魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
十六の夜へ向けて
◇ダーティ・エリザ
結局日曜日の外回りに収穫はなかった。裏も表も探し回って、アンナのマッチは見つからず。味方が見つかったのは大きいものの……一番時間をかけた捜索がゼロに終わったのは精神的にそこそこ来るものがある。ただ、キューティーラムはエリザに対して敵対的な態度をとることは一切なく、警戒心こそあるものの、なんだかんだ気を遣って見つからぬよう避けたり、絡まれたら持ち前のアルコール魔法で大事にならぬよう気絶させるなど、エリザのサポートを全力でしてくれていた。調べてみれば本当にアニメの魔法少女そのものであり、広報所属というのも事実、つまり彼女は信用してもいいのだろう。それはひとつ、進展だ。
しかし間近に迫ったオークションに対して、大事なのは情報だろう。現在握っている情報は、縛られて放置されているガーデン・ガーターが吐き出した情報。そして──もうひとつ。コルネリアは、大きな進展を得ていた。
「実は……私も、前回のオークションに参加していたんだ」
コルネリアがハステアーラのわかりづらい言い回しに付き合い続けた結果引き出した話。場所は裏城南で変わらず。時期は二ヶ月前。そしてハステアーラが購入したものは『魔法少女の才能』……だった。
「この魔法は……私が親に買って貰ったものなんだ。魔法使いの一族と知り合いでね。それで、私を魔法少女にしたくて参加した、と聞いたよ」
「一般家庭でも参加できるんですか?」
「費用はかかったみたいだけどね」
どうやら彼女の家はかなり裕福であったらしい。まあ、そもそもオークションのターゲットは金持ちの貴族やら何やらだろう。そうして魔法少女となったハステアーラは、そんな親から離れたいと思い、ひとりこの街にやってきた、というわけだ。
「やってきた先がオークション開催地なんですね」
コルネリアの言葉には、答えられずにいたが──誰しも事情はある。仮にハステアーラがいまだに根尾燕無礼棲に繋がりを持っていたとして、その時は銃口がそちらに向くかもしれないだけだった。
そして日付は変わった。一応、あの親父のため帰宅しなければならないがゆえ、家に戻り、仄香に戻った。『夜遊びが多い』と言われたところで、うるせえな、と返すだけで、それ以上は何もなかった。
何気なく、室田家のことを思い出す。あの父親なら、もっと心配して、引き止めたりしてくれているのだろうか。対して変わらないか、とも思う。親なんてどうせ、何も知らない。魔法少女のことなんて言えるはずがないもの。
あげはを見ていると、まだなにもわかっていなかった、あの頃の自分を重ねてしまう。
あのくらいの歳の時、自分は母と引き離された。その日から、父が仕事の時は家にひとりきり。代わりに痛い思いはせずに済んだけれど、寂しいことに変わりはなかった。だからって飛び出して、そうだ、これでちょうど6年。
あの日、17日の未明のハイウェイで、家を飛び出したただの少女だった仄香は見ていた。人が、車が、壊れ、燃えて、めちゃくちゃになったあの光景を。そして遥か離れたホテルで銃を構えた──魔法少女の、人殺しの、姿を。
「……明日、ちゃんと伝えなきゃ」
あんなふうにしたくないと思いながら、仄香は目を閉じる。脳裏にはいまだに鮮明にこびりついていた。必死に追いかけて、辿り着いたあの魔法少女、『カラミティ・メアリ』の姿が。
◇スワローテイル
明日は待ちに待った誕生日。そんな日でも、スワローテイルは幼稚園を抜け出して、いつものようにマスカレイドのお店にやってくる。ここには友達がいる。人間には変なあだ名で怖がられたって、室田あげはが何だって、スワローテイルでいるなら関係ないのだ。鼻歌混じりにやってくると、今日はまず、エリザが出迎えてくれた。
「エリザ! 来たよ! みんなは?」
「集合待ち」
そうとだけ答えて、適当な椅子に腰掛けて、足を組んだエリザ。これまでで知っているいつもの彼女より、なんだか機嫌がよさそうには見えない。この様子だと、明日のことは聞けないかも、と思い、今日はぐいっと行かないよう心に決める。だがそんな様子を見たのか、エリザの方から話しかけられた。
「なあ。明日」
「……! ね、誕生日会! 来てくれるの」
「悪い、行けない。黙ってたんだが、オークションが明日だ。だから、あんたも来るな」
「へ……?」
「誕生日にこんなところに来るもんじゃない。親父さんと、ゆっくり過ごせよ」
「……ま、待って、来るな、って」
耳を疑った。いや、どうせ魔法少女の活動時間なんて夜遅くなんだ、前みたいに目を盗んで飛び出してくればいいだけじゃないか。それなのに、来るな、って。息をするのも忘れて、苦しくなって初めて、ひゅ、と吸い込んだ。
「大事な日だろ」
それでも。何があったって、欲しいものがあると、決めたはず。話したはず。
「私は……魔法の箒のために、ここまで」
「取ってきてやる」
「アンナちゃんの、マッチだって」
「それも任せて。誕生日プレゼントにしてやるから」
「違う……違うの、違うの!!」
口から勝手に出た否定で、それが物欲ではないということを自分でも初めて感じた。
確かにそうだ、手に入れたい気持ちも、アンナを助けてあげたい気持ちも、どっちだってある。けれど違う。自分だけ何も知らずに待っている、それが一番嫌だった。だってそれは、エリザたちに
「言われただろ、親父さんに、危ないことはするなって」
「そんなの今更だよ!! もう何人とも戦った! レーニャにもスパル・トイにも! 勝ったんだよ!? ケガだって、そんなにしたわけじゃ」
「気ぃ失っただろ」
「それだけだよ!」
「それで親父さんは怒ってたんだよ」
「……巻き込んだのは! エリザのくせに! 今更っ……」
言いかけた言葉を押し殺して、思わず溢れた涙に、エリザはたじろいでいた。泣きたくて泣いてるわけじゃない。ただ……抑えられなかった。袖で拭って、
魔法の箒の、初めての日に見た魔女の幻影のことなんて、ほとんど覚えていない。本能は確かに呼んでいても、それよりも何よりも、それを追いかけるこの日々が一番楽しくて、嬉しかった。それが突然仲間はずれなんて……ただただ、嫌だった。
「……じゃあ! どうしろってんだよ!? あんたは! 誕生日に死んだっていいってのか!? 自分の誕生日の度に、人殺し記念日だって泣きたいってのかよ!!」
エリザの言っていることはわからなかった。それがスワローテイルを案じてくれていることだけは、なんとなく感じるけれど。
「……ね、今日でいい、今日、なにかしよう」
「はぁ!? それでいきなり動けるわけ……!」
がらり、ふいに店の奥にある引き戸が開く。顔を出したのはマスカレイドとコルネリアだ。奥に転がっているガーターを見るに、まだ何か聞き出せないかと色々していたようだ。そんなふたりが一体、なんの用か。
「実は目星のついているエリアの動向を見ているのですが、会場内の準備か、搬入に手を取られているのか、兵隊が少なくなっているんです」
「チャンスかもしれマセン」
「……! ね、だったら!」
それは思わぬ援護だった。エリザのことを見る。
「……は? 今日、やれってか、全部」
エリザは頭を抱え、深いため息を吐き、それから失笑した。スワローテイルと目が合って、諦めるように目をそらす。
「わかったよ。今日、片付けちまえばいいんだ。ただしスワローテイル、あんたは、前に出るな」
「それは……」
「出すぎるなってことだよ。ケガしたら、痛いまま誕生日になっちまうんだから」
「う、うん、気をつけるね」
「じゃあ……決まり。仕掛けるなら今夜だ。ったく……」
「ではそのように。ラムさんたちにも伝えないとですね」
決戦は急遽前倒し。だが、やることはわかりきっている。突撃だ。いや、突撃するなとは言われたんだけど、それはそれ。スワローテイルは、とにかく前に進むしか知らない。