魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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道端で会えるヒロイン

 ◇キューティーラム

 

「朝だよ! 起きて!」

 

 寝室で、変身したまま眠っていたアンナを起こす、変身前のハステアーラ。……を、監視するラム。前回から既に7時間ぶりの瞬きで一度休憩を挟む。師匠から伝授された1秒間脳を止めるやり方で睡眠、きっちり1秒後に覚醒し、目を覚まそうともぞもぞとする彼女らを再び認識する。

 

「仔羊ちゃんも、寝てないでしょ、お昼までちょっと眠ったら?」

「羊じゃないですけど、今寝たから大丈夫」

「……んん? 今? どういうこと?」

「お姉ちゃんは脳を1秒で休める訓練をしてるからね」

「???」

 

 師匠ならこの半分で回復できる。ラムはまだそのレベルには達していない。もう少しで1秒は切れそうなのだが──魔法少女にとってはその気を抜く1秒が危険なのだ。こうしてふたりとも他に気を取られている瞬間ならいけるという判断だった。監視も休息も、ラムにしてはしっかりやれたのではなかろうか。ふたりはそれぞれゆっくりと起床してくると、家主は朝食の支度をしてくれる。変身しないのかと聞くと、変身したままだとヒラヒラで料理しづらいんだよ、と言っていた。

 魔法少女にとって、変身前の姿は弱点でしかない。それをこうして晒すというのは……やはり意図があってのことだろうか。

 

「学校とかは……あぁ、いや、休日だった」

「今日は日曜日。昨日は土曜だもん」

「キューティーヒーラーの日だったね」

 

 同僚の友人が出演する番組が、このくらいの時間帯の放送である。キューティーヒーラーと言っても通じないふたりなのがもどかしいものの、そんなこともあるのだろうと押さえる。見せたい気持ちはあるが、彼女らは監視対象。私情はしまっておく。首をかしげられるが、とにかく黙る。

 

『実は』

 

 そこへ、アンナがぺらりと、メモ帳をめくり、見せてくる。そこに熱心に何かを書き込むと、なんとか読める文字でこう返ってくる。

 

『明後日までに、取りに行かなきゃいけないものがあって』

 

「それって……裏城南に、ってこと?」

 

 アンナが大きく、ぶんぶんと頷いた。つまり結局またあの領域には行かなければならないらしい。ラムはまだいい。派手には動きたくないが、派手じゃないならもっと調査すべきである。だが問題はハステアーラの方だった。彼女は目を丸くした後、深いため息を吐き、仕方ないよね、とこぼし、そして初めて魔法少女の姿に変身する。

 

「……ワタシも行くよ。君たちのことは放っておけない! 助けると決めたからね!」

 

 マントをはためかせるハステアーラ。行かなければならないとあっては、彼女も行くしかないという。ただし、と彼女は言葉を続ける。

 

「なるべく、あのような連中とは関わらないように……だ。狙われているプリンセスも、怖い思いはしたくないだろう」

 

 ラムが言う『派手な動きを避ける』の部分だ。昨日の飛来した爆発するペットボトルの使い手をはじめとした、ああいう攻撃してくる存在。それのみならず、遭遇経験のある玩具の兵隊たちもそう。騒ぎを起こせばアンナの捜し物も見つからなくなってしまう。

 

「そうだ。捜し物って、何、なのかな?」

 

 アンナに向かって聞いてみる。結果として何が出てくるかはともかくとして、探せるのならラムとハステアーラも加わった方がいい。ここで言えないようなものだとしたら、やはりアンナのことを警戒対象として監視を強めた方がいい。そんな意識でいると、アンナがペンを走らす音だけがする。

 

『魔法のマッチ』

『ないと、魔法がうまく使えない』

 

 ──なるほど。ちゃんと、非常事態であるらしい。それは大変だ。頷き、捜索に賛成する。かといってあの街に落し物センターがあるわけでもなし。あるとしたら、どちらかといえば盗品が売られるような場所……になるだろう。

 

「これはとにかく足で稼ぐしかないね。ワタシが知っている入口から、左右にしらみ潰しするしかないだろう」

「そうなるよね……それだと、絶対出会っちゃうけど」

「その時は逃げればいいさ!」

 

 いつでも逃げられる方の用意はしておかなければならない。それは、わりと大丈夫だ。キューティーヒーラーには脱出の心得もある。……キューティーヒーラーというか、半ば無理やり師匠に叩き込まれた修行の成果の数々だけど、耐えられたのは師匠とラムだけだという胸を張れる代物だ。任せてくれていい。

 

 それからはほとんどハステアーラに引っ張られて外に出された。アンナの捜し物だというのに、一番やる気があるのはずっとハステアーラだ。先頭の彼女は金色で目立つ。それでも気休めのように、コスチュームのお面で顔を隠してから、裏城南に入っていく。アンナと自分はしなくても平気なのかとふと思う。仮にもアニメ化魔法少女なのだ。

 ただまあ、この街では流行っていないのだろう。それ以前に、やっぱりメインターゲットは女児なわけだし。主人公はラムじゃなくてショコラだし? 大人からの認知度が、サブの紫キューティーならまあ低くたって仕方ないんじゃないか。だからバレないことだって、ある。

 

「そういえば、ちらと言っていたが、有名人なのかい、仔羊ちゃんは」

「うん、一応そういうことになる……けど、まあ、みんなには知られてなかったけど」

「やっぱりそうなんだね。いや、ほら、あの人、君の顔が書かれた荷物を持っているから」

 

 私の……? それってつまり。可能性に思い当たって、振り向こうとして、その持ち主がこちらに来ている可能性が頭から抜けていて、予想より近くて驚く。そしてそのまま。

 

「……おい、そこのあんた」

 

 声をかけられた。身構える。すぐにでも逃げられるような構えだ。ハステアーラ共々アンナを庇って立ち、そんな彼女と比べてもラムは前に出る。

 なるほど確かにあれはラムが描かれている。なにせ、アニメ『キューティーヒーラーショコラティエ〜ル』関連グッズ、『混ぜて攻撃! DXエールステッキ レッド&パープルバージョン』……つまりキューティーラムが作中で使っていた武器を再現した玩具なのだから。まさかそれそのものを持った相手が、よりにもよってここにいるなんて。

 セクシーな、保安官と言われれば保安官かもしれない、どちらかといえばビキニの方が目立つコスチュームの彼女は、それを見せるようにして、聞いてきた。

 

「これ、あんただろ」

「……ふふ。その、他人の空似……」

「なわけないだろ。コスプレの店があることは確認してるけど、髪や顔立ちまでは再現不可能だ。ってか、アニメ絵そのままって、うわ凄いな」

「お、お姉ちゃん、その、わかんないな? 私はそう、ただの一般お姉ちゃん魔法少女だから……」

「? ラム? いいのかい? 君のファンじゃないのかな」

「ほらやっぱりキューティーラムだろ」

「うっ……」

 

 完全に言い逃れができない。ここはやはりキューティーパンダ直伝の離脱術を……! 

 そう思い構えた時、向こうからぱたぱたと、もうひとり魔法少女がやってくる。こっちはこのセクシーポリスに比べればかなり大人しい印象だ。彼女は真っ先に頭を下げる。

 

「ごめんなさい! ちょっと輩っぽいですが、こう見えて輩ではないんです」

「お、おい、なんだよその言い方」

「自分の手伝い……といいますか。あ、すみません、こちら、私このような者で」

 

 流れるようにするりと間に入り、名刺を渡された。細々と部署の名前なりが書いてある中、真っ先に目に留まる文字列は『人事部門』。そして続いて名前であろう『コルネリア』だ。なるべく小声で応対する。

 

「コルネリア……さん。人事部門、の」

「はい。教育係としてこの街に来たのですが……色々、ありまして」

「色々……」

「本当に、色々と。新人教育からは逸脱してしまったんですが、この場所の調査とかやらされてまして」

「あ……えと、私も、その……あ!」

 

 コルネリアになら明かしてもいい。が、ハステアーラとアンナの方にはそこまでは明かしたくない。

 

「ここだと危ないかもですし、安全な場所に避難したいんですが、できますか?」

「だったら店に戻るか。こっちだ」

 

 場所を変えようという提案はすんなりと通った。事実、このままここにいては兵隊に見つかる。その前に移動した方がいい。セクシーポリスの彼女──コルネリアに教えてもらったがダーティ・エリザと言うらしい──の案内で、立ち並ぶショップの一角に招かれた。店の中にもまた魔法少女がいて、お面で顔を隠していた。そこは今のハステアーラと一緒、と言えるかもしれない。

 

「おや。もう連れ帰ってきたんデスか。早すぎデスね」

「運がいい……というか。前に動きがあった出入口に、あんたが色々仕掛けといてくれたおかげだよ」

「都合よく使えそうなアイテムが出てきてくれてよかったデス」

 

 エリザと話す店主。店内にはケースの中によくわからない魔法のアイテムが飾られ、ついでに飼育ケースの中に……真っ赤な、トカゲ? が飼われていた。何のお店なのかさっぱりだ。

 

『捜し物が……』

「まあまあ。拠点を持つのは大切だよ。ワタシ達よりもこの場所に詳しそうだ。聞いてみるのはどうかな」

 

 アンナとしては自分の目的が優先したくて困った様子だった。ハステアーラが面倒を見てくれている。アンナのことは彼女に任せてしまって、落ち着いて話をしようと考えた。監視からは離れてしまうが、店主やエリザの目もある、そこは大丈夫なはず。まずはコルネリアと、ふたりになろうと、店の奥にまで移動する。障子を閉めて、落ち着いて向かい合った。

 

「ええと、キューティーラムさん」

「はい、ラムです。合ってます」

「……協力しませんか。人事と広報なら、手を取り合えるはずです」

 

 話は、ラムがこれまで知っていた裏城南の話より、何段も先へと広がっていく。

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