魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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初めての対魔法少女

 ◇スワローテイル

 

 魔法少女の基本は人助け。今聞いた通りだとしたら、他の魔法少女を害するのはおかしい。そのくらい、勝手の分からない新人でもわかる。

 襲われていた方にはエリザがついてくれていた。スワローテイルがやるべきことは、目の前の彼女の説得だ。今にも襲いかかってきそうな彼女に、まずは話を聞こうとする。

 

「何が、あったんですか。聞かせてください」

「……関係ない。リストをしていようが……私の邪魔をした時点で!」

 

 少女から返ってきたのは拒否だけであった。

 腰に提げたペットボトルが抜き放たれ、すぐに投げつけられてくる。魔法少女でなければ躱せない豪速球だ。迫り来る2連続、片方は蹴っ飛ばして、もう片方はエリザが撃ち落としてくれる。空中で花火のように爆ぜ、届かない。すぐ次が来る。何度も続く投擲。襲われていた魔法少女には当たらぬようとにかく逸らして壊して、3度目で悟る。あれはきっと魔法のペットボトルだ。中身はないのに爆発しているのは、ボトル自体が爆発物になっているとしか思えない。蹴った感触からして、強度も普通のペットボトルの比ではない。これが、相手の魔法か。

 次のペットボトルが引き抜かれようとした瞬間、今度は銃声。エリザだ。手元を狙った銃撃だった。瞬時に引き抜かれたペットボトルに弾かれる。穴は開いていたが弾は内部に残ったまま、コロコロと音を立てていた。弾丸でも貫通しないことに驚くと同時に、エリザを振り返る。

 

「今の、貫通してたら──」

「余所見してるんじゃないっての!」

 

 その使用済みは放り投げて、今度はペットボトルを剣に見立てて振りかぶってくる。スワローテイルは咄嗟に両腕で防御しようとして、思いっきり叩きつけられた。まともに食らった右腕から嫌な感触がする。普段のあげはならとうに泣いているような痛み。けれど今は魔法少女であるおかげか、なんとか耐えられる。隙を見て手を開いて、握ってみる。耐えられるけれど、やっぱり痛い。

 それでも容赦なく振り回してきて、とにかく避けるしかなかった。かわした先にあった標識は殴られてあっさり変形し、コンクリートはどんどん抉られていく。続く猛攻、一気に距離を詰められて、左手で相手の腕を掴み、無理やり押し留める。そこへ、エリザからの言葉が飛んだ。

 

「おい、あんた、取り仕切ってる連中の回し者だろ。いいのかよ? リストバンド着けてる奴にも軽率に手を出すようじゃ、客なんてどっか行っちまうんじゃないか」

「私には関係ない」

 

 エリザに対しても、一切の聞く耳を持たなかった。よって、対話の余地はないと切り捨てたのだろう、再び銃声が轟く。対する彼女もそれに応戦し、弾丸を受け止めながら投擲、エリザもそれを射撃で爆破させ止める。互いの狙いが移り、しかしそうさせたくないスワローテイルが割って入る。エリザに集中していたところから振り回していた方のボトルを奪い取る。相手ももう一度引き抜いて、ペットボトル同士がぶつかった。そんな材質とは思えない重さに強度があって、鈍い音が響き、互いに打ち合う。スワローテイルの動体視力は確かに繰り出される打撃の軌道を読み取っている。どうにか間に合わせる方が難しかった。衝撃が響いてきて、全身が揺らされる。

 

「……出ました! 彼女はレーニャ・エレジィ! ペットボトルを強化する魔法を使います! ペットボトルは別途調達が必要で……!」

 

 後方で、魔法の端末をずっと操作していた魔法少女が叫ぶ。手の内を明かされたレーニャは阻止しようと、またペットボトルで爆弾を作り投げ込もうとしてくる。両手同時だ。

 そのくらいは見えていた。片手には今スワローテイルが持っている一本を投げて叩きつけ、もう一方には、右手をぐっと握りこんだ。目標はペットボトルそのものだ。虚空からしゅる、と蛹の外殻が現れ、手に取る寸前、ペットボトルを包み込んだ。掴んだものがボトルではないことに気がつくのは遅く、投げつけた蛹は大した勢いもなく、エリザに届く前に転がった。

 

 レーニャがまずい、という顔をする。両脚のホルダーにつけられているのは足先の残り2本。即座に姿勢を低くするも、狙いは皆同じ。銃撃が襲い、跳躍を余儀なくされ、その上でスワローテイルが足元を蹴っ飛ばす。ペットボトルが潰れ、ぐしゃ、と音を立てたところで、レーニャの手が潰れたボトルに伸びた。ホルダーから外れる、と同時に──シルエットが膨れ上がる。3メートルほどにまで巨大化し、まるで大剣のような形状と化したのだ。今にも振り下ろされようとする巨大ペットボトルを前に、スワローテイルは飛び上がる。全力で羽ばたいて、なんとか振り下ろされる前に射程からエリザとあの魔法少女を逃がそうとした。蝶が作れる揚力などたかが知れている。それでも少しは稼げるはず。歯を食いしばり、両手に力を込める。

 

「どこまでも、邪魔を……ッ」

 

 レーニャの表情はずっと思い通りにならない憤りに歪んでいたが──その顔が、ふいに驚きに変わる。銃声だ。エリザの放った1発が少女の肩を抉り、血が飛沫く。血──いや、そんなことを考えている場合じゃない。ペットボトルを振り下ろす力が緩み、スワローテイルはここぞとばかりに押し返す。ペットボトルはレーニャの後方に向かって倒れ、レーニャの手から離れた。勢い余って地面にぶつかるスワローテイルだが、ただでは転ばない、レーニャのもう片脚のペットボトルも奪い取り、握り潰した。そんなスワローテイルにもはや素手でも殴りかかろうというレーニャだが、その頬を掠めるように弾丸が突き抜け、まだ煙を吐く銃口が向いているのを知って、止まった。

 

「これで、なくなりました」

「まだ隠して持ってるかよ? レーニャさんよ」

「……」

「こっちだって無関係な奴殺したくはないんだっての。退いてくれ」

「……次は無い」

 

 レーニャは肩の傷を押さえ、跳んだ。屋根の上を駆けていくのを見送り、その姿が見えなくなって、初めて気が抜けた。口から深いため息が出て、その場に倒れ込みそうになる。

 

「まったく、とんでもない無茶しやがって。まだ騒ぎ起こすつもりなんてなかったのに」

「ごめんなさい……」

「……なんだよ、言わせたみたいじゃんか。わかったよ、今は無事を喜ぶか。お疲れ様、スワローテイル」

「はいっ!」

 

 初めての戦いだった。喧嘩はよくないことだとわかっていても、仕掛けられたら仕方がない。きっと、怪我をさせたのも……身を守るため、だった。そう、無理やり納得して、とにかく飲み込んだ。

 

「あ、あの……スワローテイルさん? って、貴方でお間違いないんですよね」

 

 今助けた魔法少女にそう聞かれて、首を傾げながら、はい、と答える。すると彼女はポケットの中から名刺を取り出した。

 

「助けていただいてありがとうございました……その、私、一応、貴方の研修担当のコルネリアといいます。すみません、こんな形で」

 

 書かれていた文字はコルネリア、彼女の名前と──『魔法少女人事部門』の文字。それを覗き込んだエリザが、なんともいえない表情になるのがわかった。

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