魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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悪魔の嘲笑う時

 ◇夢見枕催夢

 

 オークション会場は大騒ぎ。イベントはめちゃくちゃだ。ただ、デビ☆るんるんはずっと、舞台袖で机に座って、足をぶらぶらさせて眺めていた。緊張感なんて彼女にはいつも無い。これだけ大きな好機を前にしても、だ。上階からの銃声は戦闘が行われていることを示している。だが、彩音燐音からの要請もなにもないというのなら、彼女──いや、彼か──が一騎打ちに拘ってでもいるのだろう。自分たちの知ったことではない。

 

「さぁーって! そろそろかな♪」

 

 デビ☆るんるんがぴょんと机を飛び降りて、懐をまさぐる様な仕草をして、そしてまるで自ら腹を切るかのようなジェスチャーをする。と、客席から、今度は混乱とは別の、純粋な悲鳴が上がる。覗き込んだ先では、血しぶきをあげて倒れる魔法使いがいた。ついでに、彼の胸には刃が、そして頬には小悪魔のキスマークがついている。

 

「始めよっか、もよ♪」

「はいはい。やるのね」

 

 催夢自身もゆっくり、布団のマントに包まって休んでいたところ、起き上がることにした。あくびをして、アイマスクの端を直す。

 それが彼女のやることだというならば、夢見枕催夢は従うだけだ。催夢の願いは彼女の安寧。そして、その安寧を叶えるためには、野望の全てを叶えてからでなくちゃいけない。

 

「えーい☆」

 

 さらに続けて自刃のジェスチャー。彼女の魔法は『キスマークをつけた相手に自分と同じ行動を強制する』……というものだ。一度に強制できる対象の数には、キスマークがあるならば限りはない。入場の際、運悪くデビ☆るんるんに目をつけられ、チェックと称して口付けを受けた者たちは、もれなく自らの手で自らを傷つけていく。

 

「はーい、みなさーん♪ まずひとつ! 根尾燕無礼棲はこれでおしまい! これからはデビるんの時代でーっす!! そしてぇ、この会場にいるゴミの掃き溜めのみなさんにはぁ、『魔法少女再生産計画』の肥料になってもらいまーす♪」

 

 大パニックが起きる会場。既に武闘派の連中は我先にと動き出している。が、それらの動きはわかったうえで、仕掛けておいた魔法の道具や、催夢自身の反射神経を使ってしっかり対処。もちろん儀礼系への対策もしてあって、生きて帰すつもりはない。客席からは怒号が飛んでくる。

 

「うーん、でもできるだけたくさん吸い込んでもらわないとなあ。回収できないんだよな〜、じゃあやっちゃおう! デビるんってば悪魔的〜っ!」

 

 壇上でひとりぴょこぴょこ跳ね回り、その結果何か思いついたらしい。

 

「魔法力を効率的に回収するために〜……1回跡形もなくなってもらおうかな! それ用の魔法起動装置(ソウジキ)もあるし? ねえ、もよ?」

「頼んでたのはデビでしょ? はいはい、まあ結界は起動させておくから」

「あの子がやってくれてるやつがあるからね! てなわけで! もうすぐこの会場丸ごと消滅しまーす♪ じゃあね〜♪」

 

 夢見枕催夢とデビ☆るんるんには秘密の出入口がある。さっさと脱出してしまおう。

 

 

 ◇ジェネラル・スパル・トイ

 

「ッ……これ、は……」

 

 フットホールドは突如、人形の武器を奪ったかと思うと、今まで戦っていたはずのスパル・トイではなく、自らの胸に刃を突き立てた。わけがわからなかったが、彼女が負けを認めたのかと、その場に崩れ倒れるのを眺めていた。それからほんの一瞬の時間をかけて、負けを認めるなど絶対にしない人間であることにも思い至った。

 何かが起きている。フットホールドの頬にも、見慣れない紋様が浮かび上がっているではないか。この紋様の仕業だ。拭おうとしても消えなかった。

 

「なんだ……これは」

『はーい、みなさーん♪』

 

 そこへ飛び込んでくるのはデビ☆るんるんの声。根尾燕無礼棲は終わり、会場の人々は肥料だ……と。『魔法少女再生産計画』? 何の話だ、スパル・トイはなにも知らされていない。そもそもオークション会場を消滅させるなど、ボスが黙っていない。

 スパル・トイは自らの端末を取り出し、彼女の裏切りを伝えるべく、今すぐにでも連絡を取ろうとした。まずは彩音燐音。電話は繋がらない。端末が壊されたりでもしたのか。ならばシルクウイング。彼女は裏の倉庫で、確かあの蝶の魔法少女を相手しているはず。さすがのシルクウイングならば彼女に負けることは無いだろうと考えながら、かけた。やはり、繋がらない。電波妨害か。だとしたら、ボスは来てくれない。オトマドベル……も繋がらないだろうし、それ以外にも頼れる魔法少女は思い当たらない。デビ☆るんるんが乱心したとして、ジェネラル・スパル・トイは、どうすればいいのだろうか。

 

「……会場を、消滅、ですか」

「なっ……自害したはずでは!?」

「巨悪を前に……死んで、いられません。元凶は、あの、悪魔の仮面の魔法少女、でしょう。探して、踏み潰します」

「フット先生……」

 

 さすがの彼女でも、恐らくは心臓に穴が開いていながら敵を追い撃滅するのは不可能だ。それでも止めたところで、そのまま死ぬだけだ。何もしなければそもそも結界の中に閉じ込められていて、治療が間に合う理由もない。止める意味はスパル・トイには欠片もない。だが呆然とする中、無理にでも立ち上がった彼女は、こちらを睨むように目線だけを向けた。

 

「監査を去った者であっても……かつて正義を学んだの、なら……すべきことは、わかるはず、ですよ」

 

 すべきこと。スパル・トイにできること。何だ。混乱する会場を見る。こんな時、監査の魔法少女なら──スパル・トイの目の前で殉職していった皆だったら、どうしただろう。必死になって人々を守ろうとしていただろうか。きっとそうだ。そのせいで、彼女らは、『事故で解き放たれた』囚人の餌食になって死んだ。

 

 いや。皆のことなんてもう関係ない。何をしたって、もう終わったようなものか。

 兵隊を率いるというこの魔法のため、いつも斥候役に連絡役に雑用、全部押し付けられてきた。見た目を派手に行軍する為だけに、極悪囚人の輸送なんかに駆り出された。そのせいで、死ぬような思いをして、必死こいて逃げ回って、生き残って、おかげで全ての責任を着せられた。もちろん監査を辞めてやった。ふざけた話だ。どれが自分のせいだった。どこから、悪いのは自分だった。

 込み上げる怒りのまま、スパル・トイはとにかく地面を蹴りつけた。これが最後の感情なんて嫌だ。何かしなくちゃ。ちゃんとやったと、胸を張って言えるようにならなくちゃ。

 

「……ねえ。何が起きてるの?」

 

 話しかけられた。振り向くと、そこにいたのは紫の魔法少女だ。そうだ、確か、魔法少女アニメの。ということは、広報部門系の魔法少女だ。魔法の国に連なるということは、根尾燕無礼棲にとっては敵。しかし、今この会場の魔法使いも魔法少女もまとめて消し去ろうと宣言したデビ☆るんるんはさらに大敵だ。つまり、足掻くのなら。

 

 スパル・トイは彼女に全てを話す。

 

「……! わかった、えっと、メッセージ、メッセージ……うん、コルネリアさん? あのね……」

 

 電話が繋がっているのは、端末が広報部門のものの方が性能がいいからだろうか? 同じに見えるが、違うのか。なんてことを考えた一瞬、その間にひょっこりと誰かが顔を出した。狐の尻尾を揺らしている。

 

「大変なことになっちゃったねー」

「貴様は」

「こっちもさすがに全滅は困るっていうか、仕事中だから」

 

 狐の魔法少女はそう言うと、髪飾りに手を触れ、すると数名の同じ姿の魔法少女を生み出して、散開した。スパル・トイと同じく数を使えるタイプだ。直接の探知系でもなければ、捜索なんて頭数が多い方がいい。

 

「……うん。わかった。あのね、どっちに行けばいいかな」

「む……向こうに、先生が……監査の魔法少女が向かった。敵は、ステージ上にいた、悪魔の仮面の魔法少女だ」

「悪魔の……わかった! ここはお姉ちゃんとエイミーさんに任せて! あなたは皆さんのことを!」

 

 ……皆さんの? 客席のこと、だろうか。自分に──できること、か。監査にいた頃のことを思う。応急処置のやり方、避難誘導のやり方、全部一度座学でやったっきりのうろ覚えだが、やれるならやるしかない。

 

「……皆さん! 落ち着いて! 既に何人もの魔法少女が対処に向かってます! 無闇に動かないで! けが人は!?」

 

 人手ならいくらでも用意できる。スパル・トイは将軍だ。吾輩の目の届く所で、好き勝手させてなるものか。

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