魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇キューティーラム
潜入捜査をしているはずが騒ぎを起こしてしまった反省から、ラムはなるべく身を隠し、あの謎の領域には近寄らないようにして行動することに決めた。アンナのことは心配だが、無事に家に帰れていることを信じて、城南地区の調査を続けていこうと決心。自分の頬を叩いて気を取り直す。
ラムが師匠のキューティーパンダから、つまり広報部門から依頼されたのはいわゆる『裏社会』と繋がりを持つ魔法少女の調査だ。人間社会に悪影響を及ぼす存在は看過できない。広報としても、魔法少女が社会の悪に手を染めるのは止めたいのだろう。マジカルデイジーの犠牲を旗と掲げている今の広報部門からすれば、反社会勢力はそれこそ最大の敵だ。アニメ作中において、マジカルデイジーはそれらと戦っていたのだから。……キューティーヒーラーストライプが、そもそもほぼ反社会勢力扱いなのは置いておくとして。
そこで、ストライプの弟子であるショコラティエ〜ルに声がかかり、ラムが遣わされた。潜入なら絶対ショコラやフレーズの方が向いているだろうというラムの声は無視された。
「ええっと……」
なるべく人がいないのを確認、路地裏からぴょんと飛び出し、持ち前の身体能力で即次の物陰に退避。例の通りではないが、なるべく危ない人がいそうなところを探し、待ち伏せする。
やることはといえば、例えば記録媒体を盗み出したり、重要人物を特定したり……なのだが、そこに辿り着くにもまず情報が欲しい。そうなった時、まず頼るのは人だ。聞き込みをしなければ。
そこで先日アンナに絡んでいたような怪しい人物を発見、彼を選ぶことに決めて、一人でいるところに接触した。
「あの」
「うわっ!?」
「失礼しますね。はぁ……っ♡」
吐息を吹きかける。ラムの吐息は魔法のお酒だ。強めれば魔法少女さえ酩酊させる。これで一気に酔わせることで、逃げたり抵抗はもちろん、ラムの顔を覚えたりしないように対策できるのだ。脱力した男性の頭を膝の上に乗せて、できる限り優しく撫でる。
「お話、お姉ちゃんに聞かせて?」
そして男性は甘えたい人も多い。酔わせたうえで、愚痴を聞いてあげる、という形でなら、内部事情を自分から喋ってくれることも多い。彼も例から漏れず、お上がどうこう、女にボコボコにされてどうこう、二ヶ月前から偉そうなやつがどうこうみたいな言葉が出てくる。うんうん辛かったねなんて相槌をうちながら、少しづつ話題を誘導。そしてその口から、『根尾燕無礼棲』の名を引きずり出した。それが現在このN市に蔓延る組織の名であるらしい。ついでにその幹部に複数名、少女の姿があることも聞き出した。酩酊した人間は基本的に嘘を吐くことができない。魔法少女が関わっているのはまず間違いない。そうと決まれば、結局あの場所に戻らなくてはならない。そのためには、入口を確かめなくてはならないのだが──全く、思い出せなかった。
「どうしよう……」
こんなことなら常にマッピングしておくんだった。結構複雑だし……こういうところが、ラムには向いていないのだ。うーんうーんと頭を悩ませながら、人目につかない場所に酔っ払いを隠しておいて、自分はふらふら歩き出す。
……ふらふらしていたらいけないことを思い出したのは、表通り、恐らくは通学路に差し掛かってからだった。
「あの」
「……っ!!」
話しかけられた。まずい、これは正体バレ関係か、それとも警察関係か。職質されたら全速力で逃げてパトカーを振り切る用意はできている。しかしこんなか細い透き通る声の警官いるのだろうか、と振り返って、警官ではなく学生服が目に入った。学生? だったら振り切るのはパトカーより簡単か──なんて考えている間に、目の前に何かが差し出される。銀色の、硬貨──?
「これ」
「……はい? 百円?」
「やっと渡せた」
「あ、え、なんで……? ねえ、あなた……」
「そっか。こっちじゃわかんないよね。そうだなあ、ちょっと、こっちで」
百円玉を手渡して、ふっとにこやかに笑う学生服の少女。いや、少女……というにはかなり大人びている。ラムも魔法少女にしてはお姉ちゃんな方なのだが、それよりも上に見えるような。そんな彼女はわざわざラムに握らせた百円玉の件を満足そうに見つめると、それから周囲を確認し、人気のない方に移動してから、その身を光に包む。
不意のことに驚くが、そこから飛び出した全身金色の姿にまた驚いた。
「改めて──また会えたね仔羊ちゃん! そう! イエロープリンス☆ハステアーラさ!」
「あ……あぁ、仔羊じゃないですけど、ハステアーラさん。いいのに、百円くらい」
「百円を笑う者は百円に泣くこともあるじゃないか」
「って言うなら自分が持っておいた方がいいんじゃあないかな……?」
ハステアーラはやたらとにこにこしていた。普段からそういう感じなのかもしれないが、昨日はまるで何が起きているかわからぬまま、再度合流もできなくなったわけで、また会えた安心感があるのかもしれない。
「大丈夫? 通学中なんじゃあ?」
「今日は土曜日だよ。部活の手伝いの用事はもう終わったのさ」
「そっか……?」
「それより昨日の! アンナのことが心配でね。私も探し回ったんだが、やはり見つからなくて」
「それはこっちもだけど……無事に帰ったんだといいよね」
「もちろん。だが不明では安心できない。無事の証明を見つけたいんだ。彼女も魔法少女だろう? 出来れば仲良くしたいんだ」
ハステアーラも現地の魔法少女だ、話は聞いておいた方がいいかも。ラムの存在はもう知られているわけだし。……いや、そもそも、現地の魔法少女、なのだろうか? このN市には、数年前から担当の魔法少女がいないというのに?
そうなると──アンナの存在も、あの裏通りの存在も、途端に怪しくなってくる。どちらかが根尾燕無礼棲と関わりを持つ反社会魔法少女でもおかしくない。
「……どうかしたのかい?」
「あ、いや、ううん、なんでもないよ。私も心配だし、一緒に探そっか」
そのあたりの話はこれから聞けばいいことだろうか。調査に繋がるのなら接触しておくべきだ。ストライプの先輩方、特にパンダ師匠はよく言っている。罠なら食い破ればいい。それができるだけの修行はさせてきた、と。キューティーヒーラーとは暴力だ……とも。暴力という表現はどうかと思う。
「ならば出発だ! 二手に分かれて」
「あっ、昨日と同じになっちゃうから、それは、ね?」
「……そうだね仔羊ちゃん。そうと決まれば一緒に! だね!」
ただそれはいいとして、アニメ化魔法少女と全身金ピカ魔法少女では、あまりに目立つ。今しがたハステアーラに見つかったラムのような失態は避けるべきだ。魔法少女らしく、誰にも見つからないようなルートを選びつつ、並んで歩く。というか、完璧に歩調を合わせられていた。
「あの、ハステアーラさん」
「あぁ! どうしたのかな?」
「ハステアーラさんはいつからこの街に? あ、というか、魔法少女に?」
「二ヶ月前だね。転校してきて」
「元々魔法少女やってたんだね」
二ヶ月前──か。どこかで聞いたような気がするのは、先の男の言っていた『偉そうな女』の話だ。ハステアーラは偉そうか、偉そうでないかと言えば……偉そうかも。
「昨日彼女に会ったのはどこだったかな?」
「え? えーっと……」
「ふふ、仔羊ちゃん。緊張しないでもいい。ワタシの前では深く考えることはないとも」
バッと広げた両腕、そして翻したマントから漂ってくる爽やかな香り。それはもはや偉そうと言うより──もしかして自分よりも包容力があるのでは。だがこれはお姉ちゃんというより──。
「イケメン……いや、王子様……?」
ハステアーラにはそのつぶやきは聴こえなかったらしく、首を傾げていた。