魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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魔法少女友達

「ごめんね、お待たせ!」

 

 戻ってきたキューティーラム。そしてコルネリアも合わせて、一度皆を集めて顔を合わせる。何気なく、アンナとエリザの間に並ぶスワローテイル。この並びに、ずっとテレビの前で応援していた相手であるラムがいると、どうしても視線が吸われて、ちょっと緊張する。

 

「今日これからのことですが──」

「次の目標は決まってる。だろ」

 

 エリザの言葉で、スワローテイルもぐっとスカートの裾を握る。彼女が指すのは魔法のアイテムが出品されるオークションだ。この街を支配する根尾燕無礼棲の膝元、そこにスワローテイルが求めるものもある。

 

「その……魔法のオークション、かい? ワタシはその……危険すぎる、と思うけどな」

「降りたいなら降りては。信頼するかは、アナタ次第デスよ」

「……いや、わかっているとも」

 

 身を案じてくれているのだろうか。どちらにしたって、スワローテイルには欲しいものがあって、エリザは──エリザは、何を目指しているのだろう。コルネリアはきっとそういう仕事で、ラムもキューティーヒーラーとして、だ。マスカレイドは……欲しいものがあるのかもしれない。けれど、エリザが抱いているのはそれとは違う気がしていた。ふと隣の彼女の横顔を見る。真剣な面持ちだった。

 

「場所はガーターさんから聞き出しました。兵隊が常駐しているエリアです。事務所が付近にあるのかまでは、不明ですが、会場であることは確かかと」

「いきなり突っ込むのも得策とは言えない。前回のオークションにいた奴でもいればいいんだが」

 

 そういえば、どうやってオークションに参加するのだろう。お金は? コルネリアやラムがなんとかしてくれるのだろうか。

 

「それに……」

 

 ラムの目がアンナの方に向いた。アンナはなくした魔法のマッチを探している。それがオークションの場に集まっているかもしれないし、ただ単に落としただけの可能性だってある。それまで、探しに行くのは必要だろう。

 

「彼女は追われる身だ。裏城南で行動はさせられない。裏での捜索は他の者がするべきだよ」

「表と裏、手分けした方がいいよね」

 

 話は進んでいく。その中で、自分も力になりたいと、手を挙げる。

 

「はい! 表は、私とアンナちゃんで行きます」

 

 皆の視線が集中する。

 

「2人でか!?」

「駄目?」

「いや……まだ信用が」

「お姉ちゃんも、監視の目があった方がいいと思うの」

「でも、裏城南に1番詳しいのはエリザだし、エリザはそっちをお願いしたくて。それに裏は危ないから、ラムお姉ちゃんがエリザといてくれたら安全かなって」

「い、いや、あたしはひとりでも」

「あーあ! ラムお姉ちゃんとなんて羨ましいなあ! 羨ましいけど、今回は預けるね、それでいいでしょ?」

 

 思いつきで押した。確かにスワローテイルとアンナは、小柄ゆえに末っ子のようなもので、たぶん最年少のふたりだ。エリザとラムが心配するのもわかる。けれど、同年代には同年代しかわからないことだってある。はずだ。

 

『どうしてそこまで?』

「アンナちゃんに、元気だしてほしくって!」

 

 アンナのメモにはそう返した。

 

「ならばワタシが」

「あ、ごめんなさい、ハステアーラさんは残っていただけませんか。私から聞きたいことが」

「おや……それは悪いね。保護者にはなれなそうだ。お姫様と妖精さんの戯れに、手を伸ばすことは許されないということか」

「いつでも手ぇ出すなよ」

「で、ワタシは店番と。完璧デスね」

「……あ、来ないんだ」

「前回痛い思いしマシタから」

 

 これでチーム分けは決まりだ。ハステアーラがむしろコルネリアの手を取り困惑させ、ラムとエリザは特に言葉を交わすこともなく支度に入る。マスカレイドに関しては、いつも通り、なんだか端末をいじっている。

 そうと決まれば、すぐにでも出発したかった。スワローテイルはアンナの手を取る。彼女は抵抗しない、どころかついてきてくれた。そのまま外に飛び出す。裏城南の通りにはいない方がいい、見つからぬよう素早く行動する。使うのはいつも使っている出入口だ。路地を抜けたら、もうそこは裏城南ではなく、いつもの街並みが広がっていた。

 

「飛ぶよ! 掴まって!」

 

 エリザにもやったみたいに、体に捕まってもらって、そのまま飛行する。人と一緒だとあまり長くは飛んでいられないけど、ビルの上に飛び移るくらいなら余裕だ。羽を動かして飛び出すと、まだ明るい、人々の行き交う街がそこにはある。

 

「ねえ、落としたかもしれない場所とか……わかるかな」

 

 アンナはぐるりと見回して、方向をなんとなく把握すると、指をさした。あっちの方なんだろう。頷き、共に移動を始める。ここは何の変哲もない、城南より北にある、中宿エリアの住宅街だ。

 アンナに先導してもらいながら、スワローテイルは地面の方を確認していった。街全域となると範囲が広すぎるし、落し物なら、誰かが持っていったり、交番の可能性もある。だからといって魔法少女姿のまま交番に行く訳にもいかず、警官に魔法のマッチ届いてますかと聞けるわけもなく、たいてい見つからない。時間をかけたって、場所もわからないのだ、そもそもないものを探している可能性の方が高かった。

 アンナはほとんど、心当たりがないのか、ずいずい進んでいってしまう。

 

「わっ、えっと、ここ……?」

 

 アンナが交差点で立ち止まる。近くにはコンビニの看板と、チェーンの飲食店が遠くに見えるけれど、あとは住宅街。そのうちのひとつ、火事があったのか、真っ黒になっている家が目に止まった。黄色いテープで立ち入り禁止になっている。そういえば、初めてコルネリアと会った時に提示された資料に、放火……って、あったんだっけ。この頃、確かにテレビでも火事に気をつけて、とやっている。マッチの扱いも気をつけないと──。

 

『早く行こう』

「あ、うん」

『誰かが来るかも』

 

 アンナは早足で歩き出した。彼女が急いでいる理由がわかった気がした。追われている、そのせいだ。今はアンナが通ったことのある場所を探して回っているのだ、その追手、恐らくは根尾燕無礼棲の者たちが同じことをしていてもおかしくない。だったら早く行った方がいい、かも。

 

 けれどここまで歩いてばかり。アンナも焦った様子でいて、スワローテイルも思わず、急ぐ彼女の手を掴んで、引き止めた。止められたアンナは驚いた顔をして、振り返って、下を向いて、メモ帳をめくる。

 

『どうして』

「……ちょっと、落ち着こう? そうだ、ちょっと待ってて!」

 

 その場にアンナを残し、看板が見えていたコンビニの近くまで飛行、物陰で変身を解除。店内に入って、冷蔵コーナーを見る。現在のあげはの所持金では……なんとかひとつは買えるだろうチーズケーキを選択、手にして戻る。また物陰で変身して、スワローテイルとしてアンナのところに戻った。彼女は道端で三角座りで待っていて、申し訳なくなりつつ、チーズケーキを渡す。

 

「これ……あっ、ごめんね、食べられるかも確認してなかった、ダメだったら他のにするから……」

『平気』

『ありがとう』

 

 2度、素早くページがめくられて、アンナは素直に受け取ってくれた。隣に座って、彼女がパッケージを開けるのをずっと見ている。ついていたプラフォークは使わないで、直接かぶりついて、そんな彼女の表情は綻んだ。おいしいよねそれ、と微笑んで、アンナも頷いてくれる。

 

 何かしたい、とは思ったけれど、一向に見つからないままで、スワローテイルにはできてもこのくらいだ。正義の魔法少女なのに。アンナの姿から目線を落として、ため息に混ざって、言葉がこぼれ落ちた。

 

「ごめんね」

 

 アンナに首を傾げられる。

 

「……魔法少女の友達……もちろんエリザも友達だけど、エリザはお姉さんだし、もっと歳の近い友達ができた気になって……すごくうれしかったんだ。こんなことしかできないけど、ね」

『そんなことないよ』

 

 パラパラと捲る音、サラサラと書き込む音、アンナといるとそれが、言葉のように感じられる。

 

『私も嬉しい』

 

 くすっと笑ってくれる。それからまたメモ帳とペンを置いて、ケーキの続きを食べて、またその笑顔を見守った。アンナの方が先輩のはずなのに、気分はお姉さんだ。それだけの時間なのに楽しくて──けれどコンビニのスイーツはすぐになくなってしまう。そうたくさん買えるわけでもないし。すると、落ち着いてくれた様子のアンナが、また何か書き込み始めた。

 

『本当は、マッチは見つからなくてもいいの』

 

 驚いて、声が出た。

 

「え?」

『もしオークションに出されたら、嫌だなって、思ってただけで、魔法が使えないっていうのも、嘘』

「……そっか」

『あのオークションは、怖いところだから』

 

 アンナはオークションに対して何かを知っている。だけどその怖がる表情に、それ以上は聞けないままだ。友達を怖がらせる訳にはいかない。スワローテイルには欲しいものがある。心の奥、腹の底が、『魔法の箒』を手に入れろと囁いている。その囁きに従うまでだ。

 

「よぉし! もしオークションで見つかったら、それも私が取って帰ってくる!」

 

 決意を、声に出した。

 

「そうしたら、アンナが行かなくたって、取り戻せる! でしょ? アンナは待ってて! 友達、だから!」

『友達?』

「うん! 友達!」

 

 彼女の背中をぽんと叩いて、勢いよく立ち上がって。手を差し伸べた。応えたアンナの手の中には、まだ開いていないプラフォークがあるままだった。

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