魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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急加速!

 ◇スワローテイル

 

「ぅぐっ……!?」

 

 向かっていった先で翼に弾かれ、壁に叩きつけられる。追撃はない。彼女はただ見下ろしている。向こうから仕掛けてくることはなく、しかし彼女を超えなければならない。がむしゃらに前に突っ込むだけではダメだとわかっていても、スワローテイルにあるのはそればかりだ。

 

「大層な口利いといて、そんなもんかいな」

 

 シルクウイングの攻撃はどれも相変わらず強烈だった。翼の一撃は意識を刈り取られそうなほどで、悠然と佇むように構えられた翼には隙が見えなかった。ならば蛹で包み込んでやろうと構え、そこに翼による烈風と、その煽りを受けた魔法のアイテムが降って落ちてきたことで中断させられる。簡単に突破させてはくれそうにない。落ちているアイテムを広い、とにかく投げつけ、あっさり払われ、目くらましと同時に上空から奇襲をかけようとして、こちらも完全に防がれた。上からの蹴りにも翼は対応し、鋼を無理やり叩きつけたような感触と共に弾き返されて、着地はなんとかしたものの、やはりシルクウイングは動かなかった。

 

「……ほんま、憎らしいわぁ。こんなんのために、うちらを捨てたんやね、つばめの姐さんは」

「違う。お母さんはきっと!」

「無駄や。あんたに何言われても響かへん。勝手に死んだんは事実やから」

 

 確かに、スワローテイルが何を言ったって、全部憶測だ。遺影と幻の中でしか、彼女の顔を見たこともない。父に詳しく話を聞いたこともない。いたらしい、もういない人である、それしかわからない。

 だけど、手を伸ばさない人じゃないことだけは、胸を張って言える。だって、室田つばめは魔法少女だったんだ。

 

「ねえ、シルクお姉さんは、どうしてこの……根尾燕無礼棲の、リーダーをしてるの」

「どうして……? はぁ、それしか方法がなかったからや。キレイ事で回る世界に残れへんかったからや。これで満足か?」

 

 どうしたらわかってもらえるだろう。シルクウイングには、わかってほしいし、話してほしかった。アンナとは、それができなかったから。今度はシルクウイングではなく、ショーケースに追い縋り、今度は彼女が飛び上がり、それを蹴落としてきた。地面に叩きつけられ、足蹴にされて、分厚い靴底に押しつぶされそうになる。

 

「無駄や。うちを解ろうとする? 何も知らんあんたが? のうのうと生きてきた、あんたが?」

「……それは、そう、だけど」

「うちだって! 解られたないわ! うちは……うちは! 裏切られたからここにおるんや!!」

 

 何度も踏みつけてくるシルクウイング。だけど、翼ほどの威力じゃない。スワローテイルはぐっと拳を握り、耐えた。やがて襟が掴まれて、無理やり顔を上げさせられる。

 

「安心せぇや。殺してはやらん。ここでとっ捕まえて、明日からは虫かごで毎日お花の蜜でもあげたるわ。うちから姐さんへの仏花の、やけどなあ?」

 

 スワローテイルの三つ編みを撫でて、笑ってみせるシルクウイング。けれどその笑顔よりも、煽り文句の方に、つられて笑いそうになった。

 

「……ねえ」

「なんや?」

「お母さんのお墓にいつもお供えしてくれてたの、シルクお姉さんだったんだ、ね」

「……は? なんや、んなの、せやったらどうするんよ」

「だって。まだまだずっと、つばめお母さんのこと、大好きなんだなって。恨んでたら、そんなことしたくもないでしょ?」

「ッ──」

 

 何の逡巡か、次の踏みつけは隙が大きかった。瞬時にさなぎを展開し、防いで押し返す。そして翼に包まれていない顔に、防御のため使ったさなぎを投げつけた。シルクウイングの側頭部にぶち当たり、初めて彼女に傷がつく。

 

「……おもろいなぁ。自分……」

 

 彼女が翼をはためかせる。今の反撃は、激情と油断を利用してようやく報いた一矢だった。もう一度同じことができる保証はない。飛び込み、振りかぶって、叩きつけてくる。さなぎの防御は間に合うはず。開いた手を握り、防御に魔法を使う体勢で迎え撃つ。そして翼がスワローテイルの体を包み始めたさなぎに当たり、弾かれるようにしてシルクウイングの両翼が開いた。

 

 それは好機だった。本体が手薄になる瞬間だ。スワローテイルにとっても──乱入者にとっても、厄介な翼の守りが解けた瞬間を、逃さぬはずがない。

 

 響いてきた破壊音。倉庫の屋根と壁を突き破り、飛んでくるのは──『ドン』の文字。超質量を持つそれは瓦礫を散らしながら、シルクウイングとスワローテイルに直撃し、ふたりを大きく吹き飛ばし転がした。それだけじゃない、『バキバキ』『ズドーン』と今起きた破壊音が実体を持ち、さらに降り注いでくる。屋根は倒壊し、倉庫の内部もめちゃくちゃだ。スワローテイルはさなぎの盾を何度も作り、どうにか擬音の雨を凌いだ。次第に飛来する擬音も小さくなり、視界が戻ってくる。シルクウイングの姿は無い。彼女があれだけでやられるとは思えない、恐らくはあの瓦礫の中か。そして代わりに、乱入者が立つ。

 

「ドーン!!! お待ちかね! オトマドベルちゃんが出たよ! 歌って踊ってファンサしに!! キラッ☆☆☆」

 

 最初の『ドーン』で衝撃波と共に塊を射出され、避けたと思いきやポーズを決めながらの『キラッ』で閃光が放たれる。効果音を閃光手榴弾として放ったらしい。視界が戻ってくるのを待たずして、オトマドベルは仕掛けてくる。瓦礫を踏みしめる『ザッ』をわざと伸ばして、その現れた伸ばし棒を持ち手として、ハンマーめいて振り回してくる。慌てて空へ逃げ、しかしやはり効果音の乱射で追ってくる。どころか射出されたそれらを足場として、スワローテイルのところまで駆け寄ってくる。足音が効果音になって更なる足場を作り、何度も蹴って、小さな効果音を細やかな刃物のごとく飛ばし、なんとか避けたはずの上空で、オトマドベルに組みつかれた。

 

「捕まえたっ!」

「きゃっ──!?」

「あの人相手に諦めなかったのはすごいよ、わざわざ来たのも尊敬しちゃう。私的にも、あの人の隙なんて初めて見たから! だから、始末しろって言われたけど、あんまり痛くないように丁寧にしてあげるね?」

 

 首元に回される腕。締めあげられて、翅をばたばた動かして抵抗した。不安定な軌道で飛び回る。これだけで完全に振り払えはしなくたって、背中のオトマドベルをどこかに叩きつけられたらなんとかなるかもしれない。息がうまくできず、周囲もよく見えないまま、どうにかしようともがいて、もがくだけで、高度は落ちていく。このままでは地上に叩きつけられる、だとしてもそれだけじゃ魔法少女は傷つかない。オトマドベルが離れる気配はなく、揚力を失ったスワローテイルは落下し、瓦礫の山に突っ込んだ。

 その瓦礫が産んだ一瞬、オトマドベルの力が緩んだ。それを逃さずに、瓦礫の中でもがく。抵抗しないでよ、とこぼす相手に、しないわけないでしょと心の中で吐き捨て、己の頚椎が軋む恐怖を拭う。

 

「観念しなよ、死んでも綺麗なままにしてあげるって言ってるんだから! ね! ギュ〜……っと!」

 

 口から出る効果音がそのうえで巻きついて、身動きを封じてこようとまでする。このままじゃ、スワローテイルはここで終わりだ。

 しかし、瓦礫の中には、彼女がまだいる。

 

「うち抜きで……えらい楽しんどりますなぁ……!?」

 

 瓦礫の山をスワローテイルとオトマドベルごと弾き飛ばす、翼の一薙ぎ。そして立ち上がるは極彩色の着物、シルクウイングだ。さすがの彼女も血を流していて、だが堂々とした立ち姿も、美しい羽も健在だ。吹き飛ばされた勢いでスワローテイルからオトマドベルは離れており、咳き込みながら助けられたことを認識する。どうしてと問うまでもなく、復帰したオトマドベルとシルクウイングで睨み合う。

 

「あ〜あ、やっぱりあのくらいじゃ駄目か。でも大丈夫。私はやる子だよ? やると決めたらね! ビシッ!!」

「……は。水を差すにも程があるんとちゃいます? せっかく、中高の先輩の娘を可愛がっとったのに、なあ」

「うっわぁあれって極道的可愛がり? ごっめーん、マドちゃんにはわかんない☆ どっちも殺したいだけなんだもん☆ だから、ズドンッ!」

 

 会話の最中でも繰り出される超威力の効果音。対するシルクウイングも翼であっさりと対応し、叩き落としている。そしてオトマドベルから仕掛け、接近戦だ。小さな攻撃を連射して翼を防御に回させ、大きな隙を誘っていくマドに、さすがのシルクウイングも目を細め、不快そうに深く息を吐いていた。

 

「あんたがうちを裏切ったって聞いたら、サイネの奴、どう思うやろな」

「聞かせない! だって! サイネちゃん様が好きなの貴方でしょ!」

「……はぁ? わけのわからんことを……色恋で裏切るんか? 根尾燕無礼棲を?」

「だったら何が悪いの? キラッ☆」

 

 ふたりが争う中、スワローテイルは己の傷ついた体をさなぎに包み、再構成を試していた。生まれ変わりの魔法なら、部分的に使えば傷を直せるはず。オトマドベルの直撃で折れた腕を溶かし、もう一度同じ腕として生まれ変わらせる。これで──まだ戦えるらしい。

 

 息を整える。そして、瓦礫の山になった倉庫の残骸からひとつ、硝子の群れの真ん中に寝転がる、箒を目指して歩いた。そして、手を取り、何を言われるまでもなく跨った。

 

「……うん。行こう、ラピッドスワロー」

 

 愛機の名を呼ぶ。同時に展開された風防はさながらバイク。そして背にした翅は、まるで特攻服(トップク)。エンジンを吹かし、目の前に集中し、狙いを定める。狙う相手は、オトマドベルだ。合図はない。シルクウイングの反撃の蹴りが、彼女の体勢を崩したその時、地面を靴裏が打ち付け、それが爆発的な加速と共にロケットスタートとなった。

 

「え──」

 

 超高速の体当たりとその衝撃波が走る。まともにくらったオトマドベルは叩きつけられたまま大きく吹っ飛んで、木々を巻き込みながら姿が見えなくなるまで飛んで行った。あれだけの衝撃、しばらくは起き上がれないはず。ならば、見据えるのは残る敵だ。信じられないものを見る目をしていた彼女と、視線を重ねた。

 

「仕切り直しだよ、()()

「……うちの名前……んや、その呼び方……姐さんの──は、はは、なんや、なんなんや! あんたは!!」

 

 シルクウイングが叫び、翼を大きく広げ、空へ飛び立った。スワローテイルも同じだ。魔法の単車(ホウキ)──ラピッドスワローを駆り、飛び立った。

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