魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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悪魔の邂逅?

 ◇スワローテイル

 

 ひとり、ラピッドスワローに乗って空を行き、スワローテイルは結界をどうにかしようと考えていた。これが、誰がどうやって作ったものかはわからない。だからこそ、思いっきりの体当たりをする。そうしたらヒビでも入ってくれるかもしれない。なんて想像だけで突っ込んで、激突した瞬間にバチ、と視界がスパークして、真っ白になって、気がつけば地面に放り出されていた。やっぱり、ダメだった。

 

「っ……大丈夫、平気、このくらい……」

 

 衝撃で少しフラついた。けれど、ラピッドスワローに乗るなら関係ない。一度じゃダメなら、二度やればいいかもしれない。早くしなければ、みんなが危ない、その一心で、とにかく急いで箒に跨った。

 

「おい、おい! 何してるんだよ!?」

 

 声がする。ラピッドスワローに飛び乗って、肩を掴んで、引きずり下ろそうとしてくる。抵抗しようとして、視界の端に赤が映り、その声の主がボロボロのエリザであることにようやっと気がついた。

 

「……結界内の嫌な気配が消えた。さっきの衝撃が最後だったらしい。あとはこいつも、もうすぐ時限が来るって話だ。強力な結界だ、相当な天才でもない限り維持し続けられないって、コルネリアが」

「あ、一応、いますよ、本人」

「あぁ、いた。だから無理すんなって。あんたはもう、そんなことしなくたっていいんだろ」

 

 そうだ。目標であるラピッドスワローはここにある。だけど煮え切らない。スワローテイルには、自由になったという気がしていなかった。翅はまだ重い。心も締め付けられるようだ。

 

「そりゃ、色々あった。

 ……あたしじゃ、全部はわかっちゃやれないくらいのことが。

 でも、あんたはできるだけのことはした。それ以上無茶やって、体壊すなんてこと、しなくていいだろ」

「……でも」

 

 だけどどうしても、シルクウイングの最期を目撃してしまったあの時からずっと、もっと早く手を伸ばせたなら、という後悔が、胸の内を占めていた。

 ……アンナのことだってそうだ。あんなことになる、前に……。

 

「ちょっと、いいですか? 弱まった今なら──」

 

 コルネリアが、スワローテイルに代わって、壁に手を伸ばした。目を閉じた彼女が、何かを行う──『輪郭がぼやける』。視界が歪んで、何が何だかわからないうち、霧が晴れたような気がした。

 

「ふぅ……できました。強力なやつなので……ちょっと負担はありますけど、こふっ」

「わーっ!? ちょっ、コルネリアさん!? 血吐いてますよ!?」

「おふたりに比べれば軽症ですよ……」

 

 しかしどうやら結界は晴れたらしい。この時、はじめて、あんなに暗かった空に夜明けの予兆が、ほんのりと明るく射し込んでいるのに気がついた。

 

「……帰るか。運転、頼むぜ、箒の魔女さん」

「っ……うん!」

 

 ボロボロのエリザと疲れ果てたコルネリアに後部座席を貸し、ラピッドスワローを使い低空低速飛行で通りをゆく。結界の壁があった場所も、コルネリアのおかげで素通りだ。彼女はエリザの腰にがっちり抱きついて、振り落とされないようにしていた。マスカレイド44はハステアーラやラムを迎えに行ったとのことで、いずれ戻ると言う。それを信じて、ただ飛んだ。脱出した会場から、これまでいつもを過ごしていた商業通りに戻るのもすぐの話だった。

 

 裏城南の中でも商業通りには大した影響はなかったらしく、マスカレイド44のお店は無事だった。射的屋さんやクレープ屋さん、服屋さんも、見たところ店主はオークションに参加していなかったらしく、様子を見に外には出てきていたけれど、みんな無事であった。

 一方、根尾燕無礼棲の幹部である彩音燐音及びシルクウイングは死亡している。残ったメンバーがどうあれ、混乱は免れない。支配体制については完全に揺らぐであろう。

 

「問題は──」

 

 この先だ。目下の敵は、根尾燕無礼棲を裏切り、オークション会場を消滅させようとした、デビ☆るんるん。悪魔の魔法少女に間違いない。けれどその先に、未だどこにいるかもわからないダスティ・ダイヤの影がある。コルネリア、エリザと、順番に視線を交わし、そして深く息を吐こうとした。

 

「悪魔の魔法少女……彼女については、人事でも未登録魔法少女とされています。現状の手がかりは薄いですが──」

 

 コルネリアが話し始めたその時、頬に何かが触れる。

 体温だ。湿った気配、振り返るとそこには──悪魔の魔法少女。嘲笑うように浮かべた笑み。脳裏に過ぎるはシルクウイングの手のキスマーク。最悪の展開を考えたその瞬間、スワローテイルはエリザの腰に提げられたナイフを奪い取り、己の頬に押し付け、皮を削ぐ。血と共に打ち捨てられた皮膚には悪魔のマークが浮かび、そして切り落とされたがゆえに、ゆっくりと薄れていった。

 

「……ありゃ? ゲームセットのつもり、だったのに!」

 

 ふらふら歩いて笑う魔法少女。身構えざるを得ない魔法少女たち。自ら傷つけた頬は蛹で包み、即座に修復。使わせてもらったナイフはそのままで、構えて敵を見る。

 結界は消え、オークションは終わった、そんな安心のせいで、警戒が抜けていた。まさか、今ここに、目下の敵が現れるとは誰も想像していなかったからだ。

 

「あは! はじめましてだよね。スワローテイル! デビるんは〜、デビ☆るんるん! こっちはもよ! すいみん屋さんをやっててねー」

「……そこまで話さなくていいでしょ?」

「あ! そっか! 悪魔的にごめん!」

 

 傍らには寝具を纏った魔法少女もいる。確かに聞いた通りだった。

 

「てめぇら……何しにきやがった」

「やだなあ。いきなりそんな怖いもの向けないでよ。や〜ん、デビるん、こわ〜い」

 

 寝具の魔法少女にわざとらしく抱きつく彼女の態度は明らかな挑発だった。今のスワローテイルもエリザも、コルネリアだって満身創痍。この状態で戦うのは──。

 

「ねえ。スワローテイル。伝言があるんだよ。言うね。はいダイヤ様、どうぞ」

 

 だが彼女らは構えるのではなく、伝言があると言い出した。

 そう話すデビ☆るんるんが取り出したのは、悪魔のデザインされた()()。そう、仮面だ。より強く歯を食いしばる中、装着するや否や、くぐもっているだけでなく、声色まで違う声がする。

 

『魔法少女になった時以来だね、スワローテイル』

「……まさか、ダスティ・ダイヤ……!?」

『あ、知ってるんだ。うん、そう、ダスティ・ダイヤ。魔法の国の使者だよ。人事部門から聞いたのかな?』

 

 まるで当人であるかのような話しぶり。それが『本物』である保証はない、が、今はそれだけは信じるしかない。

 

『君を迎えに来たんだ。成長した今の君なら、私の計画を共に遂行することができる』

「計画……?」

『不当に使い捨てられた魔法少女を、まだ終わるべきでない全てを、やり直すための計画』

 

 脳裏に過ぎるのは、やはりアンナやシルクウイングのこと。そして──同時に、魔法少女だったという母のことさえも、思い出してしまった。

 

『それが、()()()()()()()()()さ』

 

 言っている意味はわからなかった。けれど、悪魔の仮面は、夜明けの仄暗さの中で不穏にぎらついていた。

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