魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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突撃、となりの闇取引現場

 ◇スワローテイル

 

 人々が寝静まる、静かな夜の深く。こっそりと、父を起こさないように寝室を抜け出す。いつもなら、あげはだってとうにぐっすり夢の中な時間だ。けれど、魔法少女の姿なら寝なくても平気。エリザからの連絡を待ち、とにかく夜更かしだ。父は眠っている。なるべく音は立てないように、電気は点けないようにして、端末の通知を聞き逃さずにキャッチ。ゆっくり扉を開けて、ぴょんと外に飛び出して、鍵を閉めた。これもできる限り音を立てないように。そして、エリザの姿を探す。夜の街でも、スワローテイルの視力ならばかなり見回せる。そしてこちらに向かってくる彼女の姿を見つけると、飛翔して先に赴いた。

 

「打ち合わせたのに」

「えへへ……待ちきれなくて!」

「寝てたら窓から入るつもりだったんだけど、そっちから来たか」

「さすがに窓から侵入はよくないです」

「冗談。さて……」

 

 エリザは振り向く。方角は埠頭の方向だ。連絡が来て迎えにも来たということは、既に目標は現場にいる。人をおかしくしてしまうものをばらまく、そんな悪いやつがいる。それならスワローテイルたち魔法少女がやっつけないといけない。強い決意と共に頷き、エリザが動くのに合わせて飛び立った。北宿から埠頭までは、城南とは逆方向だ。行き帰りとは違う道ではあるけれど、なんとなくわかる。そしてある程度近づいたところで、エリザが引き止め、行き先を指した。目を凝らせば、人影が見える。

 ターバンを巻いているのが……あの『スパイス』を流通させている張本人だろうか。その隣にいる古代の兵士の格好をした人物は、その装備が裏城南を巡回する玩具の兵隊に似ている。またその近くには見覚えのあるペットボトルを纏ったシルエット、レーニャ・エレジィらしい影もあった。レーニャがいるということはつまり、これも根尾燕無礼棲絡みということになる。

 

「あっち……見えるか」

「えっと、あ、盾を持ってる人ですか」

「十中八九あいつが取引相手みたいだな。どっちも見たことない顔だが」

「あっ、コルネリアさんから……あの人は『ガーデン・ガーター』、魔法は『茨の盾』だそうです」

「あのでかい盾だろうな、あたしの弾じゃ……厳しそうだ」

 

 エリザは腰のホルスターから引き抜いた拳銃をくるくる回し、ひょいと投げた。そして再びキャッチした瞬間、拳銃は変型し、いつの間にか大型のライフルに変化している。思わず立ち止まったスワローテイルに対し、彼女は屋上に陣取り、床にスナイパーを構えて設置にかかる。その動きに迷いはない。

 

「えっ、ここから」

「レーニャの奴に一撃入れる。そしたら全速力で追いかける! あんたはとにかく先に行って、仕掛けて!」

 

 スワローテイルは飛翔の速度を上げた。一気に接近、距離を縮めていく。すると真っ先にレーニャがこちらに気が付き、振り向こうとした。指を差し、息を吸い込み、そこで銃声。破裂音を轟かせながら飛び出した弾丸は、身構えようとしたレーニャを直撃する。ペットボトルで弾丸そのものは受け止めたらしいが、衝撃は殺しきれていない。ひしゃげたペットボトルから来た衝撃はすさまじく、耐えきれずに彼女は大きく後方に吹っ飛ばされ、埠頭の向こう、即ち海に落ちた。ざぶん、と水しぶきが上がる。

 

「む──!?」

 

 その着弾、そして着水とほぼ同時、スワローテイルが兵士の頭上に到着する。彼女に向かって、上空から思いっきり拳を叩きつけようとし、寸前で受け止められた。

 

「なるほど、蝶に銃撃! 貴公らが新入りの言っていた余所者だな! 吾輩にも牙を剥こうとは愚かなり、我ら根尾燕無礼棲に歯向かう者の末路を知れ! 吾輩はジェネラル・スパル・トイ! 裏城南を統括する裏の将軍! 精々後悔するがいいぞ!」

「ごめんなさい! 何を言っているかぜんぜんわかりません!」

 

 スワローテイルの拳を阻んでいるのは、槍のような長物武器だ。彼女の武器だろう。蹴っ飛ばして殴り掛かる。当たったが鎧で拳も痛いし、うまく衝撃が通っていない。スパル・トイは槍を振り回して反撃してくる。羽ばたいて逃げ回り、突こうとする槍にむしろ飛び込み、掴んで本人に迫る。そのまま顔面に膝蹴りを、と構えて、脚に激痛が走る。熱い、これは──ありえないくらい辛いものを食べた時の感覚だ。もしかして、と振り返ると、脚が粉で真っ赤だ。反射的にひっこめたせいで力が抜け、そこに槍が横にぶつけられた。脇腹に食らった衝撃でよろめき、そこにターバンの魔法少女がケラケラと笑ってくる。

 

「なんネなんネ、いきなり出てきて喧嘩なんて。もしかしてスパイスが欲しいのネ? だったらちゃんとお代金をネ」

「誰が欲しがるか」

 

 歩み寄ってきたターバンに向かっての銃撃。響いた銃声に、スワローテイルは安心した。エリザだ。ターバンの魔法少女は身を翻してあと少しのところで回避。そのうえで蹴りを仕掛けていくエリザ。踏み込みながら手元で拳銃を回し、刃のついた銃剣に変えて切り込んだ。対する相手は両手を袖の中に隠したままピョンピョン飛び回って避けてくる。まだ余裕の様子だ。

 そして袖の中が蠢いたかと思うと、一気に粉がばら撒かれる。さっきの激痛の粉と一緒だ。スワローテイルが飛び込み、羽でふたりを覆って防ぐ。羽は羽で感覚があって、浴びると痛い、けれど防げるなら上々だ。付着したまま羽ばたいて跳ね返してやる。こうなるとさすがの使用者も顔を覆い、そこに殴りかかろうとして、突き入れられた槍と再び衝突することになる。

 

「おのれ、魔サラ殿を狙うか!」

「ああびっくりした、返り討ちにしてやるのネ……っていうか、海に落ちたあの子はいいのネ?」

「よそ見してんなよ!!」

 

 エリザの銃剣は既に姿を変えている。今度は連射式だ。これまでとは違うけたたましい音を立てながら、繰り出される弾丸。スパル・トイが自分のコスチュームの盾を構え、槍を掲げた。

 

「それは貴公も同じことよ」

 

 それを合図に、周囲でブリキの軋む音がした。スパル・トイの使役する兵隊たちだ、取り囲まれている。手には──昼間の魔法少女と同じ、銃が握られている。号令が響くと同時にスワローテイルはエリザを掴み、空に逃げ出す。しかし上空ではむしろ格好の的。エリザが反撃に引鉄を引くも、囲まれていては足りない。飛び回っていくつかは避けて、振り回されるエリザが呻き声をあげたのを聞き、やはり突っ込むことに切り替える。加速して、スパル・トイと魔サラに向かって急降下体当たりだ。ぎりぎりで避けられて、風を切って、また空へ。

 

「避けられちゃった……」

「っ、あっぶなぁ!? おっ、おいっ、今度はなんだよ!?」

「ごめんなさーいっ!!」

「わーったよ、あぁ、もうっ!!」

 

 銃を投げ捨ててまず代わりに上着の内側からナイフを手に取るエリザ。スワローテイルが手を離すと、転がりながら着地した彼女は魔法を使う。その小さなナイフすら長剣に変え、すれ違いざまに兵隊の首を断つ。それを何度か繰り返した後で、射的の時のように、剣が投げて渡された。確かに受け取って、とにかく兵隊を切りつける。思いっきり殴りつけ、動かなくなるまで殴って凹ませて、頭部に突き刺してトドメとした。街にいるものと1体1体は同じだ。この調子なら。

 

「まさかただ倒せばいいと思っているのか!」

 

 しかし、再び槍を掲げ合図としたスパル・トイの号令で、コンテナの裏側から無数の影、またしても兵隊だ。この兵隊だらけの中だと──。

 

「仕方ないから今日はここまでにしておくのネ」

「っ、待て! 逃がすかよ……ッ!」

 

 逃げていこうとした魔サラを追って、エリザはとにかく銃撃を連発する。しかし兵隊が襲いかかってくるせいか、思うようには当たっていない。スワローテイルも数を減らそうとはしているが、スパル・トイの合図のたびに現れて、減っている気配がない。彼女自身をどうにかしなければならないのだろうか。

 スワローテイルは兵隊から銃を奪い取る。使い方は……わからない。銃を振り回して殴る。そして隙が見えたら、スパル・トイに向かって思いっきり投げつけた。ヘルメットに当たり、ガン、という金属音と共にバランスが崩れる。そこに向かって、一気に地面を蹴り、距離を詰めた。ただ殴り掛かるだけじゃダメージになってくれない。だったら──! 

 

「強く、握る……!」

 

 スワローテイルの生まれ変わりの魔法は、蛹を介して行われる。その蛹の硬度は、生半可な攻撃では破れない。ならそれを攻撃に使えば……! 己の拳自体を、グローブをはめるかのように包み込んで、蛹化したパンチでスパル・トイの頭を狙う。先程よりも鈍い音がして、スパル・トイが声を漏らす。効いている。

 

「ぐ……ッ! 直接将を射んとするか! それもまた戦だ、だがまずは馬を射なければならぬことを教えてやる!」

 

 理解できない話には耳を傾けることはない。殴り、殴り、盾で防がれ続け、しかしある時、殴りかかり振りかぶったその姿勢から、ここで蛹のグローブの内側から、生まれ変わった手を出した。受け止めようと差し出された盾を、掴む。咄嗟に対応できないスパル・トイ。彼女はやられるがまま、引っ張られていた。

 

「えいっ!!」

 

 海に向かって、投げる。抵抗しようとしたスパル・トイの脚にも思いっきりキックをして、そのままの勢いでくるり回転、背中で体当たりだ。ダメ押しで、近くで動かなくなっていたブリキの兵隊を引っ掴んで、スパル・トイに叩きつけた。そのまま埠頭の淵から、足が外れる。

 

「ぐあっ!? 少しはやるようだな、だが吾輩はこの程度では……あっ? 待っ、吾輩、泳げなガボボボッ」

 

 構えようとしたはずの彼女はそのまま転落した。槍と盾が、というより鎧が全体的に重いせいか、必死に浮かぼうとしているがうまくいっていない。スワローテイルはそんな彼女に返事をするわけでもなく、息を整えた。

 首謀者であろう魔サラがまだ捕まっていない。エリザのことを、助けなくては。

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