魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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がらくたエレジィ

 ◇レーニャ・エレジィ

 

 少女の名『レジーナ』は、人間の世界の言葉で『女王』を示す。魔法使いとして大成するようにつけられた、ということは想像にかたくない。父もその名をつけた時は、大層な期待をこめていたことだろう。

 現実はそうはいかなかった。レジーナには魔法使いの才能はなかった。どんなに儀式と詠唱をしても魔法は使えず、周囲の魔法使いには見放されていき、縋り付く思いで、魔法使いよりも()に劣る魔法少女にさせようとした。魔法少女としてなら、まだ道はある。現に、貴族の出でありながら魔法少女として活躍している者がいると、父には言い聞かされていた。

 

 そのうえで、魔法少女にすらなれなかった。

 記憶の中の父が、それを知る前と後で、明らかにレジーナを見る目を変えていたのを、確かに覚えている。魔法使いでもない、魔法少女でもない、そうわかった日から、レジーナに居場所はなくなった。いや、元々ほとんど用意されていなかったのかもしれない。完全に追い出されなかっただけ、そもそも幸せ者だったのだろう。

 そんなレジーナが、魔法使いの友人など作れるはずもなく。初めてできた友人は、つい2年ほど前に遡る。

 

 そうだ。彼女──蓮田希菜子(はすたきなこ)と出会ったのは、そのくらいの時期だった。プク派と研究部門の抱えていた人造魔法少女計画が傾き、沈んだことで、出資していたレジーナの父は人間界の資本に頼らざるを得なくなってしまった。そうして近づいたのが蓮田家だったのだ。

 希菜子は……きっとそんなことは何も知らなかった。レジーナの事情も立場も関係なく、ただ他の人と同じように手を差し伸べた。だから一緒にいられたんだろう。あの時、ふたりして、『オークションから買い上げた不思議な宝石』で魔法少女になるまでは。

 

 ふたりで向かい合ったのは──訣別の時以来だった。あの時、レーニャは根尾燕無礼棲の使いっ走りになることを決め、引き留めようとする彼女にペットボトルを投げつけた。今も、同じだ。互いに仮面を被ったまま、本当の表情も見えない中で、くぐもった声が響く。

 

「レーニャ……いや、レジーナ! 落ち着いて! いいかい、ワタシたちは」

「うるさいッ!」

「っ、君を! 守りたいんだ!」

「……そればっかり。そんなの、いらないって言ってるでしょ!?」

 

 手を差し伸べてこようとしたハステアーラの、その手を叩き、体に向かってペットボトルを投げつけた。レーニャの魔法で爆発を起こして、衝撃とともに白煙があがる。それでも彼女は防御体制を取ろうともしていなかった。呻いて顔を歪めたが、それでもレーニャの手を掴もうとしてきて、思わず振り払う。

 

「その様子……私が目的でもなかったくせに、なんのつもり」

「ワタシは、君と戦いたくない」

「……あっそう! じゃあしっぽ巻いて逃げればいい。私だって遊びでここにいるわけじゃない!」

 

 両手に携えた近接戦用の500ミリリットル2本を叩きつけ、ハステアーラのことをよろめかせる。思いっきり胸元を蹴っ飛ばし、顔を殴りつけて、されるがままの彼女に腹が立って、武器すら捨てて、拳で何度も殴りつけた。ハステアーラの仮面が少しづつずれて、少しだけ素顔が覗く。希菜子とよく似た目元の化粧が、何度も殴られたせいで滲んで、涙で潤んだようにしか見えなかった。

 

「レーニャ……」

「……なんで。なんで抵抗しないの。このままだったら! 私、あなたのこと、殺してでも」

「……いいよ、それで君を守れるなら」

「ま……ッ、だから、それを、やめてって言ってるでしょ!!」

「すまない……ワタシが何もできないばかりに、君にこんな悪いことに加担させてしまって」

「違う、違う!! これは、私が選んだ私の居場所!!」

「ワタシが……もっと強かったら」

「黙れ!!!」

 

 咄嗟に引き抜いたペットボトルを、仮面の向こう側の口に捩じ込んでやろうとした。その瞬間にマントが蠢き、瞬時に硬化、ふたりの間を突っ切り、ペットボトルを切断して爆発を阻止し、ハステアーラはその残骸を吐き捨てた。そして、馬乗りになったままのレーニャに対し、肩を掴んで、目を見ようとしてくる。

 

「お願いだ、もう、一度だけ、話を」

「……何もわかってないくせに。何も知らないくせに」

「あぁ、わからない、だけどこの気持ちは嘘じゃないんだ」

「嘘ついてるなんて思ってない。本音でしょ。本音だから嫌なの、本物だから鬱陶しいの! 

 目障りで仕方ないの! 本当にわかってないじゃない……!!」

 

 ハステアーラは知らない。レーニャだけが知っている。根尾燕無礼棲──シルクウイングからのスカウトは、本来ハステアーラに宛てたものであったこと。彼女が魔法使いに声をかけられようとしていたこと。じゃれ合って腕相撲なんてした時、どれだけ本気を出してもハステアーラをまるで動かせなかったこと。ゴミを集めなきゃいけないうえに一度付与した性質は変えられないレーニャと違って、ハステアーラは自由自在にマントの形を変えて戦えること。レーニャが何度も勝てない相手と戦って、ただ勝てないでいる間、彼女は誰かの手助けになろうとしていたこと。わかっていない。全部、わかってない。

 

「ワタシには君が必要なんだ」

 

 ここまでしてもなお、そんなことを吐ける彼女は、やっぱり全部わかってない。

 

 肩の手を払い、胸ぐらを掴み、顔を近づけた。仮面のままでも目線は合う。ペットボトルの仮面の下に、渦巻いた感情でぐちゃぐちゃの表情を隠したまま、言葉を絞り出すことすらできなくなって、またハステアーラの頬を殴りつけた。口の端が切れて、一筋の血が流れている。……流してやったままは嫌で、どうしてか、自分の指で拭ってやった。

 

「これに懲りたら……もう、二度と、顔、見せないで」

「……」

「次は! 本当に、殺すから……本当だから」

「レーニャ。君にそんな無理した言葉は似合わないよ。戦場は君のいるべき場所じゃない」

「……だったら。どこにいろって言うの」

 

 魔法使いにはなれなかった。魔法少女にも、自分の力じゃ無理で、お金で無理やりなっただけ。そしてようやく手に入れた魔法が、これだった。

 彼女は、何不自由なく育ち、親に愛されて、レーニャよりずっと強いハステアーラなんて才能を買い与えられた。

 一緒にいられるはずがない。だって、一緒にいたら、レーニャは耐えられない。彼女に守られていたくなかった。

 

 手を離し、レーニャは立ち上がった。デビ☆るんるんに与えられた仕事はまだ残っている、装置はまだいくつか、ペットボトルをケース代わりにして保持しているのだ。何の装置であるのか、レーニャ自身は知らないけれど──デビ☆るんるんは、世界を目指している。それだけの何かがあるのだろう。レーニャに与えられたことは、ちゃんと、やらなくちゃ。

 

「……もう、行く、から」

 

 振り向かずに、ただ呟いた。背後に気配がないか、ずっと警戒していた。しかし追いかけてくる者はない。誰かがついてくるような足音もない。彼女がいるはずの、自分が歩いてきた後ろを振り返るのは──怖くてできなかった。

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