魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇コルネリア
あれだけ派手に攻め込んだというのに、オークションの会場は一切変わらず、前夜の出来事などなかったかのように、たくさんの人々が集っていた。忙しなく動く黒服たち。彼らは一般人……というには語弊があるが、魔法関係者ではないはず。ならば、魔法にかける手段はいくらでもある。
スワローテイルはシルクウイングを探し、倉庫の裏手に向かっている。
ダーティ・エリザは彩音燐音を狙うため、見つからぬよう侵入して別行動だ。
ついでにラムとハステアーラも別行動。つまりここにいるのは、コルネリアと、マスカレイド44──が変装をした結果現れた、嘘絶対庭園ガーデン・ガーターだった。
「いやこれ本当に大丈夫デスか?」
「今はロボット喋りしない方がいいですね」
「……まあそれはキャラ付けだから良いとして、これガーターの知り合いが来たりしないよね?」
「その時は頑張って騙してください」
「えっ、ノープラン? そもそもこいつのこと、捕まえただけで何も知らないんだけど!?」
とはいえそうするしかないのが本音ではある。マスカレイド44の引き当てた『魔法のリボン型変装キット』に、コルネリアの魔法をかけて、本物と偽物の境界を曖昧にしてある。ガーターを知る者が見ても、これでぼんやり本物に見えるはずだ。見えなかったら、全力逃亡しかあるまい。
「一応、絶対庭園さんの情報は伝えておきますね。魔王塾卒業生で、結構な問題事に首を突っ込んでいるようです。ヤンチャしているタイプみたいですね」
「……それだけ?」
「人事のデータは魔法少女名鑑じゃないんですよ」
かつての同僚なら性格や何やらまで言い当てたかもしれないが、それはそれ。今回は演技できなくてもバレにくくする処置がしてあるのだ。偽装自体はそちらに頼り、あとは盾を構えていてくれさえすればいい。
「私たちの役目は時間稼ぎと情報収集です。私はレーニャ・エレジィには顔を知られていますが……スパル・トイならば、あの場で顔を見る余裕もなくスワローテイルさんがぶっ飛ばしたので大丈夫でしょう。というわけで、レッツゴーです」
「なんだかんだ一番めちゃくちゃなのコルネリアじゃない……?」
「通せる無理は通さないと」
戦わない魔法少女であるコルネリアが、人事部門という伏魔殿で、あるいは死がちらつく現場で、生き残るための戦い方はそういうものだ。不可能を可能にする魔法少女同士なら、そのくらいしなければ。
ふたりで通りに出る。会場入口に寄り、警備のブリキ兵士からはそれとなく距離を置きつつ、素知らぬ顔で列に並んだら、そのまま受付担当の黒服のところへ。彼らも大変らしく、必死に横のデスクのパソコンを触り続けている。
「待ちなさい。仮面のお前、それを外してもらおうか」
マスカレイド44は振り返る。仮面の下、顎にシワが寄っている。つまりあの中では絶対に嫌だという顔をしているに違いない。どう誤魔化すやら。ここは偉そうにしろ、というジェスチャーをして、彼女は指でマルを作った。
「私が誰だと思ってる? 絶対庭園ガーデン・ガーターだぞ」
「え、いや、だから会場内で仮面は」
「うるさい! その機械はなんのためにある! 調べてみるがいい!」
「なんだと、いやしかし」
「茨の餌食になりたいか!」
「待て! わかった! わかったから!」
魔王塾卒業生ということはつまり、実力、或いは暴力を備えた魔法少女であるということ。招待客であることは確認している。そして、ハステアーラから『仮面を着けているのは上客か関係者の証拠』とも聞いていた。賭けではあるものの、ここで押し切れればいい。
「む? ガーデン・ガーター?」
しかしここに思わぬ相手が現れる。会場警備のボス、即ちジェネラル・スパル・トイ。確実にガーターの顔を知っている相手が現れてしまった。ガチャガチャ鎧の音を立てながらこっちに来る彼女に、バレないように心の中で激しく祈り、そしてその時が来る。
「む……おぉ〜ガーター殿!! よく無事であった! 連中からは逃げ出せたのか? さすがは魔王塾卒業生、吾輩に勝つ連中にも負けぬ実力者よ!」
「……あ、あぁ、当然だ。この私があのような奴らに遅れを取るはずがないからな」
「そうでしょうそうでしょう。そうだ、例の薬、魔サラ殿は倒れてしまったが、オークションには出る。奮って参加してくれ」
実際のガーデン・ガーターは遅れを取りまんまと捕まり、身ぐるみを剥がされるどころか裸にひん剥かれて押し入れにしまわれているわけだが。ともかく、顔を知っているであろうスパル・トイを突破した。
「こちらは招待客だ。通せ」
「しかし……」
「吾輩の命令だぞ?」
ここでスパル・トイのアシストにより、完全に受付を乗りきってしまった。順調だ。主演女優も振り向き、頷いてきたので、親指を立てた。
それからは会場に入っていく。それなりの大きさのホールに通されて、そこに待機する多数の魔法少女や魔法使い。中には確かそれなりに有力な貴族の人間もいる、ように見える。上流階級のことは、コルネリアも詳しくは知らないが、それらしい人物ならいて、その傍らにいる魔法少女もやはり只者ではないのだろう。
ここですべきは情報の収集だ。見通せる範囲に根尾燕無礼棲、つまり彩音燐音やオトマドベルの姿はない。当然ながら、主催者は会場にはいないか。なら話しかけるか、あるいはオークション本番中に何か仕掛けるか。
「おやおやあ、こんなところで音信不通の顔見知りに会うなんて。どう? 元気してた?」
問題はそれより先にやってきた。変装中のマスカレイド44をガーターだと思って話しかけてくる顔見知りらしき魔法少女。しかもそれがよりにもよって──悪名高き元魔王塾、危険人物連中の一角だなんて。彼女は狐の尾を揺らして、その目を細めてにこにことした笑顔を見せつつ、しかし滲み出る好戦的な性質を抑えきれていない。
「美々の奴が寂しがってたよ。ガーターがいない間にロゼットも死んじゃったし」
「え、えと」
「というかこんな退屈なところにいて平気? オークションの護衛とか、私らのガラじゃないよねえ」
「かも……」
「あ。見ない間に胸大きくなった? 太った? そんなピッチリコスチュームだったっけねえ?」
「それは……」
マスカレイド44からの助けを明らかに求める目線。お面で目そのものが見えなくてもわかる。コルネリアは口パクで、『がんばってください』とだけ言っておいた。このままだと一角だけではすまない。二角も三角も来ていれば、オークションは間違いなくメチャクチャだ。
いや──いざとなれば、焚き付けてぐちゃぐちゃにできる切り札がある、ということでもあるのか。そんな芸当が可能なのかは置いておき、脳内に留めておいてもいい選択肢かもしれない。ただ、敵味方問わず痛い目を見るのは間違いなく、諸刃どころか全方位に傷を振り撒く凶器に違いないが。
「……実は魔法の料理では魔法少女も太るとは知らなくて……魔法のダイエット薬を探してきたのだ」
マスカレイド44の口からは苦しい嘘が出ていた。狐の魔法少女は首を傾げていた。