魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
射的に続いて入ったのは、魔法少女向け……らしい、そう銘打たれた服屋さんだった。魔法少女に変身すれば必ずコスチュームがついてくるのに、服屋があるものかと最初は首を傾げたものの、答えはすぐにわかった。扉を潜ると、中に並ぶのはコスプレや水着といった衣装の数々。魔法少女の中には、魔法少女の姿のままお洒落したい、着替えてみたい、という気持ちがあるのだ。それに応えるためのお店なのだろう。魔法少女の身体能力は高く、激しい動きを可能とする。が、普通の服だとそれに着いてこられない。そんな悩みを解決するのがこのお店なのだ。
その認識を得てしまうと、すごく魅力的なものばかりに見えてくる。
「店主は……っと」
「エリザさん! これ! エリザさんに似合うかも!」
「なんだよ、この面でフリフリの可愛い奴着れるわけないだろ!」
「えぇ、そう? だったら……こういうのとか?」
「それは、女騎士……か? ほぼ水着じゃんか。そもそもこの格好がコスプレなのにコスプレするのか……?」
エリザの方には怪訝な顔をされたが、スワローテイル的にはやっぱり色々着てみたい。せっかくちょっぴり大人の体になったのだ、お洒落してみなきゃ。
「そうだなあ、私はー、ん? なんだろうこれ、紐……?」
「……紐……水着……いや、あんたは知らんでいいよ、うん」
服……なのだろうか? 布がエリザのコスチュームよりもさらに少ない本当に紐みたいなものがあって、しかしエリザにそっと元の場所に戻された。それがなんだったのか深堀りするのはやめて、すぐ次に行く。この白いスクール水着……は、なんだかあまり触れたくないのでやめておいて、他も色々見て行こうとすると、ふいに声をかけられた。
「どう? 気になるもの、あった?」
「わっ!? あ、えと」
「あら、ごめんなさい。私、このお店の店主。服を作るのが趣味なの」
こちらのお店は店主も魔法少女のようだ。柔和ににこにこ笑いながら、いつの間にか後ろに立っていて、背後を取られたことに対して慌てて警戒するが、敵対の意思はないらしい。両手を開いて見せ、変わらず無防備でいる店主は、睨むエリザとしばらく目線を交わし、エリザの方が矛を収めた。
「……失礼しました」
「いいの。よく来るのも武闘派の魔法少女さんたちだから。そういう子たちは背後取らせてくれないし」
遠回しにまだまだヒヨっ子だと言われている気がして、ちょっと恥ずかしくなった。
「あの、すいません、様子のおかしい魔法少女とか、見た事ありませんか?」
けれどエリザは折れず、むしろ話しかけてくれた機会を逃さぬように聞き込みを始めていた。そういえばそうだ、そもそもこれは調査の一環なのだ。スワローテイル側は、完全に遊んでいるような感覚だったが、そういえばエリザはずっとそうだったと思い直した。
「様子のおかしい……そうねぇ、スタイラーちゃんが連れてくる子たちとかはいつも様子がおかしいけど」
「い、いつも? それは変人なんだと思いますけど……」
「そうよね」
オークションではない何かを求めて、わざわざ裏城南を訪れる魔法少女たち。その目的が衣服ではなさそうだということはなんとなく察するが、だったらまた別のお店に行ってみるしかないのだろうか。それなら、服屋さんを出る前にせっかくなので試着もしたいなと、スワローテイルはひとりもう少しラックを物色して、決まるより先に、店の扉が開いた。スワローテイルとエリザに加え、店主も振り向いて、黙って入店する誰かを見守った。ただのお客さんだったら、何が起きることもない。だけどここは裏城南。不穏の世界では、やはり起きてしまう。
「て、手を挙げろ!!!」
現れた魔法少女は武器を抜いていた。しかも銃だ。金を出せ、と叫び、明らかに客ではなく強盗として訪れていた。店主は真っ先に両手を挙げて、やはり無抵抗の意を示す。スワローテイルもまずはそれに続いた。これまでエリザが助けてくれたから、ある種、銃とは頼もしいものだとどこかで思っていたけれど──銃口を見てしまうと、やっぱり怖い。あんな簡単に、魔法少女にさえ血を流させてしまう代物なのだ。
一方、エリザはその手にした銃を見つめ、呆然としていた。
「おい、手を挙げろと言っているだろ! お前!」
「……あのさ」
「従わないと撃つぞ!?」
「それ、あんたの魔法? あんたのじゃ、ないよな。その刻印、そのトカレフ……覚えがあんだ」
「な、何を──!」
引き金に力が込められようとしたその瞬間、エリザは近くのラックからハンガーを引っ掴んだ。その瞬間には、既にハンガーがその形から姿を変え、大振りの拳銃に変わっていた。その銃身で弾丸を受け止め、そのままもうひとつ銃声。押し入ってきた魔法少女の手元で血が飛沫いた。怯んだ瞬間、エリザは落ちた銃を蹴り飛ばして遠くにやって、そのまま脚払いで転ばせ押さえつける。
「ぐぁあっ!?」
「それ……どこで手に入れた?」
「しっ、知るか! くそ、これじゃ、スパイスが……」
「……あ? スパイス?」
エリザは情報を聞き逃さない。彼女は捜査中の『様子がおかしい魔法少女』に他ならない。聞き出せることは聞き出しておきたい、のだろう。スワローテイルは店主を庇って立ちながら、その様を見つめていた。今にもエリザは次の弾丸を放ちそうで、怖くもあった。
「知らないのか……魔法のスパイスだよ。あれを使うと……他のことなんて全部どうでもよくなるんだ。五感の全部が心地よく刺激に満たされるような……ような……」
「……ふぅん。どこで買ったんだ?」
「あれは秘密の、いや、お前に教えたら、私のぶんが、あっ、ぁあああっ!?」
「あたしを! 煩わせるなよ……!」
拒否されるとほぼ同時、躊躇なく脚が撃ち抜かれた。あれじゃあ歩けない。いや、逃がすつもりがないなら、そういうことなのか。しかし相手は逃げようとするまでもなく気を失っていた。まともに情報は引き出せないだろう。これ以上は無意味だと、エリザは押さえつけていた腕を離した。
「……すいません、店、汚しちゃって」
「いや、いいのよ。このくらいはたまにあることだし……ハンガーも返さなくていいからね」
「あざます」
「あの、お掃除くらいは手伝いますよっ」
「あら、本当?」
全部エリザに任せてしまったという気持ちもあるし、魔法少女は人助けが基本だ。襲ってくる相手を倒すことも、人助けの一環、なのだろうけど、これでいいのだろうか。ふと、エリザ本人に尋ねてしまった。
「あの人、どうするんですか……?」
「今頃は巡回時間だ。兵隊に連れていかせる」
「兵隊って……」
「連れていかれた先でどうなるのかまで、あたしの知ったことじゃない」
吐き捨てながら、蹴っ飛ばしていた敵の銃を拾い上げたエリザ。その刻印を、そっと撫で、爪で思いっきり引っ掻き、横一文字に傷をつけていた。