魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇コルネリア
連絡してから数分、銃声が響き、レーニャ・エレジィが海に放り出されたのを皮切りに、荒事担当のふたりが一気に仕掛けていくのが見えた。スワローテイルの襲撃、そして現れた兵隊の攻略。根尾燕無礼棲の配下であろう魔法少女たちはあちらに任せ、コルネリアとマスカレイド44は取引相手らしい魔法少女の方を見た。まだこちらに気づいていない彼女は、目の前で始まった戦闘に対し、わなわな震えている。スパイスの禁断症状か、それとも──考えているうちに、コルネリアは自分の頬を軽く叩いた。
「作戦開始です!」
「仕方ないデスね」
調べはついている。相手は『絶対庭園』ガーデン・ガーター。その二つ名が意味するのは元魔王塾生、つまり武闘派だ。ついでに元々外交部門に所属していたはずだということもわかっている。この頃行方不明だったというが──そんな魔法少女がこんなところで薬漬けになってこんな怪しい取引に手を出しているのは悲しくもあり、なんでだよと顔をしかめたくもなる。出来ることなら相手はしたくない。
それでも、スワローテイルとエリザが担っているのはこれ以上に危険な役割だ。コルネリアたちが逃げ出すわけにはいかない。物陰から飛び出して、呆然とするガーターめがけて、叫んだ。
「麻薬は! 犯罪ですよ!」
ゆっくりと振り向くガーター。そこへまずはマスカレイド44が仕掛ける。取り出したのは先程監視中に引っ張り出したマジックアイテム『無生物をすりぬけるとりもち銃』だ。不意打ちでの乱射によって、体中ベタベタにして動きを止める。身構え出す時にはもう遅い。全身を固めてやった。ここからはエリザの方に加勢して──。
「なんだこれは……この程度で私を止めたつもりか」
彼女の手にしていた盾とコスチュームに絡みついていた、無数の荊が一斉に動き出す。すさまじい力でとりもちを強引に引き剥がして伸びてくる。マスカレイドがびくりと肩を震わせたのも頷ける。相手は塾生、我々のような普段戦っていない魔法少女からしたら、化け物めいた存在だ。こちらを捕らえようとしてくるのを、どうにか避ける。いや、コルネリアの身体能力ではどうにもならない。であれば、マスカレイドに頼るしかない。彼女に抱きつき、そのまま飛行してもらう。
「抱きつくなんてワタシに頼りすぎデス」
「ですよね!? でも正直こうでもないと私死にます!」
「なんか妙に押しが強くないデスか」
マスカレイドは背中のランドセル型スラスターから火を噴きつつ、襲いかかってくる荊の群れをどうにか緊急回避し、動きの早い荊相手にとりもち銃ではどうにもならないと、自前のコスチュームについたボタンを押した。コルネリアがしがみついていた脚付近の装甲が開いたかと思うと、中から可愛らしく彩られた、しかし明らかに可愛くない物体、つまりミサイルが飛び出す。慌てて顔を逸らして射線から離れ、それらが荊と激突、爆発を起こすのを見届けた。
「邪魔を……するな!」
たかが1、2本を撃墜しても茨は止まらない。構えられた盾を中心に、森のように広がっていく。なるほどこれが絶対庭園か──と感心している暇はない。
「やっぱり本人を狙わないと! さっきのあれはもうないんですか!」
「ないデス! あれ高いんデスよ!」
「だったら……っ、それ貸してくださいっ!!」
マスカレイドの手からとりもち銃をひったくった。コルネリアが持っていたのは、調査の時にも使った強化装置の方。適当に取り付けても効力を発揮してくれるのはさすが魔法のアイテムといったところ。これによりとりもち銃にチャージショットが追加され、強化ユニット側にゲージが表示、最大値になるまでトリガーに力を込めて、その間の回避はマスカレイドに任せて、そしてついに放つ。狙うは本体だ。ミサイルとはいかなくても、なんとか盾を吹っ飛ばせやしないか。そう願った1発だったが、確かに衝撃はすさまじく反動でコルネリアは吹っ飛ばされかけたものの、向こうには耐え切られた。盾を構えるその奥で、恨めしい視線が向けられている。
コルネリアは息を呑む。人にあれだけ執念を抱かせる依存性──彼女はここでどうにかしなければ。壊れたとりもち銃から強化ユニットを外し、銃の方は投げ捨てる。ぶつけられた荊には大してダメージはないが、本題はそっちじゃない。
「つ、次の道具は!?」
「壊したら次が出てくるわけじゃないんデス! 1回出したら充電期間が必要なんデスよ!」
「ですよねー!?」
鞭のようにしなる荊が叩きつけられる。マスカレイドはコルネリアを庇い、肩に直撃を受けた。装甲が破損し、その向こうの素肌が抉られる。こんな時でもお面ゆえに顔がわからない。が、息が荒いことだけは聴こえた。
「……手がないことは、ないです。危険ですけど」
「こうなりゃ一緒デスよ」
「だったら! 行きましょう! 全速前進です!」
「……ん? 作戦ってもしかして」
「突撃です」
「んな……もう! 信じマスよ!?」
「私も信じます」
荊を惹き付けギリギリで回避、その間を縫って一気に距離を詰める。無理を通すため、擦り傷には構わない。掠った棘で皮膚が裂けるが声を堪えた。痛みと衝撃の風に目を閉じたくなるが、ぐっと細めて、目標を見る。もうすぐ。もうすぐ──ここだ。コルネリアは地面に飛び降りて、無理やり転がって、追いかけてくる荊から距離を詰められつつ、ガーターのもとへと辿り着く。彼女はまず警戒からの防御体制をとった、普通の相手ならそれでいい、だが今回は違う。盾に向かってしがみつくように、とにかくくっつけたのは──強化ユニットだ。
「すみません!! あと一撃耐えてください!!」
盾が強化されたことにより、荊がより素早く、鋭く動く。飛び回るマスカレイドが、やがて捕まった。地面に叩きつけられ、装甲の破片が散り、血を吐く。まずい。コルネリアは荊の盾に、とにかく殴りかかった。殴った拳が抉れる、骨が砕けている感触がする。コルネリア自身は魔法を使い、己の痛みを曖昧にして、耐えきった。へなちょこでも、攻撃を受け止めた盾は、これで『使われた』。
「……なっ!? わ、私の、盾が、庭園が──」
盾から伸びていた荊が、次々とちぎれ飛ぶ。マスカレイドもコルネリアも攻撃していないのに、まるで機能そのものが壊れたかのように。それもそのはずだ。強化ユニットをつけて使用した魔法のアイテムは必ず壊れる。それは、相手に取り付けても例外はない!
「っく、だが私だって」
「そこまでデス」
盾を捨てて動こうとしたガーター。だがその目の前に、手を突き出して構えたマスカレイドが待っている。その手に格納されていたのは、ミサイルだ。肉弾戦に持ち込む間もなく、射出と同時に着弾、爆発を起こし、煙を吐き出しながら、ガーデン・ガーターは倒れ伏した。しっかり、意識を失っているらしい。
「はぁ、はぁ……なんとか、なりました……ね!」
「後でミサイル代とか諸々請求しマス」
「経費で落とします!」
これで残るはガラム・魔サラだけ。塾生さえいなくなれば、彼女たちならなんとでもしてくれるはず。そう──思っていた、が。
◇スワローテイル
全速力で飛んできて、魔サラとエリザに追いつく。絶えず響いていた銃声だが、それはとにかく魔サラの向けてくるスパイスを撃ち落とすために使っていたようで、散々に浴びたエリザはもう顔の各所がかぶれて真っ赤になっていた。見るからに痛そうだ。息もあがっている。スワローテイルは羽ばたいて少しでも風を起こし、さらにばら撒かれる粉をぶっ飛ばそうとする。かと思いきや、今度は粉の塊がドラゴン型となってうねり飛び、噛み付いてまできた。二の腕を噛まれ、激痛が走る。涙が出るほどだ。ただ怪我をしただけじゃない、同時に唐辛子を刷り込まれているようなものなのだ。
「フッフッフ、痛そうネ、つらそうネ。そんなアナタに……特製スパイス! これなら痛みも忘れて気持ちよ〜くなれるネ」
「いら、ない……!」
「またまた。楽になれるネ? 全部、つらさも寂しさも、ぜぇ〜んぶ忘れちゃえるネ」
辛いこと。寂しいこと。悲しいこと。抱えることは苦しいのかもしれない。たった6年しか生きていない自分にはわからないけれど、逃げたくなることだってあるのだろう。だからって──その後に来る楽しい全部を、投げ出させるなんて。
「……か」
「ン〜?」
「そんなの、許すもんか!!」
ニヤニヤしながら近寄ってくる魔サラの顔を、思いっきり殴り飛ばした。
「がっ……!? この、小声からの不意討ちとな卑怯なのネ! まったく、お客になる気がないなら、もう口封じでサクッと──」
「できると、思いましたか」
「──は?」
目の前で、凄まじい衝撃が響く。目の前で、魔サラの白の衣装がじわりと胸元から真っ赤に染まってゆく。ゆっくりと振り返る彼女の背後には、ヘルメットを被り、ハイキックの体勢のまま、安全靴に返り血を滴らせる、見知らぬ魔法少女だった。
「どうやら私闘が行われていたようですが。あえて問いましょう。貴方がたは──悪ですか?」