魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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護衛任務

 ◇レーニャ・エレジィ

 

「どうだ、何かあったか」

 

 事務所に戻ると、スパル・トイが出迎えてくる。レーニャに今しがたの出撃を指示したのは彼女だ。巡回中の兵隊でキャッチしたボヤ騒ぎの様子を、レーニャに見に行かせた、ということだ。こちらから報告してやることは……ないとは言い切れないが、ない、ということにした。首を振って答え、するとスパル・トイはわかりやすく目を丸くして動揺した。

 

「な、何もなかった!? そんなバカな……この頃侵入者やら新顔やらが多すぎて追いついていないだけなのか……いやしかし……」

「とにかく報告することはないから」

「あぁ待て! そうだ、若が呼んでいた。吾輩がちゃんと仕事をしていたと証言してやろう。だから貴様も吾輩が仕事をしていたと証言を」

「……わかりました」

 

 提案としてはありがたいものだった。彩音燐音(サイネリオン)からの信用はレーニャが今欲しいものだ。スパル・トイの提案を素直に受け入れて、例の部屋へと向かう。鎧がガチャガチャ音を立てている横で、息を整えた。そうしてサイネの待つ部屋に入るや否や、これまた見知らぬ魔法少女がソファに座って、しかもカレーうどんと割り箸を手にしており、目を見開いた。そんなレーニャと目が合った彼女。こちらの顔を見ながら、麺をすくい、おもむろに啜った。汁が跳ね、白いコスチュームに残る。

 

「お、この跳ねは……凶兆! 凶兆ネ!」

 

 そしてそのシミの形を凝視した後、騒ぎ出した。ここの魔法少女幹部連中はただでさえうるさいのに、なんなんだ、誰なんだ、こいつは。

 

「来たか。いきなりで悪いな」

「それは……構いませんが」

「なぜ魔サラ殿が?」

 

 魔サラというらしい魔法少女はカレーうどんを持ったまま、ついでにずるずる音を立ててさらにうどんを啜りながら、向かいのソファを指した。座れということか。思わず眉間に皺が寄るが、視界に別の光が映る。昼間からピカピカ光っているのはネオンサインのコスチューム、サイネだ。彼女が魔サラの向かいのソファに座り、さらに後ろからジャジャーンとオトマドベルが登場。ソファの後方に控えた。デビ☆るんるんの姿は──探したが、ないらしい。

 

「ちゃんと来たな。俺の隣でいい、座れ」

「はっ!」

 

 言われた通りにまずスパル・トイが座り、その横にレーニャも続く。

 

「……あぁ。新入りは初めて会うだろうから紹介しておく。彼女はガラム・魔サラ。ウチの取引相手だ」

「どうもネ〜」

 

 手を振る魔サラ。怪しい、意味のわからない奴、という印象は変わらない。笑顔が胡散臭い。特に、この付け髭が怪しい。このカイゼルひげは、コスチュームの一部なのだろうか。

 

「実はなんだケド、監査に目ぇつけられちゃっテ。ワタシの部下が壊滅したんだヨネ」

 

 そして全く深刻そうな顔をすることなく、彼女はそう続けてきた。オトマドベルでさえ面食らって、沈黙を破ったのはサイネだった。

 

「……は?」

 

 当然の反応である。

 

「おいおい待て待て、聞いてないぞそんなの」

「話してなかったからネ。たぶん監査部門に裏のことバレてるネ。だから返り討ちにしないといけないのネ」

「……っぶねー……これがシルク姐さんに聞かれてたら半殺しじゃすまなかったっての」

 

 あのシルクウィングならそこまでするだろう。黙って聞いていたレーニャの脳裏にも、詰め寄ってくるシルクウィングのあの顔が思い浮かぶ。あの圧は二度と受けたくはない。それはつまり、恐らくだがレーニャの追放を意味しているからだ。

 

「でも今夜、外せない取引があるのネ。そこで護衛が欲しくっテ」

 

 ここで、スパル・トイが勢いよくこちらを振り向いていた。顔がニヤケ顔だ。それをなんとか落ち着かせた後で、真剣に口を開く。

 

「監査……しかもそのそこまでのやり手。そんな芸当ができる者、恐らくかなりの実力者。数人に絞られるかと」

「スパルは元監査だったな。頼んでいいか?」

「無論ですとも! うおお新入り! 汚名を雪ぐ好機であるぞ!」

「あんたも出るか?」

 

 サイネに聞かれ、深く頷いた。スパル・トイの言う通りだ。ここで手柄を挙げなければもう次はないのだから。

 

「命のやり取りになるだろうが。できんのか」

「……できます。やらせてください」

 

 ペットボトルの在庫は、普段携行できずに溜めているぶんがある。それさえ使えばレーニャはまだ戦える。取り逃してばかりなんて、今回で言わせない。そんなレーニャの返事に、サイネは口角を上げた。

 

「よし、わかった。ウチからはスパルとレーニャ、あと何人か人間をつけるか。相手はひとりだったんだな?」

「なんかひとりで突っ込んで来たネ。ワタシひとり追うのに人数増やしてくるとは思えないネ」

「ビシッ! はい、私も出た方がいいかな? いいよね、シュバッ!」

 

 やかましい擬音と共に手を挙げたオトマドベル。しかし、こちらにはサイネは苦い顔をし、その手を掴んで下ろさせた。

 

「命のやり取りになるって言っただろ」

「私も根尾燕無礼棲だよ! ガビーン! レーニャちゃんは要るけど私は要らないって!?」

「お前は俺の用心棒だ。新入りとは立場が違う。俺の傍にいろ」

「……はぁい。シュン……」

 

 オトマドベルが大人しくなったところで、サイネは咳払いをし、魔サラの方を見た。

 

「ってなわけだ。それでよろしく頼む」

「はいはいネ」

「取引の時間まではウチに居ても構わん……が、ここでは商売はするなよ」

「けちんぼネ」

 

 軽口を吐きながら、堂々とカレーうどんを啜る彼女。若頭とは言われているが、サイネの前では特に遠慮しない者も多く、彼女も何も言わない。懐が広いと言うべきか。これがシルクウィングだったら……『えらい美味しそうなもん食べてはりますなあ』だろうか。

 

「あぁ、そうだ。今回はツラ見られない方がいい。隠しとけ」

「了解であります!」

「わかりました」

 

 この組織に入る際に作った、ペットボトルを潰して固めて作った仮面がある。同様に、スパルも頭の防具をフルフェイスにすることで顔を隠すことができる。オークションの際には必ず着けろと言われていた代物だ。どうせ魔法少女なんて魔法で特定されるだろうが──サイネが言うことに逆らうつもりもない。レーニャはこの立場にしか居場所がないのだから。仮面を着けながら、深く息を吐く。

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