魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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本番前

 ◇レーニャ・エレジィ

 

 裏城南の一角には、隣に倉庫の併設された会館のような建物がある。ここが今回、オークションの会場となる場所だ。開催までは残り数時間。既に複数の人間が出入りし、主に根尾燕無礼棲が率いるブリキの兵隊と黒服たちがその様を監視していた。

 

 レーニャはそんな客人たちと、大元である根尾燕無礼棲の目につかぬよう、その裏に待機させられていた。追い出された手前、シルクウイングや彩音燐音に見つかれば何と言われるか。彩音燐音ならまだ許してくれるかもしれないが、シルクウイングは襲いかかってくる可能性もあるのではないか。そうした理由だった。

 姿を隠すのは、レーニャとしてもそれでいいと思う。ただ現場で共に動くことになるスパル・トイの目からは逃れられず、彼女は明らかにどう見ても気まずい顔をしてチラチラこちらを見ていて、正直鬱陶しかった。そこからは離れてよかったと思う。

 

「いやあ来たねこの日が! あはは、今回はどんな感じになるかなー、出品そのものはいつも通りな感じだけど、裏城南が動いてるからね」

 

 根尾燕無礼棲の一員として出入りしているデビ☆るんるんがリーダーとして、現状は本番までの時間つぶしだ。そのリーダーはというと、魔法の端末をいじりながら、どこから持ってきたのやら、コンビニのスナック菓子を開けて広げ、ばりばり食べている。

 

「根尾燕無礼棲だけじゃない。外様もいっぱいだよ。監査に広報に人事、研究部門まで。よく嗅ぎつけるものだよねえ」

「監査は、捕まえてオークションにかけちゃう予定だけどね」

「あははっ! あれは本当にレーニャちゃんがナイスだったね」

「寝具を土足で足蹴にして、しかも寝ないだなんて、失礼極まりない監査部門だったわよね」

「どういう認識してるの?」

 

 なんて話しながらでも、次々と口の中に運ばれていく菓子たち。その様をなんとなく見ていると、こちらに気が付いて、そのうちのいくつかがレーニャに向かって差し出された。

 

「ん? あ、レーニャちゃんも欲しい? 好きに食べていーよ」

「……私は、別に」

「遠慮しないでよ。どうせお菓子だし。パーティ開けしてもさー、もよは食べないし」

「食べるわけないわ」

 

 寝具まみれの魔法少女、夢見枕催夢。彼女はデビ☆るんるんと当たり前のように一緒に行動しており、親密らしいが、このお菓子には一切手をつけなかった。

 

「布団でお菓子を食べてはいけないのよ」

 

 布団なんてどこに、と見回すまでもなく、彼女が指したのはおそらくコスチュームの一部、マント風に背負った掛け布団だった。さらに胴に巻き付けられた抱き枕も指して、汚れるでしょ、と付け足す。

 

「なにそれ。育ちいいですアピールぅ? 今どき流行んないよ〜、するならもっと煽ってさあ」

「してないわ。お布団にはお布団の流儀があるの」

「お布団の流儀ってなに!?」

「大事に使う、とかよ」

「えー、汚れても洗えばいいじゃんそのくらいー。ってか、魔法の違法スパイスが入ってるわけじゃあるまいしー、ねえ?」

 

 ここでレーニャに向かって、死んだガラム・魔サラのことを口に出すのはわざとなのだろうか。その失敗がレーニャの立場をこうする原因だったというのに。噴出しそうになるのを、したところで無意味だと堪えて、デビ☆るんるんのすぐ前のポテトチップスをがっと掴み、口に放り込んだ。酷いくらいの塩味だ。だがもう少し食ってやる。レーニャがバリバリと音を立てる中、デビ☆るんるんは満足そうだった。

 

「あぁそうそう! あの子来てるよ」

「……あの子?」

「金ピカの魔法少女。名前なんだっけ?」

「あぁ、金ピカの。すいみん屋さん(ウチ)にも来たわよ」

 

 ──金色だけで語られる、その印象が鮮烈な魔法少女。目立ちたがりの、とまで付け加えればもう決まっている。レーニャの知る魔法少女だ。

 裏城南で行われる闇オークションに参加するのは初めてではない。レーニャはかつて、魔法使い側として参加している。その時、彼女もいた。そう、名前は……イエロープリンス☆ハステアーラ。

 

「だからって関係ない」

 

 もう、レーニャと彼女は無関係。根尾燕無礼棲に入ると決めた時から既に絶交のつもりだった。オークションに参加するならすればいい。どうせ、その親に買ってもらった魔法少女の才能をぶら下げて、また親に魔法のアイテムでも買ってもらうんだろう。レーニャは彼女とは違う。レーニャの居場所は、自分で探す。

 

「ずいぶん怖い顔してるのね。すいみん足りてるかしら」

 

 魔法少女に睡眠は必要ない。必要なのは、存在意義と、居場所。今のレーニャが持っていると思い込んでいるそれは、本物なのだろうか。

 

「なんでもいいじゃん? だってこれから〜、デビるんの計画が成れば……世界を手に入れたら! 何時までだって寝放題なんだから!」

 

 

 

 ◇オトマドベル

 

 若頭直属の用心棒魔法少女であるオトマドベルに、会場のことは全く回ってこない。人々がどんどん来場し、普段受付などしないスパル・トイの警備用ブリキ兵と、元々いる極道の皆さんが奔走している。出入りする者たちもまた様々だ。魔法少女を引き連れた魔法使い、といった派手を従える地味の絵面が続出している。

 そんなワイワイガヤガヤの光景を、見下ろす位置にその部屋はあった。豪華な椅子が設えてあるあたり、本来ならここにシルクウイングもいるだろうリーダー用の部屋に違いない。が、彼女は今、あの蝶の魔法少女にお熱で仕方ない。誰が何を言っても聞く彼女ではないことを知っていて、オトマドベルと彩音燐音がこの部屋を使っている。階層で喧騒とは隔たれたこの空間で、似た顔立ちの魔法少女ふたり、並んで座る。

 

「ね、これから本番、何が起きると思う?」

「連中は来るだろうな。姐さん狙いか、俺ら狙いか、両方か。どっちにしろ、あの調子じゃあまたへし折るだけだ」

「やーん、サイネちゃん様ったら怖〜」

「覚えてるか? あのエリザだとか言う銃使い。俺に向ける目が他の連中と違った」

 

 だったらこっち側に来る、ということだろうか。それでも、オトマドベルの魔法の方があいつよりも発生が早かった。武器を変化させる工程と、音を飛ばす工程が同時なら、オトマドベルの方が強い。それはもう知っている。

 

「ならまたボッコボコに!」

「いや。マド、お前は姐さんの方に行け」

「えっ! すごく意外! なんで?」

「あの蝶、姐さんがえらく気に入ってるだろ。姐さんのことだ、引き入れるだの、いきなり後継に指名するだの、どんな気まぐれが来ることかわからん。だから、アイツはさっさと消したい」

「な、る、ほ、ど〜……サイネちゃん様はいいの?」

「何がだよ?」

「ひとりで」

 

 彩音燐音はふ、と笑う。

 

「マドがいなくて寂しいっての」

 

 これはオトマドベルを信頼しているからの言葉だ。仮に向こうが戦力を分散させてきたなら、すぐにでも片付けて、ここに戻って来てしまえばいい。そうすれば結果、彩音燐音に降りかかろうとする火の粉もオトマドベルが遮れるというわけだ。我ながら完璧である。

 

「じゃあ今日はずっと本気で! ビビッ! と! いくね! ビシッ!!」

「頼んだぜ、俺の用心棒」

 

 思わず取ったポーズから転がり出た効果音を拾い集め、小脇に抱え、また敬礼で応えようとし、また効果音が溢れた。

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