魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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因縁の舞台上へ集う者たち

 ◇コルネリア

 

 全館に衝撃音が響く。さらに続くは銃撃音。上階、おそらくはエリザの仕業だ。無事に彩音燐音と交戦しているのならいいのだが──何事かとざわめく者もいる中で、急に舞台上の照明が明るくなり、司会役らしい悪魔の仮面の魔法少女がマイク片手に手を振り始めた。

 

『お待たせしました〜! これより根尾燕無礼棲主催、マジカルオークションを開催いたします!』

「おっと、始まっちゃったし、呼ばれちゃった。またねえ、絶対庭園」

 

 ここで、マスカレイド44に絡んでいた狐の魔法少女、魔王塾崩れのエイミーが、雇い主に呼ばれたらしく、にこにこ顔のまま離れていく。ひとまずは何も起きずに済んだことを喜ぶしかない。いやあれ絶対バレてマスの顔をしたマスカレイド44のことは置いておき、エイミーの方も一旦放置だ。

 向こうも上階での出来事で予定を変える気は一切ないと見える。司会の悪魔が挨拶の口上を淀みなく読み上げて、続いて黒服たちが出品物を運んでくる。周囲の空気は変わっている、既に獲物を狙う目の者ばかりだ。初めは魔法のアイテムが並び、ついでにマスカレイド44も目を輝かせていた。

 

「おぉ……! 魔法の肉焼きセット、あれ欲しい」

「なんに使うんですか? 焼肉屋でも開店するつもりですか?」

「次に予定されてる魔法の蛇口も欲しいなあ」

「だからなんに使うんですか? ドリンクバー付きの焼肉屋ですか?」

 

 オークション会場で目立つのは避けるべきだ。ちらほらと魔法使いの入札がある中、魔法少女が割り込めばもちろん目立つ。この参加はそもそも主目的じゃない。ラム宛に始まりましたと連絡を入れつつ、ウズウズしているマスカレイド44を抑え、周囲も警戒する。魔法のアイテムが出ている間は、コルネリアたちは一切動かない。

 上階からの騒音は続いている。オークション序盤は魔法のアイテムの中でもそれほど超強力でもない、固有魔法ならハズレ寄りの部類が続き、そのせいで退屈し、上階を気にする者もいる。エイミーの様子を見るに、彼女も退屈そうだ。……と、彼女が雇い主らしき人物の目を盗んで髪飾りに触れ、その魔法を使う瞬間を目撃する。新たに現れたもうひとりのエイミー、つまりは魔法による分身が、会場の外に走っていった。この現場はやはり、いつ炸裂するともわからない爆弾の温床だ。そもそも根尾燕無礼棲といえど、これを制御しきれることはないだろう。エイミー以外にも、コルネリアが知っている程度には名のあるフリーランスがちらほらと見受けられるわけで。

 この状況、いつでも逃げられるようにしておいた方がいい。そんなことを考えて、壇上の悪魔がしゃべり続けるのを呆然と見つめていた。

 

『続いては、お待ちかね! 魔法少女の出品で〜す! どうぞぉ!』

 

 そして、アイテムの次に始まるは人身売買だ。魔法によって眠らされているらしい、拘束された少女が運び込まれてくる。恐らくはこれが目当ての者の方が多いのだろう。どこぞの漫画の中のような光景だ。正義感の強い者なら今すぐにでも助け出そうとするだろうが、コルネリアはそんな向こう見ずに生きられる力はない。かけられる少女たちには悪いが、今は耐えてもらうしかない。見ないふりをして目を伏せた。

 

 あの監査部門の言う通りかもしれない。コルネリアに正義はない。不幸に遭う者を見捨てようとしている。これは仕事なのだと心を殺す。それしか術がない。そんな自分が正義だと言えるだろうか──。

 

『続いては! 固有魔法は魔法の安全靴! お、正義のお巡りさんから一転、今はただの商品だ! フットホールド! 開始価格は──』

 

 ……なんて考えているうちに、覚えのある名前が聞こえて、思わず顔を上げた。あれだけ暴れていたあの監査のエージェントが、厳重に拘束され、転がされている。あの暴れっぷりの彼女をよく捕まえたな、と思うと同時に、コルネリアは見逃さなかった。彼女は眠らされてはいない、意識がある。壇上からわずかに、客席を睨みつけている。そしてその脚を拘束する縄が、激しく軋んでいた。

 

「……マ、んん、ガーデンさん。あれ」

「わかってるって、あいつでしょ。あれ買っても……」

「利用する価値はあると思いませんか?」

 

 爆弾の温床に、導火線がやってきたのなら。あとは火種を突っ込んでやるだけだ。信じられない顔をするマスカレイド44には、また無茶振りをすることになるけれど。

 

 

 ◇キューティーラム

 

 オークションが始まったという連絡が来た。会場周囲は静まり返りながらも、漂う空気は不穏なものである。やはりと言うべきか、一定数スパル・トイの兵隊が外部に残してあり、何かしら巡回している。ラムとハステアーラはそれらに見つからないように避けながら、状況を見る。何かあればいつでも突入の用意はできていた。

 

「みんな、大丈夫かな」

「ああ、心配だね。祈るくらいなら、助太刀に名乗りを挙げればよかった」

「……ふたりとも、きっと覚悟はしてるから。自分で蹴りを付けたかったんじゃないかな……とは思うよ」

「それで死んでしまって欲しくはないよ」

「そうだけど……」

 

 ここにいるのだって大事な役目、のはずだ。もし会場側で何かあった時、戻ってきて大災害になっていたら、スワローテイルもエリザも心穏やかに帰ってこられないんだから。自分にもそう言い聞かせる。キューティーヒーラーとしてだけ見るなら、今すぐにでも飛び出していくべきかもしれないけど。

 

「……? あれ……」

 

 兵隊でなく、魔法少女の影が見えた。顔は仮面でわからなかったが、魔法少女らしい奇抜な格好だ。体に装着しているのは……ペットボトルだろうか。裏城南とペットボトル、そうだ、あの時飛来して爆発した魔法のペットボトルがあった。となると、元より裏城南にいる魔法少女なのだろうか。

 会場に何か仕掛けようとしているのなら、追わないといけない。ハステアーラに声をかける時間さえ惜しみ、とにかく追いかける。草陰に身を隠したまま駆けて、見つけた。やはり何か、装置のようなものを手に、地面に細工をしているような。

 生憎ラムは不意打ちを得意としていない。身体能力にものを言わせ、彼女の目の前に突っ込んだ。

 

「何、してるの?」

 

 少女が振り向いた。弄っていた装置らしきものを放り出し、身構える。脚に提げていたペットボトルを両手に、逆手に構えて、まるでナイフやトンファーのよう。それが彼女の武器(まほう)に違いない。

 

「あなた……まさかだけど、広報の」

「……! そっか、お姉ちゃんのこと、知っててくれてるんだ」

「魔法の国の連中なら……私たちのこと邪魔しに来たんでしょ。させないから」

 

 警戒心は全開。そして広報部門の手の者とわかってそうなるということは、部門、あるいは魔法の国と敵対するだけの理由があるということ。なら、師匠(ストライプ)に教わっただけのこと、やってやる他にない。

 

「いくね」

 

 宣告は短く。最短、最高速で繰り出すは拳。両手のペットボトルで対応してくるだろうことを想定し、狙うは手首。重く鋭く、突き刺した一撃が握力を奪う。直撃した右手からペットボトルが零れ落ちた。そして防御を失った右側にそのまま踏み込み、咄嗟に構えられた左腕を掴んで止め、接近。仮面の上から吐息を吹きかける。仮面越しでは効力は薄いが、ほんの少し緩めばそれが致命傷だ。後方にわずかによろめき、一歩後退、耐えようとしたその脚元に向かって今しがた彼女が落としたペットボトルを蹴っ飛ばす。力の入っていた脚が崩され、体勢が定まらない魔法少女に向かって、ラムは拳を目の前にまで突き出した。

 

「話してくれる気がないなら、このまま拳で聞き出すよ。お姉ちゃんに話してくれないかな」

「そんな単純な脅し。今更効くわけない」

「そっか」

 

 今度は拳ではなく胴を狙う膝蹴り。ペットボトルを挟み込み耐えられるが衝撃は殺しきれていない。これ以上騒ぎを起こすのは避けるべきか。そろそろ一気に制圧にかかろうと、ラムはコスチュームの背中に備えられたアイテム──『ショコラティエホイッパー』を構える。泡立て器を模したデザインはアニメそのままで、ショコラティエ〜ル全員にアニメ化の際に支給された代物だ。しかしその可愛らしい見た目とは裏腹に、わざわざ本国で作られた特注の武器だけあって──下手な魔法のアイテムを捻り潰す威力を持つ。

 

 振り下ろしたホイッパーと激突し、一時は耐えた魔法のペットボトルだが、二撃目の衝突により破裂。そのままホイッパーは相手の肩を叩き、鈍い音を響かせる。目の前の少女から呻く声が漏れて、もう一撃入れてやろうと振り上げて、その間にペットボトルを投げつけられる。ラムの顔面で爆発を起こす、が、破壊力が足りていない。師匠のジャブの方が痛いくらいだ。最後の一撃のつもりで、振り下ろす。

 

「くっ……ぅ、ん……? なんだ、また説得なら……?」

 

 ──しかし、攻撃は届いていなかった。ラムとペットボトルの少女が顔を上げると、その間には、黄金色の布が挟み込まれ、それが攻撃を受け止めていた。

 

「待ってくれ。その子とは……戦わないでくれ」

「ハステアーラ? なんで」

「彼女はワタシが説得する! だから……レーニャには手を出さないで」

 

 ハステアーラはマントを変形させ、彼女、レーニャを守ったようだった。理由はわからない、が──知り合い、なのか。

 

「……っ、ハステアーラ……!? あなた……なんで……!」

「レーニャ……」

「いまさら現れたって! 希菜子となんて、話すこと、なんにもない……! 助けなんていらない! 来ないで!!」

 

 明らかに、自分を助けてくれた相手に対する態度ではなかった。ふたりの間に何かがある。そして……お姉ちゃん的には話を聞いてあげたいが、状況として、それをいちから聞いている時間があるわけでもない、か。

 

「……そっか。じゃあお姉ちゃんは」

 

 ズドン、と会場から大きな音。エリザが戦っているだけの音、ではなさそうだ。あちらに行かなければならないのは、間違いないらしい。

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