魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇ダーティ・エリザ
踊るようにペンライトを振るい、その残光を光線として発射してくる彩音燐音。一撃一撃が肉を抉り去る必殺の威力だ。
引金を引く。飛来する光の弾丸を相殺する。飛び交う閃光の数々は互いにぶつかって、弾けては消え、消えてはまた放たれる。降りかかる光を躱し、掠り走る痛みは考えないようにして、目の前に集中する。彩音燐音の攻撃は一切緩まない。エリザはとにかく武器を作り続け、両手の連打への対応を強いられている。少しでも手を滑らせれば命はない。銃声に次ぐ銃声、光芒に次ぐ光芒で部屋は埋め尽くされ、既にその豪華な装いは見るも無惨と成り果てている。
「ッ……!!」
「おいおいどこ狙ってやがる。それで俺が
頸を狙う銃撃は簡単に逸らされる。片手をサブマシンガン、片手をライフルに変え、連射を防衛に回しながら必殺の一撃を放ちにかかるも、そのライフルの銃身を光が引き裂いてくる。サブマシンガンだけでは間に合わない。
ならばと一瞬手を離し、握り直す次の瞬間にはバイポッドまで装着されたマシンガンを生成、拳銃どころか機銃による掃射で一気に決めようと仕掛けていく。ソファやら何やら全部を巻き込み雨あられのごとく放つ弾丸。光とぶち当たり、相殺されていくが、今度の弾幕はそれだけじゃ尽きない。もう片手も変化させる
弾丸が尽きると同時に手を離し、宙を舞う薬莢を両手にそれぞれ捕まえ、拳銃とナイフに変え、来るだろう相手を迎え撃つ。そう、カーテンの裏側から、光と共に
「へぇ、視えてやがったか」
「追い詰められた奴のやりそうなことだろ」
「違ぇねぇ」
両手のペンライトは双剣だ。片手のナイフで受け、続く連撃を銃身で逸らし、ナイフで止めて、また逸らして躱し、武器では足りず散らばる薬莢を蹴り上げ、光がその目眩しを焼き払い、晴れた隙に弾丸をぶち込む。狙いは外れ当たらずに空を切る。彩音燐音は一切怯むことなく、ペンライトを投げつけ突き通してくる。危うく顔面を貫通させられるところだったがどうにか攻撃を合わせ弾き飛ばした。同時にリロード、そのまま空の手に突きつけて発火。指先に掠り皮膚を抉る、が、残った指を擦り合わせ、彼女はぱちんと音を響かせた。銃声に比べれば小さな音だが、合図には違いなかった。
直感で前方に突っ込んだ。彩音燐音に向かって刃を構え、彼女との接近戦を続けながら、後方あるいは左右からの攻撃を躱しにかかる。読みは当たっていた。先程投げられたペンライトからの光線だ。後方から走った攻撃は頭上を通過し、窓ガラスを撃ち抜いた。
「舐めんなッ!!」
瞬時に持ち替えたナイフの刃を変化させ、防御の認識を狂わせる。至近距離での振り下ろし、決まったと思ったが、手応えはない。2本のペンライトが滑り込み受け止められている。
「……そんなに怖ぇか? 人をやるってのが」
「んな事──」
「メアリの娘、だったか? あァ、あの女は酷かったよなぁ……いや、いなくても変わらねぇか? 鉄輪ん時のことは思い出したくもねぇ。推しがいねえと心が死ぬようなことばっかだった」
「──っ」
「堪えたのは……クスリ漬けにした女ァ、沈めてこいって言われた時でよ。その女の諦めてねぇ目が、妄執が、怖いくらいに綺麗だった。おかげで結局やれなかった。引き連れて逃げ回ってよ、最後には魔法少女だなんて、おとぎ話にまで賭けなきゃいけなかった」
「なんの、話だ」
「人殺しってのは怖ェよ。俺もそうだ。やれって言われてもできるもんじゃない。だけどさァ、怖がってられんのは幸せモンの
歯を食いしばり、余計な力が籠ったその一瞬、わずかな間に刃を押し返される。そして突きつけられるライト。極彩色のライトは今にも肌を灼き切る熱気を纏い、エリザの網膜にも焼きつこうとする。
「てめェらは何がしたい? 正義感か? 復讐か? イイ事がしたいなら、まだ許してやる、今すぐ裏城南から出ていきな。背中は撃たないでやるよ。
彩音燐音の問い掛けを、吐き捨てるのは簡単だ。綺麗事を並べるのも、次いで簡単だった。本音を吐き出すのは、簡単じゃない。マスカレイド44にも、コルネリアにも、スワローテイルにさえ話していない……エリザの汚い本音。怨敵にだけなら、溢せる気がした。
「……復讐だよ」
互いに息を切らす中、訪れた静寂に、ぽつりと言葉が転がった。
「あたしを殴って蹴って勝手にいなくなった! あの自分勝手なクソ女が! 置いてった全部、全部壊してやるんだ!! それがあたしの復讐なんだ……!!」
「……は。ガキが」
「ッ──」
「そりゃ同情はいらねぇな。あァうらやましいなメアリさんはよ、娘ちゃんに想ってもらえてよ」
「ふざけんな──ッ!!」
手の銃を機関銃に変えながら、振りかぶった。
それがいけなかった。大掛かりな銃は無論重く、取り回しが悪い。その瞬間に軽くでも手首が切られていれば、手の中を離れていく。状況はその通りだった。彩音燐音の放つ光線はエリザの、銃を持つ左手の手首、腱を貫いていた。左がダメなら右、そう考えるのは自然で、しかし相手に当然それは透けている。右手のサバイバルナイフが間に合うより先に、脇腹を灼熱が襲った。
「悪ぃな」
ペンライトが突き刺さっている──痛みや状況を認識し、噛み砕きながら、ナイフを上に投げ捨て、エリザは彩音燐音の腕を掴んだ。灼熱の感覚と異物感を、ようやく呑み込めるようになる頃、振りほどこうとする彩音燐音に対し、こちらも対抗する。今、上方へ投げたナイフを、腱の切られた左手で掴む。そして失った握力で取り落とすより先に、変化させてやる。突き刺すのに握力の要らない武器、つまり、レーザーブレードだった。
「ぐぉ……っ!?」
彩音燐音の背中を切り裂き、互いの肉の焦げる匂いが部屋に立ち込める。手応えは確か。彩音燐音に蹴り付けられ、そのまま後方によろめき倒れ込む。互いに得物が得物ゆえに、傷口は焼き塞がり、出血は僅かだ。傷はエリザの方が深く、状況は良くはならない。やっとの思いで立ち上がる。一方の彩音燐音もダメージは受けており、息を整えようとしていた。再び戻る静寂。下階のオークションの喧騒だけが響く、はずだった。
「……なんだ?」
響いた爆発音、発生源はこの部屋ではない。下階の舞台上だ。割れた窓から見下ろすその煙の軌跡は、発射したのが客席の誰かだということを示している。いや、それよりも、爆発──恐らくは『ミサイルのようなもの』の着弾は、舞台上にて、拘束具を破壊するという影響を及ぼしていた。それにより解放されたのは、よりにもよって、監査部門のエージェント、戦闘能力ならば無論エリザよりも上、フットホールドだ。
「やってくれる。あんたのお仲間の仕業か?」
「……だろうな。こっちだってな、全部ブッ壊すつもりで来てんだ」
「は、はは、なんだよ、いい目、してんじゃねぇか! ダーティ・エリザ! あぁいいぜ付き合ってやる、壊してみろよ。テメェの、その
光を放ち銃声を響かせる。彩音燐音も、ダーティ・エリザも、まだ倒れない。