魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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マジカルデーモンガール
作戦は逃げるだけ


 ◇コルネリア

 

「さあ逃げますよガーデンさん!」

「ねえあまりにもめちゃくちゃじゃない!? 敵よりもお前に殺されそうなんだけど!?」

 

 オークション会場で堂々とミサイルを発射、壇上の商品を脱走させる──という計画はすんなり成功した。よくもこれで今までオークションが成り立ってきたものだ。確かに防護術式はあるが、あくまで客席ばかりで、壇上の枷を壊そうとする者に対する防御がまるで抜けていた。

 呆気にとられる魔法使いに魔法少女たちの中をすり抜けて、ここからの脱出を試みる。必死の全速力だ。実行犯であるマスカレイド44には、明らかに複数の追手がついている。ここまでの騒動になれば、コルネリアの目論見はうまくいっている。あとはエリザが彩音燐音をどうにかできるか、と、我々が逃げ切れるか、だ。

 前者はそうでなきゃ困る。後者は……自信はないが、死んでやるつもりはなかった。

 

 一方、壇上では確かにフットホールドの枷が外れ、立ち上がり、襲い来るブリキの兵隊やら魔法の武器を持った極道たちやらを蹴散らして、こちらに向かってきている。物音で振り返った。

 

「ちょ、あれ、こっち来てない!?」

「え、なんでですか!?」

「わかんないって! なんかした!? いや、したか!」

「ミサイルで撃ったからですかね!?」

「それはお前の指示でしょ!?」

 

 フットホールドには散々やられていた記憶が強く、結局敵対してくる可能性は大いにある。とはいえ警備を惹き付けるにはうってつけ、のはずだ──と、意識を警備相手だけに向けていると、目の前にひらりと現れる魔法少女。笑顔を浮かべ、大きな狐のしっぽを嬉しそうに揺らす、エイミーがいる。まずい。護衛と言いつつ、魔王塾崩れのエイミーのことだ、不穏分子の処分という大義名分がある、実力行使していい相手ならしてくるに違いない。彼女は咄嗟の攻撃を出そうとしたマスカレイドの腕を掴み瞬時に床に叩きつけ、背中に一撃入れてすぐには立ち上がれないダメージを与えた後、続くコルネリアがブレーキをかけられないのをわかっていて、足を軽くひっかけてくる。

 勢い余って、そのまま投げ出されるコルネリア。一度倒れたら立て直すのは、その相手には難しいと考えてはいたものの、そこへ現れるのがフットホールドだった。この弾みに脚を潰しにでも来たか。最悪の想定をし、投げ出された体で祈り目を閉じた。その瞬きのような時間で、体に衝撃が来ることを覚悟し──誰かの腕に、受け止められた。そのまま目の前で回し蹴りが放たれて、エイミーの方が吹っ飛ぶ。

 

「え……あれ?」

「借りを返さないというのは、監査の正義に反します」

「さすが監査のエージェント。捕まるヘマはしても、私一人分(……)はすぐ倒しちゃうか」

 

 吹っ飛ばされていったはずのエイミーが無傷で現れる、それも『複数人』だ。彼女の魔法は分身を作り出す、ひとりひとり相手をしていてはキリがない。騒然とする会場内、警備の連中だってそうこうしている間に追いついてくる。

 

「振り切ります。掴まるように」

「まさか……ちょっと!?」

 

 構えたフットホールド、察知して慌てて手を伸ばしたマスカレイド、コルネリアは彼女の手をぎりぎり掴んだ。飛び出したその突撃の瞬間、恐らくはエイミーを轢いた衝撃が来ると共に、空気の壁に当たっているかのような感覚がして、直後には会場の外にいた。

 

「し、死ぬかと思った……」

「いえ、まだ死ぬような思いはしなきゃいけないらしいです」

 

 会場自体も既に包囲されていた。周囲にはスパル・トイの兵隊たち、そしてその手には魔法の武器やアイテム。その数は視界を埋めつくさんとするほどだ。これまでのスパル・トイは本気でなかったのか、と感じるくらいで、その中央には本人も立っていた。

 

「逃がさんぞ、逆賊絶対庭園め! 我々を裏切るのが何を意味するか教えてやろう!」

「……貴方ですか。悪に堕ちたのは本当だったのですね」

「む……!?」

 

 コルネリアを下ろしながら呟くフットホールド。その姿にスパル・トイも驚いている。知り合いなのだろうか。聞こうとして、先の衝撃のせいでうまく呼吸できず咳き込み、マスカレイドに支えてもらう。とはいえマスカレイドもフラフラで、一旦後方を警戒する。跳ね飛ばされたとはいえ、またエイミーが来ることは簡単に想像できる。どうにかして、せめてラムやハステアーラとは合流しなければ。

 

「フットホールド先生……いえ、もう貴様など先生ではない! 吾輩は根尾燕無礼棲のジェネラル・スパル・トイだ! あんな組織に正義は無い!」

「悪に魅せられ取り逃した、それが悪でないとでも?」

「違う……! あれは吾輩のせいじゃない! 吾輩はただ……!!」

「わかっていますとも。未熟な貴方たちを危険な任務に赴かせた、私にも責任はあると」

「ッ……吾輩は、いつも、最善を……! このっ、やれ! 皆っ!!」

 

 一斉に襲いかかってくる兵隊たち。その攻撃を蹴りで弾き、かと思えばまた蹴りで潰し、さらに無理な体勢から腕の力で強引に蹴りに持っていき、とにかく魔法の安全靴によって一方的な攻撃が続いていく。そしてスパル・トイの指揮は明らかにフットホールドへの攻撃に集中している。手薄な場所はいくつか見えた。コルネリアが悟られぬようにマスカレイドにだけ、アイコンタクトで伝えると、彼女は仮面越しのままながら汲み取ったらしく、ウェポンラックから道具を取り出した。単分子ワイヤーによる攻撃武器だ。射程には問題があるが、広範囲でなければ数体を相手にするには十分。ミサイルの節約もできる。

 

「すみません、ここは任せます」

「無論です。借りは返させていただきますので」

「ブースター全開! いくよ……!!」

 

 マスカレイド44の背中が火を噴き、その推力で一気に包囲を突破する。そして外にいるはずの仲間の姿を探した。ラムの姿も、ハステアーラの姿もない。そしてコルネリアは、会場周辺に、焼け焦げたペットボトルの破片が散らばっていることに気がついた。恐らくはレーニャ・エレジィの魔法によるものだ。ということは、レーニャと交戦した何者かがいる。外でも事は起きていたのだろう。となると、ふたりはレーニャを追ったのか──。

 

「はい、安心しない。外に待機させておいたの、忘れてるでしょ?」

 

 そして襲ってきた衝撃は、エイミーによるものだった。叩き落とされて、コルネリアは放り出された。狐は執念深い、というわけか。魔王塾生、しかもあの塾生の中から追放されるような荒くれ相手には、フットホールドと同等程度には話す余地がないと見ていい。ならここでやることは、やはり逃げの手か。だがマスカレイド44も受けたダメージは大きく、変装に奪ってきたコスチュームが崩れて、彼女本来の武装が覗いていた。

 

「やっぱりガーデンじゃなかった。本物はどうしたの? 殺した?」

「……いやちょっと、服を借りただけ、だけど」

「ふぅん。脱がせたんだ? あいつ、いい趣味した奴に捕まったねー」

「趣味とかそういうやつでは……」

 

 いや。これは──「ガーデン・ガーターを捕まえる実力があるなら楽しめそうだ」という目だ。獲物に向ける眼光だ。やはり避けては通れない、どころかこの先何度現れるかもわからない。分身は潰す度に現れるのか。一度潰されたら出せないのか、それすら確定しない。データベースをゆっくり見ている時間はないのだ。そして、ボロボロのマスカレイドと戦えないコルネリアで対処できる相手なら、まず魔王塾にいない。

 

「……あ。やっと、いた! この状況……えっと、この人は?」

 

 けれどそこに聞こえてくるのは、待っていた相手の声。なんだか気の抜けた雰囲気ながら、この状況では最も頼りたい彼女──キューティーラムだ。

 

「……ん? あぁ、確か、パンダのところの」

「あっ! 師匠とお知り合いですか?」

「何度かやり合ってるから」

「! ということは、賊の人!?」

「賊って……」

 

 言い方は不思議だが、この場でエイミーに対抗できるのは彼女くらいだ。

 

「誰でも迷える誘惑の夜……キューティーラム! 師匠に代わって、お姉ちゃんがほろっとお仕置き! だよ!」

 

 名乗りと同時に武器を抜き、殴り掛かるラム。応戦するエイミー。マスカレイドとコルネリアは、この場から抜け出していく。

 

「一番心配なのは……エリザもだけど、スワローテイルだよ。戦えない状態なら、すぐ助けられるようにしなきゃ」

「そうですね……マスカレイドさん、結構仲間想いですよね」

「今一番やりたくないことは追悼だから。無茶ぶりにも付き合ってんの」

「……そうですね」

 

 仲間を死なせることはしたくない。それは皆同じだ。フットホールドと対峙したスパル・トイも、そういう顔だった。スワローテイルはどうだろう。シルクウイングは……どうなのだろうか。不安は過ぎる。

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