魔法少女育成計画Beyond the Bullet   作:皇緋那

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蝶々の渡り

 ◇スワローテイル

 

 裏城南の街に出た。会場周辺は惨状が広がっているが、通りの街並みにはあまり変化がない。人通りがめっきりなくなった程度だ。あんなにいたオークションの客はどこへ行ったのか、もはやわかったものでもない。レーニャもオトマドベルも、消息への手がかりはなかった。とにかくどこかに立ち寄っていないかと、かつてエリザと一緒に歩いた道を、ラムとふたりで行く。

 

「夢見枕催夢のお店はこの先にあるよ」

 

 ラムから教えてもらったのは、ダスティ・ダイヤが待っていると告げた場所だ。まだ期限は先で……エリザだって、頑張ってくれているはず。信じて、そちらには行かなかった。今はできるだけのことをしなきゃいけなかった。

 

「そっか。それも信頼なのかな」

 

 今すぐにでも動きたいと思っているのはラムの方らしかった。不安で仕方ない様子を見ていると、スワローテイルは落ち着こうと思う。誰よりも優しいからそうなるのだ。そんなラムのことを、すごいなと思っていた。

 

 代わりに入ったのは、以前訪れたことのある、魔法少女向けの服屋だった。オークションの件があっても変わらず営業中で、扉は開いていて、中にはそのまま衣類が並んでいる。

 

「へぇ……! これみんな、魔法少女用なの?」

「なんだって!」

「あっ! すごい! 私たちの衣装まで再現されてる! よく観察してるなぁ……──ッ、誰!?」

 

 身構えるラム。背後を振り返ると、両手を振って、気づかれちゃったわねとお茶目に笑う店主がいた。

 

「また来てくれたのね、蝶々ちゃん。いらっしゃい」

「いきなりにゅっと出てくるのは癖なんですか……?」

「ちょっとした悪戯じゃない」

 

 あの夜の後でここまで落ち着いているのは、むしろ動じなさすぎるような気もする。相変わらずではあるが、むしろ心配になる。もしかして、普段から銃を突きつけられたりしているのだろうか。

 

「え、えっと、こんにちは。あの、人を探してるんです」

「人を?」

 

 レーニャとオトマドベルの特徴について説明する。根尾燕無礼棲の魔法少女たちが通りの店舗を利用しているのかまでは不明だが、とにかく手当たり次第に行こうと思っていた。

 

「ペットボトルはわからないけれど、あぁ、擬音の? だったら、あのね──」

 

 店の奥から、何かが高速で迫ってくる。咄嗟に飛び出したラムがその両腕で防ぎ、スワローテイルには直撃しなかったが、衝撃の波が店内を駆け巡り、ハンガーラックが激しく揺れる。ラムの手で叩き落とされたそれは、『シュッ』といった擬音の塊であった。

 

「──ちょうど、試着室を使ってるところだったの」

 

 笑って続きを話す店主。そんな彼女とは裏腹に、明らかに殺意を感じるこの一撃。間違いなくオトマドベルだ。スワローテイルはラムにありがとうを告げつつも、両手を挙げて、歩み出た。

 

「……オトマドベルさん。どうか話をさせてください」

 

 彼女があの時、攻撃してきたことはわかっている。けれどもうシルクウイングはいない。少しなら、耳を傾けてくれないか。傍らでラムは警戒を剥き出しにしているが、スワローテイル自身は何があっても先に仕掛けないつもりで、手を挙げていた。すると奥、試着室のカーテンがレールの音を鳴らして開いて、しかしその効果音は実体化して飛んではこなかった。いくらでも攻撃に変えられただろうに。

 現れる少女は、まずゆっくりと踏み出し、こちらを鋭く睨んで──その後、嘘のように殺気が晴れて、笑顔を見せた。

 

「ババーン! ご用とあらば参上、マドちゃん登場! ジャーン! ごめんね、狙ってきたのかと思っちゃった!」

 

 これまでの緊迫した雰囲気に似合わぬ、間の抜けたポーズ。これがただのポーズなのは、指を差されても何も起きていないことがその証明だ。オトマドベルにも戦うつもりはない。

 

「サイネは殺したんでしょ? あの女のことも。私はもう根尾燕無礼棲じゃない。それでも殺したくてきたの?」

「違うよ。街が、狙われてて」

「街が?」

 

 首を傾げるオトマドベル。経緯を話す。デビ☆るんるんと夢見枕催夢、そしてダスティ・ダイヤの話だ。必要のない──スワローテイルのせいだと話したダイヤの、思い出したくない全ての──言葉は省き、それを聞かせるほどに、彼女の眉間には皺が寄った。浮かべていた笑顔は消えて、ため息だけが返ってくる。

 

「……都合、よすぎじゃない?」

 

 言葉を遮られ、それ以上は話せなかった。

 

「総長が死んだ原因は、確かに裏切ったそいつらのせい。でも、そいつらが裏切る好機を作ったのはそっちでしょ? そもそも先に色々奪い取りに来たのはそっち。今さら助けて〜って、いくらなんでもお花畑だよ」

「っ……で、でも」

「スワローテイルちゃんは……この街のことを考えて!」

「うん。それはわかるよ。サイネちゃん様だったら〜、確かに頷いたかもね。あの人は箱庭が壊れたら困ると思っただろうし」

 

 またため息混じりに話し、今度は壁に寄りかかった。そして、姿勢を低くし、わざと目線を揃えて、目と目を合わせてくる。ギザギザの瞳がスワローテイルを映していた。

 

「悪いけど私はそいつを助けには行かない」

 

 ──エリザは彩音燐音と戦った。その仇だ。そのことは彼女には伝えられなかったが、既に彼女は解っているに違いない。宿敵をわざわざ助けるなんて、まずありえない。

 

「でも」

 

 けれどオトマドベルの雰囲気はコロコロと変わる。これまで刺すような敵意だったというのに、急に柔らかくなって、微笑みかけられた。

 

「本当の本当に、思い出さえなくなっちゃうなら、手を貸してあげる。約束ね。バチン☆」

 

 ウインクが実体化して、スワローテイルの肩に当たる。軽く殴られたような衝撃でふらつくものの、ただの挨拶か悪戯か、ラムが慌てて構えるのを、スワローテイルは止めた。すると、オトマドベルが何かを思い出して、ポン、と手を叩く。

 

「あ。あと、レーニャちゃんの居場所の検討くらいはつけてあげられるよ」

 

 レーニャの居場所! 思わぬところから出た情報だ。喉から手が出るほど欲しかった。

 

「裏切り者同士で通信してたみたいでさ? ほら、このへんで〜……」

 

 ──そうして、オトマドベルに示された場所にまで急ぐ。彼女は魔法の端末で地図を示し、会場周辺を指さした。スワローテイルはラムと共に、来た道を戻る。

 

「あれ!」

 

 そして、ラムが見つけてくれた。ふらふら歩いている、レーニャだ。頭にはペットボトル製のお面を着けて、首元に巻き付けているのは……金色の布。あの光沢、ハステアーラのものを思い出す。これまではそんなもの着けたりしていなかったはずだが──とにかく、目の前に立つ。今度も両手を挙げて、敵対心がないことを示そうとした。

 

「ねえ」

 

 息を整えて話しかける。しかし彼女の顔がこちらを向くことはない。

 

「……レーニャ。レーニャちゃん」

 

 名を呼んでも反応はなかった。

 

「デビ☆るんるんとはどういう関係だったの」

「……」

「あの時……何があったの。何か探してるの? だったら」

「……うるさい」

 

 冷たく、低い声だった。

 

「全部関係ない。私の居場所は……! 私が探すから」

 

 レーニャの目はオトマドベルとは違う。オトマドベルは強かった、芯が残っていた、けれどレーニャは違う。彼女の目はどちらかと言えば、そう──アンナ・シャルール──スワローテイルが手にかけた、あの子と似た、迷子の色をしていた。

 

「来ないで」

「……ねえ」

「あいつを探さなきゃ。あいつが死んだなんて信じない。勝手にいなくなるなんて許さない。私はまだ勝ってない。私は、まだ」

「ハステアーラさんのこと?」

「……邪魔しないで、スワローテイル」

 

 オトマドベルのようにはいかない、話を聞く耳すら持たれない。わかっている。こうなることは予想していた。それでも、だと決めている。名を出した途端に、目の色が変わっている。その布がハステアーラのものであることは確かだろう。

 

「やっぱり、ハステアーラさんが、みんなを守ってくれたんだ」

「やめて」

「まだ街は狙われてるの」

「知らない」

「ハステアーラさんが守った街だから……どうか」

「やめて!!!」

 

 投げつけられたペットボトル。目の前で爆発を起こしてくる。けれど、これまで受けた中でも一番弱々しかった。オトマドベルのウインクよりも、痛くない。

 

「やだ……思い出したくない。やだ、やだ、やだ!! いなくなれ!! どっか行ってよぉ!!!」

 

 レーニャは叫ぶ。とても話ができる状況じゃない。ラムがスワローテイルの肩を叩き、首を振った。彼女はその場に残すしかない。だけど──やはりその小さな姿には、アンナの姿も、自分自身の姿も、重なっていて。

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