魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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ネオンサイン

 ◇ダーティ・エリザ

 

 階下がどうなろうと、エリザと彩音燐音にはもはや構う暇はなかった。銃弾を放ち光線を避けて刃を交わし、レーザーブレード同士の激突に火花が散る。やらなければやられるだけだと互いに心臓で理解している。歯を食いしばり、ぶつかり合う攻撃はことごとく相手を殺し得るものばかり。終わらせてやるという意思で、僅かな隙にも銃撃を繰り出し、だが光線により対応され、もはや何度銃声と光が駆け巡ったことか。レーザーブレードを握る左手の握力は傷で死んでいる、銃撃に持ち替えるのはもちろん、鍔迫り合いも不可能だ。とにかく弾き続けるしかない。散り舞う破片で手元が狂い、光の刃が脚を掠める。皮膚とその下の肉が焼け、脇腹に続き片脚にも焼け付く感触がする。痛みにまみれても、振り切ってグリップを強く握り締める。

 

「オラオラどうした!! 俺を切り裂いたさっきの威勢はどこ行った!? ンなんじゃ(メアリ)の足元すら見れねェぞ!?」

 

 エリザを信じ託してくれた魔法少女たちもまた、戦っている。そんなことはわかっている。ここまで付き合わせて、戦わせて、それは全部エリザのわがままに付き合わせたからだ。それでなお、このまま戦っていたのでは解決のしようがない。彩音燐音に与えた傷は深くはない。エリザの傷は……今すぐ戦えなくなる程じゃないが、深い。脚に喰らった傷跡に力が入り、焼き塞がれかけた血管が開いて血が噴き出した。

 

「ッ……なら!!」

 

 彩音燐音の視界を奪うべく、作り出すは閃光手榴弾。投げつけても直撃には至らず切り落とされるが、作動すればそれでいい。一瞬の目眩しの隙に、陰に隠れ、破片をロープに変え、引きちぎったコスチュームの布片と合わせて傷を覆う。武器用の縄ではゴツゴツしているが、少しはマシだ。そのまま牽制に銃撃、対処はされるが不意討ちを喰らうのは避けて、次の障害物のもとへと駆け寄りながら連射、近づかせまいと動く。ならばと光線で攻めてくるのが彩音燐音だ。しかし彼女の光線は直線。鏡の破片に反射して跳ね返り、エリザを狙ってくるが、ルートはわかっている。レーザーで迎え撃ち、両手で抑え、耐えきった。

 

「それで終わった気になンなよ」

 

 だがそこに立っている彩音燐音。振り下ろされるのはペンライト──ではない。発光の度合いが違う。より激しい光を放つ、使い切りのケミカルライトだ。防御に構えたレーザーブレードが刃で負け、柄まで切断されて使い物にならなくなった。使えなくなったのは左手ごとで、ズタズタの手ではまともにものも握れない。立て直さなければどうにもならない。

 なおも続くは窓を揺らす衝撃の数々。激突の末に壁を砕き2階をズタズタにして、後退するエリザ。

 

 次々と何もかもが壊れゆく中、脳裏に過ぎるはあの日の景色だ。

 ちょうど6年前のあの日──カラミティ・メアリがN市で殺戮を起こした時。幼き日の山元仄香は、騒ぎに目を覚まし、遠方からその様を見ていた。そして──それを起こしたのが母だと知らぬまま、この世の地獄を、目に焼き付けていた。

 

 あぁそうだ、あたしはあの女への当てつけで、戦っている。復讐だなんて誤魔化しの言葉でしかない。これは彩音燐音の言う通り子供の癇癪で、我儘で。だったら、手段を選ぶ必要なんてどこにもない。

 

「あン? 尻尾巻くのはもういいのかよ?」

「あんたのお望み通りだ。壊してやる!!」

 

 逃げた先で置かれていた鏡を掴み、手の力で砕く。それらを変化させながら、一斉にばら蒔いた。周囲にはキラキラの破片が舞い、そして肥大化しながら機構と化して、エリザの合図で一斉に動き出す。一面を埋め尽くすのは機銃の群れだ。轟音と共に弾丸の雨を吐き散らす。彩音燐音はその真ん中で、踊るようにサイリウムの光を振り抜き切り裂いて、だがそれだけではカバーしきれず弾丸を浴びていく。彼女のコスチュームにある『彩』『燐』の字のネオンサインが割れ砕け、光を失って、だが目の光は潰えることはない。

 

「俺の庭で! 勝手に霧雨降らしてンじゃねェぞコラァ!!」

 

 それでもなお切り裂いて迫ってくる彩音燐音。叩き折って起動した魔法のサイリウムは数を増やし、指に挟み込んで爪のごとく振り回す。光が尾を引きながら、銃弾と火花を散らす。突き刺さった銃弾の数々に肌を赤く染められながら、彩音燐音は突っ込んでくる。次の瞬間には機銃のもとへと辿り着き、まずひとつドラムマガジンを破壊して止め、それを振り回して複数を薙ぎ倒し、進路上の機銃をすべて切り刻んだ。息を荒くしながらも、エリザのところまで辿り着いてくる。焦らない。エリザが作るのは、光線銃だ。真正面、互いの視線が交わされたその時、トリガーを引く。

 

「当たってやる理由(ワケ)あるかよ」

 

 射出された光線はあっさりと、彼女の横をすり抜けた。そして、並べられた機銃と、散らばり宙を舞う破片の群れの中へ。光は無論ながら光速で突き進む。そして──鏡面には、跳ね返されながら。

 

「今度こそてめェを──あ?」

 

 今度は彩音燐音の手が撃ち抜かれた。鏡の破片から生み出した機銃たちは、鏡面の性質を残していたのだ。その破片ならば、無論鏡である。乱反射の末に壁を這って、ようやく手にしたサイリウムの塊が、貫かれて握力を無くした手の中から溢れ、落ちる。これまで響き続けてきた銃声の轟音が止んだ。

 

「成程、ねぇ──こいつァ、両腕蜂の巣ってワケか」

「……認めるかよ」

「負けを……か? は、そうだな──俺の負けか──」

 

 エリザに銃口を突きつけられて、彩音燐音は吐き捨て、深く何度か呼吸をした。その咥えたままの電子タバコが、わずかに光る。──いつから咥えていたのだろう。そういう視点にたどり着くのには、そう時間はかからなかった。

 

「ッ!!」

 

 予感すると同時に体を動かした。口元のタバコが光を放つ。即ち砲台となって、最後の抵抗が迸る。光線は確かな熱を持ってエリザの頬を掠め、もう少しで眼球ごと撃ち抜かれるところだった。電子タバコに見せかけたライト、彼女の奥の手だったのだ。

 

「……ッと、ハズしちまった。こいつァ、正真正銘の……負け、だな」

 

 最後の光線は乱反射して、どうにか避けた末、彩音燐音自身の体に突き刺さる。裂けた体からは血が溢れ、それでも彼女はすぐには倒れようとしなかった。

 

「これで終わりだ、彩音燐音……あんたの根尾燕無礼棲も」

「……あァ。俺が敗けたんだ、そうもなるだろ」

「いいのかよ、心配しなくて」

「……うちの姐さんはヤワじゃねェ。散るなら散るで派手に羽根散らすだろ。それにあいつは──足のない極楽鳥だ」

「それ、どういう意味だ?」

「さァな。死にかけの極道の、ちょっとしたポエムだよ」

 

 膝から力が抜けている。溢れた血が溜まり、彼女の周囲に真っ赤な円を描いていく。それでも眼光は途切れない。ふと、遠くを見るように動いて、初めてだった。

 

「でも……なァ、心配、心配かァ……聞いてくれるか」

「あぁ」

 

 エリザはすぐ側に屈む。

 

「……マド……オトマドベルは、な、推し……なンだ。アイツが足洗うって言うなら……連れてってやってくれよ、あんたらの方に」

「できると思ってるのかよ」

「……は。思ってなきゃ言わねェさ。その目、人殺しの目じゃねェ、お人好しの目だ。死ぬには悪かねェ」

 

 深く、少女は息を吐き出した。そのつもりのはずが、咳き込み、血を吐き、やがて規則的な呼吸さえ危うくなり、割れたコスチュームのネオンは『LOVE』の4文字だけがチカチカと弱々しく光っている。それでも声をひねり出していた。

 

「そうだ……勝ったあんたに、1個だけ、教えてやるよ」

 

 顔を上げるエリザにかけられた、彩音燐音の残す最期の台詞(ヒント)。それは──。

 

「仮面の女に気をつけな」

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