魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
「え、えっと……」
そこまでくると、ラムの一存では決められることではなかった。広報と人事はそう仲の悪い間柄ではないとはいっても、現場判断で、しかもこの『輩みたいなエリザ』『仮面を一切取ろうとしない胡散臭い店主』を含む相手と、手を取り合うかなんて。ハステアーラとアンナでさえ手放しで信用はできないこの状況、もはや部門関係というのを口実に、助けを求めるしかない。
急いで魔法の端末の画面を叩き、操作の末に電話をかける。忙しくて出られないことも覚悟はしていたものの、2度目のコールで繋がった。
『はいはい、ショコラですよ〜っ』
「あっ! もしもしショコラちゃん!? えっとね、その、潜入捜査のやつなんだけど」
『あぁ、あれね。パンダさんに伝えてもらったやつ。うん、どうかした?』
「人事と協力しないかって言われてて……新人教育係の、コルネリアさんって人なんだけど」
『へぇ、人事。やっぱりなにかあるんだ、N市』
「そうだよっ! ……えと、あ、協力! 捜査の協力をしたいって」
『ちょっと待ってねー』
カタカタと何かを操作する音。恐らく彼女は彼女で自分のデスクにいるのだろう。広報部門の仕事は、記者班や制作班でもなければ、映像にされる側なら外回りが基本だ。そうではなくデスクがあるのは、ショコラがショコラだからという理由に他ならない。
恐らくコルネリアのことを調べている。頼む何も出てこないでくれと祈り、少ししてショコラからの返答があった。
『……うん。確かに人事部門だね。N市に仕事に行ってる事実確認も取れてる』
「ほんと!? えっと、そこにエリザって人と、お店をしてる仮面の人が……」
『んー、プフレお姉ちゃんも広報が人材を欠かしたら大変なことになるのは知ってるだろうし……うん、そのへんは気にしなくてもいいんじゃないかなっ』
「そ、そっか! じゃあ」
『あぁ、でも』
ひとつ大事なことを忘れていた、と前置きがされて、電話越しの奥から椅子をぎぎ、と押し込む音がした。彼女が深く座り直したことがうかがえる。言葉が続いてきたのはそのほんの少し後だった。
『ラムお姉ちゃんはどうしたい?』
「えっ……私?」
話を振られても困る。それが判断つかないならこうして連絡したというのに。だけど、全てを抜きにして、ラムのことだけで考えるのならば。
「手を取り合える相手なら……手を取りたいよ」
キューティーヒーラーが拳を握るのは、決して相容れない敵だった時と、殴り合わなければわかり合えない時だ。
『……ふふ、さすがラムお姉ちゃん。そうだよね、私たちキューティーヒーラーだもん』
「う、うん」
『よし! それじゃあ協力体制にしよう! こっちからも人事に色々言ってみる!』
「ありがとう! 頑張るね! あ、ごめんねいきなり、忙しいのに」
『ぜんぜん大丈夫! 副部門長の仕事よりみんなの方が大事だし!』
「それは仕事をしてよ!?」
友達が広報副部門長でつまり上司というのも変な話だが、この件に部門長のおじさんは関わっておらず、彼女に聞くのが一番だ。ショコラがいいと言うなら、勢力とかそういう話はラムが気にしなくてもいい。電話を終えると、コルネリアの方に向き直る。
「受けさせてください」
「……ありがとうございます。キューティーヒーラーさんは皆、選りすぐりの魔法少女だと聞いています。すごく、すごく助かります」
頭を下げるコルネリア。どうすればいいのか咄嗟に出てこず、出てきたのは、作中で何度か言っていたキューティーラムのセリフと、ポーズだった。
「そんな時は、ラムお姉ちゃんにほろっとお任せっ!」
間違えた。絶対にこれじゃない。ファンサービスに何回もやっていたせいでこびりついていた。コルネリアから微笑ましいものを見て笑う音がした。一気に恥ずかしくなる。そもそも、部門所属、それも新人教育をするような魔法少女だったら、学生のラムより歳上な確率の方が高いのでは。いくらお姉ちゃんキャラだとしてもやりすぎた。この沈黙、どうしよう。苦し紛れの咳払いをして、できればコルネリアから話を再開してくれないかと目線を送り、しかし突然障子が開け放たれる方が早かった。
「今の声……! もしかして、あっ、あーっ!!」
障子を開け放ったのは、コルネリアでも、エリザでも店主でもない。ましてやアンナやハステアーラでもない、蝶の羽を背負った魔法少女だった。彼女は目を輝かせてこちらにまで上がってくると、ポーズのまま呆気にとられたラムの目の前で同じポーズ。そして、続くは例のセリフ。
「ラムお姉ちゃんにほろっとお任せ!」
「あ、それ今やられてたやつですね」
「すっごーい……!! 本物!? 本物ですよね!?」
あぁ……これだ、この反応。キューティーヒーラーを視聴してくれている熱心なファンの反応。このN市に来てから初めて認知されている。その感触になんだかこっちの方が感動してしまい、ほろり涙が落ちた。
「あっ、ど、どうしたんですか!?」
「……ううん。なんというか……本当、嬉しくなっちゃって」
「は、ハンカチを……!」
「いいの。あと拭いたらアルコールハンカチになっちゃうから」
「アルコール……?」
指で拭う。お酒の魔法少女であるキューティーラムはその通りお酒の魔法を使う。その関係で、他人がラムの体液なんかを浴びると酔っ払う副次効果がある。魔法少女が相手でも容赦なくだ。なのでそういうところは気をつけないといけない。何よりも、ファンの安全のために。
「おい、スワローテイル! なんだよまったく! 今朝は気ぃ失ってたくせに!」
「もう平気だから!」
「……来ていきなりそれかよ。てか、親父さんは大丈夫なのかよ」
「うん! やっぱり自分で謝りにって、誤魔化してきた!」
「誤魔化せてるのかそれは?」
スワローテイルというらしい蝶の魔法少女は、エリザが声をかけると、彼女のところにぴょこぴょこ飛んで戻って、にへっと笑った。このころころ変わる表情といい、比較的最近の番組であるショコラティエ〜ルのファンであることといい、恐らく変身前が女児だ。そしてこの振る舞い、ついでにコルネリアが担当している新人というのがこのスワローテイルなのだろう。
「もしかして……キューティーラムさんが、一緒に!?」
「あぁ。協力してくれることになった」
「ほんと!?」
喜ぶスワローテイルに、ラムはつられて笑って手を振った。すると、店内に置いてあったあのラムの描かれたおもちゃを持ち出して、差し出される。そして同時に告げられたのが、これだ。
「これにサインしてほしいです……!」
◇キューティーショコラ
魔法の端末で通話が切れた後、ショコラは高揚感の混じった吐息を吐いた。ラムを向かわせたのは、潜入捜査には
ラムにはそれが薄かった。キューティーパンダの激しすぎる修行のことは確かにそうだし、あれを耐え抜けるのは尊敬すべきだが、修行だけではキューティーヒーラーの完成とは言いきれない。だからこそ、現場に放り込む必要があったのだ。
そんなラムから、何かあればいいなと思っていた程度のN市から、人事部門との話が回ってきた。
本来の後ろ盾であるプク派が傾いた現状、広報もただ暴力を送り込むのではなく、どこかと手を組み立ち回るべきだ。人事側がその気なら、そうさせてもらうに越したことはない。
裏城南とやらの事、広報からも利用させてもらわなければ。
「っていうわけで!」
副部門長の高い椅子で、脚をぶらぶらさせながら、次の電話を繋ぐ。副部門長には、数多の事務仕事がありつつも、自由時間もあれば、こうした電話を繋ぎ続ける作業もある。魔法の端末を続いて操作して、やがてコール音が鳴り始める。
「あ。もしもし、プフレお姉ちゃん? 実はね──」