魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇コルネリア
キューティーラムから緊急の連絡が飛んできた。運営側だったはずのデビ☆るんるんという魔法少女が、会場を消し飛ばすと宣言した……とか。会場内にはそのデビ☆るんるんの仕業か、何者かに操られて自らを刃で貫く者が続出、激しく混乱している。そこまで聞いて、コルネリアはやはり──自分以外にも、この機会を利用しようとしている輩がいることを確信し、思考を切り替えた。
既に連絡のあったエリザからは、彩音燐音を倒したと伝えられている。さらにスワローテイル側でも戦闘は終了している、とも。コルネリアは先にスワローテイルと決めておいた合流地点に向かう。それまでの間に、会場側にも向かってもらわなくちゃいけない。それができる人材は、今のところひとりだけだ。
「……すみません。マスカレイドさんは、会場側でハステアーラさんをお願いしてもいいでしょうか。もちろんご自身の無事を最優先に、一緒に脱出するのを目標にお願いします」
「はぁ……? そんなこと言われたら、私、一目散に自分だけ逃げるけど?」
「それでも構いません。彼女からの連絡はずっと途絶えています。だとすると、助けに向かうのがそもそも危険の可能性だってありますから」
マスカレイドは本当にやりたくないことなら引き受けないだろう。協力してくれる気はあると踏んで、そしてその通り、仕方なさそうに飛び去って行った。そして彼女が近くから離れたことを確認すると、合流地点への進行を再開する。
「あっ! 来た……!!」
「スワローテイルさん! ご無事でなによりです」
「マスカレイドさんは!?」
「会場側へ向かってもらいました。エリザさんを迎えに行きます! あっ、それ、乗せていただいても?」
「もちろん! 乗って!」
魔法の箒に乗って現れた彼女の後ろに同乗させてもらい、全速力で蜻蛉返り。スワローテイルの飛行速度だけでもコルネリアでは追いつけなかったほどだろうが、この箒はさらに輪をかけて速い。結界の心配は不要だった。超加速により、投げ出されたら全身吹き飛びそうな負荷と共に、まさに閉じようとする空間を突っ切り、そのまま会場の上階にも突っ込んだ。壁をぶち抜き、床に半ば激突しながら着地する。コルネリアは投げ出されて目を回した。めちゃくちゃな運転だが、この急いでいる時には贅沢は言えない。
「エリザ! 私だよ! スワローテイル! ねえ!」
「……いるよ、ここに」
声がして振り向くと、どうにか壁に寄りかかって立っているエリザの姿があった。片腕は切り刻まれ片足は抉れ脇腹には見るからに刺傷のある酷い有様だ。慌てて駆け寄り、包帯代わりにスワローテイルが蛹で腕を包む。
「ごめんなさい、治すのは時間がかかるから……」
「いや……いいよ。あたしだって、まあ……血、足りないかもだけど、まだ立ってられる」
今すぐにでも休ませてやりたいが、状況は最悪だ。何せこの結界の内部は、何らかの手段で吹き飛ばすと宣言されている。
「彩音燐音は」
「倒した。お陰でこの有様だ……そっちはどうなった?」
「……シルクお姉さんは……もう少しで、手を取り合えそうだったのに、誰かの魔法で」
「そうか。でもその箒、やっと会えたんだな」
「……うん」
彩音燐音にシルクウイング、根尾燕無礼棲の首領は双方ともに死亡した。ということは、全面抗争は勝利している。後は撤収さえしてしまえばいいはず……なのだが。結界が起動されてしまった今、それが問題だ。
「ラムさんが首謀者……司会をしていたデビ☆るんるんを追跡中です。我々も出口を探さなくては」
「……なあ、いいか、少し」
エリザは呼吸を整えようと胸元を押さえながら、なんとか言葉にしてくれる。
「彩音燐音が言ってたことがある。『仮面の女には気をつけろ』……だと」
「……! それ、シルクお姉さんも言ってた。『仮面の女があんたを狙っとる』、って」
「仮面の──」
過ぎる可能性はいくつもある。これまでにコルネリアたちがその顔を見ていない魔法少女は数名いる。そしてそれは丁度この場にいない──ハステアーラと、マスカレイド44を含む。そしてそれよりも、もっと厭な話だってあった。話すべきなのだろうか。
「コルネリアさん……?」
「……いえ。そうです、首謀者のデビ☆るんるんが悪魔の面をしていました。彼女のことであるとも考えられるかと」
「そっか……うん、なら私たちも追いかけなきゃ」
「そう、ですね。先を急いで」
「待てよ」
エリザが止めた。止めている暇がないのをわかっていて、それでもコルネリアの一歩目を遮った。
「あんた今、隠そうとしたことがあるだろ」
見透かされている。彼女には睨まれ、そしてスワローテイルには呆然とした目で見つめられた。息を吸う。やはり話さなければならないらしい。
「……私は人事部門の人間です。当然、スワローテイルさんの魔法少女登録の書類にも目を通しています。当然、提出者が、スワローテイルさんを魔法少女にしたことになる」
「私を、魔法少女にした人……」
「スワローテイルを魔法少女にした奴が『仮面の女』なのか?」
「恐らくは、はい」
コルネリアはエリザに肩を貸し、歩きながら話を続けた。
「彼女はかつて、魔法の国の救済を目論み、多くの魔法少女の犠牲を是とした一派の人物でした。それよりも前は、魔法少女を使って魔法少女を生み出す研究を。その前は、反魔法の国勢力として、魔法使いの貴族に仕えていたと聞きます」
「……どっちつかずの経歴だな。魔法の国が好きなのか嫌いなのか、わかんない奴だ」
「大義には興味が無いか……主張が変わったのか……どちらでもあるのか。いずれにせよ、その全てが人死にの出る事件に繋がっています」
これを、スワローテイルに伝えるのは早いと判断していた。彼女が息のかかった者ではないという証明がなかったからだ。コルネリアから見た彼女はそうではなかった。だが、目標を前にこの情報はただのノイズだった。浮上してきたのは、それが『仮面の女』だからだ。
端末を操作し、部門長から送られたデータを見せる。宝石製の仮面を着けた彼女の姿を見て、スワローテイルは確かに「あ」と声を出した。
「魔法少女名『ダスティ・ダイヤ』。ただ、その姿をまともに見た者はなく──『変身』の魔法を使うと。そう、伝え聞いています」
「……他人に化けるってことか」
「えっ? それって?」
「これは推測でしかありませんが。わざわざ人事部門に書類まで提出して、貴方と自分の存在を魔法の国に知らせたのです。特別なのは貴方、スワローテイルであり──貴方を観察できる人物である可能性は高いでしょう」
それが『仮面』の誰かである可能性は高いはずだ。スワローテイルに何かがあるというのなら、それを追って、ダスティ・ダイヤは裏城南に初めから居るに違いない。そんな推測を吐き出して、コルネリアは改めてふたりを見る。信じないことを選ぶのも彼女たち次第だと思っていたが──スワローテイルもエリザも、目を逸らすことはしなかった。
「……覚えてるよ。最初にこの街に何かが起きてるって知った時、考えたこと。許せない、って。今でも変わらない。狙われてるっていうなら、こっちから狙ってやるんだから」
「随分と……強かになったもんだ。ま、あたしも同意見だ。
「ってことは! この後も? 相棒!?」
「……あ? あぁ……確かに、箒手に入れるまでって約束だったっけ……か?」
こんな状況の中にあっても、既に散々悪意に晒されていたとしても、期待に満ちた目をエリザに向けて、彼女に困ったような顔と、照れくさそうな返答を出させるスワローテイル。エリザの言う通りの強かというか。強がっている、ように見えた。
「ごめん、私、先に行くね! エリザは休んで! コルネリアさんはすぐに逃げられる準備を!」
「……お前……」
「大丈夫。帰ってくるから!」
飛び立つ彼女の箒が、壁を突き崩して飛び去っていく。この会場に来る時よりも、フラフラとした飛び方だったように見えた。