身内を切り捨てる非情さも持ち合わせる。法執行の裁きこそ巧みに躱しているが、市民からの評判はあまりよろしくない、というのがカイザーコーポレーションの総評である。

 

 しかしだと言うのに、カイザーともあろう組織が形骸化した生徒会モドキですら潰すことができずにいる。敢えて泳がせているのか、それとも手を出せずにいるのか。定かではないが、果たしてカイザーが動かなければならないほどのことだろうか? 理事は分かりやすくご執心の様子だったが、カイザーコーポレーションという企業からすれば、相手は自社に借金を返済してくれている真っ最中なのだ。下手に圧を掛ければ夜逃げされかねないはずだが……。現在も動きがないということは、すなわちアビドス側にも引く気がないということ。

 

「……思えば、先日カノンが交戦した相手はアビドスの生徒。名前は確か、小鳥遊ホシノでしたか。記憶が正しければ、彼女は元生徒会の役員だったはず」

 

 古い記憶だが、かつて各学園の重要人物を纏めた名簿にそのような名前が記載されていたのを思い出す。一時は危険人物として監視対象に挙げられていたはずだが、いつしかそれもなくなっていた。

 

「──少し調べてみるとしましょうか。存外、掘り出し物が見つかるやも知れません」

 

 冷めたブルーマウンテンを飲み切り、私は資料室へと足を向けた。




 次回からやっとアビドス編突入です。話数的にはそこまで長くはならない予定。なお、既にエデン条約とカルバノグは確定で長くなる模様。
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