魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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ショッピングモダンガール

 ◇コルネリア

 

「すみません……もう少し寄っていただけると……」

「これ以上のスペースは有料デスよ!」

「そんなぁ……」

 

 元々新人研修はちょっとの期間で終わるつもりだったせいで、宿泊のことを考えていなかった。結果、しばらくN市に滞在しなければならなくなったコルネリアの寝床は、マスカレイド44と共用になってしまっていた。そもそもこの店も広くはなく、色々と必要のない魔法少女だからなんとか生活できるようなものだ。そんな場所で2人して就寝となると、ちょっと狭い。それを加速させているのがマスカレイド44の背中にあるランドセルだった。正しくはランドセル型ブースターだろう、そういう意味では加速させるのは間違いではない……などと冗談を言っている間にも、この狭い場所でもぞもぞしなくてはならなかった。

 

「こんな硬いコスチュームばっかりで寝苦しくありませんか?」

「寝苦しいデス。ワタシの魔法で強力な寝具が出ないかと狙っているのデスが、まだ出てまセン」

 

 寝具の強力ってなんだろう。やっぱり寝心地なのだろうか。この状況でもゆっくり休憩できるなら、欲しい。誰でも欲しいだろう。

 

「……よいしょ。そろそろ帰ってくるのでは?」

「え……あぁ、もうこんな時間ですか」

「休日の朝って寝過ごしがちデスよね。ワタシには休日もなにもありまセンが」

 

 そろそろ開店の時間だ。マスカレイドはゆっくり立ち上がり、ズレていた仮面を直すと、店のシャッターを開けに行った。その後ろ姿を眺めながら、そういえばこんな人の家にお泊まりなんて初めてだし、しかもこんな初対面と2人きりになったことに今更背筋を凍らせる。シャッターを開いて、カウンターにある椅子にどんと座って、マスカレイドは魔法の端末を弄り始めた。

 

「そういえば……あの商品って、どういうものなんですか?」

「気になりマスか」

 

 遠くからショーケースの中が見えて、何気なく聞いただけのつもりが、すごい勢いで顔を近づけられた。仮面のせいで、いや、仮面を抜きにしても圧がすごい。

 

「気になりマスよね」

「えっ、は、はい」

「では! ちゃっちゃちゃーん、『マジックアイテム強化装置』〜」

「……もしや名前の通り、ですか?」

「もちろん。例えばこちら、昆虫雌雄鑑定機に取り付ければ……! 昆虫のみならず、あらゆる生き物の雌雄を鑑定できマス」

「えぇ……」

「人間もいけマス。魔法少女に使えば確実にメスだとわかるでショウ」

「わかったから何ですか……?」

 

 さすがにもっと有益な使い方があるのではないか。他のマジックアイテムならもっと何かできるはずだ。武器なら威力が高まるだろうし、日用品なら便利さが拡張されるはず。

 

「例えば魔法の端末に使えば、特注電子妖精並の性能を発揮するでショウ」

「あぁ、まぁ、それなら……」

「ですがちょっとしたデメリットとして、限界を超えて強化するので、つけたものは必ず、次の使用で壊れマス」

「えっ」

「取り外しはできるので、強化装置は無事デスが、つけたものは無事ではすまないデスが……些細なことデスね」

「ちょっとした……? ま、まあ、1回きり、なんですね」

 

 その場で壊れるなら端末に使えるわけがなかった。部門からの支給品を故意に破壊すると、さすがに上司に言われそうだ。元々使い切りのアイテムならと思ったが、マスカレイドは言いづらそうに、それは機能しないんデス、と言い出した。壊れてもいいもの、で使うしかないものなのか。

 

「あとワタシのアイテムには使用期限があって、取り出してから4日なんデスが、えーっと、つまりこれは明日までデスね」

「もしもの用心にも微妙じゃないですか?」

 

 強化されるとはいえ、護身用の武器が1発で壊れたら意味が無いのでは。

 

「と、いうことで、こちらの昆虫雌雄鑑定機もおつけして、お値段たったの一万円」

「いや、買うつもりでは」

「買うつもりないのにここまで聞いたんデスか!?」

「いやそうですし……高いです」

「いやいや。ここでしか買えないマスカレイド印のアイテムデスよ?」

「明日までなんですよね? というか他のマジックアイテムの持ち合わせもありませんし……せめて半額」

「仕方ありマセン、では出血サービスの8000円」

「半額以下にならないと話聞きませんよ」

 

 マスカレイド44は、恐らく、仮面の下ですごく難しい顔をしている。わずかに見える顎のあたりに力が入っているし。

 

「でも久々の当たり道具デスし……ぐぬぬぬぬ……」

 

 その口ぶりからすると普段はハズレのアイテムばかり仕入れていることになるのだが、どういうルートで仕入れているのだろう。

 結論は出ないまま、扉が叩かれる音がした。見ると、スワローテイルが手を振り、ダーティ・エリザがその後ろで腰と顎に手を当て考え事をしているようだった。皺を寄せたまま動かないマスカレイドの代わりにコルネリアが赴き、扉を開ける。

 

「お疲れ様です」

「ただいま! えっとね、コルネリアさんにはお礼に貰ったバニーガール衣装があります」

「えっ?」

 

 スワローテイルから謎の発言と謎の手土産が飛び出して脳が処理を拒んだが、エリザがそれを完全に無視し、鍵を締め寝室の方にどんと座り込んだ。そして叩きつけるように出される何か──あれは銃だ。エリザが普段使っているのとは違う。あれは──? 

 

「……! 見つけてしまいマシタか」

「アイツの銃だ……やっぱりこの街に出回ってる」

「やはり鉄輪の生き残り……デスね」

 

 なんの話であるかはわからなかった。とにかくエリザは敵愾心(てきがいしん)を剥き出しにしている。スワローテイルも置いてけぼりらしく、どうしていいかわからないふうに、遠巻きに目を泳がせていた。できればこれ以上新人を巻き込まず、できればコルネリアも巻き込まないでほしいのだが、そうもいかない。ここから帰れるとはもう思っていなかった。コルネリアは銃を囲むようにして正座し、スワローテイルもその隣に来る。

 

「何があったんですか?」

「簡単に言えば、強盗に遭遇した。武器奪って撃退したわけだけど」

「強盗!?」

「まあたまにあることデスかね」

「怖すぎるでしょう……」

「魔法のスパイスを買う金が……と言っていた。強盗に走るくらいだ、クスリみたいなもんなんだろ」

「魔法のスパイス……」

 

 仕事用の端末からデータベースにアクセス。例の部門長から送られた裏城南関係から、スパイスで検索をかける。確かに薬物のような事例が報告されているようだが、まだ全容は掴めていないと見える。

 

「ここの外、人間の社会にまで持ち出されたら、N市全体が大変なことになる。そうなる前に」

「止めなきゃ……!」

 

 魔法少女たちが正義に燃える一方で、監査部門から横流しされてきた報告もまたアップデートされていたことに気がついた。違法なマジックアイテムの流通に関する記述がある。これはつまり、そういうことなのだろう。今度は闇取引の云々が降り掛かってくるなんて。新人が巻き込まれるには、やっぱり闇すぎるのでは。率直にスワローテイルのことが心配だ。そして戦える彼女以上に、コルネリア自身のことも心配だ。

 

「そういえば、それ」

「……? あ、これですか? キューティーヒーラーショコラティエ〜ルのなりきりグッズで……」

「パッケージの人、歩いてるの見マシタよ」

「えっ?」

「……あの店のコスプレか? それとも……」

 

 コルネリアの頭の中に、それが本物である可能性が浮かぶ。キューティーヒーラー。人事に監査に続き、アニメ化魔法少女まで絡むとなると──やはりこの事案、魔法の国が濃く絡んでくる。頭が痛くなった。

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