魔法少女育成計画Beyond the Bullet 作:皇緋那
◇スワローテイル
「ごっ、ごめんね……お姉ちゃんが……間に合わなかったばっかりに……」
エリザが連れ去られて、呆然として、泣いて、泣いて、気がついたら、目の前でキューティーラムも泣いていた。いつの間にか戻ってきていたらしい。外も明るくなっている。体力を使い果たして、眠っていたのだろうか。
店の奥では、マスカレイド44とコルネリアがずっと何かを話している。彼女も遅れて戻ってきていたようだ。ということは、と見回して、しかしハステアーラの姿はどこにもなかった。……訊ねる気にもなれなかった。迎えに行ったはずのマスカレイド44が連れて帰ってこなかったのなら、それはつまりそういうことだからだ。
「お姉ちゃんが……何もできなかったせいだよね」
泣き腫らして落ち着いたおかげか、目の前のラムの方が弱っているように見えた。スワローテイルは思わず、自らのコスチュームで彼女の涙を拭った。思わず否定して、それは私のせいだと言おうとした。
「あの。誰のせいとかやめまセンか?」
けれど呼吸が荒くてうまく声が出ず、息を整えているうち、先にマスカレイドの声が割り込んだ。
「あの……ダスティ・ダイヤとかいう奴が悪いんでショウ?」
「ちょっ、マスカレイドさん! 確かにそうですけど」
「今まで通りでいいのでは? そんな奴の詭弁を聞く必要はありマセンよ」
ダスティ・ダイヤの言葉が真実ばかりとは限らない。その存在が鍵になるのは間違いないけれど。
「やっぱり
……本当に、今まで通り、それだけでいいのだろうか。
エリザはスワローテイルを信じて立ち上がってくれた。これからも共に戦うと言ってくれた。その信頼に応えるには、今すぐに突っ込むだけじゃ足りなかった。無謀に飛び回るだけじゃ、届かない手だってある。スワローテイルの力では、伸ばしたって意味がない。誰ひとり、これまでだって救えてなんてこなかった。
それでも。それなら。まず行くべき場所は……きっと。ふらつきながらも立ち上がる。
「あっ、ちょっ、さすがに休まなきゃ! あいつの言ってた期限はまだ」
「あと2日。もう……2日しかないの」
「……っ」
何か言いたげに唇を横に結ぶコルネリア。いいよ、と言うかわりに頷いた。
「……3日。エリザさんの救出を諦めさえすれば……人事、研究、広報、各部門の援軍が望めるでしょう。人事部門長と、広報副部門長からそう聞いています」
「広報って……ショコラちゃん!?」
「はい。ですが今は手が離せないと」
「……うん、だよね……」
魔法の国からの救援、確かに受けられれば、ダスティ・ダイヤをどうにかすることはできるかもしれない。けれど、やはり、信じてくれたエリザを諦めるなんてできるはずがない。
「根尾燕無礼棲のところに行ってくる」
「えっ、あの人たちは」
「敵、だけど、街を守りたい気持ちは一緒かもしれないから」
デビ☆るんるん達は共通の敵だ。少しでも手を伸ばしたかった。シルクウイングのことを追っているだけでもあるけれど、できるのなら。慌てて止めようとしたコルネリアを、マスカレイドが遮り、いいんじゃないデスかと続けた。
「話すことは大事だと思いマスよ」
フラフラとしながらも歩いて、よろめいて、なんでもない小石にもつまずきかけて、力強い手に支えられた。
「……私も行くよ!」
キューティーラムだった。共に戦ってくれたのはエリザだけじゃない。コルネリアも、マスカレイドもいるのだ。空は、ひとりで飛ぶだけのものではない。昨晩の、あの通じ合えたかもしれなかった瞬間のように。微笑みかけてくれたのに微笑み返して、揃って歩き出した。
根尾燕無礼棲の本拠地だった地点、オークション会場となっていたあの場所は、日が昇ってもまだ爪痕を大いに残していた。飛び散った瓦礫や血痕、その中を行き交うのは人影ではなく、がちゃがちゃ音を立てるブリキの兵隊たちだ。片付けをしているらしい。人間の影はどうやら無く、もっと奥の方で、指揮をしているひとりだけがいた。ジェネラル・スパル・トイだ。
「……む? お……おぉ、おぉ。キューティーヒーラーか。何だ? 今度こそ吾輩を逮捕に?」
「ち、違うよ!」
「……力を貸してほしくて」
「ほお……?」
彼女は首を傾げた。それから、ようやくピンときたのか、手を叩いた。
「おお! あの仮面の魔法少女が言っていた!」
「仮面──!?」
「む? よく一緒にいたではないか。ガーデン・ガーターではなかったあの」
「あ……あぁ」
思わず焦った。ダスティ・ダイヤが既に先回りしていたとしたらと想像してしまった。実際はそうではなく、マスカレイド44だったようだ。彼女は戻ってくる前に、そちらに接触していたらしい。
「して、吾輩に力を貸せと。相手は? デビ☆るんるんか? そちらの戦力は? スワローテイルとキューティーラムだけではないだろう?」
「うん、まあ、そうだけど」
「ふふん、ここでひとつ! 条件がある!!!」
ビシッと突き出された指に、驚いて視線が吸い込まれた。金属の鎧の反射が目に刺さる。やたらギラギラしているのは、スパル・トイ本人も同じだった。
「貴様らは我ら根尾燕無礼棲に勝った。即ちこの一番上の椅子に座る資格があるということだ。いや、根尾燕無礼棲ではないかもしれないが、それはなんでもいい。とにかく! 貴様らの作る新たな体制において、結構いい位置の、そう、地位を約束してくれ」
スワローテイルは首を傾げるところだった。そもそも支配体制がどうとか、そういうことは考えてもいなかった。エリザならきっと考えて、答えられていたんだと思う。でも彼女は連れ去られた。ここは頷くほかに思いつかなかった。
「よしよしよし。ならば吾輩に何をしてほしい!」
「えっと……まずなんだけど……他の魔法少女のみんなは」
「新入り、いや、元新入りなら、そこらをフラフラしているだろうな。マドさんは、そこらをフラフラしているかもしれない」
「つまりわかんないってこと?」
「うむ。わからん」
そこはアテが外れたものの、レーニャとオトマドベルは生きているということは聞いた。ハステアーラは、どこでどうなったのか──レーニャが生きていることを知り、想像がつかなくなった。ふたりは戦ったのだろうか。
「なんだ人探しか? 兵隊を出してやろうか! 吾輩役に立つぞ!」
「あ、じゃあ、お願い。でも、えっと、その前に」
スワローテイルはふいに思い出して、歩き出した。しきりに出入りする兵隊たちの横を通り抜けて、そっちは、と追いかけてきたスパル・トイの制止を聞くことはなく、着いたのは小部屋。中には、人々の遺骸が並べられていた。
「……ごめんなさい」
そっと手を合わせる。これは少しでも自分が軽くなりたかっただけだと思う。けれど、その中に眠る彼女──絹子さんには、伝えておきたかったのだ。
「すごいなあ、スワローテイルちゃん」
「……? 何のこと?」
「ううん。魔法少女にもなったばっかりで、しかもまだまだ小さいのに……私なんかよりずっとしっかりしてる」
ラムは自分自身を笑っていた。そんなことはない、のに。キューティーラムは立派なキューティーヒーラーだ。そのアニメでの活躍は、スワローテイルの憧れの的になるには十分すぎる。だけど現実の彼女は、苦しそうに笑っていた。
「……はい、なんでもない! それでスワローテイルちゃん、どうするの?」
「レーニャとオトマドベルを探すよ」
「……協力してくれるかもわからないのに?」
「それでも」
頷くよりも早く答えて、それから、ラムの言葉が途切れた。うまく口から出なかったのか。唇だけをぱくぱくと動かして、諦めていた。