魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
それから心当たりのありそうな場所を回ったが、結局本人は見つからず仕舞い。そもそもアンナがそうだとは限らない。下っ端から得られる以上の情報は、簡単には手に入らない。同行していたハステアーラは『うまくいかない方法を見つけたね』などと言っていた。それは確か……エジソンの言葉だったか。フレーズがもじった嘘を吐いていた気がする。それにしたって、うまくいかない方法ばっかり見つけすぎだ。
「残るは……」
「地図にない場所、かな」
「……もしかして」
「裏城南。この街の闇が全て集まる場所さ」
ハステアーラはあの場所が何か知っている。そして可能性は最も濃い。ならば行くしかない。入口を知っているという彼女に連れていかれながら、そこが前回ラムがアンナに連れ回された場所とは違う方向だと気がついて、その道中に話しかけた。
「あぁ。裏城南は魔法の区域だ。各地に入口がある……みたいなんだよ」
確かに、魔法の国の施設とやり方が同じだ。広報部門へ行くのに、定期的に場所の変わる魔法の扉から入らされていた。これを仕掛けたのは魔法の国に繋がりのある者、ということだろうか。だとしたらこの話は広報部門だけではすまなくなってくる。むしろ、他部門は既に知っていて噛んでいると思う方が自然か。ハステアーラの知る入口から中に入ろうと、ふたりで赴いた。
通りには相変わらずの個性豊かな看板があって、人影はない。あの兵隊の姿もない。確認して安心した。また急に襲われたら心臓に悪い。
「……! あそこ! 煙!」
「どこだい? あぁ、確かに黒煙が……」
「行ってみよう!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ」
彼女は深呼吸をして、かけ出す前に、コスチュームで頭に着けていた金色の仮面を顔に着け、顔を隠した。前会った時はそんなことはしていなかったはずが、わざわざだ。なんだろうとは思ったものの、個人の癖なんて魔法少女にはよくあることだ。勝手に納得して、先に進んだ。
裏城南に上がる黒煙。昨日はなかったはずだ。その方向に駆け寄っていくと、なるほど人影が入ってきた地点にないわけだ、こちら側に野次馬として溜まっていた。ボヤ騒ぎだろうか。その中心を覗こうと背伸びしたりして、すると破裂音がして思わず飛び跳ねた。野次馬のざわめきも大きくなる。その中からするりと抜け出して、こちらに向かってくる影がある。身構えて、その正体を認識した。あれはアンナだ。ハステアーラが呼びかける。
「待ってくれ! 大丈夫かい、何があったのかな」
呼びかけられて、アンナは立ち止まった。そしてラムとハステアーラの姿を見ると、提げた籠の中から大慌てでメモ帳を掘り出してきて、急ぎながら捲り上げた。
『追われています、助けてください』
「……! そうか! そうだね! ならワタシに任せてくれたまえ! どれどれ、追手は──」
マントをバッと翻し、勢いよく飛び出すハステアーラ。そんな彼女の目の前に、何かが着弾、爆発を起こして髪が靡く。咄嗟にラムはアンナのことを庇った。助けを求める相手を、キューティーヒーラーは無視できない。ただ、ハステアーラも無事なのか。思わず名を叫びそうになったが、彼女はただ立ったままだった。
「いや……ここは逃げよう。うん。それがいい」
そして呟いたかと思うと、すぐさまマントを翻す。彼女に押し出されるようにして、わけもわからぬままラムもアンナも駆け出した。後方からはまたしても破裂音。何が追ってきているのか気になって、ラムはアンナをハステアーラに任せるように速度を落としながら振り返った。丁度、放物線を描き飛来するものがある。これは……ペットボトル、か?
「まずいそれはっ、危ないっ!」
ハステアーラが声を上げたのに驚く間もなく、ラムに向かって急にペットボトルの軌道が変わり、直撃した。さらにぶつかる寸前には爆発が起き、炎が起こり肌を焼こうとする。肌で感じる衝撃で測るに、なるほど魔法のかかった兵器だったらしい。煤を吐き出して、コスチュームについた火を振って消して、応戦のため構えようとしたのをまたハステアーラに引っ張られた。
「きゃっ!? あ、あの! お姉ちゃん一応武闘派だよ! 戦えるんだけど!?」
「悪いことは言わないから逃げるんだ。関わらない方がいい」
下手な罠なら食い破るつもりだったが、これはどちらかといえば警戒より、ハステアーラ自身が何かを抱えている。これ以上は彼女の方が不憫になる。ラムはそこで大人しく従い、再び加速した。追手は早期に振り切れそうだが、それでどうするのか。ハステアーラと相談するような暇はなく、アンナはメモ帳にペンをすべらせ、殴り書きを見せてきた。
『かくまってくれませんか』
そうは言われても。ホテルはとってあるが、ラムはこの街の魔法少女ではなく、隠れ家としては弱いのでは。返事ができないままハステアーラの顔を見る。彼女は金色の仮面を被り顔を隠していたが、それを見たあたりで急に方向転換をし、路地裏に飛び込んだ。ラムとアンナもつられ、突っ込んでいく。その先は出入口だったらしく、景色は変わっていた。住宅街の一角だ。やっと落ち着ける。速度を落とし、息を荒らげながら、ハステアーラはゆっくりと仮面を取った。
「……ふぅ。ようやく抜けられたね。それで、ええと……あぁ、隠れ家か。そうだな、ワタシの城にお招きさせてもらおうか、うん、それがいい」
そしてそのまま、ひとりで話を進めていく。喋れないアンナはともかく、ラムが声を出す暇もないまま、彼女の中では納得になったらしい。アンナの手を引き、エスコートするよ、なんて微笑んでくる。アンナも素直に頷きついていった。ラムもついでに同行する。
「城ってつまり、自宅、だよね? いいのかな、親御さんとかは……魔法少女のままじゃいられないからそこも」
「平気だよ。一人暮らしさ。プリンセスもそれでいいかい?」
「プリンセス?」
ラムが首を傾げながら、周囲を見る。ここにはラムとアンナしかいない。ラムのことは『仔羊ちゃん』だ。ということは。アンナの方を見ると、彼女は自分を指さして驚いた様子になった後、とにかく頷いた。そして『ありがとう』の書いてあるページを捲り、ハステアーラを満足させていた。
「同じ魔法少女だ! 助け合おうじゃないか。ワタシの部屋は使ってくれてかまわないからね。仔羊ちゃんも」
「仔羊じゃないですけど、お姉ちゃんは部屋取ってあるから平気だよ」
……ただ、アンナとハステアーラの両方が一室に居続けるのもなんだか不安が残る。ハステアーラはあのペットボトルを仕掛けてきた相手と接触したくない様子だった。なら、もし追いかけてきた時、戦えないのかもしれない。それならラムが居た方がいい。泊まるふたりの監視も兼ねて、やっぱりお言葉に甘えようか。そう考えている間、ハステアーラは断られたことにしょんぼりしていたらしく、しょげた顔になっていた。
「そうかい……」
「あっ! わ、わかったよ! やっぱりお世話になっちゃおうかなーって……」
「本当かい!?」
これでぱあっと明るくなり、アンナと手を繋いで、家までの案内はスキップ気味になっていた。ハステアーラの情緒がよくわからない。
どうやら先程方向転換したのはこの住宅街が自宅に近いからのようだ。ハステアーラは自信満々に歩いていき、アパートのうちひとつの前で立ち止まった。ここがそうらしい。それなりに新しめで、確かそこそこ近くに駅があるはず。通学に丁度いいのかもしれない。そして部屋に着くや否や、扉を開いた彼女はまた大袈裟に言う。
「ようこそ! ワタシの城へ!」
一人暮らしの……恐らくは高校生である彼女の部屋。恐らく同年代であろうラムだが、想像がつかない。どんな感じなんだろう。さすがに質素な方なのかな。
「お邪魔しま〜す……」
『お邪魔します』
「わっ……」
まず目に飛び込んできたのは豪勢な家具の数々。特にどう考えてもこんなにいらないシャンデリアだ。主張の強い本人に倣い部屋も主張が強かった。さらにこの、複数人で余裕を持って暮らせるくらいの広さ。何気なく他の部屋を覗いてみても、ベッドがキングサイズだった。
これはまさか、誰かと同棲していたのでは。でも、そこまで聞いていいのだろうか。みんななら……主にミントは悪気なく聞くだろう。本来ならそこまで掘り下げないラムだが、ここはどうしても気になった。
「すごい、本当にひとりで……?」
「ああ! いつ誰が泊まりに来てもいいように、全て複数人用で揃えているんだ!!」
どちらかといえば、人を招きたくて仕方がないだけだったらしい。乾いた笑いが出た。
「ではおもてなしをしなくてはね! 用意するよ! 掛けて待っていてくれたまえ!」
『ありがとう』
こんな調子でいいのだろうか。まあ、大丈夫か。監視さえしっかりして、無実が知れればそれでいい。
「そうだ、3人でベッドは足りるかな? アンナは小柄だから平気かな?」
「あ。お姉ちゃん、睡眠しなくてもいいから、いいよ」
「徹夜かい? 良くないよ?」
「大丈夫。丸1週間同じポーズを維持する訓練とかしたことあるから」
「それはどういう修行なんだい……?」
選りすぐりのキューティーヒーラーの中でも圧倒的フィジカルを持つパンダの弟子、それがラムだ。生半可な肉体負荷は負荷にもならない。
『ゆっくり休んだ方がいいよ』
アンナにまでそう書いて出されるとは。乾いた笑いがまた出てきてしまった。