魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇キューティーラム
さっきまで戦っていたはずのエイミーにも助力され、会場を突っ切ってラムは急いだ。ステージ裏の舞台袖、控え室らしき場所に飛び込む。そこで見たのは、檻に閉じ込められた魔法少女たち。オークションの売り物にされていた者たちだろうか。見過ごせるはずもなく、ラムは力任せに膂力で檻を破壊しにかかる。格子なら曲げればいい。壁なら、思いっきり打ち付ければぶち抜ける。拳でダメならショコラティエホイッパーを振りかぶって、ぶん殴る。そうして解放した魔法少女数名には、速く逃げるように叫んで伝えた。
「キューティーヒーラーだ……!」
「キューティーヒーラーが来てくれた!」
「お姉ちゃんにほろっとお任せ……って! やってる場合じゃないんだったよ! 速く逃げて!」
逃げるといってもどこにだろう。結界に閉じ込められていると言われていなかったか──。ラム自身も疑問だったが、せめて戦闘に巻き込まれなければいい。爆発だか消滅だか知らないが、そんなことはキューティーヒーラーが許さない。見ると、血の痕が続いていた。先を急いだ者がいると、あの兵隊を率いる魔法少女が言っていた。怪しんで、辿ってみる。
その先には、対峙する魔法少女たち。一方は追っていた悪魔の仮面と寝巻姿の魔法少女、もう一方は恐らく監査の魔法少女だ。だがその胸には刃物が深々と突き刺さっている。血痕の主は彼女だ。思わず駆け寄る。
「……! 大丈夫ですか……」
「お構いなく。援護を頼みます」
「えっ!」
彼女、作業着の魔法少女は、ラムが困惑する間もなく飛び出していく。仕方なく合わせた。対処しに向かってくる寝巻の魔法少女、攻撃を作業着の彼女が蹴りで外し、続く連撃を叩き込みにかかる。ふわりと抱き枕で受け止められ、押し返すことには成功するが、その追撃にかかるラムを彼女が止めた。
「お待ちを。彼女の魔法は触れた相手を眠らせるもの、です。直接触れぬように」
「……! はい!」
「えぇ〜、面白くなぁ〜い! もよの魔法で一撃すいみん! がいっちばん面白いのに!」
「まあいいわ。元々フットホールドには種が割れているもの。それに……そのくらいのハンデはないと、それこそ面白くないじゃない?」
「さっすがもよ! デビるんたち、ふたりで最強〜だもんね!」
文句を言ったかと思うと、寝巻の──『もよ』の言葉に機嫌を直す悪魔。だがそんなことに構っていられる余裕はない。作業着の彼女、フットホールドが再び踏み込んだ。体に巻いていた抱き枕を伸ばして迎撃してくるのをホイッパーで打ち返し、潜り抜けて本体を叩く。しかし出てくる寝具の量は普通では無い、寝巻きの隙間からはアイマスクが手裏剣のごとく放たれ、咄嗟にホイッパーで防御、そしてこの後に続く数枚もなんとか避けて、さらにぶつけてきた枕で手元からホイッパーが離れる。だが不意にフットホールドが袖を踏みつけ動きを狂わせ、そこに向かって、咄嗟に掴んだ壁を抉り取り、そのままぶちかました。瓦礫が舞う中、さすがの衝撃に、安眠マスクの下から鼻血が滲んでいる。よろめく彼女に、悪魔がぴょんと跳ねていた。
「ちょっと! もよになにするの! 弱いものいじめ反対!」
「最強なんじゃ?」
「最強だけど! 違うの!!」
「……?」
言っている意味は全くわからないが、ここで悪魔も動き出す。何の魔法を使ってくるのか、警戒するに越したことはない、依然大敵である寝巻の彼女の攻撃を掻い潜り、フットホールドと合わせて意識を奪いに顎を狙う。フットホールドが安全靴で弾き、蹴っ飛ばして、崩れた瞬間を狙いに飛び込む。が、その飛び込んだところに、想定外の激しい衝撃が襲ってきた。脳が揺さぶられ、ラムでさえ意識して踏みとどまらなければならないほど。こんなのは師匠に殴られた時以来だ。乱れた髪をかきあげて、手のひらで浅い切り傷の血を拭い、視界を確保する。と、こちらに向かって構えていたのはフットホールドだった。裏切り、とは違う。向こうで悪魔が同じポーズをとっており、フットホールドの頬にも悪魔の紋様がある。あれは、体を操られているのだ。
「またしても……っ!!」
「ほぉらほぉら、やってみなよ正義の味方さんさあ! お仲間がもよの盾になってるよ! さあ! えいやっ!」
フットホールドは魔法に抗えぬまま、ラムに向かって蹴りを繰り出してくる。そしてさらに枕も投げつけられて、自分とフットホールドの両方を守るべく瓦礫を当てて止めなければならなかった。さらに来るキックは回避し、転がりながら落ちていたホイッパーを回収。ただ、操られたフットホールドがいる以上、思うように狙えない。
「あはは! いつまでもつかな! ねえもよ! やっちゃえ!」
「というか早くしないと私たちまで餌食よね」
「そうだった! やば! じゃあ全力でやっちゃえ!」
悪魔は踊り、そのステップが安全靴の一撃になってラムに向かってくる。フットホールドの攻撃は重たい、しかし触れれば昏倒するらしい寝具よりもマシだ。放たれた飛び蹴りを両手で受け止め、流し、離れさせたところで寝巻の彼女の首を狙う好機がまたしても来る。力をこめてスイングし、だがそれが飛び込んできたフットホールドの脚に当たる。彼女の靴は魔法の靴だろう、衝撃は吸収されて通らない。
「くっ、こんなの……!」
「あはは! 残念でした! この人の自由はもうデビるんが握っちゃってるもんね!」
「……救いようのない、悪、ですね」
「え〜何? 悪魔的ぃ? そりゃそーだよねっデビるん悪魔だもーん!!」
「……ならば尚のこと」
フットホールドが不意に動く。脚ではなく、手を動かしていた。
「……! それは……」
「誰かが呼んでいたのを聞きました……貴女がキューティーヒーラー、ですね。正義の方だと、信じ……託します」
「託すって……!」
「どうか、正義を」
フットホールドは自らの胸元に手をかけた。何してるの、なんて悪魔の嘲笑が響くが、止まらない。彼女は自ら、己の心臓に突き刺さった刃を、抜いた。ずるりと現れた刃は赤く染まり、その赤を撒き散らしながら、振るわれた。不意の斬撃、それは寝巻の魔法少女の腕に当たり、皮膚を破り肉を裂いた。
「きゃっ──!?」
「わ、な、何? 自殺? 悪あがき?」
「……正義足掻き、ですよ」
不敵に笑ったまま、フットホールドが崩れ落ちる。そして相方が傷つけられ、怒った悪魔がそのフットホールドにラムを攻撃させようと、何度か攻撃のジェスチャーをしてみせる。が、動かない。ラムは警戒をやめ、ホイッパーを操作、起動してやった。
「ねえちょっと!? なんかあの人動かないんだけどっ」
「……死んだのよ」
「えーっ!? な、まさか、操られるくらいならってこと!?」
「……強き監査の方、ありがとう……正義は私に任せて! はぁっ!! ショコラティエ……フランベ!!」
ホイッパーにはラムの吐息が吹き込んである。そしてもうひとつ、ラムのものには特注の、
「ぃやぁああっ!?」
「もよ!!」
寝具に燃え移り、半狂乱になりながら消火しようとする魔法少女たち。それでも逃げようとする姿勢は変わらない。なら追って、逃げられなくなるまで叩きのめすだけだ。
「待って! ストップ! もう遅いから! ね! 避難口教えてあげる! ね!?」
「……もう遅いって、なんのこと」
「デビるんともよは結界を起動しただけ! 特注品はここにはないよ! だからデビるんを痛めつけてもなんにもならないって!」
「え──」
それはつまり、彼女らは元凶ではあれど、止めるべきものはそれではなかった、ということ。
「えへへ……計算通りならもうすぐ起動するかな? じゃあね……誰も助からないよ! だってあれ、アンタの親玉、広報部門の奴から貰っちゃった、皆殺し専用の奴なんだもん!! ブラックホールで消し炭になっちゃえ!!」
まさか間に合わなかったのか。振り向いて、魔法の端末を叩く暇もなく、どこかから地面を揺るがすものが響いたような気配がした。