魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
吾輩紀行
◇ジェネラル・スパル・トイ
「だ、だから! 吾輩よりも上の者は皆行方不明で……!!」
できる限り、パニックになった来客たちを誘導、結界からの脱出方法は結局わからなかったが、ひときわ大きな地鳴りがしたかと思うと嫌な気配も収まっていた。その結果、中止になったオークションに対し、客たちから運営への不満が噴出。あれはなんなんだと詰め寄られ、スパル・トイはずっと対応を迫られていた。しかしシルクウイングは連絡がつかず、彩音燐音は上階で亡骸が見つかった。遺体や瓦礫を運ぶ作業もあって、とにかくてんやわんやだ。そのうえでなぜ自分が怒られなければならないのか。怒られるべきは、間違いなくあの裏切り者連中なのに。人混みが押し寄せるのを、兵隊を動員して押しとどめ、押さないでーと声をかけ、よくもまあ頑張った吾輩にそんな仕打ちができるなと吐き散らしたいところ、ふと人混みの向こうに派手な姿が見えた。
あれは間違いない、同じ勢力の魔法少女、オトマドベルだ。
「あっ!! いいところに、マドさん、マドさーん!! 吾輩を助けて!」
オトマドベルは確か、彩音燐音直属。そもそもスパル・トイよりも立場が上である。ということは、この場は彼女に任せられるのでは。そう思って呼んだのだが、彼女はふらふらとこちらに来ると、いきなり肩を掴んできた。
「サイネは!?」
「む、むぅ? 彩音様なら……」
「案内して!!」
オトマドベルはスパル・トイを連れ出そうとし、それを許さない魔法少女が怒りながら掴みかかろうとしたところを振り払い、『ドン』の効果音の一撃を脳天に叩き込んで圧してしまい、早足で歩き出した。瓦礫を逃れた小部屋のひとつ、控え室の一画にまで彼女を、言われるがまま案内する。部屋に着くや否や、駆け出して飛び込んで行った。
オトマドベルが駆け寄ったのは男性の遺体だ。抱き寄せても、反応はない。当然だ、スパル・トイが見つけた時には、もう死んでいた。
「なんだよっ……一生推すって、言ったくせにっ……!!」
スパル・トイは笑っていない、どころか泣いている彼女の顔を初めて見た。彩音燐音が組織とは関係なく、個人的に抱えていた用心棒だった、ということは……実力のみならず、そういう関係だった、ということか。そうとは知らなかったわけだが、なるほど、納得ではある。
彼の着けていた、何かのマーク……吹き出し、だろうか? のバッジを、オトマドベルはちぎり取って、遺体の部屋を出ていこうとする。
「……マドさん。その、総長は?」
「シルクウイングなら、死んだよ。デビ☆るんるんの魔法だと思う。みんなに裏切られて、応報だよ」
「……そうか。総長も若頭も……と、いうことは、マドさんが一番上だな」
やはりシルクウイングも既に落命していた。なら、残った魔法少女はスパル・トイと、オトマドベルだけだ。
それとなく、次のリーダーをやってくれとお願いする流れに持っていこうとした。が、オトマドベルはこの手を払い除けた。
「私……もうここにいなくていいから」
確かに、あくまでも彩音燐音の部下だった彼女に、根尾燕無礼棲である理由はない。スパル・トイも、組織を見限るべきだろうか。残されたこの不安やら何やらを片付けきれるとは、さすがのスパル・トイでも思えない。オトマドベルの後を追いかけることもできず、遺体の並ぶ部屋で、ただ深く息を吐いた。どうしようもなく、血の匂いがする。
「……む」
顔を上げる。現れた人影はスパル・トイの魔法で生み出した兵隊だ。彼らは玩具のため喋る能力を持たないが、その経験はなんとなくスパル・トイ本人には伝わってくる。この個体はどうやら、会場の外れに生存者の魔法少女を見つけたことから報告に来たようだ。……シルクウイングであったら助かるのに、と思うが、兵隊から伝わってきたビジョンには身につけられたペットボトルが映っていた。ペットボトルをわざわざ身につけるようなことをする魔法少女には、ひとり心当たりがある。
そうだ──シルクウイングがいなくなったなら、彼女にも会いに行っていいのではないか。例の元同盟相手、現裏切り者連中は、レーニャを捨てたに違いない。
スパル・トイは思い立った。不満を溜めているだろう群衆は放置し、会場を抜け出すことにする。会場周辺にも戦闘の跡が色濃く残っている中、兵隊の記憶を頼りに動き、そして見つけた。レーニャ・エレジィだ。近くに行くと、彼女は窶れたような表情で振り向いた。
「お、おぉ! 生きていたか! また会えたな新入り」
「……何? 誰?」
「誰ぇ!? 吾輩だぞ吾輩! 忘れるような存在感ではなかろう!」
「……何のつもり?」
「いやだな? 今回の騒動で、我々も魔法少女戦力が大きく減ったわけだ。そこにマドさんも辞めるときた。吾輩だけではさすがに回せないからな。そこで新入りに」
「もうあなたたちの新入りじゃない。私の居場所はどこにもない」
「追い出したのはシルクウイングだ、もういない、なら関係ないはずでは」
「今更……あの時、何もしてくれなかったくせに」
瞬間、対応できないまま、スパル・トイは殴られた。意味がわからない。混乱しながらレーニャを見ると、既に背を向け歩き出していた。
「ま、待て! どこへ行く! 居場所がないんだろう!?」
「……探さなきゃ……きっと……どこかに行っただけだから……」
ふらふらと歩き出すレーニャ。その手には、黄色のボロきれが握られている。どこかで見た、ような気もする。
「まあ待て! 人探しなら吾輩も……あぁおい! 少しは聞け! おい!?」
もはやレーニャはスパル・トイの言葉に耳を傾けようともしない。執拗に追いかけるしかない。だが、あまり追いかけてもまた殴られる。というかなぜ吾輩が殴られなくてはならないのか。腹が立ってきて、こちらから願い下げだと追うのをやめ、転がっていたペットボトルを力任せに潰そうとし、レーニャの魔法がかかっていたせいで潰れず、仕方なしに煮え切らないままその辺に放り投げた。
「うう、む……」
押し付けられる相手はこれで選択肢もなくなった。根尾燕無礼棲は事実上壊滅。フットホールドこそ死んでいたが、監査、広報、人事、軒並み目をつけられている状況に変わりはなく、さらに裏切り者はさっさとどこかへ逃げていったと聞いた。
スパル・トイとて、裏城南に思い入れが、全くないというわけではない。美味かった飲食店、気に入った娯楽、このアングラの世界だから用意できる店はいくつもあった。それらがなくなるのは気分が良くはない。
「……まあ……新たに雇えばいいか?」
なんてことを考えていたあたりで、今度はまた別の影が飛来する。荊をまとったコスチューム、そしてそのコスチュームに不釣り合いである、陶器のような装甲の数々に、ロボットめいたお面。オークション会場で会っている。そう、ガーデン・ガーターだ。
「貴様は、逆賊絶対庭園! オークション荒らしの実行犯め!! 今度は何をする気だ、吾輩を恐れて消しに来たのか!?」
「……え? あ、変装中なんだっけ、いや、まあ、いっか」
「何の話だ!?」
「いや。せっかくなので……いい話、持ってきたんデス。ウチの上司からで──」
──仮面の魔法少女の話をじっと聞かされる。この街に迫るであろう危機、とやらについてもだ。今後の根尾燕無礼棲を背負って立つ(予定)のスパル・トイにとっては、有益な情報に他ならなかった。