魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
「……再生産? は、まるで何のことだ、意味がわからねえ」
エリザの声で我に返る。ダスティ・ダイヤの語る計画に、まだ具体性はなく、ただの甘い言葉の羅列だった。けれど、彼女は彼女で、くす、と笑い声をわざとらしく立てて、話を続けた。
『迎えるべき結末を迎えられなかった者。あるいは、まだやるべきことがある者──それらを再び生産する。魔法少女のアーカイブ化、と言えばいいかな。魔法の国の人にわかりやすくいうと、三賢人を百賢人くらいにする話なんだけど──』
「だからッ、何言ってやがる。死んだもんが帰ってくるわけねぇだろ……!!」
『ふふ、でも、魔法少女はあっただろ?』
魔法は存在する。奇跡もまた、存在していていい。エリザが歯を食いしばる。今にも牙を剥きかねない彼女を押さえ、コルネリアが前に出た。
「ただの甘言です。聞かないで」
『大丈夫。プク・プックはいいヒントを残してくれた。算段は整いつつある。会場に集めた連中を燃料にできなかったのが残念だけど……簡単な話だ、この裏城南を丸ごと機構にすればいい。そのための土地だよ』
「何を──」
『この街は吐き溜め。流し台の三角コーナーだ。それが発電機に生まれ変わったらどう? もちろんお得だよね? 私はこの再生産計画を以て、魔法の国から独立する』
話の全容はまるで見えなかった。理解出来る者はいたのだろうか。コルネリアでさえ言葉を失っている。だがそのコルネリアも、エリザのことも、ダイヤは気にかけようとせず、ただこちらに向かって手を伸ばし続けていた。
『全てはあなたのためだよ』
……私の、ため?
間違いなくスワローテイルだけに向かって投げかけられた言葉は予想外で、聞き返す呟きすら咄嗟に口から出なかった。
『あなたが、その魔法が成長すれば、母に会える』
生まれ変わりの魔法のことか。いや──この魔法は人を殺すことはできても、蘇らせることなんて──。
『だから、あなたをこの裏城南に連れてきた』
裏城南に迷い込んだあの時の魔女の幻影。今思えば、あれはダイヤが用意した
『同年代の……少し年上だけど、お友達も用意した。過去を知る大人との出会いも手引きした』
そしてもう一度、死の光景たちも思い出した。どうしてもわかりあえなかった、ふたりのこと。
『アンナ・シャルールも、シルクウイングも……あるいはレーニャ・エレジィも。
皆を魔法少女にしたのは私。ついでに、箒を再現させてやったのも、私。これでもいくつもの機関を渡り歩いてきたから。叶えてあげられる望みはいくらだってあるはずだよ。
さあ、おいで。だって、帰る家もないんだろう?』
伸びてくる手。逃げようとも、振り払おうとも、立ち向かおうともできなかった。呆然と、理解ができないまま。
「──つまりテメェか。全部やったのは」
その手を止めたのは銃声だった。エリザの手には拳銃。銃口から立ち上る煙。ダイヤは直前に手を引っ込めていたが、見るからに不快感を露わとしてエリザに顔を向けていた。
「テメェがいるとこの街は安心できねぇ。根尾燕無礼棲の後処理もしようがねぇ。何より、
啖呵をきったエリザ。全ての注意は彼女に向いた。彩音燐音に負わされた傷で既に満身創痍だろうに。
『催夢』
それが指示だと気がつくのに、スワローテイルは遅かった。既に始まっている。エリザはコルネリアを突き飛ばし、飛び出した。彼女はこちらに倒れてきて、一緒になって尻もちをつき、顔を上げるともうエリザの銃は銃剣になり、寝具の魔法少女──催夢の繰り出した枕を受け止めていた。刃が布を裂く。綿が飛び出し、舞った。それが何かの魔法であることを警戒し、銃を火炎放射器に変えて即座に焼き尽くし、家屋に引火するより先に灰化させて、そのまま本体にも炎を放つ、が取り外した布団のマントを被せられ、火炎放射器は手放さざるを得なくなり、エリザが離れ距離を取る。彼女はこちらを一瞥して、すぐさま相手に向かっていく。催夢は次々と寝具を放ってきた。投げつけられるアイマスクを銃撃が撃墜し、伸びてきた抱き枕は銃身を使って弾いている。
「どいつもこいつもっ、寝てる時の火事は大変なのよ!」
「放火魔けしかけたテメェらが言うなっての!!」
エリザは周囲に落ちていた壁材の破片から即座に刃を生成すると投擲して牽制、催夢の寝具による防御を誘い、銃撃で本体を狙いにかかる。それで簡単にかかる催夢ではないのも確かで、銃撃もまた寝具が柔らかく受け止めるが、視界を遮ることに変わりはなかった。本命は──ダイヤの方だ。ダイヤを狙い、ライフルによる銃撃を放ち、けれど届かない。催夢は無理やりにでも、自分自身を盾にしてでも割り込んだ。そしてついに寝巻きの防御を貫いて、銃弾が催夢の体を傷つける。纏う抱き枕がじわりと赤く染まり、その無理やり作り出した間合いで、エリザに毛布を被せた。
「ッ、く、んだこの──っ」
「エリザ……!?」
「はい、おやすみ」
抵抗しようとしたエリザが静かになり、毛布に包まれたまま担ぎあげられていた。
『そうか。仲間がいるからか。大丈夫。私の計画に賛同してくれたら、この子も再生産できるようにするから』
「待って、エリザは……!!」
「……人質にしたらどうかしら?」
『あー、そうだ! 人質! いいね、人質。返して欲しかったら、そうだな、三日後……そう、もう日付変わってるから、21日のことね。催夢のお店で待ってるから。用意するものは、
それだけを告げ、ふらりと去っていくダスティ・ダイヤ。慌てて追いかけようとしたスワローテイルは、戦闘の際に散った瓦礫につまずき、その場に転んでしまった。どうにか立ち上がりたい。けれど、力が入らず、溢れるのは涙だった。
「……スワローテイルさん」
「っ……」
「本国に話を持っていきます。もう少し時間をかければ、援軍だって望めるはず。ですから、無理をなさらず」
「でも……エリザは! 友達っ、だから……!」
「だからです。エリザさんから見たあなたも、守りたい友達なんです」
飛び立ちたくても動けない自分に嫌気が差した。戦闘の余波で割れた扉から、冷たい空気だけが吹き付けていた。
◇ダーティ・エリザ
「……んだよ、ここ」
自分は──そうだ、あの寝具まみれの魔法少女と戦って、不意をつかれて──寝具まみれであるということを考えると、眠らせる魔法だった、というのが妥当か。意識はこうして比較的はっきりしているということは、明晰夢か何かのような。肉体の傷や疲弊もない。歩くことはできる。白いふわふわの雲みたいな地面だ、脚への負担も感じられない、どころか常に浮遊感がある。
「おやぁ〜……?」
しかし歩くまでもなく、魔法少女がいた。細く長いツインテールにはグラデーションがかかっており、格好はパジャマそのもの。知らない魔法少女だった。あの催夢の仲間かと構えるものの、そちらに戦う意思があるようではない。彼女は彼女で、エリザのことを首を傾げながら見てくる。なんなんだ。この空間のことを知っているのだろうか。
「これはこれは〜……珍しいお客さんだねぇ」
「そうなのか?」
「うん、珍しいよぉ。はじめましてだからねぇ。ねむりんはねむりんだよぉ」
発言も声のトーンも空間同様ふわふわしている。恐らく夢の中であろうというのに眠くなりそうだ。けれどパジャマの魔法少女よりも、眠気の吹き飛ぶような姿が、その後方に控えていた。
「……おい」
「うん?」
「なんで……コイツがいる」
エリザは銃を抜こうとし、どこにもなく、仕方なくピンバッジを引きちぎり銃に変えた。夢の中でも魔法は健在。そのまま、躊躇なくセーフティを外し、トリガーを引いた。人影は咄嗟に防御したらしいが、被弾したことで、ふわふわの空間に似合わぬ血が飛沫く。
テンガロンハットに、水着同然の格好で、エリザと同じヒョウ柄に、エリザと同じ銃を持つ。
「あわわ、ちょっと、それは〜……」
「手荒い挨拶ね。親の顔が見てみたいわ」
「はっ……言うじゃねえか!! 鏡見てみろよ……
それはいなくなったはずの、