魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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全部嫌いだ

 ◇レーニャ・エレジィ

 

 会場周辺に仕掛けた魔法の宝石は、結界術になって展開された。指令の通り、過不足なく仕掛けたはず。邪魔はあったが、役目は果たしている。

 ただ、手元にはひとつだけ、宝石が残っている。宝石は魔法の力を込めやすく、魔法の国ではよく使われる通貨のようなものでもある。残ったひとつは、レーニャの経験の中でもひときわ大きく、恐らく模造品、人工品だろうと思われる。だがここまで真っ黒なのは何なのだろう。深い深い闇の色、まるで今のレーニャのような。

 

 ──ぼんやり眺めていると、ふいに魔法の端末が鳴った。無視しようかと考えて、やっぱり出てやった。通話の相手は今の雇い主、つまりデビ☆るんるんだ。会場内で何かが起きているのはわかっている。それが何かは、レーニャは知らない。

 

『やほー、新入りちゃん生きてる?』

「何が起きてるの!? ねえ、これは……何!?」

『お、ちゃんと持ってるねえ黒いやつ! いいよー、それずっと持っててくれればいいから』

「持ってろって……! この結界は!? これ、危ない魔法が入って」

『だから持っててって。それだけでいいから』

「そんなの……!」

『それがアンタの居場所。また追い出されたい?』

 

 明るい声色のままながら、その言葉でレーニャの脳裏には全てがフラッシュバックする。シルクウイングに捨てられたことも含めて──二度と経験したくないこと。言葉に詰まり、受け入れるしかなくなった。

 それじゃあよろしくー、の言葉だけ残して、通話が一方的に切られる。

 

 レーニャは既に取り残された気分だった。手にした宝石は、どくんと脈動している。ここに込められた魔法が、とっくに胎動しているのだ。

 魔法使いとしてのわずかな知識が叫んでいる。これを持っていてはいけない、と。その通りだろう。だが、手放して逃げ出したとして、どこに行けばいい。そうしたらデビ☆るんるんからは捨てられる。そもそも結界の中に逃げ場はない。どうしよう。怖い。こうしている間にも、黒い宝石はどくどく脈打って、膨れ上がっているようにも見えていた。もしかしたら──このまま、破裂なんかして──。

 そんな被害妄想に呼応するようにして、手元の宝石が急激に重量を増す。質量そのものが上がっているのか。肥大化した暗黒はレーニャを押し退け、弾き飛ばされてその場に転んだ。

 

「誰か……」

 

 周囲を見回した。誰もいない。当たり前だ。誰からの干渉も振り切って、これが頼まれたことだからと、逃げてきたのは間違いなく自分自身だった。

 

「……嫌」

 

 例えようのない恐怖。今までの魔法少女たちとの戦闘だって、ここまで怖くなかった。それなのに、これはあまりにも濃厚に『死』を突きつけてくる。ここで死ぬのか。レーニャは──まだ12年しか生きていないのに、やっと魔法少女になってまだ2ヶ月なのに、まだ私の居場所は、見つかってなんてないのに──。

 

「誰かっ……誰か、助けて……!!」

 

 叫んで誰かが来るわけがない。ここにいる者はみんな、誰しも自分のことで精一杯。そんなこと、知っていて、それでも助けてほしかった。誰かに連れ出してほしかった。

 膨らみゆく、黒い物体。負の感情を溜め込んで、光を呑み込んで、どこまでも黒く澱んでいく。その遥かな引力は、抜け出せなくなるほどに。超質量のそれは地を揺るがし、まだ膨れていく。いずれは結界内部のすべてを押しつぶすだろう。必死にペットボトルを引き抜いて、投げつけて、どれも効かない。

 やっぱり、私、ここで、終わるんだ──。

 

「助けに来たよ」

 

 ──だけど、そんなレーニャの前に現れたのは、金色の王子様で。

 

「……なん、で」

「ここはワタシに任せてくれたまえ。早く逃げるんだ」

「だって……逃げ場なんてない、ここは結界の中! こんなの爆発したら、みんな、みんな……」

「なんとかしてみせるから」

 

 なんとかなるとは到底思えなかった。いくらレーニャよりも才能があるからって、そんなの、できっこなかった。守ってやるから安心していろ、って、彼女の、希菜子のそんなところが本当に嫌いだった。どうして、いつも居場所のない自分なんかを庇うのか。レジーナが、希菜子に何かしてあげられたことなんて、一度だってなかったというのに。

 

「はい、離れて」

「きゃっ!? だ、誰……!?」

 

 いきなり抱えあげられて、声をあげた。現れたのは仮面の魔法少女。ロボットめいた装甲を纏った彼女は、ただただレーニャのことを抱えると、ハステアーラの方から離れていこうとする。離してほしくてもがいた。

 

「うまくいくかわからないんだから、離れていた方がいいでしょ」

「離して……! ねえ、なんで、なんであの子は……!」

「知らないよ。でも、全部伝えたら、自分で乗り出した」

「希菜子……!!」

 

 あいつはそういうやつだ。勝算なんてないくせに向かっていく。魔法少女になる前からそうだ。王子様を気取って、ボロボロになってまで、レジーナをお姫様扱いしようとする。レジーナが、何度、何度一緒に隣を歩きたいと言っても! 彼女はいつも先を行ってしまう! 

 

「離せッ!!」

 

 手元でペットボトルを爆発させ、仮面の魔法少女を振り切った。彼女はそれでも、ハステアーラ自身が頼んだのか、レーニャを連れていこうとする。必死に抵抗した。おまえだけにいい顔をさせてなるものか。私だって、私だって、お姫様なら、戦うお姫様でいたいんだ。持っている全部を使うつもりで無我夢中で投げつけ、仮面の魔法少女を怯ませた。彼女は何かの道具を引っ張りだそうとしていたが、ペットボトルを花火に変えて派手な閃光を撒き散らし、目くらましとして振り切った。後ろから仕方ないと聴こえ、ミサイルが発射されたのを視認、潰したペットボトルに防御用の魔法をかけて盾にして、相殺した余波を受けて吹っ飛ばされた。そうして地面に投げ出された時、地鳴りを全身に感じ、どうにか立ち上がろうとして、再び大きな衝撃が走った。今までで一番大きかった。鼓膜が、脳が揺れ、どうしようもなくふらついて、歩けるようになったのは少し後だった。

 

「今のは……」

「希菜子ぉっ!!」

 

 駆け出した。さっきまであの黒い物体があったはずの場所、ハステアーラが自分を逃がしたはずの場所。あの、黙っていても目立つ金色の姿を探した。けれど走って戻ってもそんな影はどこにもなくて、さっきのあの恐怖の塊が嘘みたいに消えていた。

 

「うそ……どこ……?」

 

 周囲を見回して──木に、金色に光った何かが見えて、大急ぎで駆け寄った。布の切れ端が引っかかっていただけだった。けれど、これは間違いない、ハステアーラの魔法のマントの切れ端だ。

 

「……どこに行った、の?」

 

 呟いても、誰もいない。レーニャは取り残されたままだ。

 こんなことになる世界が嫌いだった。こんなことになってしまう、自分が何よりも嫌いだった。

 

 

 ◇夢見枕催夢

 

「いやぁ、キューティーヒーラーだかなんだか知らないけど、鬼チョロで助かったね〜」

 

 襲ってきた魔法少女が、最終兵器の起こす地鳴りに気を取られた隙に、催夢とデビ☆るんるんで結界の外にまで脱出することには成功していた。どころか、新入りに念を押す電話をかける余裕まで見せていたわけだ。あの子には可哀想だが、デビ☆るんるんが使い捨てるつもりで誘ったというのなら仕方がない。せめて最終兵器で、もろとも燃料になってもらおう。それが安らかな眠りというものだ。

 

「……あれぇ?」

 

 その、はずなのだが。いつまで経っても、結界の内部はブラックホールに埋め尽くされることもなく、何も起きなかった。

 

「なんだろ……あ! もしかして! あのTVなんとかとか言うやつ、デビるんに不良品押し付けたなぁ〜!? これじゃあダイヤ様に褒めてもらえないじゃん!」

「まあまあ。私ならなでなでしてあげるわ」

「ありがともよ〜♡ もよ癒し〜♡」

 

 何が起きたのかまでは、デビ☆るんるんにも催夢にも把握できていない。とはいえ、オークションはぐちゃぐちゃで、根尾燕無礼棲の崩壊までは既定路線だ。ここからはデビ☆るんるんと、夢見枕催夢、ふたりで、まずはこの裏城南を支配する。

 

「次はどうするの?」

「ん〜……わかんない! でもなんとかなるでしょ? デビるんともよが一緒なんだから! それにぃ、ダイヤ様もついてるし?」

 

 デビ☆るんるんが仮面を外し、暑かったぁ、と呟きながら、催夢の膝に頭を預ける。催夢も魔法の安眠マスクを外して、ふぅ、と一息ついた。

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