魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇スワローテイル
夜。その時が来た。エリザに迎えに来てもらうまでもなく、時間が来たらスワローテイルに変身し、こっそり家を抜け出す。蝶の翅も万全だ。ケーキのおかげで心構えも完璧。息を整え、夜空に飛び立つ。見据えるのは真っ直ぐ先だ。裏城南に突入したら、待ち合わせの場所に急ぐ。スパル・トイの兵団の巡回はなく、合流はあっさりだった。
「来たか」
「……うん。来たよ。ありがと、エリザ」
「礼なら隙を見せた連中に言えっての」
「それはそれで変じゃないですか?」
「しかし毎度なぜワタシまで……」
「今回は気に入った魔法のアイテム取りたい放題ですよ。このために魔法の袋買ったんですよね」
「……! いやぁそうデシタそうデシタ。仕入れデスね。腕が鳴りマス」
エリザたちはいつも通りだ。ちょっと違うのは、前回よりマスカレイドのテンションが高いくらい。怪しげな袋を用意して、素振りをしている。ほどほどにしてほしい。
「こんなに夜遅くに……ごめんね?」
「ラムさんが謝ることじゃないです。これわたしのわがままですから」
「いいじゃあないか。オークションが始まるその前に、予告状と共に舞い降りる、そんな物語があってもいい」
「か、怪盗気分……なのかな?」
ラムとハステアーラは、これがいつもの調子なのだろうか。ハステアーラの喋ることは堂々としているけれどよくわからないし、ラムは心配してくれる。けれどあとひとり、姿が無い。
「アンナちゃんは?」
「……? お姉ちゃんは見てないけど……」
「ゆっくり眠っていてね。起こすのも悪いと思って、話しかけてこなかったよ」
彼女を家に匿っていたというハステアーラが声をかけていないなら、夜中だし、まだ寝ているのかも。そもそも彼女は、オークション会場を怖がっていた。マッチを持ち帰る約束はしてあった。
「よし……それじゃ、行くか」
目標の地点はわかっている。裏城南と言いつつも中宿地区と繋がっている北寄りの場所に、ガーターから聞き出した会場と、その横に倉庫らしき建物があるのを、エリザとラムが確認していた。付近に根尾燕無礼棲の事務所があるか、あるいは中核メンバーが詰めている可能性は高い。あるいは魔サラの時よりも危険かもしれない。だけど……。
「それじゃあ、ワタシと仔羊ちゃんは別行動だね。スポットライトの下で、共に踊り狂ってやるとも」
「仔羊じゃないですけど……こっちはお姉ちゃんに任せて!」
今回は心強い味方がさらにいる。手を振るふたりに振り返したら、ぐっと拳を握り、警戒心と勇気だけはいっぱいに持っていく。覚悟はできた。あとは、飛び立つだけ。
「行こう! みんな!」
──北へ、北へと進み、通りの裏を縫うように動き、まずはラムとハステアーラの動きを待つ。倉庫側も兵隊が巡回している、が、向こう側で、上空に黄色い影があったかと思うと、大きな破壊音がした。ついでに派手な笑い声と謎の口上が響いている。ハステアーラだろう。兵隊たちは慌ててそちらに移動しようとして、すぐさま背後から撃破。それを合図に、動き出す。
「おぉお……! 本当によりどりみどりみたいデスね」
倉庫内にはコンテナ。檻の中に繋がれた見たことのない生き物に、大きなカプセルに詰められたこれまた見たことのない生き物。魔法の生物というやつなのだろう。怖いので触らないように、目移りしているマスカレイドも連れて、目的のものを探す。アイテム類は厳重に保管されているのか、管理の番号が刻まれ魔法のかかった大きめの金庫がいくつも並んでいた。この中から探さなければならないらしい。
「仕方ねえが……どう考えても見つかるが、派手にぶっ壊すしかないか」
「……これごと盗み出してもいいのでは? なんとかなりそうじゃないです?」
「なるか……?」
「ワタシ的にはどれでも持ち帰って……おっと、プロテクトがかかってマス。魔法の袋に入りマセン」
「じゃあ直接運んで……」
「あーっ!! ダメーッ!! ドーン!!!」
試行錯誤しようとしていたそこへ、急に飛来する巨大物体。乗用車ほどのサイズを伴って現れたのは、どうやら、『文字』らしかった。質量を持った『ドーン』が破壊力とともに突っ込んできて、皆がその軌道から逃げ、その先で金庫がひとつ巻き込まれてひしゃげた。
「なにしてるの! ここは私たち! ビシッ! 根尾燕無礼棲の倉庫だよ! 今ならまだ許してあげる、さーん、にぃー」
「……チッ! あたしが引き受け」
「いちゼロドーン!!!」
「るぅわぁあっ!?」
現れた魔法少女により、再び飛んでくる『ドーン』の文字。エリザがぎりぎりで回避し、また金庫に大して凄まじい威力を発揮、激しく砕け散り周囲に衝撃を残す。漫画に出てくる効果音が、実態を持って飛び出してくるような……目の前にしても何が起きているのかわからない魔法だ。
「兵隊とペットボトルの次は効果音かよ! どういう採用基準なんだっての!」
「ボスは『派手でいい』って言ってたよ! すごいでしょ? キラーン☆」
そして相手の魔法少女のキメ顔から効果音が飛び出し、その小さな『キラーン』はエリザの頬を掠り、切り傷を作った。文字によって効果が違うのは、確かに効果音としては頷けるが、それは変幻自在すぎる魔法だということ。エリザとて武器を次から次へと変化させられるが、それは一度手を離し、銃火器ならトリガーを引くことが必要だ。対してあの魔法少女は引鉄ではなく、決めポーズで発射してくる。今度は不思議なポーズと共に『バァアアン』が飛来、広範囲への衝撃波が撒き散らされ、スワローテイルたち一行は回避を強いられる。
「ひぇえっ! え、えっと、私その辺に隠れてるので!」
「あぁちょっと! どうするんデスかあれ!」
「こ、の……ッ!」
「おっと銃! 怖いなあ銃なんて! ばきゅん! ビシッ☆」
指を銃に見立てたそのジェスチャーが、『ばきゅん』の効果音を生成、高速で打ち出されたそれはエリザの弾丸と相殺される。そしてさらに彼女は次の弾丸を飛んで跳ねて避け、そうして生まれたたくさんの『ピョン』の効果音を蹴って飛ばし、倉庫内に乱反射させてくる。しかし撒き散らされた効果音だけに集中するわけにもいかず、本人もまた仕掛けてくる。銃弾と大砲が次々と襲い来るようなものだ。さらにそこに跳弾が挟まる。躱したはずのスワローテイルの背中を、『ピョン』が打ち付けた。見た目以上の重い一撃で、肺の中の空気が押し出され、咳き込む。
「げほ、げほ……っ、どうすれば!」
飛んでくる効果音に蛹を当てようにも、包み込む速度を上回ってきて、勢いがなくせない。エリザは拳銃を小機関銃に持ち替え、激しく連射しながら叫んでいる。
「マスカレイド! なんかないのか!」
「無茶ぶりしないでくだサイ!」
「音を消す石とか落ちてないか!?」
「ピロリン、残念なお知らせ! 音を消しても、擬声語はともかく、擬態語は消えないよ? ねっ☆」
蹴り上げた金庫や地面を蹴りつけて起こした効果音を盾にして、銃弾を受け止めてくる敵魔法少女。さらにその最中でもウインクの『バチン』や指を鳴らす『パチン』で的確に狙撃のように攻撃してくる。思うように身動きの取れないエリザ。マスカレイドは飛び回り、どうにか『ピョン』を撃墜し回収してくれていたようだが、相手の手数は明らかに多い。スワローテイルが距離を詰めようにも詰めきれず、エリザが矢面に立ってくれているが、単純な武器との相性は良くないらしい。マスカレイドの武装は使い切りも多く、無駄撃ちはできない。そしてコルネリアはというと──。
「えーっと……すみません! データベース未登録魔法少女! わかりませーん!」
「そりゃそうだろうな。マドは俺の用心棒。ウチから出てったことはねェ。お前ら魔法の国が知ってるわけがないってわけだ」
「……っ、あ、あの……」
「悪いがお前ら、抵抗はそこまでだ。蝶に銃使い、お前らはこの頃うちらのシマ荒らしてる連中だな? 魔法の国絡みか? あぁ?」
さらに現れた魔法少女は、コルネリアの首元に何かを突きつけている。あれは、アイドルのライブで使うようなライトだ。暗い倉庫の中では眩しく思えるくらい光を放っている。ついでに言えばその魔法少女自身のコスチュームも光を放っていた。肩には『彩』『燐』の文字、胸元には『LOVE』が輝き、夜の街を背負っているようにも見える。事実、そうなのだろうか。
「ったく……スパルの奴がしくじってないといいがな。お前ら! 下手なことしたらこいつの首かっ切るからな」
コルネリアは完全に捕まっている。縮みあがっているし涙目だ。これでは、このまま全員……という未来だって見えてしまう。スワローテイルは歯噛みする。効果音の魔法少女も、ネオンサインの魔法少女も、この状況は自分じゃどうにもならない。
「ッ……マスカレイド、在庫まだあるかよ」
「えぇ、まぁ……浪費は嫌デスが」
「背に腹は、ってやつだ」
「おいおい、聞こえてんだよ。てめぇら!」
ネオンサインの魔法少女から──厳密に言えば手にしたライトから、光線がほとばしった。マスカレイドの装甲に当たり、その箇所は焦げている。彼女にも遠距離攻撃がある。音よりも光は速い。
それでも。発射口が見えているのなら!
スワローテイルは静かに手を開き、握った。
「……あ? っ、なんだこいつ──」
ネオンサインの手元が蛹に包まれ、光を閉じ込められた。その瞬間、エリザとマスカレイドが同時に動く。散弾銃とミサイルだ。スワローテイル自身も、囚われたコルネリアに向かう。そこで蛹のライトを投げ捨て他のライトを手に取った相手と対峙。一撃目を回避し、捨てられたライトを拾いながら、二撃目をそれで受け止めた。そして押し返すところで、他のライト、胸元からの光線を受けてしまう。首元が熱く、痛い。火傷か、それ以上になっているのかわからないが、感覚が悲鳴をあげ、思わず後退、そこへ繰り出される踏みつけるような蹴りで弾き飛ばされる。
「サイネちゃん様ってば、容赦な〜い! キャー!」
だがコルネリアは拘束から脱した。彼女がまた物陰の方に逃げていく中、魔法少女同士の格闘は止まない。スワローテイルと、サイネと呼ばれた魔法少女はライトをぶつけあい、しかしある時スワローテイルが使っていたライトが急激に白熱し、熱の末に破裂した。武器が軽快な音とともに手元から逃げ出したせいで、素手でライトを受け止めることになる。袖越しでも熱で焼き切ろうとしているのがわかる。コスチュームはすぐに焼け、素肌まで迫る灼熱で光の刃。あまりの熱さにもはや痛覚すら曖昧だ。
「このまま腕落として落とし前を──っと。姐さんか」
痛みが止んだ。理由はわからなかったようでいて、顔を上げたらすぐだった。そこにいるのは──この間、出会ったことのある、翼を持つ和服の魔法少女であった。
「おふたりともやりすぎとちゃいますの。虫が湧くんはわかっとったことや」
「はっ! シルク姐さん!」
姐さん──そう呼ばれた彼女は、ふっと、こちらに向かって笑いかけてきた。あちらも、スワローテイルのことを覚えている。
「もう会うことになるなんてなあ。明日や思てたわ」
人数は拮抗していて、それでいて状況は最悪になっていた。